モジュラーデザインに取り組んで8年。3次元CADとテンプレートにより設計を自動化。設計工数を大幅に削減

セムコ株式会社

セムコ株式会社

業種
製造業
事業内容
プラスチック成形周辺機器の開発・製造・販売
従業員数
71名(2017年1月現在)
サイト
http://www.semco.jp

導入事例の概要

プラスチック成形のための原料混合機、供給機などを開発・製造・販売するセムコ株式会社。「特殊品」と呼ばれるセミオーダーメード機器を得意とし、中堅ながら業界で確固たる地位を築いてきた。

しかし、短納期化やコスト競争の激化と共に特殊品の採算性は低下。これを抜本的に改善すべく、モジュラーデザインの採用および自動設計の実現に向けて動き出した。自動設計の仕組みづくりのため大塚商会の「テンプレート設計スタートアップサービス」を導入。また、製造工程の時間を短縮するため、板金シミュレーションなど解析ツールの活用も進めている。

導入の狙い

  • 自動設計の実現に向けてシステム基盤を構築したい。
  • 設計精度の向上によって製造工程の時間を短縮したい。

導入システム

  • 3次元CAD設計ソフトウェア「SOLIDWORKS」
  • 構造解析ツール「SOLIDWORKS Simulation Standard」
  • 流体力学シミュレーションツール 「SOLIDWORKS Flow Simulation」
  • テンプレート設計ソリューション「テンプレート設計スタートアップサービス」

導入効果

  • 3Dによる製品モデリングと出図作業の自動化で、作業時間が約6分の1に短縮できた。
  • 構造解析によってスクラップになっていた試作品の削減ができた。
  • 板金加工の問題点が設計段階で分かり、検証および修正が可能になった。

特殊品への対応に定評あるプラ成形周辺機器メーカー

広島市に本社を置くセムコ株式会社(以下、セムコ)は、プラスチック射出成形や押し出し成形に必要なプラスチック原料の混合機、供給機などを開発・製造・販売する産業機械メーカーである。1982年7月に設立し、 2009年に社名を産業機電株式会社から現在のセムコ株式会社に変更した。グループ会社には持ち株会社であるセムコ・ホールディングス株式会社のほか、海外窓口のセムコ・インターナショナル株式会社、次代の新製品開発を担うセムコ・テクノ株式会社、部品製作を担当する株式会社メカハウスなどがある。セムコはその中において、国内顧客向けを中心としたプラスチック成形周辺機器の開発・製造・販売を担当。業界中堅クラスだが、顧客の要求に応じて柔軟にカスタマイズを施す特殊品への対応力に定評が高い。

「従来はポリ袋などを成形するフィルムメーカーが主な得意先でしたが、現在では自動車や家電の部品、電線、大型樹脂パレットなどさまざまなプラスチック成形分野に対応しています。30年以上にわたって幅広い仕様の特殊品作りに携わってきたのが当社の強みです。競合メーカーでは作れないような製品を、セムコならと頼りにして注文してくださるお客様も少なくありません」と語るのは、製造部合理化/開発グループマネージャーの森田宏氏である。

セムコグループが開発・製造するプラスチック成形周辺機器は、原料の貯蔵設備、搬送装置、乾燥機、混合機や製袋現場を省人化する包装機など実に幅広い。その中でも主力製品と位置付けられているのが、セムコが開発・製造する「質量計量式混合機」である。

混合機とは、ペレットと呼ばれるプラスチック原料や着色材、添加剤などを混ぜ合わせ、プラスチック成形の原料となる混合材を作る装置のこと。この製品は質量計量式と名付けられているように、ただ混ぜるだけでなく、混合前のペレットや着色材の供給量を正確に計量し、一定の混合比率を維持する仕組みを備えている。

特殊品は、混合する原料種類、配合比率、処理能力、設置条件など顧客の要求によって微妙に変わる。セムコはそうした要求を適切にくみ取り、世界に1台しかない混合機を作り上げて納入しているのである。

