色や明るさ、照射範囲などを光学解析ソフトでシミュレーション。短納期で高品質な設計開発を実現

株式会社押野電気製作所

株式会社押野電気製作所は、小型タングステン電球の専業メーカーとして1931年に設立された。独自の電球自動製造設備による一貫生産とCADを使用した最適設計から生み出される製品は、世界一厳しいとされる米国軍用規格をクリアするなど、海外でも高い評価を得ている。今回、自動車の車内インテリア用の光学製品事業を本格展開するにあたり、ミッドレンジ3次元CAD『SolidWorks』と統合的な運用が可能な光学解析ソフト『OPTIS WORKS』などを導入。設計段階で明るさや色、照射範囲などをシミュレーションする環境を整備し、大きな成果を上げている。

長年培われた技術力で、無駄とムラのない美しい光をデザインしている(写真左上は、照度シミュレーション画像)

導入事例の概要

導入の狙い

  • 新規事業に伴う光学解析ソフトによる3次元シミュレーションニーズへの対応

導入システム

  • ミッドレンジ3次元CAD『SolidWorks』
  • ハイエンド3次元CAD『CATIA V5』
  • 光学解析ソフト『OPTIS WORKS』

導入効果

  • 短納期で高品質な設計開発を実現
  • 急な仕様変さらにも迅速に対応
  • 外注コストの削減
  • シミュレーション時間の短縮

LEDなどの光源を取り入れた、自動車用光学製品事業に着手

株式会社押野電気製作所は、もともとクリスマスの装飾用電球の製造からスタートした。その後、航空機・自動車の計器類のバックライトに利用されるサブミニチュアランプ(超小型電球)の開発を行い、同分野における世界規模のトップメーカーに発展。世界の主要な航空機や自動車メーカーのほとんどに同社の製品が採用されるようになった。国内の自動車市場では、同社を含めた3社でサブミニチュアランプのシェアを分け合っている。

同社の最大の強みは、フィラメントなどの部材を含めて全て自社で製造しているため、ランプの明るさなどを顧客の要望に応じて自在に調整できる光源技術を有している点である。また欧州4カ所(ドイツ、イギリス、イタリア、フランス)に海外販社があり、欧州向けの製品はエストニアの工場で生産し、国内では鹿児島の工場で生産している。さらに中国にも協力会社の生産拠点があり、現地生産と中国生産による対応で、為替変動によるダメージを極力低減する事業運営を行っている。

サブミニチュアランプの開発ノウハウと販売実績を活かした新規事業展開を模索したところ、ここ数年の間に急速に進展してきた照明ランプのLED化に着目。光学製品事業部を立ち上げて、本格的に光学エンジニアリング分野へ進出した。LEDを含む多様な光源を取り入れた自動車の室内インテリアに関わる光学製品や部品の設計・開発・製造を行い、既に多くの実績を上げている。

「もともとドイツの販社が技術者を抱えて、高級車の室内用の照明に力を注ぐようになったのが始まりです。そのビジネスモデルを本社に取り入れて光学製品事業部を立ち上げたのです」と光学製品事業部 技術部 部長代理 兼 技術一課 課長の渡辺 知之氏は語る。

自動車の室内用の光学製品はインテリアとしての要素が強く、色彩や明るさ、照射範囲などに対するメーカーの要望が非常にシビアだという。なおかつ、コストを極力抑えるために光の利用効率を高め、より少ない光源数で一定の範囲を照らせる付加価値の高い提案が求められる。そうしたメーカーからの細かな要望に応えるためには、設計段階で明るさや照射範囲などを事前にシミュレーションできる環境が必要となる。そこで、同社では、光学製品事業を本格展開するにあたり、3次元CADと連動した光学解析ソフトの導入を検討するようになった。

新たに光学解析ソフトやハイエンド3次元CADを導入

秋田県の技術センターで光学製品の設計開発に着手する際に、先行して取り組んでいたドイツの販社でどのような光学解析ソフトを使っているかを調べた。そのうえで、各社の光学解析ソフトを比較検討し、最終的にミッドレンジ3次元CADソフトの『SolidWorks』と統合的な運用が可能な『OPTIS WORKS』を選定し、2006年に導入している。

