3次元CADを中心とした試作環境を整備、「つくりながら考える」ものづくりを実現

第一精工株式会社

釣り好きなら誰もが知っている「ラークシリーズ」をはじめ、1,000アイテムを超えるオリジナルの釣り用小物を展開している

業種
釣り具メーカー
事業内容
釣り用小物の企画開発・製造販売
従業員数
40名(2016年3月現在)
サイト
http://www.daiichiseiko.com/

導入事例の概要

第一精工株式会社は、釣り用小物の企画開発から製造販売まで行う釣り具メーカーだ。社長自ら釣りが好きで「こんなアイテムがあったらいいのに」というユーザー視点での発想を商品開発に生かしている。

思い描いたイメージを商品デザインに反映し、設計から試作までのスピードアップを図るために、3次元CAD SOLIDWORKSを中心としたものづくりの環境を整備。樹脂系切削機、3Dプリンター、3Dスキャナーなどを大塚商会から導入した。あわせてPDMによる製品データの管理を進め、ユーザーサポートの充実化にも取り組み、顧客満足度の向上を図っている。

導入の狙い

  • 試作の効率化とデザインの自由度を向上させたい。
  • 商品強度の応力解析が必要。
  • 部品問い合わせへの対応が必要。
  • 製作情報の社内共有を実現したい。

導入システム

  • 3次元CADソリューション
    SOLIDWORKS Premium
    SOLIDWORKS PDM Professional
    SOLIDWORKS Composer
  • 3Dプリンター
    Objet30 Pro
  • 3Dスキャナー
    Geomagic Capture
  • 切削RP
    MDX-540 / MDX-5000
  • CAD / CAM
    Mastercam

導入効果

  • 時間短縮と品質向上を両立できた。
  • 応力解析で壊れやすい箇所を特定できた。
  • 問い合わせ対応を迅速化できた。
  • ノウハウの社内共有が実現した。

1,000アイテムを超える釣り小物のオリジナル商品を企画開発~製造販売

第一精工株式会社(以下、第一精工)は、1962年に大阪で創業した釣り具メーカーだ。竿やリール、糸、針などの釣りの必需品ではなく、竿受け、餌入れなどのニッチな便利グッズを中心とした企画開発から製造販売まで行っている。中でも竿受けの「ラークシリーズ」は30年以上のロングセラー商品となっており、釣り好きなら誰もが知っているという商品だ。

「実際に釣りをしながら、自分がほしいと思うモノを作るというスタンスは、先代の社長の頃から変わりません。ラークシリーズはステンレスが一般的だった竿受けに、錆びないプラスチック素材を用いて人気に火がついた商品です。最近ではカーボンを使って軽量化を図るなど、さらなる改良を重ねています」と代表取締役 木田久雄氏は語る。

海に囲まれた島国である日本は、独自の釣り文化が形成されている。寒流と暖流が交わる豊かな漁場が広がり、アジ、サバ、マグロなど魚の種類が豊富で、海釣り、磯釣り、渓流釣り、スポーツフィッシングといった釣りの種類も豊富だ。釣り人の目的がさまざまな分、釣り具にもバリエーションが求められる。同社のオリジナル商品の企画開発は、木田社長自らが行っている。

「当社では、海釣りを中心にオリジナル商品がどんどん増えていき、気づいたら商品数は1,000アイテムをゆうに超えていました。基本的に男の遊び道具なので、男心をくすぐるようなデザインを心掛けています」(久雄氏)

第一精工の商品は、日本全国の釣り具問屋や小売店で購入することができる。ヨーロッパやアジアを中心とした海外にも展開しており、通信販売にも力を入れている。

「自社サイトでは、商品カタログのような情報提供を中心に行っていますが、最大手のウェブ通販サイトでネット販売も行っていますので、地域の釣具店で扱っていない商品もネットで購入していただける環境が整っています」(久雄氏)

代表取締役 木田久雄氏

代表取締役 木田久雄氏

「今回、大塚商会さんからさまざまな商品をワンストップで導入させていただきました。3次元CADの使い方までレクチャーしていただき、非常に助かっています」

常務取締役 木田光彦氏

「3Dデータがあれば、モノも作れるし、プロモーションもできるし、管理もできる。非常に活用範囲が広いです。大塚商会さんには、これからも3Dデータの活用方法を含めてアドバイスをいただきたいです」

