コスト圧縮を実現しながら、設計ミスの防止と作業効率の向上

株式会社デジタル

株式会社デジタルは大阪に本社を置く、FAシステム向けの産業用ディスプレイモニタ国内シェアNo.1メーカー。表示器、制御、計装の分野で独自の製品開発と営業展開を行い、海外進出も行ってきた。2002年12月に、産業のグローバル化と国内外拠点の再編成、今後のシステム製品開発力の強化をかけ、フランスの制御機器システムメーカー「シュネデールエレクトリック」の傘下に入り、HMI(ヒューマンマシンインタフェース)の開発提供上の戦略拠点となった。この厳しい環境の中、生き残りの鍵を握る新製品開発の基盤としての3次元CADシステムに取り組み、作業効率に成果を上げている。

本ページは大塚商会が発行している 「αソリューション」 から転載したものです。

Autodesk Inventorの導入により、単なる作業効率化の手段という枠を超え、関連する各種業務において質的向上もなされた

導入事例の概要

導入の狙い

  • 新製品開発力の強化と設計作業の効率化

導入システム

  • Autodesk Inventor

導入効果

  • コスト圧縮を実現しながら、1人1台の3次元CAD利用を実現バーチャルモックのプレビューなどによる、設計ミスの防止と作業効率の向上

製品設計にハイエンドシステム3次元CADを導入

株式会社デジタルのCAD利用は、2次元CAD MICRO CADAMの利用に始まる。その後、台湾の製造メーカーとの設計データのやり取りのために『AutoCAD』を利用するなど、早くから導入に取り組み、当初は図面作成業務の合理化を目指すものであった。その流れが大きく変わったのは、3次元CADの導入に踏み切った時点からである。

同社の主力製品は、専用機器や制御盤に組み込まれるタイプのものだ。そのため求められるのは、設置面積の小さな製品や厚さの薄い製品である。液晶部分は各メーカーに仕様を投げて作ってもらい、その他の筐体や基板は自社で設計している。プリント基板は複数枚を重ねて実装するが、このプリント基板上の各種部品の干渉が開発負担となり、業務上の大きな問題となっていた。2次元CADシステムで作成した図面では、この部分の検証・調整と設計修正作業が、熟練の設計担当者にとっても非常に難しい仕事となってきたためである。その問題を解決するため同社は、3次元のモデルを使ってこの作業をビジュアル化して処理することを考え、ハイエンドの3次元CADシステムを導入した。製品の小型・薄型化と機能向上の両立という難しい要求を満たしつつ、短期間で効率よく開発を行うには3次元CADの利用という方法しかないとの判断からだった。

開発本部汎用機開発グループグループリーダー吉居 貢氏は、ハイエンド3次元CADシステムの導入決定時点の判断と評価について、当時を振り返り次のように語る。「ハイエンドの3次元CADシステムは、私どものような規模と製品の会社にはオーバースペックで十分に使いこなすことができるかとの危惧はあったのですが、当時は実用的な面でこれに代わる選択肢がありませんでした。また、IT技術は時間が経過するにつれて向上進化しますが、自分達の身の丈に合う3次元CADシステムの出現するのを待つよりも、まずは設計業務上の課題、お客様からのご要望にお答えすることが最優先であるとの考えから思い切って導入に踏み切りました。少人数の開発要員にかかる負荷の軽減と開発工数削減は、従来の開発スタイルでは応えきれないとの問題意識もあり、何か手を打たなくてはならないとも考えていました」

開発本部 汎用機開発グループ グループリーダー 吉居 貢氏

「自社の業務に合わせてCADを利用するのは大変です。実際の機能の評価作業は自分達で行うにしても、情報の収集や運用ノウハウは大塚商会さんの協力を頼っているのが実情ですので、今後も期待しています」

直感的な操作性と機能一括型の『Autodesk Inventor』に移行

同社はハイエンドの3次元CADシステムを導入したものの、その導入コストと年間のメンテナンスフィーが高価なことに悩まされ、開発担当者全員の割り当てには踏み切ることができなかった。

また、ハイエンドCADは多くの機能を揃えているが、同社の製品体系では全ての機能が必要という訳ではなかった。さらに、必要とするサーフェイス機能がオプション扱いで標準機能ではない点や、運用に際しても専門の教育を要し、直感的に操作することができない点も難点だった。開発現場からは、もっと機能を絞って簡単に使いたいという意見が上がってきた。「これはパラメトリックCAD固有の問題なのですが、設計の変更やモデルの修正作業が非常に難しく、作業者に負担がかかります。加えてこのパラメトリックCADは設計者のスキルがそのまま反映されるという問題があります。これらの点が実設計での柔軟性の欠如という形で、開発業務に悪い影響を与えることが判明しました。デジタルの製品開発スタイルとCADシステムのコンセプトがずれていることが、少しずつ明らかとなっていたということでしょうか。また、運用スキルをアップするためには教育にお金をかければよいのですが、その費用をかけることに意味があるのかという疑問もありました」と、当時直面した問題について吉居氏は語る。

