熱と気流の連成解析ソフトで省エネルギーと快適性を両立するサスティナブルな住まいのカタチを実現

株式会社参創ハウテック

業種
設計施工工務店
事業内容
住宅新築工事の設計施工、住宅のリフォーム、オフィス・店舗の改修工事、オーダー収納家具・キッチンの設計・製造・施工、キッチンパーツ・ハウジングパーツ「ekrea」の販売、建築素材の開発
従業員数
31名(2015年4月現在)
サイト
http://www.juutaku.co.jp/

導入事例の概要

株式会社参創ハウテックは、地域の自然環境と調和し、環境保全と住まいの快適性を両立する「バイオクライマティックデザイン」をテーマに家づくりを行っている。

住宅の設計に太陽の熱や光、風通しなど、自然エネルギーの影響と効果を最大限に取り入れ、住まい手の快適性と省エネ性を両立することが、同社の目指す住まいのカタチだ。加えて、自然エネルギーと共存するパッシブ冷暖房システムの開発が待ち望まれていた。その時必要とされていたのが、熱と気流を統合的に解析するシミュレーションソフトだ。

導入の狙い

  • 煩雑化しているシミュレーションツールの統合。
  • これまでにない熱と気流の統合的な解析の実現。
  • パッシブ冷暖房システムの部材形状・サイズの最適化。

導入システム

  • 熱流体解析ソフト「FlowDesigner」

導入効果

  • ツールの統合や逆解析機能などにより解析スピードが向上。
  • 熱と気流を組み合わせた複合的な解析が可能。
  • 騒音を抑えたシンプルな形状の部材開発を実現。

地球環境保全と住まいの快適性を両立する建築デザイン

株式会社参創ハウテック(以下、参創ハウテック)は、1998年の創業以来、中核の住宅事業のほか、ekreaキッチン事業、パーツ販売事業という住まいに関連する三つの事業を展開。暮らしの最適解を導く「暮らす技術」と、その最適解をカタチにする「創る技術」の両輪で、住む人の「住生活価値創造」を目指している。

住宅業界は、平成26年度の消費増税以降も、住宅着工件数は順調に伸び、数年はこのまま推移する見込みとなる。都内では大手ハウスメーカーや中堅ビルダーを中心に富裕層向けの展示場を開設し、郊外では地域に密着した販売戦略でハウスメーカーが好調だ。こうした中で、参創ハウテックは、地域の自然環境と調和し、環境保全と住まいの快適性を両立する「バイオクライマティックデザイン」をテーマに家づくりを行い、多くの施主の共感を集めている。同社が手がけるのは、1棟ごとに異なる敷地条件を読み取り、デザインはもとより、構造性能や温熱環境に配慮した都市型パッシブデザイン住宅だ。住宅の設計に太陽の熱や光、風通しなど、自然エネルギーを最大限に取り入れ、省エネを実現している。

こうした取り組みの成果が、平成24年度第5回サステナブル住宅賞(一般財団法人建築環境・省エネルギー機構/通称:IBECが主催)だ。参創ハウテックの「オープンルーフのある家」がIBEC理事長賞を受賞。環境系の国内コンペティションの中でも最も権威ある賞を、産学協同ではなく、工務店が単独で受賞した極めてまれなケースであり、同社の取り組みが高く評価された格好だ。

住宅事業以外では、キッチン自体が家具インテリアとして室内装飾と調和するように、利便性や機能性にこだわったekreaブランドのフルオーダーキッチンを提供。その一方で、キッチンパーツ・建築部材を建築のプロおよびDIY向けにインターネットで販売するパーツ販売事業も展開し、住まいのニーズにきめ細かく応えている。

そして四つ目の事業として、今年度よりスタートさせたのが「パッシブ冷暖事業」だ。前述の都市型パッシブデザイン住宅に最適な冷暖房システムを開発するのが目的で、工務店11社・建築家2名との共同開発を行っている。

「自然エネルギーを住宅に取り入れるパッシブデザインにおいても、その快適性を維持するには、冷暖房機器を活用したアクティブデザインとの融合は不可欠です。従来の全館冷暖房システムは快適性こそ高いですが、イニシャルコストがかかり、維持費もかさみます。そこで、家庭用のエアコンを利用し、快適性・省エネ性・経済性を両立させる冷暖房システムの開発を進めることになりました」とパッシブ冷暖事業部 部長の阿式信英氏は、事業の成り立ちを語る。