「当社では、以前から大塚商会さんから『SolidWorks』を導入し、サブミニチュアランプの設計開発を行っており、光学製品事業部でも手慣れた『SolidWorks』を活用することになりました。そこで『SolidWorks』との親和性の高さや、他社製品と比べて機能的にも優れていることから、『OPTIS WORKS』の導入を決めたのです」と自動車・航空機営業部 一課 課長代理の石原 祥平氏は当時を振り返る。

また、自動車メーカーのほとんどがハイエンド3次元CADソフト『CATIA V5』を利用しており、同社にも自動車メーカーから車体のラフデザインや自動車用部品の一次メーカーが作成したユニットのデザインが『CATIA V5』のデータで送られてくる。そのデータを『SolidWorks』に変換するソフトも導入している。「光学部品はとても小さいので、コンマミリ単位の精度が要求されます。お客様から支給される『CATIA V5』のデータをそのまま『SolidWorks』に取り込むと、計算方法や計算精度などが異なるためにユニットの形状が変わってしまうことがあります。そこで、データ変換ソフトを利用し、誤差が生じる確率を低く抑えたのです。実際、かなり変換の精度は高く、誤差はほとんどありません」と実際に3次元CADを操作する光学製品事業部 技術部 技術一課 技師の山西 正晃氏は語る。

さらに近年では周辺部品のデザインの複雑さが増し、設計に与える影響も大きくなってきたことから、新たに『CATIA V5』も大塚商会から導入した。自動車メーカーや光学部品の一次メーカーは、最終的に『CATIA V5』上でチェックするので、『SolidWorks』で作成したデータがどのように見えるのかを事前に検証するためである。「CADの種類が異なるとデータが化けてしまう可能性があるのと、ユニットの形状が複雑になってきたことから、当社が設計したとおりにお客様の環境で再現されるのか、社内で確認できるようにしたかったのです」と山西氏は語る。

光学製品事業部 技術部 部長代理 兼 技術一課 課長 渡辺 知之氏

「3次元CADや24時間フル稼働しているワークステーションを始め、当社では、OA関係のほとんどを大塚商会さんから導入し、保守サポートまで一貫して任せています。今後も当社のIT活用を総合的に支援していただきたいです」

自動車・航空機営業部 一課 課長代理 石原 祥平氏

「円高などによって自動車業界を取り巻く環境はまだまだ厳しいので、お客様からはコスト削減のことばかり言われています。そのため、大塚商会さんには、これからも少しでも安くていいものを提供していただけるとありがたいですね」

詳細なシミュレーションにより、短期間で高度な設計開発を実現

同社では、『CATIA V5』で作成された自動車部品のユニットのCADデータを、いったんデータ変換ソフトを使って『SolidWorks』に取り込み、そのユニット上にぴったりと収まるように光源やレンズなどの光学製品の設計開発を行っている。

設計の際、光学解析ソフトの『OPTIS WORKS』を使って詳細なシミュレーションを実施している。具体的には、光源データの反射、吸収、透過、屈折、散乱などの光学特性を入力することで緻密な光線追跡を実現。それにより、リアリスティックな照度や輝度分布結果が得られるようになり、従来のように試作を繰り返すことなく、短期間で高品質の設計開発が行えるようになったのだ。

LEDから発せられた光を横方向に分岐させる。画面は光線追跡の様子

「光の利用効率を高めて光源数を少なくすれば、その分、部品コストも削減できますし、組み立て作業も楽になるので、メーカー側にとっては大きなメリットになります。さらにLEDには、青色でも青白く発光したりと、色合いにある程度のバラツキが発生する性質があるため、使用する光源数を少なくすれば、それが目立たなくなる利点があります。実際、ある車種のナビゲーションスイッチでは、LEDランプを当初予定していた5個から2個に減らすことに成功しました。そうしたシミュレーションが設計段階で行えるようになったことは、当社にとって大きなアドバンテージです」と渡辺氏は自信を持って説明する。