そこで同社は、2001年初めから3次元CADシステムの再検討を開始。その際に目を付けたのが『AutodeskInventor』だった。当時の『AutodeskInventor』は、ハイエンド3次元CADシステムの処理能力と比較すると、機能の差はあったが、直感的な操作性と機能が基本+オプションではなく一括で提供される点を同社は評価した。処理能力面は、当面は劣っているとしても、今後バージョンアップが進めば解決されるであろうとの読みもあった。事実、現在の『Autodesk Inventor 6』の処理容量とレスポンスは、新しいカーネルが搭載されたことなどから、運用上申し分のないものになっている。

同社の『Autodesk Inventor』導入は2001年4月の『Autodesk Inventor 4』から始まり、現在は製品開発に9台と製造に2台の計11台の運用体制をとっている。機種変さらにともなうデータ移行作業は、開発中のものについては新規作成し、量産化したものはデータ変換で対応したが、特に大きな混乱もなく順調に実施することができた。

『Autodesk Inventor』が業務に与えたインパクトと成果

『Autodesk Inventor』導入後の歩みとその業務に与えた影響を、吉居氏は次のように語る。「端的に表現するならば、ハイエンドCADは専門家向けのシステムであるため、きちんと教育訓練を受けた方でないと操作できません。これに対して、ミッドレンジCADは一般の方にも、それなりに操作が可能であるということです。『Autodesk Inventor』の使い勝手の良さと業務への親和性の高さは、高く評価できると思います。また、単なる作業効率化の手段という枠を越え、関連する各種業務において質的な変化を引き起こしている点も注目できます」

同社では社内で製品のマニュアルを作成しているが、このマニュアルに使う製品図版はマニュアル作成担当の社員が自ら『Autodesk Inventor』を操作して作成出力しているという。以前は開発担当者がマニュアル作成部門の依頼で行っていた作業を、今やCAD担当以外の社員でもこなすことができるようになっているのだ。「生産現場でも、CADデータの利用を本格的に考え始めています。保守関係や製造指示書や組立手順書は、従来は図面で伝えられない部分をビデオで作成し製造現場に送っていました。

これに代わる方法として、現在は3次元CADデータのアニメーションの利用を検討しています。こうすることで各種技術情報の一元管理が可能となり、Eメール添付で生産現場に送ることができます。また、海外の言葉が違う人々にも理解しやすいと好評です。今後この分野での利用を積極的に進めていきたいと考えています」と吉居氏は語る。

『Autodesk Inventor』の導入により、ノートPCでの3次元CADシステムの運用が可能となった点も見逃せない。このポータブル性は、ハイエンドCADでは望むべくもないものだ。金型関係の打合わせ、新製品の客先などでのプレゼンテーションでの利用は、製品イメージが理解しやすく、情報交換が効率的に行えると大変好評であるという。このことは、営業ツールとしての3次元C ADシステム利用の可能性を示すものではないだろうか。

CAD利用の現状に対する評価と今後さらに解決すべき課題

続いて、『Autodesk Inventor』の評価を吉居氏に率直に語っていただいた。「『Autodesk Inventor 5.3』になってから、大きく評価が変りました。CADに経験豊かな人達からも、2次元CADを上回る運用性と使い勝手を実現した『Autodesk Inventor』を使わない開発作業などもう考えられないといった反応が返ってきています。これは、現在のバージョンが従来からの認識を覆し、2次元CADを上回るパフォーマンスとクオリティを提供しているということを意味しています。パソコンベースのCADであるからといって、動作が鈍重であるといったイメージは既にありません。結構複雑な形状のものを『Autodesk Inventor』で設計していますが、設計上の性能的な制約は特にありません。また、現在の製品開発は、コア部分を共有し、デザインの異なる数機種を一度に設計することになりますので、3 次元CADシステムの利用を前提として、開発作業を行っているというのが実情です。このような連携と分業を簡単に実現できる環境を『Autodesk Inventor』は提供することができます。開発環境全体を考えた場合、ハイエンドCADシステムの場合はCADと同じベンダーのPDMを経由しないと他社のPDMと接続できないといった制約があるのですが、『Autodesk Inventor』にはこのような制約がありません」と『Autodesk Inventor』の使いやすさを高く評価する。

最後に、同社のCAD利用の今後については、「今後のCAD利用の最大のテーマは、私どもの製品特性から出てくるのですが、熱解析分野での利用です。現状でも、熱解析用の専用システムを導入すれば、利用は可能なのですが、その場合には新たに3次元モデルを構築する作業が必要となります。できれば、『Autodesk Inventor』で作成したデータをそのまま利用して、この熱解析の作業を行えないかと考えています。熱解析のために別システムを運用するということは、私どもには手に余りますから。現在、大塚商会さんからの情報提供を受けるなどして、どのように対応するかを検討中です。また、『Autodesk Inventor』は、米国製のCADシステムなものですから、日米の製造業におけるCADシステムの使い方の違い、図面精度要求の違いといった問題があり、この点の改善が必要だと思います。大塚商会さんにオートディスク社の開発セクションとの間に入っていただき、バージョンアップの際に反映をしてもらっております」と、吉居氏は今後の展開と大塚商会への希望を述べる。

自分達の業務に見合ったシステムを導入したことで、作業効率の向上に成功した株式会社デジタル。その取り組みは、IT活用に悩む企業にとって参考になるのではないのだろうか。

株式会社デジタル

業種製造業
事業内容表示器事業、制御事業、計装事業
プラットフォームミッドレンジの3次元CADシステム
従業員約490名