SolidWorks Simulationの最大の評価ポイントは使いやすさです

オムロン株式会社

オムロン株式会社

創業
1933年
本社
京都市
サイト
http://www.omron.co.jp/

1980年代後半よりCAE活用・推進に取り組んできたオムロングループでは2007年より、商品開発部門におけるCAEの活用を支援するために、事業部を横断するCAE専門組織を立ち上げ、現場密着型のサポートを行っています。その取り組みの中で生まれた成功事例、そして、一連の取り組みにおけるSolidWorks Simulationの位置付けなどを伺いました。

オムロングループにおけるCAE活用推進の経緯

御社におけるCAE活用・推進の経緯を教えてください。

オムロングループでは、1980年代後半から全社的にCAEの活用・推進を行ってきました。一気に加速したのは3DCADの活用が本格化した1990年代です。インフラ整備という観点から設計の3次元化を推進する中で、3DCAD上でのシミュレーションに着手し、CAEツールの導入が進み2004年までに全事業部に行きわたりました。現在では、全社的に設計ツールとして3DCAD、CAEツールが定着し、事業部ごとに導入・活用している状況です。そして、設計現場で設計者自らがCAEを活用するスキルをさらに向上するため、2007年に本社のグローバルプロセス革新本部の中に立ち上げたCAE専門組織が、各事業部の現場に密着してサポートしています。

CAE活用・推進の目的は何でしょうか。

製品開発におけるフロントローディングの実現です。品質課題の早期解決、開発コストの削減、開発期間の短縮によって、より顧客満足度の高い商品を創出し、さらにグローバル市場での競争力強化を目指しています。この目的を実現するために、設計者向けCAEの活用・推進に力を入れています。

オムロンヘルスケアが開発する世界最小・最軽量のメッシュ式ネブライザ

オムロンヘルスケアが開発する世界最小・最軽量のメッシュ式ネブライザ

設計者向けCAEとは設計者自らがCAEを行うという意味ですか。

必ずしもそうではなく、設計者向けCAEとは、設計者が設計行為の中でCAEを有効に活用することを意味しています。弊社では、スイッチやリレー、コネクタなどのメカ機構の製品開発では、90年代から設計者自らCAE(構造解析)に取り組んできました。これらの商品群では、機械の挙動そのものが商品の心臓部です。その性能評価は、設計者が行うべきであると、事業部の設計者自身が考え、取り組んでいます。一方、同じ構造解析でも、別の商品群ではCAE専任者が行う場合もあります。

例えば箱もの製品の外側の躯体部分の解析などです。これらの製品の設計者は、電気設計がメインです。外装部に関しては、落下した時に壊れなければよいという位置付けなので、設計者自ら評価する必要はありません。この点で、本社のCAE専門組織として意識していることは、事業部ごとに異なる意識を無理やり変えるのではなく、各事業部にとってどのようなCAEの活用方法がよいのかを考えながらサポートすることです。現場に密着して各事業部と協業しながら、解析専任者が設計者と一体となり、CAE活用を推進しています。このような協業の成果として、SolidWokrs Simulaitonなどの活用でトータル開発期間の25%短縮に成功しています。

SolidWorks Simulationの活用状況

御社におけるSolidWorks Simulationの活用状況を教えてください。

弊社ではSolidWorks Simulationを、主に3DCAD SolidWorks上で行うシミュレーションとして活用しています。SolidWorksは、主に小型で部品点数が少ない制御機器などの製品分野の商品開発で使用しています。健康機器などもここに含まれます。その中でSolidWorks Simulationは、構造解析、熱解析、振動解析に使用しています。

SolidWorks製品を導入した経緯を教えてください。

弊社が最初に3DCAD SolidWorksを導入したのは1997年です。それまでは、ある3DCAD製品を全社的に使用していました。当時200ライセンスほど入っていたはずです。しかし、コスト面、使いやすさの面を考慮し、比較的小型の製品で部品点数が少ない制御機器などの設計に関してはSolidWorksへと切り替えていきました。