住環境ラボ パッシブ冷暖事業部 部長 阿式信英氏 「大塚商会にはいろんな分野の専門家がいます。こちらが的確に質問・相談をすれば、欲しい答えが返ってくる会社です。ぜひトータルなソリューションをお願いしたいと思います」

住環境ラボ パッシブ冷暖事業部 部長 阿式信英氏

「大塚商会にはいろんな分野の専門家がいます。こちらが的確に質問・相談をすれば、欲しい答えが返ってくる会社です。ぜひトータルなソリューションをお願いしたいと思います」

国産、使いやすさ、サポート体制の3点で「FlowDesigner」を高く評価

住宅の環境性能を高めるために、欠かせないのが、熱および気流のシミュレーションツールだ。同社では以前より多様なシミュレーションソフトを利用しているが、そのきっかけは2007年にさかのぼる。IBECが推進する自立循環型住宅プロジェクトにおいて、自然エネルギーを活用して省エネを実現するための設計ガイドラインが配布され、同社ではこうした設計手法をいち早く取り入れるために、さまざまなシミュレーションソフトを導入していった。

「熱や気流のシミュレーションは、本来環境工学の高度な知識が必要とされる分野です。私自身はデザイン分野の人間なので、使えるようになるには修練が必要でした。いろんなツールを試しながら少しずつ勉強を重ねていきました」(阿式氏)。

自然エネルギーを活用して省エネを実現させる設計手法をいち早く取り入れるために、さまざまな熱および気流シミュレーションソフトを利用していた

自然エネルギーを活用して省エネを実現させる設計手法をいち早く取り入れるために、さまざまな熱および気流シミュレーションソフトを利用していた

一方でさまざまなツールを利用してきたことで、運用が煩雑になっており、ツール群の統合が課題となっていた。「設計CADデータをもとに熱や気流の解析を一元的に行える使い勝手の良いツールを求めていました」(阿式氏)。

そこで、シミュレーションソフトの製品検討を開始。最終的に2製品に絞り、国内メーカーの開発であり、使い勝手が良く、サポート体制も整っている点を評価し、熱流体解析ソフトFlowDesignerを選択した。阿式氏は、開発元のアドバンスドナレッジ研究所からの紹介を受けて、大塚商会のセミナーに2回ほど参加したのちに購入を決定している。

「FlowDesignerは、熱や気流を一度に扱える高度な解析ソフトですから、これまで以上に高度な知識が必要です。製品サポートが不可欠で、困ったことがあればすぐに問い合わせられるように、大塚商会から購入することを選びました」と阿式氏は、導入の経緯を語る。2014年7月1日に導入し、サポートをフルに活用しながら、さまざまな分野への活用を進めている。

「シミュレーションソフトを最大限に活用するにはどうすればいいか、開発者とじかにコンタクトが取れるし、大塚商会さんのサポートのレスポンスが良いので、非常に助かっています」(阿式氏)。

バイオマティックスデザイン住宅の冷暖房システムの開発に活用

FlowDesignerは、参創ハウテックが目指すバイオマティックスデザインの実現に貢献している。その一つが、地方独特の風向など、その地域の気候を読み解き、周辺環境の影響を受けた太陽の光や熱、気流が、設計空間にどのように関係していくかを解析すること。この解析結果を用いることで、自然環境と調和した建物の形や向きを検討できる。次に建物内への風の入り口と出口を決めて、風の通り道を計画していく。「従来は複数のソフトを使い分けて解析していましたが、FlowDesignerは設計CADデータを使って、熱や気流を統合的に解析できるため、解析スピードや精度が大幅に向上しました」(阿式氏)。

中でも特に評価が高いのが逆解析機能だ。どこをどのように改善すればいいかビジュアルで表現されているため、設計目標値に達するまで何度も考え直し、シミュレーションを重ねる必要がなくなり、解析業務の効率化に寄与している。

