SolidWorksは多彩な機能と表現力はハイエンド並み。"素材感"や"動き"を見せるのにとても有効です

ナブテスコ株式会社

ナブテスコ株式会社

ナブテスコ株式会社は、モーションコントロール技術によって陸海空で動く機械の動作をコントロールする装置および部品を開発しています。全ての社内カンパニーにおける製品の開発・設計を支援する技術本部 CAE・材料技術部では、2年前からデジタルエンジニアリングへの取り組みに力を入れはじめました。その中でSolidWorksを活用する桐山氏に、その使い方をうかがいました。

ナブテスコの概要と技術本部 CAE・材料技術部の役割

ナブテスコ株式会社の概要を教えて下さい。

ナブテスコは、モーションコントロール技術をコア技術として、精密機器、輸送用機器、航空・油圧機器、産業用機器など、陸海空で動くあらゆる分野の機械に組み込まれる装置・部品を開発・製造している会社です。
産業用ロボットの関節に使用される精密減速機、新幹線の車体傾斜システム、航空機の安全を支えるフライトコントロールアクチュエーターなどが製品の一例です。
当社はこれら多方面の分野において世界トップクラスのシェアを持っています。

技術本部 CAE・材料技術部 参事 桐山朝浩氏

技術本部 CAE・材料技術部の役割を教えてください。

当社の製品は分野ごとに六つの社内カンパニーが開発・製造をおこなっています。 技術本部は本社組織としてそれぞれのカンパニーに対し、新規開発品もしくは新規設計品のフロントローディング型の設計を支援しています。
その中で、CAE・材料技術部は、解析ソフトを使った構造解析や熱・振動の解析、製品に使用する材料に関する検証を通じて、各カンパニーを支援しています。開発・設計に携わる技術者自身が最終的に判断するための資料をそろえことが役割です。

CAE・材料技術部が支援する案件は、難易度が高く複雑な案件、特急ですぐに答えを出さなければいけない案件、社運、カンパニーの売上に関わり、スピード、品質精度が求められる案件です。

デジタルエンジニアリングのために3次元CADの普及を推進

その中で、桐山様はどのようなお仕事をされているのですか?

私の仕事はデジタルエンジニアリングの啓蒙・推進です。デジタルエンジニアリングは、実際に物を作らずに性能や品質を見極め、製造工程を最適化する開発手法です。出図後の設計変更といった手戻り、試作、実験が減ることで、開発コストを削減し、開発期間を短縮するため、利益が増えます。
CAEでは3次元モデルを使って解析を行ないます。その3次元モデルを性能・品質の解析・評価だけではなく、製造工程の評価・検討にまでフルに活用し、本当の意味でのフロントローディングの実現を目指す。それが私の仕事です。

具体的にはどのようなことをされているのですか?

技術者が設計した3次元モデルに対し、ものづくりの側面から検証する作業を行なっています。
ある程度設計が固まった3次元モデルが、作りやすい設計になっているか、工具の干渉がなく物が組めるかなどの確認、また冶工具の共通化などを検討します。

場合によっては、私が3次元CADを使ってモデリングを行うこともあります。
残念ながら当社ではまだ3次元CAD環境が全カンパニーの全部署に行き渡っていません。3次元データを用意できない部署の案件を扱う際には、私の部署が3次元CADを使ってモデリングを行なっています。

また、そのような部署に対しては、3次元CADを普及させていくことも私の仕事です。会議には出来るだけ3次元モデルのデータを用意して、3次元CADを使うメリットを説明しています。

3次元CADを使うメリットとは何でしょうか?

私の経験から、設計者が3次元CADを使用することで得られるメリットは、製造部門や品証部門の人に設計意図を伝えやすいこと。さらに協力会社や顧客とのコミュニケーションが円滑になって、より効率的な設計が行なえることだと考えています。

具体的にいうと、設計の「見える化」です。
パソコンの中で3次元モデルの部品を消したり断面を見せたりしながら、実際に物を作る人、物を組み立てる人たちに対して、設計者がどういうものを作りたいか、設計の意図を具体的に伝えることが出来ます。
設計の意図を具体的に伝えることが出来れば、反対に物を作る側の知識やノウハウをフィードバックしてもらえるという利点も生まれます。
また、3次元モデルがあれば、CAMなどで加工工数を出すことが出来るため、コスト試算やそれに対する評価がより具体的な根拠に基づいて行うことも可能となります。