またSolidWorks上で行うCAEのツールとしてSolidWorks Simulationが定着したのは、2000年代前半です。定着するまでの過程として、いくつかのCAEツールを検討しましたが、SolidWorksに完全統合されていることが決め手となり、SolidWorks Simulationで一本化することになりました。メカ機構などの開発において設計者自身がシミュレーションを行う事業部では、設計者側のニーズとして、いくつものツールを覚えたくない、というものがありました。SolidWorks SimulationはSolidWorksと共通のUIを持っているため、3DCADを触るような感覚で操作できます。このような経緯でSolidWorks製品の導入が進み、現在の導入数は400ライセンスに達しています。

商品応用技術開発部主事 土井博行氏

商品応用技術開発部主事 土井博行氏

「パラメータを数多く計算する時にSolidWorks Simulationは強みを発揮します。」

オムロンヘルスケアにおけるCAE専門組織との協業の成果

オムロンヘルスケアにおけるCAE活用の推進状況を教えてください。

オムロンヘルスケアでは、以前から本社のCAE専門組織との協業を進めてきました。これからお話しする「ポータブルネブライザ」の解析もその協業から生まれた成功事例の一つです。この解析事例では、SolidWorks SimulationなどのCAEツールを活用することで、開発期間を25%短縮することに成功しています。そのような成果が表れ始めたことで、事業部からCAE活用のニーズが高まりました。

そこで、本社からCAE専任者が1名籍を移し、設計者向けCAEの活用・推進を本格的にスタートさせています。ここで目指しているのは、樹脂流動解析や構造解析を始め、設計者自身が設計の中でシミュレーションを行える状態になることです。ただ、全ての解析を設計者自身が行う必要はないと考えています。難易度が高い解析は、それだけ高度なスキルが求められます。すると習得しなければいけないことも多くなり、負担が重くなるため、設計者の業務の範囲を超えてしまいます。

従って、難易度によって、設計者自身が設計行為として行う解析と、CAE専任者が行う解析があってよいと考えています。「ポータブルネブライザ」開発における解析も、事業部の設計者の課題解決をサポートする考え方で、本社のCAE専門組織によって行われました。

医療器具「ポータブルネブライザ」の解析事例

「ポータブルネブライザ」の開発における解析について伺います。まず、「ポータブルネブライザ」とは、どのような製品ですか。

「ポータブルネブライザ」は、ぜん息の患者が薬剤を経口吸入するための医療器具です。医療機関で処方される薬とセットで提供されています。ネブライザには、単純な霧吹き構造のものや、超音波を使って液の表面に振動を与えてそこから直接霧を出すものなど、いくつかの方式があります。弊社が開発する「ポータブルネブライザ」はメッシュ式を採用しています。メッシュ式は、小さな穴が開いた薄い円盤(メッシュ)の下から振動子と呼ばれる部品で振動を与えて、メッシュの穴から液体を霧状に噴出させる方式です。メッシュ式のよいところは、消費電力が小さく、小型化できることです。単三電池で動かせるため、サイズを極小化でき、持ち運びが自由になります。場所を問わずぜんそくの治療を行えることから、ぜんそくをお持ちのお子様を「自由に外で遊ばせたい」と考えていらっしゃるご家庭などで活用されています。

「ポータブルネブライザ」の3次元モデル

「ポータブルネブライザ」の3次元モデル

開発プロセス革新センタ開発支援技術グループ 主査 福万淳氏

開発プロセス革新センタ開発支援技術グループ 主査 福万淳氏

「さくさくっとシミュレーションしたい時にSolidWorks Simulationが有効に活用できます。」

具体的には、どのような解析を行ったのですか。

振動解析・流体解析・構造解析の組み合わせと品質工学を用いた分析です。解析の対象は、振動子とメッシュの挙動です。構造としては、メッシュの下部に振動子があります。振動子の先端はメッシュに触れています。電源を入れると振動子が震え、メッシュを跳ね上がらせてすき間を開け、薬液を噴霧します。このような動きの中で、所定の粒子径を生み出すために振動子をどれぐらい振動させたらいいのか、その時、メッシュがどのような変形をしているのか、メッシュと振動子のすき間はどれぐらいが最適なのかをシミュレーションしました。

実は、検討段階では振動子だけではなく、メッシュそのものも振動していると考えていました。振動子の下に圧電素子があり、それによって振動子を振動させているのですが、その振動でメッシュ自体も振動しているのだと考えていました。

しかし、振動解析によって、メッシュは振動子の先端に押し込まれて跳ね上げられているだけだと分かりました。そこで、どれぐらいの押し込み量が適切なのか、そして、それでメッシュが壊れないかを評価するために、構造解析を行うことになったという経緯がありました。