「つくりながら考える」をそのままに試作の効率化と品質の向上に取り組む

第一精工には、大きく分けて以下の三つの課題があった。

  1. 試作に多くの労力を費やしていたこと
  2. 商品の強度を確保すること
  3. 部品交換ニーズへの対応

一つ目の課題である試作品の開発では、まず、頭の中にあるイメージを元にフライス盤や汎用旋盤でアルミ素材を削り出し、試作品を作り出す。その試作品から2次元CADを用いて図面に書き起こして、樹脂の金型メーカーや部品メーカーに発注し商品開発を行っていくという流れになっていた。

「我々の開発の仕方は、つくりながら考えるやり方です。ものを見ながら『ここはもうちょっと削った方がいい』とか『ここはもうちょっと広げた方がいい』などと考えながら形を決めていきます。先代の頃は切削職人が何人もいたので分業することができましたが、今は私しかいません。しかも試作品が完成したら、油まみれの手で図面を書き起こすような状況で、試作には多くの時間がかかっていました。またフライス盤で削れる形はどうしても限りがあるため、デザインにも制約がありました。試作品を効率的に作り、なおかつ自由度の高いデザインができる試作環境を求めていたのです」(久雄氏)

二つ目の課題は、商品の強度を確保することだった。

「当社の商品は、釣り人が持ち歩くものなので軽量化のニーズが強くあります。カーボン素材を使ったり、できるだけ厚みを抑えたりしていますが、無茶な使い方をすると折れてしまうこともあり、クレームもたびたびありました」(久雄氏)

こうしたクレームを受けて商品改良を随時行ってはいたが、強度を見える化する手段がなく、勘に頼った改良となっていたのだ。

三つ目の課題は、部品交換ニーズへの対応だった。

「お客様から、商品に使用している部品の問い合わせが増えてきました。商品を買い替えずに壊れた部品だけ取り替えたいというニーズが高まっていたのです。しかし、1,000以上のアイテムに使われている部品は、商品ごとに違うので、釣具屋さんも我々に部品を発注できないし、我々の方でもいちいち原価表を付き合わせて調べないと分からない状況でした。顧客満足度を高めるためにも、こういった問い合わせに迅速に対応できるようにしたかったのです」(久雄氏)

これらの三つの課題に対し、第一精工は、まず一つ目の試作効率の改善のために、2007年に小型切削RP機を導入した。モデリングした3Dデータをもとに試作品を成形できる切削機ならつくりながら考えるという従来のやり方は変えずに、効率化とデザインの自由度を両方アップできると考えたのだ。

「Roland社製の切削機を見に行って、販売代理店として紹介されたのが大塚商会さんでした」(久雄氏)

まず、ケミカルウッド、ABSなどの樹脂からアルミ、真鍮といった軽金属まで幅広い素材に対応した切削RPマシン、MDX-540の導入を決断。また、モデリングを行う3次元CADソフトSOLIDWORKSをあわせて導入した。

「ブロックを積み上げたり削ったりしていくように設計を進めていくSOLIDWORKSは、フライス盤で素材を削って成形していた我々の作り方に非常に近いものがあり、直感的にイメージしやすかったのです。大塚商会さんのレクチャーのおかげもありますが、思ったよりも簡単に3Dモデルを作ることができました」(久雄氏)

この3Dデータから手軽に切削し試作品を作ることができるのは非常に大きなメリットだ。2010年には、その上位機種のMDX-5000を大塚商会から追加導入した。

「握り心地や人間の体に触れるところの強度、重さの感覚も掴みたかったので、本物の素材で作りたかったのです。そこで、ナイロンガラス50やゴム素材といった強度の高い素材も切削できる大型の切削機を追加導入することにしました」(久雄氏)

ブロックを積み上げたり削ったりしていくように設計を進めていくSOLIDWORKSは、フライス盤で素材を削って成形していた作り方に非常に近く、直感的にイメージしやすいという

ブロックを積み上げたり削ったりしていくように設計を進めていくSOLIDWORKSは、フライス盤で素材を削って成形していた作り方に非常に近く、直感的にイメージしやすいという

