総延長7,500キロの線路平面図を最新鋭CADで電子データ化。立体画像の「鉄道GIS」を構築

ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社

鉄道の土木、保守や沿線の施設・設備等の資産管理に欠かせない線路平面図。東日本旅客鉄道株式会社では長年紙図面を使用していたが、総延長7,500キロメートルをカバーする線路平面図は約4,800枚にも及び、保管の手間はもちろん、支社や外部委託先がそれぞれに図面を更新するため、更新情報が共有されにくいという問題もあった。そこでJR東日本の100%子会社であるジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社は、全ての線路平面図の電子データ化を実現。さらに高精度衛星写真や3次元地形モデルなどと組み合わせた立体画像の「鉄道GIS」を構築した。

Google Earthの仕組みに線路平面図・沿線設備の情報などを重ね合わせた画像配信システム「グーグルアース&レールウェイ」

Google Earthの仕組みに線路平面図・沿線設備の情報などを重ね合わせた画像配信システム「グーグルアース&レールウェイ」

導入事例の概要

導入の狙い

  • 線路平面図の電子データ化を出発点とする「鉄道GIS」の構築

導入システム

  • AutoCAD Map 3D
  • Autodesk MapGuide
  • ArcView

導入効果

  • 図面管理と保守・資産台帳データベースとの融合による一元管理
  • グループ全体の生産性の向上

鉄道総合技術のスペシャリストとして発展

ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社(以下、JRC)は、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)の100%子会社として1989年に設立された鉄道関連の総合コンサルタント会社である。1987年の旧国鉄の分割民営化に伴い、JR各社が事業部門の一部を分離させる流れの中で、JR東日本の建設工事部門から独立して発足した。

当初は鉄道の土木工事の設計を主な業務としていたが、その後、建築や設備・電気など、幅広い分野のコンサルティングを手掛けるようになる。事業領域の拡大とともに業績も右肩上がりで伸び、社員数も約500人にまで増加した。

同社の強みは、運転設備やダイヤ編成など運輸計画のコンサルティングを手掛けている点だ。鉄道関連のコンサルタント会社は多く存在するが、運輸計画まで支援できるノウハウを持った会社はJRC以外にないという。土木・建築・設備・電気から運輸計画まで、同社がキャッチフレーズとして掲げる「“鉄道総合技術 ”のスペシャリスト」ならではの守備範囲の広さだ。

また、JRCは、鉄道関連業務のIT支援をいち早く行ってきた。親会社であるJR東日本はもちろん、私鉄や第3セクターなど、さまざまな鉄道会社の土木設計や線路の保守、施設・設備等の資産管理を合理化するためのITソリューションを提案してきた。2009年4月には、同業務を担当するIT事業本部を ICT事業本部に再編。ICTソリューションを活用して日本の鉄道運営を支援する体制を確立した。

同社が手掛けた代表的なICTソリューションが、日本初の「鉄道GIS」である。

国土地理院によれば、GIS(地理情報システム)とは、「地理的位置を手掛かりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術」とされている。

JRCが開発した「鉄道GIS」は、位置情報を入力するだけで、その場所の線路状況や、架線、信号、その他の施設や設備の配置状況など複合的な情報が確認できる。さらには、線路周辺の地形図や道路・建築物の状況が確認できる地図情報、3次元デジタル化した高解像度衛星写真などを重ね合わせ、現場の状況をできるだけリアルに、視覚的にイメージしやすいように作り上げている。通常の保線や土木建設、構造物資産管理に便利なだけでなく、万一の災害時には、乗客を安全に避難させたり、迅速に復旧工事を行ったりするのに役立つ情報である。

その「鉄道GIS」構築を支えたのが、大塚商会が提供した『AutoCAD MAP 3D』や『Autodesk MapGuide』をはじめとするITツールだった。

日本初の「鉄道GIS」開発に『AutoCAD MAP』を採用

「鉄道GIS」構築は、親会社であるJR東日本の膨大な紙の線路平面図・停車場平面図を電子化する作業からスタートした。

従来の保線や土木工事においては紙の線路平面図が活用されていたが、JR東日本の場合、線路の総延長7,500キロメートル、駅数にして約1,700駅を網羅する線路平面図の枚数は約4,800枚にも及んだ。1枚でも5~10メートルある紙の平面図は保管スペースの確保や管理が容易ではなく、必要な線路平面図を見つけ出すのにもひと苦労だった。

紙の線路平面図のもう一つの大きな問題は、更新情報が集約されず一元化しにくい点だった。旧国鉄の分割民営化の流れの中で、JR東日本の土木建設業務や保線業務などは次々と分離され、アウトソーシング化していた。「土木建設会社や保線会社などが、それぞれの作業後に図面を更新しても、その情報が共有されず、どれが最新の情報なのかが分からない状況でした」と語るのは、「鉄道GIS」構築に携わったICT事業本部 部長の小林 三昭氏だ。

これらの課題を一気に解決するため、4,800枚もの紙の線路平面図を、1枚の電子地図に集約するプロジェクトがスタートしたのが2003年のこと。JR東日本の12支社や土木建設、保線の外部委託先から線路平面図をJRCに集め、図面のスキャニングを行い、同じ場所の複数の図面に書かれた情報を電子データとして入力・集約するなど、1年がかりで電子地図を完成させた。

線路平面図のCADデータ作成・編集には、『AutoCAD MAP 3D』の前身である『AutoCAD MAP』を活用した。このシステムを採用した背景について小林氏は、「親会社であるJR東日本が、土木関係図面用の標準CADとしてAutodesk社製を指定していたこと」を挙げている。

