3種類のCADを使い分けてきた設計業務に1システムで対応。設計・試作効率の大幅向上を目指す

株式会社アムズデザイン

株式会社アムズデザイン

業種
釣り具・アウトドア用品製造卸売業
事業内容
海釣り(シーバス)用プラスチックルアーなど釣り具の製造および卸売業。釣り関連のアウトドア用品の製造および卸売業。
従業員数
15名(2012年1月現在)
サイト
http://www.ima-ams.co.jp/

導入事例の概要

スズキ(シーバス)用のプラスチックルアー市場のシェアナンバーワンを誇る株式会社アムズデザイン。同社の設計業務はこれまで、3種類のCADシステムを工程別に使い分ける形で行われてきた。それは試作品のテスト結果を設計へとフィードバックするプロセスを煩雑にすると共に、システム間のデータ受け渡し時のエラー発生につながっていた。この課題を乗り越えるべく、一つの3次元CADによって全設計フローを一気通貫する環境を構築。商品開発のさらなるスピードアップに向けた取り組みが続く。

導入の狙い

  • 1システムによる開発設計環境の構築

導入システム

  • 3次元CADソフト『CATIA V5 デザイナー向けパッケージ IDG』

導入効果

  • 設計・試作業務の効率が20〜30%アップ
  • データ受け渡し時のエラーを回避
  • 設計期間の短縮化で新製品の開発スピードが向上

新たな市場に狙いを定めシーバス用ルアーを開発

海岸近くや河川に生息するスズキは、全長1メートルを超える大型の肉食魚である。成長するにつれてセイゴからフッコ、そしてスズキへと呼び名が変わる出世魚であるが、釣り人の間では「シーバス」と呼ばれており、疑似餌(ルアー)を用いたゲームフィッシングの対象魚として年々人気が高まっている。

株式会社アムズデザイン(以下、アムズデザイン)は、シーバスを釣るためのプラスチックルアー(プラグルアー)を製造している釣り具メーカーだ。シーバス用のプラグルアー市場ではシェアナンバーワンを誇る。

アムズデザインの創業者である五十嵐正弘氏は、もともと自動車の設計を行っていたエンジニアだった。1989年に独立・起業してからは、電話や家電、プラスチック成型の設計を請け負っていた。もちろん設計にはCADを使っていたのだが、それがプラグルアーという思いがけぬ事業につながっていく。キャンプをはじめとするアウトドアが趣味の五十嵐氏は、普段から自然に親しんでいたが、釣り好きの友人たちとの話にヒントを得て、ルアーの製造に乗り出す。
1998年に「ima(アイマ)」というルアーブランドを立ち上げ、釣り具業界に進出した。アムズデザインはシーバスに狙いを定め、「komomo SF-125」というプラグルアーを発売する。当時既にシーバス用のルアーは複数社から発売されていたため、同社の製品はいわば第二世代と言える。だが、そこにこれまでにない独自機能を持たせたことで、同社のルアーは一躍注目の的となった。それは後発メーカーだからこそ、成し得たことでもあった。

新製品発売まで約2カ月 業界の定説を覆す開発速度

ルアーは疑似餌とも呼ばれる。その名のとおり小魚やエビなど大型魚のエサとなる生き物に似せて作ったものである。従って、その形状や泳ぎ方につい目が行きがちだが、アムズデザインは「潜る深さ(レンジ)」に着目した。これが今日の成功につながる。

「komomo SF-125」は、水面から深さ30cmまでの表層を泳がせるプラグルアーだ。「komomo SF-125」が登場するまでは、水面上を泳ぐルアー、もしくは深く潜るルアーはあったが、このようにレンジを細かく設定するルアーはほとんどなかった。
軽やかに、踊るように浅瀬を泳ぐ色彩豊かな「komomo SF-125」を使った釣り人が発した「すごく釣れるルアーだ!」という声が評判になり、生産が追いつかないほどの大ヒット商品となった。