切削機として導入したROLAND MDX-540とROLAND MDX-5000によって、さまざまな素材を切削し試作品を作っている

切削機として導入したROLAND MDX-540とROLAND MDX-5000によって、さまざまな素材を切削し試作品を作っている

一方、切削機で試作を行うには、3DデータをCAMに取り込むために専門的なノウハウが必要となり、ある程度の時間がかかってしまう。また細かく複雑な形状は切削だけでは難しかった。そこで、手軽に細部まで高精度に試作できる3Dプリンターの導入も検討し、2013年にObjet30 Proを導入した。

「3Dプリンターは3DデータをSTLファイルに書き出すだけで簡単に出力できるので、これまで3日かかっていた試作品が数時間で作れるようになりました。2、3回ほど3Dプリンターで出力して形を確認し、形状が決まったら最終的に切削機で試作品を作り、バネ効果や握り心地を確認するという使い方をしています」(久雄氏)

3Dプリンター STRATASYS Objet30 Proは、複雑な形状でも数時間で出力できるため、試作にかかる時間が大幅に削減された

3Dプリンター STRATASYS Objet30 Proは、複雑な形状でも数時間で出力できるため、試作にかかる時間が大幅に削減された

STLファイルに書き出すだけで簡単に出力が可能な3DプリンターObjet30 Proを使い、いくつかのデザイン案を出力。形状が決まったら最終的に切削機で試作品を作り、バネ効果や握り心地を確認するという使い方をしている

STLファイルに書き出すだけで簡単に出力が可能な3DプリンターObjet30 Proを使い、いくつかのデザイン案を出力。形状が決まったら最終的に切削機で試作品を作り、バネ効果や握り心地を確認するという使い方をしている

それと同時に、専門的なノウハウが必要で属人化していたCAMにはMastercamを導入した。

「SOLIDWORKSと連携が可能で、同じような感覚で使えるMastercamを選びました。試作して問題があればSOLIDWORKSの方に戻って修正するといったやり取りがスムーズに行えるからです。ラインに載せてから最終微調整を行うのですが、部品を合わせてコンマ数mm(ミリメートル)下げたい、となった際に、Mastercamの数値を更新すればそこだけ削ってくれるので非常に便利です」(久雄氏)

二つ目の課題であった製品強度を確保するためには応力解析が必要だった。そこで同社が導入したのがSOLIDWORKS Premiumだ。これにより実際の使用環境の条件でシミュレーションが可能になった。

「応力がどこに集中しているのか一目で分かるので、アールを大きくしたり厚みを増やしたり穴の数を減らしたりして、応力を分散させて強度を確保することが可能になりました」(久雄氏)

このようにして完成した試作品の3Dデータは、そのまま商品開発に利用している。

「3Dデータを金型メーカーに送って見積りを出してもらいます。そこで仕様上の問題があるなら修正しつつ、樹脂の金型を作ってもらい、当社の工場で成形していきます。試作が終われば後は流れ作業です。試作時間を短縮し、その品質を向上できたことは、大きなアドバンテージとなりました」(久雄氏)

全商品を3Dデータ化しBOMを構築部品の注文にスムーズに対応

三つ目の課題である、部品交換ニーズに対応するために必要になるのは、部品のデータベース、いわゆるBOMの整備だ。第一精工がまず行ったのが全商品を3Dデータ化することだった。しかし困ったことに、SOLIDWORKSを導入した2007年以前に設計した商品は3Dデータがない。そこで導入したのが3DスキャナーGeomagic Captureだ。

「Geomagic CaptureスキャンしたデータをSOLIDWORKSに取り込んでいきます。一からモデリングするよりも断然速く済むので、非常に助かっています」(久雄氏)

3カ月間で300アイテムの3Dモデル化を木田社長一人で行うことができた。この3Dデータをもとに、技術文書を簡単に作成できるSOLIDWORKS Composerで部品構成図を作成。SOLIDWORKSと連動し、設計データの数値を変更すれば自動で技術文書に反映されるため、整合性を保てるメリットがある。現在、常務取締役の木田光彦氏が、作成した部品構成図を1部品ずつ確認しながら部品にJANコードを割り振り、価格との紐付けを行っている。