JR東日本では、2000年に土木関係の図面を全面CAD化していた。その際、CADの世界標準として普及している Autodesk社製のシステムに統一すれば、親会社のJR東日本はもちろん、JRCや土木建設、保線などの外部委託先も、余分な追加投資をせずに、一元的なフォーマットに沿ってデータ共有が可能となると判断。これがAutodesk社製を標準CADに指定した理由だった。

『AutoCAD MAP』はスキャンデータのCAD化や、そのCAD図面に座標系を割り当ててGISデータへ変換する機能を兼ね備えているところが、採用の大きな決め手だった。

「当社の『鉄道GIS』は、国土地理院が測量した日本の座標系と世界の座標系に基づいて設計されています。『AutoCAD MAP』で作成した電子地図を『Autodesk MapGuide』によって航空写真と合わせてGISデータのまま、社内Webに配信したのです」と小林氏はCADソフトの利用について語る。

ICT事業本部 部長 小林 三昭氏

ICT事業本部 部長 小林 三昭氏

「最初は、大塚商会さんはOAの会社というイメージがあったのですが、お付き合いを重ねる中で、建設分野をはじめとする技術系のソリューションにも優れていることを知りました。今後も小回りのきくサポートをお願いしたいですね」

Google Earthの3次元地形図をいち早く応用

完成した「鉄道GIS」は、すぐさま役立つことになった。

完成後間もない2004年10月に起きた新潟県中越地震で、上越新幹線が史上初の脱線事故を起こした際に、「鉄道GIS」が威力を発揮したのだ。

従来まで線路平面図は現地の支社が管理しているため、災害の際に他の地域から入る支援部隊が平面図を入手するには困難を要した。しかし、線路平面図や周辺の地形図などを合成した電子地図を東京であらかじめ用意したおかげで、現地が混乱する中でも、支援部隊による迅速な救助・復旧作業が実現できたのである。地震から2カ月後には上越新幹線の運転が再開。これは、記録的な早期復旧であったという。

突然の災害が、図らずも「鉄道GIS」の有効性を業界内外に強く印象づける結果となった。さらにこの経験から災害対策にはより広域な情報のニーズがあると認識。より便利な「鉄道GIS」を目指して、JRCの開発が加速した。2007年度には、九州旅客鉄道株式会社(JR九州)が管轄する全線2,100キロメートルの「鉄道GIS」化を終了。2008年度には四国旅客鉄道株式会社(JR四国)が管轄する全線800キロメートルの線路平面図の電子化に着手した。

以前は紙で管理していた線路平面図・停車場平面図。保管スペース確保や情報の共有・更新など問題が多かった

以前は紙で管理していた線路平面図・停車場平面図。保管スペース確保や情報の共有・更新など問題が多かった

さらに2007年には、線路平面図などの2次元地図情報と3次元デジタル化された高解像度衛星写真とを組み合わせた「グーグルアース&レールウェイ(Google Earth & Railway)」を完成。Google Earthの日本版が発表される以前から、同社がその機能に注目して作り上げた傑作だ。

通常のGoogle Earthよりもさらに高解像度な衛星写真・3次元地形データを搭載することで、線路周辺の地形や建物がリアルに描き出されるため、災害時の復旧作業や線路を中心とする都市計画など、さまざまな用途に利用できる。しかも、設計や建築、土木などの専門知識がない人でも直感的に操作でき、現場の実際の状況がイメージしやすいのが大きな特長である。

鉄道のみならず日本のインフラを支える力に

「グーグルアース&レールウェイ」の構築においても、『AutoCAD MAP 3D』の存在は不可欠であった。

「『AutoCAD MAP 3D』で作成したCADデータは、『Google Earth』をはじめとするさまざまなGISのフォーマットに変換できます。これも『AutoCAD MAP 3D』を選んだ大きな決め手でした」と小林氏。

「グーグルアース&レールウェイ」では、今のところGoogle Earthによる3次元の地形図に、2次元の線路平面図を重ね合わせているため、線路の高低差(トンネルや橋梁部分)などを正確に表現することはできていない。「『AutoCAD MAP 3D』は高さデータも設定できるので、将来的に線路平面図も3次元化して、より実際の状況に近い3次元地図を作り上げることは可能です。しかし実際の業務上ではこちらの方が使いやすい面もあるのです」と小林氏は語る。現場で利用する人々の利便性を考慮しながら、今後も改良を重ねていくという。

鉄道の保線や土木建設、災害時の復旧といった用途を想定して開発された「グーグルアース&レールウェイ」だが、3次元で地形や建物が表示される点に着目して、観光用パンフレットのジオラマ画像に活用されるなど、予想外の用途も広がっている。

「電力会社によるダム建設や、河川管理などの公共事業に至るまで、鉄道の枠を超えて活用を求める声が広がっています」と小林氏は驚きを隠さない。「鉄道GIS」から発展したJRCのICTソリューションは、鉄道のみならず、日本のあらゆるインフラを支えるプラットフォームとなりそうだ。

JRCの事業発展に不可欠な手段を提供する大塚商会への期待も大きい。小林氏は、「大塚商会さんは、建設分野の技術支援に強いという印象を持っています。今後も有益なご提案を期待したいですね」と要望を語った。

グーグルアース&レールウェイ」による表示例。設備の保守管理以外にも都市計画やマーケティングに活用できる

グーグルアース&レールウェイ」による表示例。設備の保守管理以外にも都市計画やマーケティングに活用できる

ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社

業種鉄道関連の総合コンサルタント業
事業内容鉄道関連の土木・建築・設備・電気・運輸計画などのコンサルティング
従業員575名(2009年4月1日現在)