『OPTIS WORKS』は2006年に1台導入し、その後、最新バージョンに順次アップグレードし、2人のオペレータが交代で活用している。シミュレーションツールといっても、なんでも自動的に解析してくれるわけではないので、独自の設計ノウハウが必要になる。ソフトの癖なども見極めながら、いろいろと試行錯誤を繰り返すうちに有効なツールとして使いこなせるようになった。

「データの大きさにもよりますが、当社の解析モデルの場合、『OPTIS WORKS』でシミュレーションをかけてから結果が出るまでに30~40時間くらいかかります。しかし、それでも、最新版にアップグレードし、マシンも高性能なワークステーションにリプレースしたので、4年前に比べるとシミュレーション時間は4分の1ほどに短縮しています。繁忙期は1~2カ月間、24時間フル稼働している状態なので、以前は途中でフリーズしてしまうこともありましたが、今はそうした問題も解消されました。また夏場は熱がこもってしまうので、近くに送風機を設置して熱がこもらないように工夫しています」と山西氏は苦労を明かす。

光学製品事業部 技術部 技術一課 技師 山西 正晃氏

「私は業務担当なので、大塚商会さんと接する機会が一番多いですね。大塚商会さんは細かい質問をしても、すぐに的確に回答してくれますし、いろいろな新しい製品の提案もしてくれるので、非常に満足しています」

内製化で外注コストを削減し、急な設計変さらにも迅速に対応

今回、同社では『SolidWorks』や『OPTIS WORKS』、データ変換ソフトや『CATIA V5』をそろえたことにより、設計開発工程を全て自社内で担える体制が整った。

『CATIA V5』を導入する以前は、データ変換作業などを外部の協力会社に依頼していたのですが、外注先からはツールの費用も請求されるので、毎回、数十万円単位の費用がかかっていました。しかも、お客様から細かい設計変更の要望が頻繁にあり、場合によっては、明日までになんとかしてほしいと頼まれることもあるのですが、外部ですと、そうした要望に迅速に対応することができません。しかし今回、全て内製化できる環境がそろったので、外注コストを削減できるようになり、急な設計変さらにも迅速に対応できるようになりました」と山西氏は語る。

5個のLEDランプを2個に減らすことができたナビゲーションスイッチ

特に自動車の室内インテリアでは、極力コストを抑えて見栄えのいいものにするために、材質やデザインの変更が頻繁に発生する。デザインはもちろんのこと、周辺の材質によっても光の反射は微妙に変わってしまうため、その検証にも『OPTIS WORKS』は有効だという。一般的な材質であればすぐに検証することができるが、特殊な材質の場合は、材質のパラメータ用のデータをOPTIS社に依頼して作成してもらい、そのデータを取り込んで検証している。その分、時間も費用も余分にかかるが、そうした徹底した品質チェックを行っていることが、同社の製品開発に対するこだわりであり、取引先から信頼されている大きな強みでもある。

同社では、大塚商会からPolycomのTV会議システムやサーバなどのOA機器も導入している。TV会議システムについては、東京本社と鹿児島工場間で打ち合わせなどを行う際に有効活用し、出張費用の削減やコミュニケーションの円滑化を図っている。また、将来的には『CATIA V5』のデータを直接、光解析できるツールも導入したいと考えている。それにより、データ変換する手間や時間が省けるようになるからだ。同社では、今後もITを有効活用しながら、業務効率向上やコスト削減などに積極的に努めていく考えだ。

株式会社押野電気製作所

業種製造・販売業
事業内容サブミニチュアランプ、車載用小型電球、航空機器用各種電球、各種シリコンキャップ、各種電球用ソケット、LEDランプ、断熱コーティング剤などの製造・販売
従業員80名、グループ全体150名(2009年4月現在)
サイトhttp://www.oshinolamps.co.jp/