開発グループで設計業務を担当する篠塚 正規氏は「『komomoSF-125』の開発に関わった先輩の話ですと、当時はシーバスの釣り方はまだ手探り状態で、水面近くを泳がせようという着想があまりなかったようなのです」と解説する。今も生産し続けているロングセラー商品「komomo SF-125」を皮切りに、アムズデザインは10cm刻みでレンジを使い分けられるルアーを次々と開発した。その数は現在約100種類に上る。シチュエーション別にあらゆるレンジを攻められるルアーがそろっている。

リップレス※の斬新なデザイン、ウロコに頼らない鮮やかな色彩、そして国内の生産工場ならではの質の高さなどがアムズデザインの強みだが、リードタイムの短さも躍進を支える大きな武器だ。そのカギを握っているのが、プラグルアーの設計・試作品製作における工夫だ。

製品化するまでには1年以上かかる。それが業界の定説だったが、アムズデザインは2カ月あれば新製品を発売できる体制を整えている。篠塚氏はその理由は「設計したCADデータを加工機に送り、それを組み立てて試作品にする」という作業プロセスにあると明かす。

試作品の置かれた部屋

試作品のテストも重要な業務の一つ。その結果は即座に設計へと反映される

「退社前に加工機にデータを送っておけば、翌朝には試作品のパーツが出来上がります。それによって、金型による成形と遜色ない精度の試作品を短期間で作ることが可能になるのです」
九十九里浜のそばという立地をいかし、試作品は実際に海で使って、泳ぎや重りのバランスを確認する。修正したい箇所があればすぐにフィードバックし、2日後には改良済みの二次試作品が出来上がる。このプロセスを繰り返したのち、最もよい試作品を選び出して金型を起こし、生産工場に持ち込む。この回転の速さが生命線だ。

だが、同社は最も重要であるはずの設計業務で、ある課題に直面していた。

  • * リップとは、ルアーの口元に付いたプラスチックの潜行板のこと。リーリングするとリップが水圧を受け、その抵抗で潜水する。リップレスのルアーにも、その働きをする機能があり、水の抵抗を受けて動きを変化させる。

試作品の置かれた部屋

試作加工機による金型を使わない試作品製作が開発速度を大幅に高めた

篠塚 正規氏

開発グループ 篠塚 正規氏

「インストラクターの派遣など、大塚商会さんには十分サポートしていただいているのでとても満足しています。今後はCADを活用する他社の事例など、ルアー製作に役立つ情報をご紹介いただけるとうれしいですね」

理想のモデリング操作性『CATIA V5』を導入へ

アムズデザインはこれまで、設計段階に応じて意匠設計CAD、サーフェスモデラー、ミッドレンジ3次元CADという3種類のCADソフトを使い分けてきた。その設計フローは以下のとおり。

まず意匠設計CADでプラグ外側の形状を作り、そのデータをサーフェスモデラーに受け渡してルアーの顔にあたる部分を生成する。次にデータをIGESに変換してミッドレンジ3次元CADでルアーの内部構造を設計。最後に3次元CAMソフトを使ってNC加工用データを作成し、それを加工機へと送る。この方法の最大の難点は、試作品のテスト結果を反映させる際の効率の悪さだ。

『イマジン&シェイプ』機能操作風景

『イマジン&シェイプ』機能は直観的操作による3次元モデル作成を可能にする

「よりよい製品を開発するうえで、試作品によるテストは不可欠です。しかし従来は、テスト結果を受けて設計を変更するにも一からやり直す必要があったのです」と篠塚氏は語る。
また、ソフト間でデータを受け渡す際、時折エラーが発生することもあった。それもあり篠塚氏は、CADソフトの一本化を模索して1年ほど前からリサーチを進めていたという。そして意匠設計CADの製品サポート終了に伴い、新たなCADソフトの導入を検討することになった。