データのない過去の商品は、3Dスキャナー Geomagic CaptureでスキャンしSOLIDWORKSに取り込み3Dデータ化。300アイテムの部品構成図の作成の手間が大幅に省けた

データのない過去の商品は、3Dスキャナー Geomagic CaptureでスキャンしSOLIDWORKSに取り込み3Dデータ化。300アイテムの部品構成図の作成の手間が大幅に省けた

3Dデータをもとに、技術文書を簡単に作成できるSOLIDWORKS Composerで部品構成図を作成

3Dデータをもとに、技術文書を簡単に作成できるSOLIDWORKS Composerで部品構成図を作成

3Dデータは設計の過程で複数のバージョンが作成される。主力アイテムだけでも500以上あるため、バージョンを含めると膨大な数になる。この3Dデータを管理するために導入したのがSOLIDWORKS PDM Professionalだ。

「金型メーカーに3Dデータを渡して依頼する際、どのバージョンのデータを渡したかが分からず、後から変更をかけることもできず困ったことがあります。PDMで管理すれば最終データが一目で分かるので、そういった取り間違いがなくなりました」

また、PDMの導入目的の一つに情報流出の防止がある。各人がバラバラに管理していたデータを一箇所に集約することで、大切な技術情報の流出を防ぐことができる。

このPDMに全ての部品構成図を登録して、ようやくBOMが完成する。完成した部品表はホームページに掲載すると共に、小冊子にして釣具屋に置いてもらう予定だ。

「今の世の中、ネットで商品を注文すれば翌日には手元に届く時代ですから、お客様は待ってはくれません。品番を伝えればネットでも店舗でもすぐに注文できるような、なるべく早く提供できる体制を整えておきたいです。そうすればお客様も喜んでくれるはずです」(光彦氏)

今夏には、自社サイト内で商品の部品注文もできるようにサイト構築を進めているところだ。

ユーザーサポートを充実し顧客満足度を向上

導入したSOLIDWORKS Composerは、商品の製作情報の社内共有にも活用していく。これまでは熟練のスタッフが自分の手帳に作り方や材料の仕入れ先などをメモしていて仕事が属人化していた。最悪の場合、数年ぶりに商品をつくろうと思っても、作り方が分からないということもあったそうだ。SOLIDWORKS Composerなら、商品の組み立てや修理の手順も3次元で分かりやすく説明できるため、社内でノウハウを共有できる。

さらに社外向けにはレンダリングソフトKeyShot 5を活用。SOLIDWORKSの3Dモデルにリアルな色付けを行い、360度回転するCGアニメーションも簡単に作成できる。

「KeyShot 5で作ったCGアニメーションを動画編集ソフトで編集して自社サイトに掲載しています。新商品を発表する際にも、お客様にすぐイメージを見てもらえるので便利です」(久雄氏)

第一精工は、動画を交えたリッチなコンテンツ配信など、プロモーションの一環として自社サイトでの情報提供を充実させている。海外のユーザーが気に入った動画をSNSにアップするなど、ホームページからの広がりも生まれているのだ。

またユーザーサポートという面ではUVプリンターを利用した出力サービスも提供。釣り仲間のチーム名など任意の文字列をオリジナル商品に印字して提供するサービスだ。釣り人のニーズを捉えたきめ細かなサービスが、ここでも顧客満足度の向上につながっている。

また、これだけのソフトウェア群と切削機などを大規模に導入できたのは、「中小企業ものづくり支援補助金制度」を上手に活用していることが大きい。この補助制度に関するアドバイスも大塚商会が行っている。

将来的な取り組みとして、販売管理と仕入れ管理、PDMという三つのデータベースを統合して、部品の在庫をリアルタイムに把握しながら商品を販売していく形も見据えている。

ものづくりの環境が整った今、今後はそれを活用できる人財を集めていく。これまで木田社長一人で行ってきた設計開発を担える人財を募集する予定だ。

「何でも作れる環境がそろっているので、あなたの釣りに対する思い入れを商品化してみませんか」と久雄氏は呼びかけている。3次元CADを中心とした第一精工の革新的なモノづくり。その取り組みを大塚商会が支えていく。