「強度は強く、でも軽くしたい」という相反する要件での開発にSOLIDWORKS Simulationを活用

パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社

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パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社は生産設備の開発設計、製造、メンテナンス・サービスに至るあらゆるものづくりソリューションをご提供しています。2014年6月より受注販売を開始した介護施設内において重度要介護者のベッド・車いす間の移乗支援のための離床アシストベッド「リショーネ」の開発を担当した主任技師 塚田将平氏にお話を伺いました。

パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社

パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社の概要を教えてください。

パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社(以下、パナソニックプロダクションエンジニアリング)はパナソニックグループの生産設備のメカ設計、ソフト開発や部品加工・製造・立ち上げ支援、メンテナンス・サービス、さらにはものづくりの課題解決に向けたエンジニアリングからシステム開発までを手がける会社です。

また、設備・システム事業を推進している「高度生産システム開発センター」と連結経営を図り、生産設備の開発設計、製造、メンテナンス・サービスに至るあらゆるものづくりソリューションを提供しています。今後は新規事業として医療福祉分野や環境分野にも進出し、ますます社会への貢献を果たしていきます。

2014年6月より受注販売を開始した介護施設内において、重度要介護者のベッド・車いす間の移乗支援のための離床アシストベッド「リショーネ」もそうした新たな取り組みの一つです。リショーネはパーソナルケアロボット(生活支援ロボット)の安全性に関する唯一の国際規格 ISO 13482における機構面・作動面などの安全性をクリアしているロボットとして世界で初めて認証されています。

離床アシストベッドリショーネは要介護者を乗せたまま、ベッドの右半分を車いすに変えることができる

離床アシストベッドリショーネは要介護者を乗せたまま、ベッドの右半分を車いすに変えることができる

ロボット分野の開発から方向転換

離床アシストベッド リショーネの開発において、SOLIDWORKSおよびSOLIDWORKS Simulationをご活用いただいたとお聞きしていますが、塚田様ご自身はいつころからSOLIDWORKSをお使いですか。

私が入社したときに、パナソニックグループは既にSOLIDWORKSを使用していました。ですから、入社以来ずっとSOLIDWORKSを使用しています。機構など動きがあるものの設計がやりやすいという印象を持っていますね。私自身、現在の部署には4月に異動してきました。その前はパナソニック株式会社 モノづくり本部の新規事業開発プロジェクトにおり、そこでリショーネの開発に携わっていました。当時の部署ではSOLIDWORKS Professionalを大塚商会より導入しており、5~6ライセンスを保有していました。そのうち、私を含むリショーネの開発担当で3ライセンス使用していました。

現在の部署に異動した理由はグループの方針として実際に開発に携わっている担当者が設計・製造まで一貫して関わるようになりました。リショーネの開発部隊がそのまま現在の部署に異動し、現在では開発から製造までを担当しています。

リショーネの開発に至る経緯を教えてください。

福祉・介護分野において、介護者の腰痛予防が大きな課題となっています。介護の現場では、ベッドから車いすへの移動で毎日何人もの方を抱き上げます。その繰り返しで腰痛になり、腰を痛めてしまうことが離職理由につながり、介護現場の深刻な人手不足を招いています。介護での抱き上げる作業は一人ではなく、二人で行うと聞いています。忙しい中なかなか二人そろわないことで、やりたいけれどできないという課題にもなっています。「何とか一人で楽にベッドから車いすに移動させることはできないか」と考えたことが今回の開発のスタートでした。

当時、私は研究部門におり、介護者の支援に重きを置いた開発に取り組んでいました。プロジェクトとして医療関係に取り組む思いとして、医療・福祉分野でロボットを活用したり、将来的には一般家庭にもロボットが普及する日も来る。その入り口としてまず医療・福祉分野においてロボットを認知・普及をさせていきたいと考えていました。最初は人を抱き上げベッドから車いすに移動させるトランスファーアシストロボットに着手していたのです。ところが、介護現場に持っていってみると安全面の指摘が多くありました。2本の手で抱き上げる方法でしたが、手の間に人が折れて落ちてしまわないかというものです。また、機械そのものが大き過ぎて現場に置けないという声も上がりました。そこで開発の方向転換することになりました。

ベッド、車いす、両方の機能を備える

ロボットの開発からリショーネへの転換ですね。

アイディアとしてベッドから車いすに移動させるのではなく、ベッドの一部が車いすになったらどうだろうかというものです。実用化するための検討を進めるようになったのが2009年ごろです。開発にあたり特許などを調べてみると、先行して開発に取り組んでいる会社があることも分かり、市場ニーズは確かにあると考えました。

最初にコンセプトモデルとして開発したのは、車いすが自分で動くタイプのロボティックベッドでした。障がいをお持ちの方からはこういったものがほしかったという意見をいただく一方で、介護者からはベッドと車いすの分離・合体は自分たちが操作するのでもっと安くて使いやすいものがほしい、重度要介護者の介護において使用したいというものでした。全自動にすると価格も高くなりますし、安全面の課題もあったため、まずは人手で分離・合体を行うモデルの開発に取りかかりました。ベッド、車いすは通常の製品と同じもので、安全面、コスト面での検討、試行錯誤を重ね、2013年の国際福祉機器展への出展、そしてこの6月の受注販売開始につながりました。

