Autodesk Inventorを駆使しデジタルプロトタイプを実現、三輪電気自動車で新しい市場の開拓を目指す

株式会社 日本エレクトライク

電気三輪自動車「eTrike」(エレクトライク/ZAE-EA)

導入事例の概要

2015年6月15日、川崎市役所において新しい三輪電気自動車「エレクトライク」の発表が行われた。これは一人乗りながら、150kg(キログラム)の荷物を搭載して最高時速50km(キロメートル)で走れる新タイプのマイクロモビリティ。国交省の型式認定も取得し、その愛らしくユニークな外観とともに、シティワークに最適な電気自動車として大きな注目を集めている。

このエレクトライクを開発販売している株式会社 日本エレクトライク(以下、日本エレクトライク)は、川崎市の新興ベンチャー企業。我が国に19年ぶりに誕生した、新しい国産自動車メーカーである。

導入システム

  • Autodesk Inventor

「自分たちの電気自動車」を世に広めるために

「実は創設当初は事業化について確たるビジョンなどありませんでした。あったのは『自分たちの電気自動車を世に問いたい』という思いだけだったのです。」そう言って苦笑いするのは、大手自動車メーカー出身で、現在は日本エレクトライクの技術部長を務める千葉一雄氏である。千葉氏によれば、エレクトライクの開発は、まず大学などとの共同開発によるさまざまな先行実験やユニット開発から始まった。そして、この5年にわたる準備期間を経て、2013年に本格的な製品開発を開始したのである。

「ナンバーを取って公道を走らせるには、多くの国内法規をクリアする必要があり、実績のない新型車、特に四輪のクルマには高いハードルです。しかし三輪車のカテゴリーは、かつてのオート三輪時代に確立されたものとして法規が定まっています。一つずつ課題を潰していけば、ベンチャーでも認証の壁を突破できると考えたのです。」

取締役 技術部長 千葉一雄氏

取締役 技術部長 千葉一雄氏

しかし、当然ながらそれは平坦な道のりではなかった。特にベンチャーとして潤沢な資本はなく人的資源も豊富とはいえない同社にとって、新しい電気自動車を一から開発していくための膨大な作業は少なからぬ負担だった。先行実験モデルは図面なしでも製作できたが、多くの社外メーカーの協力が不可欠な量産化となると図面が欠かせない。この図面を作るCADをどうするかが大きな課題となったのだ。千葉氏と同じく大手自動車メーカーで長く設計を担当し、現在は同社で開発設計を一手に引き受ける田中清文氏は語る。

「メーカー時代は3DCADでレイアウトを中心に行っており、図面はトレーサーに頼んでいました。しかし、ここではそうもいかず、2Dのフリーウェアなど試しましたが上手くいきませんでした。そんな時に知ったのがAutodesk Inventor(以下、Inventor)とクリーン テック パートナー プログラムでした。」

クリーン テック パートナー プログラムとは、オートデスクが運営する環境保全技術支援プログラム。環境関連のソリューション開発をサポートするため、Inventorなどのソフトを提供し、ベンチャー企業をバックアップしていた。早速、同社はこのプログラムを申請。田中氏はInventorを入手し、設計実務で活用を開始した。その導入効果は劇的だった。

チーフビークルエンジニア 田中清文氏

チーフビークルエンジニア 田中清文氏

デジタルプロトタイピングを実感

「使い始めてすぐ、Inventorは、昔私が使っていた3DCADとは全く違うと感じました。初めてInventorに触れた時、3DCADはここまで進化しているのか、と驚きました。」田中氏はそう語り「進化のポイント」を一つずつ紹介してくれた。氏が最初に挙げたのは、Inventorによる設計手法が、設計者としての自身の思考の流れにフィットしていた点だった。

「実際に使ってみるまでは、まず細かい部品図を作り、それを組み上げていくスタイルだろうと想像していました。ところが実際はアセンブリのような、大きなレイアウトからざっくり考えながら進められる。これは嬉しい驚きでした。」つまり、構想段階でシンプルな直方体などのモデルを作り、そこから徐々に細かくしていく作業をCAD上で行えたのである。モデルを見ながら細部を作り込んでいく段階になれば、それを回転させるなどしながら部品の合わせ込みや干渉チェックもその場で行える。それは設計者にとって、ある意味理想的な作業環境だったと田中氏は言う。自身の思考の流れに寄り添いながら作業が進行していくため、常にストレスなく設計を進められるのである。

