紙図面の電子化と2次元・3次元CADの統合環境の導入で顧客満足と業務効率の向上を実現

株式会社シブタニ

株式会社シブタニは、建築金物業界のパイオニアとして、建築金物の企画開発・製造販売を行っている。商品の製造図面としては、3次元データが 効率的である一方で、顧客への納品は2次元データが求められる。そこで、2次元・3次元が両方扱えるCADソフト『Autodesk Inventor』の導入に より、図面作成の効率化を実現。さらに文書管理システム『Visual Finder』を導入。紙図面を電子化することで図面を中心とした情報系システムの確 立を目指す。

本ページは大塚商会が発行している 「成功事例集2009(製造業編)」 から転載したものです。

建築金物の企画・製造・販売を通じて、人々の豊かな暮らしを支え続けている

導入事例の概要

導入の狙い

  • 3次元CADの利用により、建築金物の設計時における、部品の干渉、嵌合チェック

導入システム

  • 3次元CADソフト『Autodesk Inventor』
  • 文書管理システム『Visual Finder』

導入効果

  • 2次元・3次元が両方扱えるCADソフトの導入により、商品の製造に必要な3次元データと顧客が求める図面作成の効率化

建築金物業界の先駆けとして独自性の高い商品で市場を牽引

創業約60年の歴史を持ち、建築金物業界のトップを走りつづける株式会社シブタニ。昭和30年代、創業者である渋谷幸雄氏は、他社に先駆けてアルミサッシやドアに付随する掛け金や戸車、ヒンジといった建築金物の製造・販売の量産体制に踏み切って会社に大きな成長をもたらした。アルミサッシが世間に普及し始めた時期に合わせ、専業化したことが現在の事業基盤となっており、業界での位置づけを確固としている。

競合企業が少ない中、業界のパイオニアかつトップランナーとして、建築金物の企画・製造から販売までの全てを自社で行える体制を確立。現在は、 北海道から九州まで営業所や流通センターなど13カ所を保有している。

主要取引先にはトステム株式会社やYKKAP株式会社、三協立山アルミ株式会社などの大手アルミサッシメーカーがあり、OEMとして製品を供給。そ の他にも、高層ビルやマンション、官公庁にいたるまで、同社の商品が日本のあらゆるところで使われている。

さらに会社として「市場を先読みできるブランド開発」を掲げ、常に新しい流れを生み出す、オリジナル製品の開発にも積極的に取り組んでいる。 それを象徴するのが、同社の錠前「クラビス」だ。財団法人全国防犯協会連合会の認定を受けたこの商品は、多発する不正解錠犯罪の防止や「安全 を売る」という新しい常識の普及に貢献している。

独自商品開発の図面作成にあたってCADソフトを導入

同社では、顧客が製造・販売するアルミサッシに付随する部品を作りはじめた頃から、顧客との打ち合わせに使うためアイデア図を描いていた。 しかし、それは考えを説明する概念図で厳密な製作図ではなかった。そのため、商品の仕様が決まると、製造現場にアイデア図を持ち込み、その図を もとに相談をしながら、商品をつくりあげていた。

「独自商品の開発にあたって、顧客に提案するアイデア図をもっと充実させる必要があることから、2 次元CADソフトの導入を決めました」と、 取締役技術開発部長の松本恒彦氏は、当時を振り返る。

さらに3次元CADを利用している企業がまだ少ない中、同社では2003年頃には2次元・3次元CADの両方が利用できる、『Autodesk Inventor』を 大塚商会より導入している。

「当初は、製作図面を描くためというより、マンションなどの玄関を彩るエントランスユニットを提案するCGを描くために導入しました。その理由 としては3次元CADソフトの価格が2次元CADの値段に少し足して買えるほどに下がってきたこと、さらに中国の工場を訪れたときに、3次元で設計、製造まで全てをやっていたのを見て、ものづくりのツールとしての実感を得たことからです」と松本氏は導入の要因を語る。

『Autodesk Inventor』によって2次元・3次元の両環境に対応

その後、『Autodesk Inventor』を建築金物の3次元設計に活用。機構部品などを設計するにあたり、部品と部品の組み合わせによる動きをソフト上で確認したり、嵌合(かんごう)をチェックする必要がでてきたためだ。2次元CADと違い、3次元CADなら、画面上でモデリングデータを回転させて奥行などを直接確認することもできる。2005年には『Autodesk Inventor』のオプションである解析ソフトも導入した。

「当社では、アルミサッシやドアの中に入る部品を作っているので、限られたスペースに、どれだけの部品を詰め込めるか、という要求が強くなって きています。狭い空間の中で部品同士が重ならないか、部品が回転するときに、回りすぎてどこかに当たっていないかなどが、3次元CADの導入により、ひと目で分かります。また、部品のどこに力がかかっていて破損が起こるか、ということも事前に解析チェックで分かるようになりました。製品にする前段階であらかじめ確認できることで、確実に効率がアップしました」と松本氏。

実は商品の設計を3次元CADで行うようになった背景には「外圧」もあったという。取引先である、ダイカストを成型するメーカーなどでは設備 が進み、金型の作成は3次元データで行っていた。そういった外部や社内からの要求に応える形で設計の3次元化が進んでいったのである。