振動解析では、粒子径を制御するために、振動子をどのように揺らせばよいかを検証しました。また、流体解析では、メッシュと振動子の間にどれぐらいのすき間をあければいいかを検証しました。そして構造解析では、メッシュと振動子のすき間を開けるためのメッシュの跳ね上げ方を計算しました。これら三つの解析に、さらに品質工学を組み合わせて、噴霧量・粒子径を制御するために有効な因子を抽出することができました。

有効因子を抽出したことで得た成果を教えてください。

最適設計の実現です。目視が難しい挙動をCAEによって可視化することで、噴霧量を制御するのに寄与している設計要素が何かを論理的に説明できるようになり、ねらい通りの安定的な粒子径と噴霧量が確保できるようになりました。

「ポータブルネブライザ」は、治療に応じて処方せんが変わっても、そのつど薬液に対応したメッシュに交換して使用することができます。薬液の種類は現状で数種類あります。それらの薬液ごとに、粒子径の大きさと噴霧量を最適化したメッシュがあり、さらに新しい薬液が登場したら、それに合わせたメッシュを開発する必要があります。そこでビジネス上の優位性を確保するためには、他メーカーよりも早く開発する必要がありますが、どのパラメータを振ったら最適化することができるかという理論が解明できたことで、どこよりもいち早く新しい薬に合わせられる技術が構築できたと考えています。

  • 振動解析:薬液の粒子径を制御するために振動子をどのように揺らせばよいかを検証

    振動解析:薬液の粒子径を制御するために振動子をどのように揺らせばよいかを検証

  • 構造解析:メッシュと振動子の間の最適なすき間を開けるためにメッシュの跳ね上げ方を計算

    構造解析:メッシュと振動子の間の最適なすき間を開けるためにメッシュの跳ね上げ方を計算

  • 流動解析:最適な噴霧量を求めるために、メッシュと振動子のすき間の最適値を検証

    流動解析:最適な噴霧量を求めるために、メッシュと振動子のすき間の最適値を検証

SolidWorks Simulationに対する評価

「ポータブルネブライザ」の最適設計を実現するために行った解析で、SolidWorks Simulationが果たした役割と、それに対する評価をお聞かせください。

SolidWorks Simulationは、振動解析と構造解析に使用しました。 今回に限らず、SolidWorks Simulationの最大の評価ポイントは、使いやすさだと考えています。SolidWorksのモデルをそのまま利用でき、設定が簡単で、インターフェイスも分かりやすいことが利点です。

今回の「ポータブルネブライザ」の解析において、その利点を実感したのは、必要なシミュレーションを効率よく実施できたことです。今回は、色んな条件の影響度を評価するために、品質工学とCAEを組み合わせて、数多くのパラメータを計算すると決めていました。その際、SolidWorks Simulationによる振動解析と構造解析では、楽にシミュレーションを実施できた感覚がありました。

生産プロセス革新センタ生産技術部 技術専門職 岡田浩氏

生産プロセス革新センタ生産技術部 技術専門職 岡田浩氏

「現場密着型の活動を通して、設計行為としてのCAE活用を推進していきます。」

今後の展望とSolidWorks Simulationの位置付け

今後の展望をお聞かせください。

オムロングループは、2020年までの10年間における長期経営ビジョンとして、「Value Generation 2020 (略称:VG2020)」を策定し、「地球価値創造企業」を目指しています。この長期経営ビジョンと連動し、グローバルプロセス革新本部では、2011年度から2020年度までのCAE戦略を策定しています。具体的には、10年後までに、オムロングループの商品開発部門全部門でCAEが活用できている状況を実現しようというものです。CAEを活用し、設計者自身の仮説・検証能力を向上することで製品の品質向上、開発期間の短縮につながります。各事業部の要望に応じたCAEの活用体制を構築するとともに、CAE人材の育成に努めていきます。

その中でSolidWorks Simulationをどのように位置づけていますか。

弊社では、商品開発現場における設計プロセスの中で設計者がCAEを活用して設計を検証する際の核としてSolidWorks Simulationを位置づけています。SolidWorks Simulationの積極活用を促しながら、各商品開発部門においてCAEが活用できる環境を整備していきたいと考えています。