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― ローランドDGの事業についてお聞かせください。
当社は、電子楽器メーカー「ローランド」の子会社で、コンピュータ周辺機器の製造販売を行っています。現在の主力事業は「カラー」と「3D」の二分野で、カラー事業の主力製品は屋内外の看板や広告などを製作するための業務用大型インクジェットプリンターです。3D事業では、3次元データを活用して様々なものづくりの作業工程を効率化する3次元入出力機器を展開しています。
社名からよく外資系の会社と間違えられますが、日本の会社です。社員は720名(2008年3月末、連結)、売上高は449億円(2007年度、連結)です。
当社の生産面における大きな特徴は、ベルトコンベアによるライン生産ではなく「デジタル屋台」での生産方式を採用していることです。デジタル屋台とは、3次元CADデータを活用した「一人一台屋台生産(セル生産)」のことです。

ローランドDG本社(静岡県浜松市)
― 「デジタル屋台」についてさらに詳しく教えてください。
当社のような多品種少量生産の業態では、ライン生産方式よりセル生産方式の方が適しています。しかし第一工程から最終工程まで一人の作業者が行うセル生産では、作業者の習熟度やスキルによって品質にばらつきが出やすいというデメリットがありました。そこでデジタル技術やITを活用することで、作業者のスキルに依存せず、誰もが高品質の製品の製造が行うことができる「デジタル屋台」という発想が生まれました。
デジタル屋台では、個々の作業台(屋台)に設置されたPC画面に、SolidWorksによる3次元データで図解されたわかりやすいデジタルマニュアルが表示され、これに沿って作業を行えば、未経験の派遣スタッフでも、ドライバーの使用法がわからない女性でも、誰でもミスなく製品を組み立てることができます。
デジタル屋台の導入によって全体の工数が30%削減され、新機種の組み立て作業の習熟時間も85%短縮されるなど大幅な効率化が図られただけでなく、コンピュータの警告により部品のつけ忘れ等の単純ミスがなくなって製品品質が向上するなど、大きな成果を得ています。
また、それまで製品企画や開発で使っていた3次元データを、デジタル屋台を通じて製造現場にも導入したことで、全プロセスにおける3次元データの活用が進展しました。

デジタル屋台のPC画面例。SolidWorksによる3次元データを使用している。
― 3次元CADの導入はいつ、どのように行ったのでしょうか。
3次元CADを導入したのは1997年です。導入にあたっては、完全3次元化を行うことを前提にハイエンドも含め複数の製品を検討しました。コスト面と操作面の両方の条件に合うことからSolidWorksに決定し、まず試験的に4台導入し、2000年にはデジタル屋台の試験導入を開始しました。SolidWorksはパフォーマンスが良いためその後台数を増やし、現在は43台のSolidWorksが稼働しています。
― 完全3次元化を行うにあたって苦労したことはありましたか。
当時、3次元化を急務で行うようにというトップからの指示を受け、開発部では「とにかく何とかしなければ」という差し迫った状況になりました。そこで部内に発足したのが、「メカワーキンググループ」という機構担当者のグループです。
当社ではこれまで製品ごとにプロジェクトチームで業務を行っており、機構担当者は各部署、各プロジェクトに散らばっていましたが、これをきっかけに初めて機構担当者同士の横のつながりができました。試行錯誤しながら3次元化の運用ルールを策定し、自社に合ったシステムを構築していきました。
最も苦労したことは、やはり3次元への切り替えを各設計者にお願いするところでしょうか。担当者がそれぞれ忙しい通常業務を行いながら新しいものを取り入れるのは傍目にも大変でした。しかし共通部品が3次元化していくため、どこかで切り替えないわけにはいかず、最後まで残っていた部署も踏ん切りをつけていただき、無事完全3次元化が実現しました。
― ローランドDGでは現在「公差解析」に取り組み、大きな成果を上げているとお聞きしました。ここからはそのお話を伺いたいと思います。まず、「公差解析」とは何ですか。
公差とは、各部品の「形の崩れをどこまで許せるか」という許容範囲のことで、それぞれの部品について設計者が値を決めるものです。公差が難しいのはそのバランスです。ゆるくしてしまうと製造現場で部品が組み付かなくなりますし、逆に厳しい公差を要求してしまうと部品単価が上がってしまうというデメリットが生じます。
公差解析とは、このバランスを取るために行う解析のことです。解析を行うことで、品質に影響のある部品の公差のみを厳しくし、そうでないところはゆるくするというように緩急をつけることで、部品の組み付け不能のロスをなくすと同時に過剰品質によるコスト上昇を抑える効果があります。
― ローランドDGの過去の例で、公差解析をしなかったことでどんなデメリットがありましたか。
たとえば部品100個が来て、そのうち1個が組み付かなかったとすれば、当社では品質保全のため、それ以外のものも「使えない部品である」と判断します。いったん生産を止めて部品をすべて計り直すこともあります。部品の修正が必要な場合は、そこからさらに2〜3日かかってしまいます。
さらに困るのは、組み付くには組み付いたものの、製品になってから十分な性能が出ない場合です。プリンターであれば、部品のゆがみで印刷画質が乱れるというようなことです。この場合はクレームとなりますから、組み付かない場合よりも会社にとっての損失はむしろ大きくなります。
ここで正確さを追求し、協力会社に公差を狭めた部品を要求することは簡単ですが、そうすると製造単価が上がってしまい競争力がなくなります。まさに設計者の腕が問われるところです。
このように重要な公差設計ですが、それまでは既存の図面から流用したり先輩の算出結果を参考にしたりという決め方で、正直あまり力を入れていませんでした。

