創意工夫で3次元CAD活用範囲を広げ施工管理の品質を向上。BIM普及を見据えた体制強化に取り組む

三光設備工業株式会社

業種
管工事業
事業内容
空気調和・衛生設備工事、リニューアル工事
従業員数
21名(2016年7月現在)
サイト
http://www.sskkg.com/

導入事例の概要

三光設備工業株式会社は、創業以来60年近くにわたり、ビルや共同住宅の給排水・衛生設備工事を行っている。建築業界へのBIMの普及を見通し、数年前に3次元CADを採り入れた同社は、施工品質のさらなる向上を図るべく、より操作性の高いソフトへの切り替えを行った。その多彩な機能を活用し、自社で開発したソフトとの連携によって工事管理の総合的な生産性アップを図るなど、ITを使いこなした社内の改善意識も高まっている。

導入の狙い

  • 配管図の作図業務を効率化したい。
  • 施工前の検討精度を高めたい。
  • BIMに対応できる体制を整えたい。

導入システム

  • 建築設備専用CAD「Rebro」

導入効果

  • 2次元CADでの作図と比較してスピードがアップした。
  • 3次元CADの整合性が施工管理の品質を向上させた。
  • 3次元データを資産として取り扱う環境が整った。

堅実な施工管理体制で取引先からの厚い信頼を得る設備工事会社

大阪府大阪市の三光設備工業株式会社(以下、三光設備工業)は、空調・衛生関連の施工を担う設備工事会社として1957年に設立された。1974年より請け負うようになった共同住宅の衛生設備工事は今日に至るまで同社のメインの事業となっており、これまでの累計施工実績は共同住宅 約56,300戸、事務所ビル・工場・学校 ・その他約780棟にも上る(2016年4月現在)。

「近年、共同住宅のエンドユーザーによるデベロッパーへの品質要求の高まりと共に、設備工事会社にもより高い水準の施工管理体制が求められるようになりました。そのため、以前と比べ仕事の内容がより一層緻密になっており、業務効率をいかに改善するかが、私たちの大きな課題となっています」と建築業界の動向を説明するのは、工事部 次長の田原聡氏。

そうした状況に対応するため、同社は数年前より共同住宅の施工管理を担当する工事部内の課にチーム制を導入するようになった。かつてのように1物件の着工から竣工までを1人の社員が受け持つのではなく、さまざまな専門性を持つ複数のスタッフが共同で現場を担当することで、品質管理や検査の水準を引き上げようとしているのである。

同社はITの導入にも積極的で、1990年代の半ばから早くも配管の作図に2次元CADを利用し始めている。その経験をバックボーンとして、2011年には3次元CADを導入した。「複雑な配管の全体像や他の設備との位置関係などを立体的に把握でき、施工前に、職方さんに3次元画像で出来形イメージを把握してもらえるだけではなく、3次元データは有用な会社の資産になり得るだろうという思いもありました」(田原氏)。

折しも国土交通省がBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を推進する方針を打ち出した時期でもあり、トップダウンで3次元CADの利用を決定。2次元CADを利用していたころは多くの社員が作図と現場管理の両方を担当していたが、業務を専門分化させるため、工事部内にCAD室が設置された。
作図業務の効率化に大きな期待が寄せられての導入だったが、「採用したソフトにはさまざまな難点があり、スムーズに運用されるには至りませんでした」と工事部 CAD室 室長の橋本美紀氏は振り返る。

工事部 次長 田原聡氏

「施工からアフターメンテナンスまで、さまざまな業務を効率化することができました。3次元CADに限らずIT機器の最新の動向をもたらしてくれる大塚商会さんには、今後もさらなる生産性向上のための知恵を貸していただけることを期待しています」

工事部 CAD室 室長 橋本美紀氏

「右クリックで状況に応じたコマンドを絞り込んで表示するコンテキスト機能やコマンドを起動することなくダイレクトに図形の編集ができるハンドル機能など、ユーザーの使い勝手に配慮された操作性が魅力です」

インターフェイスを重視し操作性の高いソフトに切り替え

「旧ソフトは機能性の点では十分でしたが、インターフェイスがしっくりこないと感じる社員が多く、操作コマンドも複雑なところがありました。そのために通常業務をこなしながら操作法を身につけるのは負担となり、多くの社員が習熟できなかったのです」(橋本氏)。

それでも3次元CADの有用性を認めた工事部は、やがて別のソフトへの切り替えを検討するようになる。ちょうどそのような時期に出会ったのが大塚商会だった。田原氏と橋本氏は、大塚商会が主催するBIMのセミナーや、メーカーに足を運んでの体験セミナーに積極的に参加。そこで見つけた株式会社NYKシステムズの建築設備専用CAD 「Rebro」に魅力を感じ、工事部の社員を順にセミナーに派遣したところ、「これなら使いやすい」という声が多かったことから切り替えを社長に提案。こうした経緯を経て2014年12月、旧ソフトの5年間の契約期間の最終年を移行のための期間として、Rebroのレンタル版2ライセンスを導入することになった。

「コマンドと機能のひもづけがしっかりしているのが、Rebroの大きな特長です。右クリックすれば次の主なコマンド候補が余さず表示されるので基本操作に迷うことがなく、簡略な施工図ならすぐに描けるようになります。多くの機能を自在に使いこなせるようになるには深く勉強しなければなりませんが、旧ソフトの導入時のように操作法に関してCAD室に頻繁に質問が寄せられることもなく、多くの社員が『とっつきやすいソフト』と感じてくれたようです。そこで、レンタル版導入の半年後に4ライセンスを正式導入しました」(橋本氏)。