また、FlowDesignerはパッシブ冷暖事業のビジネス展開に、大きく貢献している。パッシブ冷暖事業では、パッシブデザイン住宅に最適な冷暖房として、家庭用エアコンに直接チャンバーボックスを接続し、ダクトを介し各部屋の床下空間に冷気・暖気を送る冷暖房システムの開発を進めているが、この部材開発にFlowDesignerを急きょ活用したのだ。

「以前のチャンバーボックスは手探りで開発しており、設置後にチャンバーボックスの騒音が問題になっていました。そこで、部材開発にFlowDesignerを利用できるのではないかと急きょ進めることにしたのです。エアコンから出る空気の風量や風速、温度をもとに、チャンバーボックス内の騒音や圧力を解析。チャンバーボックスの最適な形状・サイズを検討していきました」(阿式氏)。

こうしたシミュレーション結果のもと部材を制作し、共同開発パートナーの工務店に納品、そこで温湿度センサーを設置して実測、分析検証を進めている。

「これは、熱と気流を統合的に解析できるFlowDesignerでなければ、実現できなかったこと」だと阿式氏は強調する。開発したチャンバーボックスは、性能試験を経て、現在、特許出願中だ。

構成部材の一つであるチャンバーを数パターンでモデル生成し、シミュレーションによる相対的評価を行い、実地の性能試験をして特許を出願している

構成部材の一つであるチャンバーを数パターンでモデル生成し、シミュレーションによる相対的評価を行い、実地の性能試験をして特許を出願している

「何度も性能検証を行うのはお金も時間もかかるため、あらかじめFlowDesignerで性能の良しあしを相対評価できたことが非常に良かった」(阿式氏)。新たなビジネスモデルを作っていくうえで、FlowDesignerは大きな役割を果たしたのだ。

分析検証を進め自然エネルギーと冷暖房の最適解を解く

パッシブ冷暖房システムは、2015年期中に共同開発パートナーの工務店で15棟施工される予定だ。実際に利用してもらって分析検証を進めることで、自然エネルギーと冷暖房の最適解を導こうとしている。

「現在検証を進めている段階で、3年後をめどに各地域の最適解を見つけていきたいと考えています。今はコアメンバーだけで共同開発を進めていて、半分隠してしまっているような状態ですが、来年の6月以降にはサイトも公開してオープン化を図り、世の中に広げていきたいと考えています」。

例えば、大阪の工務店が設計施工している物件では、1階リビングで2階に吹き抜け空間を作り、回遊性のある空間となるが、この空間に対して最適な空調を実現するため、FlowDesignerで解析。吹き抜け空間に対してダクトを2本配備し、冷気が1階に落ちないよう冷気止めを設けている。また、京都の工務店の物件では、和を感じさせる土間を設けた空間を作っており、冬寒い「通り土間」を暖かくするために、どうすればいいかをFlowDesignerで解析。コンクリートの中に配管を入れて床下に暖気を送るために、どのぐらいのエアコン能力や機械装置が必要なのかを検証している。

FlowDesignerは設計CADデータを使って、熱や気流を統合的に解析できるため、解析スピードや精度が大幅に向上した

FlowDesignerは設計CADデータを使って、熱や気流を統合的に解析できるため、解析スピードや精度が大幅に向上した

また、今後は工務店でも簡易的にシミュレーションできるツールを配布していくという。

「工務店には簡易的なシミュレーションツールで、建物の基本断熱性能によって必要なエアコンの能力や、床のガラリ、壁の吹き出し口を計算できるようにしています。さらに、設計者に対しては、消費エネルギーの結果を予測できる簡易的なツールを配ろうと考えています。さまざまなパートナーとの協業によって、より良いシステムに育てていきたい」と阿式氏。

参創ハウテックが目指すバイオクライマティックデザイン。その時、FlowDesignerが自然エネルギーと冷暖房の最適解を導いていく。参創ハウテックが起点となった工務店のネットワークで、これらの家づくりの形が変わっていこうとしている。

「今後は基礎構造計算などのソフトを、複数の工務店で共用できるプラットフォームを構築したいと考えています。その時、専門分野が幅広い大塚商会さんには、ぜひトータルな提案をお願いしたいです」と阿式氏は、大塚商会への期待を語る。