篠塚氏はいくつものCADソフトを試したが、いずれも操作性に物足りなさを感じた。そこで目を付けたのが、ハイエンド3次元CADとして知られる『CATIA』だった。開発元のダッソー・システムズに問い合わせ、信頼できるベンダーとして大塚商会を紹介された。デモで紹介を受けて確認していった結果、デザイナーの感性を妨げない直感的な操作によって、デザイナーのイメージをCADデータに再現する『CATIA V5』の機能は十分に満足できるものだった。特にスタイリングモデラー「イマジン&シェイプ(IMA)」の操作性は篠塚氏の理想に限りなく近いものだった。

「ルアーの設計は簡単なように見えますが、ボディの太さや重りの位置や重さを少し変更しただけでも動きが大きく変わってしまうため、実はかなり難しいのです。頭の中にあるイメージを形にする作業が極めて重要ですが、『イマジン&シェイプ(IMA)』はその作業がとてもスムーズにできました」と篠塚氏。

『CATIA V5』をおよそ1カ月間試用したのち、2011年8月に『CATIAV 5デザイナー向けパッケージ(IDG)』を導入。意匠設計CADに代わる新たな3次元CADとして使い始めた。さらに同年12月には、サーフェスモデラーによる自由曲面設計とミッドレンジ3次元CADによる内部形状設計の両機能をカバーすべく、「パート・デザイン」と「アセンブリ・デザイン」という二つのオプションモジュールを追加購入。これによって『CATIA V5』による一貫した設計体制が実現された。
篠塚氏は「今は旧システムと平行稼働中ですが、『CATIA V5』に完全移行すれば、設計・試作の作業は従来に比べて20~30%は効率化できるはずです」と声を弾ませる。

プロアングラーの意見も採り入れて開発を加速

プラグの設計・試作を『CATIA V5』で一気通貫できる環境を整えたアムズデザイン。それにより設計効率の大幅な向上が期待できるほか、これまでのようにシステム間のデータ受け渡しによってエラーが発生する危険性もなくなった。2011年は年間18種類ほど新製品を発売したが、設計・試作の短縮化が可能になったことで、これまで以上のペースで新製品開発が進むと期待を寄せる。

工房

試作品の組み立てと彩色を行う工房

今後の取り組みについて篠塚氏は、「まずは『CATIA V5』で確実に設計・試作業務を行う体制を整えること」と語る。設計担当者にとって自分の手の代わりであるCADソフトが変わることは一大事。大塚商会はインストラクターを派遣し、操作方法の指導に当たっている。また同社ではこれまで、新製品の広告やカタログ用画像は実物同様に彩色した最終試作品を撮影して用意してきた。
将来的にはレンダリング機能を活用し、『CATIA V5』によって制作していきたいと考えている。

ルアー

半透明樹脂で試作されたボディに部品を組み込んでルアーを組み立て、最後に彩色して試作品は完成する

「それによって手間と時間が省けるだけでなく、より斬新でインパクトがある見せ方の実現にもつながるのでは、と考えています」と篠塚氏は言う。アムズデザインの製品開発の特長の一つに、釣り人からの要望をきちんと反映していることが挙げられる。広報宣伝活動のためにプロのアングラー約50人とテスター契約を結んでいるが、「この魚を釣るために、こういうルアーを作ってほしい」という声を貴重な情報と見なして、ものづくりに反映している。開発途中の製品テストをテスターに手伝ってもらうことも多いという。

「たくさんの人の意見を聞きながらより良いものを作っていく―。それが当社の企業姿勢なのです。これほど多くのアングラーと契約している同業他社はないので、私たちのアドバンテージだと思っています」と篠塚氏は胸を張る。

アムズデザインは一本化されたCADソフトによる業務の効率化と、全国に点在するプロアングラーたちの知恵をいかし、これからも太公望を満足させるヒットルアーを生み出し続ける。