世界トップクラスの計量混合技術とオリジナルの電子制御技術で、プラスチック成型周辺装置をトータルプロデュースしている

製造部 合理化/開発グループ マネージャー 森田宏氏

「構成情報を入力するだけで3次元モデルが自動描写されるテンプレート設計の仕組みには大変驚きました。これを利用した出図作業の自動化に取り組み、部品表出力までの作業時間が約6分の1に短縮されました」

短納期化、コスト競争の激化でモジュラーデザインに活路を求める

このように特殊品への対応を大きな強みとするセムコだが、顧客ごとの仕様に応じて部品一つ一つから作り直すとなると、必然的に開発・製造に費やす時間は長くなり、コストも膨らんでしまう。それでも1990年代までは、何とか安定的な受注や採算性を保つことができていた。

ところが、「2000年ごろから短納期化の要求が高まり、競合メーカーとの価格競争も激しくなって、特殊品を請け負うのが次第に苦しくなってきました。何か抜本的な対応策を考えなければ、特殊品に強いという当社の持ち味を生かしながら生き残っていくことは困難だと感じるようになったのです」と森田氏は語る。

経営者から具体的な対策を命じられた森田氏は、手始めに業務改革や業務システムの見直しといった外堀の合理化に着手した。しかし、特殊品対応を強みとするビジネスモデルで生き残るためには、ものづくりという本丸そのものに改革の必要性があった。模索の結果、最も手応えを感じた手法が、製品設計におけるモジュラーデザイン(以下、MD)であった。

MDとは、あらかじめモジュール部品群を設計しておき、顧客要求に合う部品を選択して全体を設計する方法のこと。受注に応じてそのつど部品を設計・製造するのに比べて大幅なリードタイム短縮やコストダウンを実現する。しかも、仕様に応じてモジュール化された部品の組み合わせを変えれば、さまざまな製品バリエーションを展開できるのもメリットだ。

「MDの基本的な考え方は、部品の機能そのものをユニット化するのではなく、設計方法を標準化するというものです。概念が従来手法と全く異なり、用語を理解するだけで3カ月ほどかかりましたが、部品ごとの設計手順さえ決めておけばあらゆる仕様に対応でき、経験の少ない設計者でも設計ができるということが分かり、その革新性に驚きました」(森田氏)。

部品のMD化を推進するには3次元CADなどの道具が不可欠だが、その下地は整っていた。セムコは2004年、大塚商会から3次元CAD設計ソフトウェア「SOLIDWORKS」を導入していたのだ。その基盤をもとにセムコは2008年、主力製品である質量計量式混合機の部品MD化活動を開始した。

セムコが目指すMD化の姿

自動設計への布石としてテンプレート設計を導入

セムコのMD化活動はこれまで、第1次(2008~2011年)、第2次(2011~2014年)、第3次(2015年~)の3段階にわたって行われてきた。第1次ではMD化によって製品種類と部品数を減らすことに成功。試作品を見本市で発表した。

ところが「見学にいらっしゃったお客様から『装置が大きすぎる』『価格が高い』といった声が多数寄せられ、ユーザー目線で開発できていなかったことを痛感しました」と森田氏は振り返る。これを改善すべく第2次では製品の小型化、高性能化に着手。

その成果として2012年、ついにMD化された混合機の1号機がリリースされた。森田氏は第2次MD化活動の効果として「お客様への見積り回答時間の短縮、見積り精度の向上、設計手順の明確化による新人設計者の早期戦力化」などを挙げている。もちろん、目標であったリードタイムやコストの圧縮についても一定の成果が得られた。2015年、さらなる時間短縮、コスト削減、省人化を目指して第3次MD化活動をスタート。第3次で目標に掲げたのは「製品設計の自動化」である。これを実現するため、同社は大塚商会のテンプレート設計スタートアップサービスを利用した。これは大塚商会が開発した、Excelと3次元CADを連携させ、新規製品の3Dモデル図面を自動生成できるテンプレート設計キットの基礎を習得できるサービスである。