リショーネについて、ここがすばらしいとお考えの点を教えてください。

まず「ベッドとして使うし車いすとして使うものである」ということです。つまり、それぞれの機能を全て満たしていなければなりません。ベッドの3機能(高さを変える、背を立てる、足を上げる)をきちんと満たした上で、さらに車いすとしての機能を満たしているのです。車いすの姿勢はベッドの背を立てるのと連動してひざを曲げ、足を立てるという機能が必要です。これらの機能をたくさんのアクチュエーターをつけて対応すればいいという考えもありますが、コスト面・安全面を考慮するとベストな選択肢ではありませんでした。

「ベッド、車いすとして当たり前の機能を持たせました。」と語る塚田将平氏

プロダクションテクノロジーセンター 新規事業インキュベーショングループ アシストベッドプロジェクト 主任技師
塚田将平氏

「ベッド、車いすとして当たり前の機能を持たせました。」

SOLIDWORKSの活用状況

リショーネの開発にあたり、SOLIDWORKSおよびSOLIDWORKS Simulationをどのように活用されましたか。

リショーネの真ん中から右手にベッドから車いすの状態になる部分があり、車いすが分離した後、車いすの姿勢変化をアクチュエーター一つで行っています。SOLIDWORKSは複雑な機構設計がやりやすく、例えば、車いすの背の角度がこれくらいのとき、足の角度はどれくらいかなど形状が変わっていく途中の各部の動きを細かく知ることができ、使っていてよかったと思います。

解析前

解析前

また、通常のベッドは四角にパイプが組まれています。しかし、リショーネはベッドから車いすが分離します。車いす部分がベッドに組み込まれるわけですから、四角ではなくくぼみの部分が必要になります。この形状にするとベッドとしての強度は落ちます。強度をいかに補強して通常のベッドと同じ強度を持たせられるかについてSOLIDWORKS Simulationを活用しました。商品化をする場合、実際に試作して試験を行う必要があります。そこで壊れたならどこかを補強しなければなりませんが、メカの制約がある中、補強したくてもできない場所も出てきます。再度、試作して試験をするよりは試験データを元にどこを補強すれば変位はどうなるのかといった解析にSOLIDWORKS Simulationを活用しました。

解析結果

解析結果

どの部分の解析に一番使用されたのでしょうか。

昇降リンクというベッドの高さを変える部分の解析に使用しました。高さを変えるのはベッドの重要な機能ですし、上から荷重がかかりますから一番強度がほしい部分です。ベッドの機構は車いすが入るくぼみの部分には入れられませんので、左半分のほかのスペースに詰め込むことになり、機構が密集しますので干渉チェックを活用しました。また、車いすを入れるためにくぼみ形状となっているので、どうしても強度は弱くなります。そこで解析を行い、どういうふうに補強していけばいいかを検討して設計を進めていきます。解析で1カ所に強く応力がかかっているところを補強するのではなく、なるべく分散して全体として受け持たせるよう工夫しました。

また、強度を出すのに金属パイプに厚みを与える方法もありますが、重くなりますので中にどれだけハリを入れればいいのか、どれだけ抜いたら壊れるのかもSOLIDWORKSで解析しました。「強度は強く、でも軽くしたい」という相反する要件での解析でした。

試作のロス、時間、コストを削減

解析にあたり苦労されたことはありますか。

ベッドのパイプですね。直接解析にかけると大変なことになります。長さが1メートル70センチメートルで板厚が1.6ミリメートルありますが、そのまま解析にかけると時間がかかります。こういうものの解析は無理なんだなとあきらめ、実際の試作試験でと考えていました。ただ、何かできないかパイプの解析で困っているのは我々だけじゃないだろう、プロに聞いてみようと大塚商会の「たよれーるコレクトセンター」に電話をして問い合わせたところ「シェルメッシュ」機能を使った解析を教えてもらいました。シェルメッシュは表面だけで厚みなしで解析し、後から厚みを持たせることができます。モデル作成に半日近くはかかりましたが、解析にかかる時間は10分から長くても30分程度。いろいろな条件での解析が10分程度でできるので活用しました。

SOLIDWORKSとSOLIDWORKS Simulationでどのような効果が得られているでしょうか?

試作での試験で壊れたところやダメだった部分については、だいたい2回目の試作でクリアできました。最近の開発では、1回目の試作でクリアできるようになりつつあります。試作試験の無駄な繰り返しを減らせます。現在、リショーネの次号機の開発を進めていますが、解析をかけてこれで大丈夫という勘所がつかめるようになってきていますので、後少しというところまで開発上でつめられるようになっています。

気をつけていることは、解析は100%正しいものではなく解析でOKだから全てOKと考えるのではなく、実際に試作実験した現物と解析を見比べるようにしています。ある部分の補強が必要か必要でないかを解析だけで見ていくことができますから、試作のロスや時間、コストを減らすことができていると思います。

医療・福祉分野における開発をさらに進めていきたい

SOLIDWORKSとSOLIDWORKS Simulationを評価していただけますか。

SOLIDWORKSとSOLIDWORKS Simulationが連携していますので、設計変更をした場合、解析の設定がそのまま活かせることはありがたいですね。ある位置の解析結果により、設計変更をSOLIDWORKS上で行ったとき、その変更データですぐに解析ができるので繰り返し解析ができる点も評価しています。

今後の展望をお教えください。

お話したリショーネの次号機は介護者の手を借りず自分一人でベッドから降りて車いすへ移り、車いすを自走できるというものです。今後は動かしながら受ける力、強度を見るために「連成解析」や「疲労解析」にもチャレンジしていくつもりです。SOLIDWORKSとSOLIDWORKS Simulationを活用し、医療・福祉分野における開発をさらに進めていきたいと考えています。