私はCAE・材料技術部に異動する前の部署で開発の仕事をしていた時、初めてSolidWorksを習得しました。それまでは2次元CAD・AutoCADを使っていました。
SolidWorksを習得したての頃はノートPCを持ち歩き、協力会社で自分が作った3次元モデルを見せて相談していました。モニターに表示されたモデルをモーション機能でクリクリ回しながら、実際に加工する時にはこうなるとか、こんな冶具が必要だから手配しなければいけないとか、ここに穴があると加工しづらくて時間がかかってコストも高くなるから穴をずらすことが出来ないかとか、協力会社と一緒に検証して、その成果を設計にフィードバックしていました。

SolidWorksを活用し部品ごとに解析・検証しながらモデリング

桐山様がデジタルエンジニアリングの業務を進めるために使用しているCADツールと解析ツールを教えてください。

技術本部では、3次元CADはSolidWorksを導入しています。特に私の場合は、部品ごとの解析にSolidWorks Simulationを使用することもあります。

桐山様は、SolidWorks製品をどのように使っているのですか?

私がSolidWorksを使うのは、カンパニーの仕事をする際に3次元モデルがない場合や、もらったデータを解析して設計を見直さざるを得ない場合などです。
そのような場合は、カンパニーの設計者が作成した図面をもとに、SolidWorksを使って3次元モデルを起こします。
また、その過程でSolidWorks Simulationを使い、部品単位で解析・評価を行ないながら形状決定をしていきます。そしてそのデータを解析専門のスタッフに渡して、最終的なアセンブリで評価してもらうという使い方です。

3次元モデルを作成するときに、ご自身で部品単位の解析を行うのは何故ですか?

それはデジタルエンジニアリングの作業効率を高め、スピードを早くするためです。

CAE・材料技術部では、最終的な解析はABAQUSで行ない、その良否は当部が認定した有資格者が行ないます。しかし、設計を固めてからアセンブリで評価した場合、ある部品を変更すると、他の部分への影響も考慮しなければいけません。すると最初からやりなおさざるを得ません。その結果がNGであれば、さらに手間と時間が無駄になってしまう。アセンブリでの解析は、使用条件や負荷条件を何パターンも入力して行うため、計算は一時間やそこらでは終わりません。また、解析専門スタッフとのコミュニケーションにも時間を要します。

そのため私の場合は、SolidWorksの機能を活かし、部品レベルで確率の高いものにしておいてから、ABAQUSによる最終的な評価にまわすようにしています。それによって大幅に手間を削減し、業務のスピードを速めることが出来ています。

必要な時にすぐ検証できることがSolidWorks最大の利点

SolidWorksを導入した経緯を教えてください。

デジタルエンジニアリングには3Dモデルが不可欠です。しかしまだ全社的に3次元CADが普及していないため、3次元モデルがない案件や、あっても検討中に設計変更が発生する事が多くあります。その度に協力会社に出していると時間がかかります。場合によっては特急対応も求められます。そこでこの部署に配属された際に、まず1ライセンス導入しました。

他の3次元CAD製品ではなく、SolidWorksを導入したのは何故ですか?

SolidWorksは、必要なときに解析を行なって結果が求められるからです。それが最大の利点だと思います。SolidWorksで作成した3次元データは、SolidWorks Simulationを活用することで、そのまま適時自分で解析を行うことができるのです。前の配属先での経験から、私はそれを知っていたのでSolidWorksを導入しました。

また、私はSolidWorksは直感的に操作できて使いやすいと感じています。私の場合は実務の中で、実際に操作しながらSolidWorksを習得しました。勘を頼りにアイコンをいじっていたら出来た、そのようなイメージで習得することが出来ました。それぐらい操作がしやすい3次元CADだと思います。

CAE・材料技術部でSolidWorksを使用される方も桐山様お一人ですか。

はい。基本的には私一人です。
そもそもCAE・材料技術部は解析専門の部署です。通常業務では各カンパニーが用意した3次元モデルを使って解析を行なっています。3次元CADがない場合は協力会社に出して作成することもあります。