「組み付いたにもかかわらず機能が出ない場合がある。品質を保つために公差は非常に重要です」(中村氏)

(写真左)屋内外の広告や看板を製作する業務用大型インクジェットプリンター
(写真右)部品と印刷面との間隔が一定でないと画質に影響する。この部分の公差設計は非常に重要となる。
― 公差解析に着目されたきっかけを教えてください。
きっかけは、実際に私が設計したものが現場で組み付かなかったことです。その場に行って調整をしましたが、現場を止めてしまったという苦い経験が残りました。このようなことが二度と起きないようにするにはどうしたらいいかを考えた結果、公差解析が重要であると判断し、まずは専門の勉強をしようということで、3次元化をきっかけに結成した前出の「メカワーキンググループ」全員が公差解析の研修を受けました。2004年のことです。
― 現在はどのように公差解析を行っているのですか。
現在は公差解析を手計算ではなく、SolidWorksPremiumの機能の一つであるTolAnalyst(トルアナリスト)で行うことに挑戦しています。2008年春から開始した新製品の開発にこの解析ツールを使い始めました。
― TolAnalystを使っての開発はいかがでしたか。
TolAnalystを使うに当たって、ソリッドワークスジャパンおよび米SolidWorks社には多大な協力をいただきました。これまでTolAnalystを実際の設計に活用した例は世界でもあまりなかったらしく、解析していく上で必要となった機能をリクエストしたところ、積極的に対応していただきました。また、2009年2月に米フロリダで行われた"SolidWorksWorld 2009"でこの件を講演する機会をいただき、SolidWorks社の開発担当者の方と直接お話することもできました。公差解析を成功させたいという私どもを全力でサポートしようというSolidWorks社の思いが伝わってきて、非常に信頼できる会社だと思いました。おかげさまで2009年3月に無事開発が終わり、現在量産に向けて動いているところです。

「製造現場を止めてしまったという苦い経験がきっかけで公差解析に力を入れ始めました」杉山氏
― TolAnalystで公差解析を行った効果を教えてください。
これまで行っていた手計算による解析と段違いの効果に満足しています。TolAnalystの効果は具体的には以下3点です。
1.公差解析の結果、欲しいところの公差をSolidWorksのデータに残すことができ、現場での組み付け不能がゼロとなり、なおかつ性能も出ていること。
2.手計算だと工数が2〜3日かかるところを半日で終わってしまうこと。
3.解析結果を見ることで、一つの部品だけでなくその関連した部品の公差が一目瞭然でわかる設計情報を残せること。
― 公差解析を行うことで、今後ものづくりの現場はどのように変わるのでしょうか。
製造業の現場ではどこも同じ悩みを抱えていると思いますが、今後は「腕のいい職人」がどんどんいなくなることが予想されます。つまり、現場での部品調整をしてくれた職人さんのカンやコツを頼りにすることが出来なくなります。
現場での調整をいかになくすか、いかに「無調整化」できるか。それには設計段階でより詳細に公差を検討して完成度を高くし、現場では誰がやっても同じ品質を保てる、という状態にしておかなければなりません。
実は、この考えはまさに「デジタル屋台」と同じです。現場での調整力に頼らず、誰でも簡単に同じ品質が出せるように、前段階を作り込む。そうすることで、人件費をコストダウンしながら品質を上げるという、一見相反することが同時に実現できます。
公差解析は重要だけれど難しいと敬遠する設計者も多いと思います。しかしTolAnalystの活用によってそのハードルが低くなり、設計者は楽になる。部品製造の協力会社に対してもいたずらに精度を要求しなくてよい。そしてもちろん現場の作業者に優しい。今後競争が激化し、製品が高度化していく中にあっても、TolAnalystのようなIT製品をうまく活用することによって、誰か一人に負担を押しつけるのではなく、関係者全員にとって「ハーモニアス(調和的)」な、より良いものづくりが実現できると確信しています。

(写真左)TolAnalystの解析画面。 (写真右)公差設計のポンチ絵。
― 大塚商会の評価をお願いします。
大塚商会のサポート「たよれーる」はよくできていると思います。頻繁に利用させてもらっています。特にSolidWorks Premiumを導入してから、TolAnalyst以外の、たとえばルーティングの機能なども評価することが増え、多いときには一日5〜6回電話をしていました。
ほとんどの問題は電話で解決しましたが、何回かは解決できないこともありました。でもこちらもかなり難しい質問をしているという認識はあるので、これも許容範囲かなと思っています。
また、営業担当の方も、ネットワークライセンスの切り替えの時などには非常によく対応をしてくれるなど大塚商会の対応には大変満足しています。
― 今後の展開を教えてください。
SolidWorks Premiumにはたくさん機能があるにもかかわらず、今のところ公差解析以外は基本のモデリング機能しか使っていないので、たとえばルーティング機能などをもっと使いこなしたいと思っています。また、強度解析に関しては、これまで別の解析ソフトを使っていましたが、連携の点で今後はSolidWorks Simulationのほうが使いやすいのではないかと思っています。
当社は、これからも「3次元を極める」という覚悟で挑戦を続けます。SolidWorksおよび大塚商会には、これからもお世話になると思いますが、どうぞよろしくお願いします。
お忙しい中、ありがとうございました。
※ ローランド ディー.ジー.のWebサイト
※ 取材日時 2009年3月
※ 事例インタビュー 取材屋