同社では、商品の製造は、子会社の渋谷工業株式会社で行なっている。商品の7~8割程度がそこで作られており、それ以外は、各メーカーの協力 を得ている状態だ。

「実は渋谷工業との間では、まだ紙図面でのやりとりが多く残っています。その一方で、製造現場からは、2次元よりも3次元データでほしいと いわれています。現状は、2次元図面データを渡しても現場で3次元に変換している状態です。検証や図面の精度に関して、3次元の有効利用が必要だということが全社的に分かってきた段階だと思います」と松本氏。

良いことづくめの3次元CAD導入ではあったが、一方で2次元CADを無視できない事情もあった。

「当社が手がけているもののほとんどは機械部品なので、設計には3次元CADが向いています。しかし、それは単独で製品になるものではなく、お客様の製品であるアルミサッシなどに取り付けて使うものがほとんどです。私どもはものづくりの中でも建築業にかかわっている点が特徴ですが、建築業界は基本的には平面図を使用しているため、最終的には2次元にする必要があります」

こうした理由により3次元CADの存在は、あくまでも最終的に2次元の図面をつくるための過程で使用する形式となる。

しかし、3次元の重要度は年々高まりつつある。例えば同社では顧客に対して試作品を作る代わりに、3次元CADに色をつけたデータを見せた り、顧客への商品提案のためのアニメーション作成も3次元CADで行っている。また、最終的な金型を作る前のプロセスとして利用しているケー スも多いという。

3次元の利点を利用しながら、顧客の要望である2次元の平面図にも対応できる『Autodesk Inventor』は、まさに同社に最適の製品といえるだろう。

また導入にあたっての顧客への配慮も行っている。『Autodesk Inventor』には、建築業界での使用率がとても高いAutoCADが含まれている。従来、さまざまな部署や顧客と、紙図面でやりとりしていたのが、CADソフトの利用が増えるに従って、メールで図面データをやりとりする形式に変わってきたという。CADデータの場合はデータをDXF形式に変換して顧客に メールなどで送付しているが、データの変換率は、先方が使用しているソフトのバージョンによって変わってくるため、FAXでもあわせて図面を送るな ど、工夫をしているという。

このように、『Autodesk Inventor』は、同社のおかれた環境に適したツールとして効率アップに大いに貢献しているのである。

取締役 技術開発部長 松本 恒彦氏

「『Autodesk Inventor』は、2次元CADのデファクトスタンダードであるAutoCADが含まれています。建築業界の顧客との データの互換性を考えると必須アイテムといえます」

技術開発部 西部設計グループ グループリーダー 高橋 克明氏

「将来的には、『Visual Finder』を使って、製造をお願いしている渋谷工業株式会社からも図面データが見られるようにする予定です」

技術開発部 商品開発グループ 主任 山岡 正一氏

「大塚商会さんには、よりいっそうユーザニーズを捉えた実務に沿ったセミナーを多く企画して欲しいですね。そのためには、ユーザの業務プロセスを徹底的に理解することが必要になると思います」

紙図面の電子化を進め図面を中心とした情報管理を推進

2008年5月、同社で長年保管されてきた紙図面の電子化と商品カタログを一元管理するために文書管理システム『Visual Finder』が導入された。

同社では、文書管理システムの導入を検討し、いくつかのシステムを社内で協議した結果、普及状況やコスト面などにアドバンテージがあるこの 製品に決定した。

「当社では古いものでは昭和40年代の図面も生きている状態です。生きている図面はもちろん、廃番となってしまった製品の図面も、技術情報 やノウハウとして保存しておかなければなりません」と、技術開発部西部設計グループグループリーダーの高橋克明氏は語る。

同社では、紙図面を電子化することで今後は図面を中心とした情報体系を目指していく。これが実現すれば技術情報、購買情報、製品試験、品 質管理の4部署の情報を一元管理できるようになる。

「他部署が管理している情報を確認したいというのは、よくあることです。図面を作成した当時の、購入資材の見積もりを知りたいときに、現在で は購買を管理する部署に連絡をして情報を探してもらわなければなりません。『Visual Finder』を使うことで、全国の拠点から、アクセス権さえあれば、見に行けるようにしたいと考えています」と高橋氏。

松本氏は、「重要なのは、クレームデータや試験データです。図面からでもそういった情報を確認できるようになれば、類似の設計をするときに参考になります。それ以外にも図面と基幹業務系の情報をリンクさせたいですね。例えば1商品がどのくらいの売上利益をもたらしているのか。図面を選択するだけで、それらが見えるようなシステムの構築を考えています」

また、この他にも同社では、大塚商会のアドバイスを受けながら、現在導入しているソフトやパソコン等の入れ替えの時期を検討する計画もある。

松本氏は、「技術進歩が速いのでどんどん後継機種が出てきますが、費用対効果を考慮した導入を検討できるよう、大塚商会には、数年後の動向 を事前に教えてもらい、それを受けて当社の投資計画を立てていきたいと思います。また、OSが入れ替わると、使えないソフトがでてきてしまいま すが、当社は企業規模に比して設計関係者が多いので、使用できないソフトが出ることは、コスト面で問題です。OSやソフトのサポート打ち切りなど、 我々では分からない部分が多いので、そういった情報提供の部分でも期待しています」と、力強く語った。

2次元CADだけではなく、3次元CADも使用できることで効率アップを図ることに成功した

株式会社シブタニ

業種建築金物の企画開発・製造販売
従業員270名(2008年12月現在)
サイトhttp://www.shibutani.co.jp/