大塚商会のテンプレート設計スタートアップサービスを利用し、Excelと3次元CADを連携させ新規製品の3Dモデル図面の自動生成を実現している

このテンプレート設計システムに顧客の要望に応じた仕様の部品構成を入力すると、SOLIDWORKSが自動的に3Dモデルを自動生成してくれる。さらにセムコは、テンプレート設計システムの構成情報を、独自に開発した出図作業自動化ツールにより、部品表や2D部品図までも自動出力させる仕組みを現在試行している。

「MD化によって、従来40時間かかっていた製品の設計時間を、4時間程度まで短縮できました。しかし、そのうちの3時間ほどは3Dモデリング、部品表作成、出図の時間です。この部分は、自動化することで30分程度へ短縮できるはずです」と森田氏は語る。

ちなみに、セムコからテンプレート設計スタートアップサービスの講習には設計アシスタントも参加した。3日間の講習を受け、その後1週間で設計アシスタントがテンプレート設計の仕組みを構築したというのだから、いかに手軽に導入できるのかが分かる。

セムコはテンプレート設計による自動化を通過点として、将来的にはデータベース化された顧客の要求仕様をもとに全自動で製品を設計するシステムの実現を目指している。設計時間を1時間へと短縮するのが最終目標だという。製品設計に要する時間は、従来手法と比較すると40分の1になる。

「設計が全自動化すれば、設計者に新製品開発など別の仕事を任せることもできます。当社のような中堅規模の会社にとって、少ない人材を効果的に生かすことにも結びつくのです」(森田氏)。 一方でセムコは、製造工程における無駄な作業を省いてリードタイムを短縮するため、設計段階での解析作業の強化にも取り組んできた。解析ツールの一つとして2016年に導入したのが、SOLIDWORKSの拡張機能として開発された板金加工検証ツール「CAL」だ。これは、板金加工の知識や経験が乏しい設計者が3次元モデリングすると起こりがちな金型との干渉や、無理な曲げ加工などが発生しないかどうかを確認・修正できるツールである。 設計段階でこうした検証をしっかり行っておくと、加工段階において修正に手間取ったり、手戻りが発生したりという時間のロスが低減できる。

森田氏は「今のところ設計段階での干渉チェックに利用していますが、ゆくゆくはCALで板金展開したデータをもとに板金加工ができる仕組みも採り入れ、さらなる製造工程の時間短縮に結びつけたいですね」と語る。

SOLIDWORKSの拡張機能である板金加工検証ツールCALは、金型との干渉や無理な曲げ加工などが発生しないかどうかを確認・修正できるツールだ

プリント基板など電子設計についても自動化を検討中

セムコが3次にわたるMD化活動の対象として質量計量式混合機を選んだのは、主力製品であると同時に、特殊品のオーダーも多いことが大きな理由だった。まだ同製品の総販売台数に対するMD化した混合機の割合は30~40%程度にとどまっているが、今後はできる限り100%に近づけて、他の製品についてもMD化を推進していく方針だという。

そのほか、今後の展開としては、プリント基板など電子設計の自動化ツールとして、最近発表されたばかりのSOLIDWORKS PCBを導入することも検討している。森田氏は「私が初めてSOLIDWORKSに触れたのは2003年のことですが、当時、大塚商会さんのセミナーに参加し、体験版を使わせてもらったことが非常にいい経験になりました。MD化を推進するうえでSOLIDWORKSのようなフルデジタルの3次元設計環境は欠かせません。若い設計者たちにも3次元設計の知識や経験をもっと積んでもらいたいので、大塚商会さんには、ぜひ学びの場や体験版などを積極的に提供していただきたいですね」と語った。