ただ最近は、私がこれまでに手がけた案件で一緒に仕事をした開発者の間で、デジタルエンジニアリングの有効性が認知され始めており、依頼が増えています。そのため一人で対応しきれない部分を、教育によってSolidWorksを習得してもらったスタッフにデータを作ってもらうことがあります。外部にモデル作成を依頼する場合もSolidWorksが使える協力会社を指定しています。そういう意味ではSolidWorsを使う機会は確実に増えています。

多彩な表現力はデジタルエンジニアリングに有効に働く

SolidWorksの気に入っている部分を教えてください。

また、SolidWorksはミドルレンジの3次元CADですが、バージョンアップの動きを見ていると、どんどんハイエンドに近づく方向に開発が進んでいるように感じます。直感的に使えるという使いやすさは残しつつ、高機能になってきている。私はその方向性を評価しています。

私の業務の範囲で特に影響があるのは表現力の豊かさです。3次元ツールのメリットを伝える際に、モデルの質感を見せると有効に働くことがよくあります。

ある製品の部品を変えようとする場合に顧客に具体的なイメージを伝えるためには、従来は試作する必要がありました。試作するためには新たに型を起こさなければいけないため困難さが伴いました。しかし、現在のSolidWorksでは、例えば丸い形状のパーツを四角に変えたらどうなるか、試作することなく質感までリアルに伝えることが出来ます。そういった部分が格段に良くなりました。

また、モーション機能が良くなりました。特に最近のバージョンでは、重力とか自然現象などの条件を入力して、それぞれの条件でどのように動くかをデモンストレーションすることが出来ます。当社が扱う機械は「モーションコントロール」という名のとおり動きが伴うものです。その動きを実際に物を作らなくても仮想的に再現できると、プレゼンする際に非常に有効です。

社内の会議では、SolidWorksで作ったデータを単純に見せるだけではなく、素材をよりリアルな状態に再現するなど少し遊びを加えて見せると、普段3次元に抵抗感を持っている設計者でもよりイメージがつかみやすくなり、意見が出やすくなります。

これまではハイエンドツールやCGでしか表現できなかったリアルな質感を、ミドルレンジのSolidWorksで表現できるようになったことは意義が大きいと思います。

今後のビジョン

今後のビジョンを教えてください。

デジタルエンジニアリングへの取り組みをさらに本格化させるために、現在、人員を増強しつつあります。それが実現すると私が行なっている業務を、他のスタッフに移譲していくことになります。SolidWorksの使い方も習得してもらいます。
そのような体制を作って行く中で、SolidWorksの機能をもっとフルに活用出来ればと考えています。

例えばSolidWorks Premiumにアドインされている配管・配線機能(SolidWorks Routing)は既に使用しはじめています。特に配線については後で現場で処理することが多く、設計者には評価が高いですね。

他に、SolidWorks Premiumにアドインされている機能の中で興味深いのは、公差解析機能(SolidWorks TolAnalyst)です。公差解析機能が最初から組み込まれているCAD製品はSolidWorks Premiumだけですよね。従来、公差の計算はエクセルで行なっていましたが、3次元データと直結した公差解析が出来れば、さらに効率的な開発が出来るようになります。それを見込んで、現在、この機能を精査している段階です。

3次元化が進まない最大の要因は、現場の人間が3次元を使って何が出来るのか把握できていないことです。それを解消するために、CAE・材料技術部では、先進のツールをどの部署よりもいち早く取り入れて「3次元モデルを作るとこんなメリットがある」ということを示していきたいと思っています。

そのような意味では、大塚商会が提供する情報は非常に役立っています。大塚商会が開催するセミナーは、新しい情報を得る機会になりますので有料か無料かに関わらず、有益だと思うものは時間を見つけて受講しています。

開発環境の3次元化は日本ではまだまだ遅れています。今後その状況を変えなければ日本の国際競争力は衰える一方です。デジタルエンジニアリングの取り組みは、それを食い止める一つの手段だと思います。
ただし3次元ツールはあくまでもツールであって、それを活かすも殺すも使う人次第です。同じツールを使って、ナブテスコなりの独自性をいかに維持・発展させるかが重要だと思います。今後はそこに目を向けていきたいと思っています。