  • Inventorによる車体後部のレイアウト

    Inventorによる車体後部のレイアウト

  • Inventorによるギアボックスケースのモデル

    Inventorによるギアボックスケースのモデル

  • Inventorでギアボックスのアセンブリを確認

    Inventorでギアボックスのアセンブリを確認

  • Inventorによるバッテリー部のモデル

    Inventorによるバッテリー部のモデル

「二つ目は図面作成の容易さです。実際、これほど簡単に出図できるとは思いませんでした。」と田中氏は笑顔を浮かべる。前述の通り、同社にとって図面作成は一番の課題だったが、Inventorを使い始めると、その問題もあっさり解決してしまったのだという。

「あれだけ面倒だった図面が本当に簡単に出せるのです。複雑なものも1時間あればある程度の図面に仕上がり、すぐサプライヤーに渡せます。しかもアセンブリと個々の部品と図面がきれいにつながっているので、各作業を行き来しながら並行して進められる。私一人で無駄なく効率的に設計していけるのです。」

このようなInventorのもたらした効果を総合すれば、実際に試作機を1台制作した場合と同程度の導入メリットがあったと田中氏は断言する。必ずしも、開発資金を潤沢に用意できないベンチャー企業にとっては、大きな意味を持つものなのだ。

「コストの問題もあり試作の制作は簡単にはできませんが、Inventorで設計すれば、部品ができた段階でもう一度組み立ててみることがCAD上で行えます。穴位置がズレていないか、干渉していないか、作業がしやすいかなど全てチェックでき、また実際に組み立てるスタッフとの打ち合わせにも使えるわけです。」

もちろん各サプライヤーへの部品の発注にあたっても、IGESなどのデータで渡すことにより、製造工程の検討まで並行して行ってもらうことが可能になるという。

「今回設計は2~3人必要なボリュームでしたが、Inventorを使うことで1.5人程度でクリアできたと実感しています。Inventorは本当に楽しいCADですね。お世辞抜きで使っていて楽しい。考えたことがそのまま形になり、時には予想を超えたモノまで生まれる。まさにデジタルプロトタイピングという感じで、ものづくりの楽しさが凝縮されているようです。」

単なる大量生産・販売でなく商品力の強さで

このようにして、およそ3年余の開発期間を経て完成した三輪電気自動車エレクトライクは、前述の通り2015年6月に正式発表され、いよいよ本格的なマーケティング活動を開始している。千葉氏によれば、その販売手法もエレクトライクの特性を生かした独特のスタイルになるようだ。

「単なる大量生産・大量販売ではなく、強い商品力で顧客を確保しながら徐々にマーケットを広げていくアプローチが中心となるでしょう。例えば架装は自分でやりたいという方もおられますから、我々としてはきちんと設計してナンバーを取れるシャーシを作って提供し、お客様にはこれをベースに架装してもらおうと考えています。そのためにボディもフレームボディにしています。」

荷台フレームのFEM(有限要素法):構造解析も容易に行える

荷台フレームのFEM(有限要素法):構造解析も容易に行える

もちろん本格的な販売戦略はこれからの展開となるが、既に食品スーパーの配送用や書店チェーンなどを中心に30台前後のエレクトライクが販売され実働している。現状は、これらを含めた市場からのフィードバックを取り入れながら、徐々に製品の改良などを進めている段階だ。お客様ごとに個別のユニットに関する開発や法規適合を図っていく必要があるため、設計はもちろん各部門ともフル稼働の状態が続いている。

「人的資源に限りがある我々だけに、Inventorには非常に助けてもらった実感があります。新しい市場の開拓を目指す本格的な戦いはこれからですが、当然そこでもこれらのツールの活用が重要なカギとなるでしょう。Inventorには、今後も大いに期待したいですね。」(千葉氏)