一度は業務の専門分化を目指したが、新たに採用したソフトが扱いやすいことから、誰もが3次元CADを活用できるようにと、現在工事部では社員をローテーションでCAD室に配置し、Rebroの操作を作図の実務を通して学んでいるところである。

「当初は新しい3次元CADソフトに対して抵抗感を抱いた社員もいましたが、『正確な図面をスムーズに引けるようになった』という周囲の社員の声に触発され、前向きに取り組むようになりました。会社の規模が小さいので専門的な教育を行う余力はありませんが、OJTと自発的な社内勉強会によってスキルアップに努めています」(田原氏)。

操作に慣れれば、2次元CADとは比較にならないほどスピーディーに作図ができ、配管の干渉チェックも容易に行える。永久ライセンス版の導入から約1年経過した現時点では、まだ十分に活用できていない機能もあるが、施工の品質は目に見えて向上したと、両氏はRebroを導入しての成果を語る。

工事部に所属する全社員がOJTを通じて操作法を学んでいる

多彩な機能を使いこなそうとする創意工夫が生産性向上に貢献

3次元CADは整合性のある作図に力を発揮するだけではなく、見えない場所にある配管を視覚化することで得られる副次的な効果も少なくないという。

「例えば、配管スペースをめぐって他の施工業者と調整する際、以前は平面図をもとに現場で納まりを説明し、それを相手に示しながら話し合わなければなりませんでした。しかし、ノートPCで3次元図面を表示できる今はそのような手間をかける必要がありません(田原氏)。

また、Rebroには加工図の作図機能もあり、そのデータを提供すれば加工会社が平面図から寸法を読み取る必要がなく、プレハブ配管をカットする精度が高まった。狭小地の現場への資材の搬入シミュレーションも行うといったことも可能で、「生産性向上や効率化につながる多様な想定外の使い方ができるのも収穫です」と田原氏。

同社の3次元CADの多様な活用を後押ししているのは、IT化に意欲的なトップの姿勢と個々の社員が自ら業務改善を図ろうとする社風だ。

同社はISO9001の認証取得後、工事中の検査記録や不適合な部分の修正記録を文書や写真で残すことで品質管理向上を推進してきたが、検査や修正の記録をスマートフォンに簡便に入力できるAndroidアプリ「kiRaku(記録がラク!!)」を独自に開発し、2014年7月から運用している。検査記録の標準化や検査進捗状況のリアルタイムな把握、検査データの検索性向上などを目的に開発されたこの検査アプリはその後改良され、2016年7月からはRebroから出力したデータとも、連携が図られるようになっている。

「従来はスリーブ(配管を通すための鞘管)が図面どおりに仕上がっているかを確認するために、現場にたくさんの図面を持ち込む必要がありました。しかし、改良版のアプリはRebroから出力したデータを取り込めるので、膨大な数のスリーブのチェックが容易になり、しかも誰がいつチェックしたかの記録がサーバーに保存されるようになっています」(田原氏)。

アプリの改良は、若手社員の発案によって実現したものだ。同社には社員が自由に意見を出せる雰囲気とトップがそれを吸い上げる風土がある。豊富な機能が搭載された「Rebro」は、社員の柔軟なアイデアと結びつき、今後も同社の業務改善に役立つ多くのソリューションを生み出す可能性を秘めている。

配管の作図や干渉チェックにとどまらず、スリーブの加工図作図や現場への搬入シミュレーションまで、その機能は多彩だ

アフターメンテナンスにも広がる業務効率向上の可能性

ゼネコンの設計部門にはBIMが着実に定着しつつあるが、同社に提供される図面は2次元CADによるものが一般的で、現在は自社独自の「施工BIM」の段階である。

「それでも将来的には、マンションに入居するエンドユーザーに、戸別の竣工図が3次元データとして引き渡されるようになるのではないでしょうか。そのような未来を想定するとRebroの導入は、今後の建築業界におけるBIMの普及に対応するための体制づくりの一環としても意味があると思います」と田原氏。

そんな同社が今3次元CADで実現しようとしているのは、施工した設備のアフターメンテナンスでの活用だ。同社の工事部には、竣工後のメンテナンスを行うアフターサービス課がある。3次元CADを使用したデータは複雑な配管や現地の詳細が分かるため、同課にとって貴重なデータとなり、メンテナンスの効率や品質を高めることに役立てられる。Rebroと検査アプリのデータがリンクするようになったことから、そのことに対する同社の期待感は非常に大きい。

また、社内でライセンス数を増やしてほしいという要望が出ているという。

「そうした投資には費用がかかりますが、昨今の人材不足下、少数精鋭で施工管理の品質や生産性を高めるためには、ITを活用する以外に手段がありません。また、人を雇いスキルを習得させる費用に比べれば、IT投資のほうが安価という見方もできます」(田原氏)。

この業界では現場で覚えるべきことが非常に多く、ベテラン社員による若手社員への指導が欠かせないが、ITによる業務の標準化には、それをサポートしてくれる側面もあるという。

「Rebroはもはや、当社の業務の中核を支える必要不可欠なツールとなりつつあります」と田原氏は言い、Rebroがもたらすさまざまな可能性をこれからも全社を挙げて追求していきたいと意気込みを口にした。