地球情報学により、メキシコ市初の高速鉄道をmm単位の精度でマッピング

2019年 1月29日

建設業

Consorcio IUYETチームはLeica SiTrackリアリティキャプチャーシステムを使用して周辺環境とmm単位以上の精度による鉄道線路末端の寸法の点群データを収集した[提供:Consorcio IUYET]

各種機材を使って採取したスキャニングデータを取り込み、3次元設計データと融合させることで、実現性のある建設に対する取り組みが加速している。今回、メキシコシティ(以降メキシコ市)での実例を「Redshift 日本版」からダイジェスト形式で紹介する。

慢性的な交通渋滞の解決に向けた過去と現在の取り組み

メキシコの首都であり交通問題ランキングで世界ワースト1にランクされるメキシコ市は慢性的な交通渋滞により、重度の環境汚染と交通事故死亡者数の多さ、労働生産性の低さに悩まされてきた。

だが、幸いにも新たなインフラ構想による支援が実現しつつある。その最大のものが、メキシコ市とトルーカ市を結ぶ都市高速鉄道プロジェクトで、2019年半ばまでに完成予定だ。

25億米ドル(2,800億円以上)をかけたメキシコ市初の高速鉄道は、地理空間情報の測量と解釈により地表を把握する科学分野、「地球情報学」を活用している。全長約58kmにわたる電気高架鉄道は最高時速159km、1日当たり23万人の乗客輸送を実現し、平均通勤時間は2時間から39分へと大幅に短縮される。

メキシコ市が大型の交通機関プロジェクトに取り組むのは、これが初めてではない。2012年には新しい地下鉄路線が開通したが、「ゴールデン線」と呼ばれた地下鉄12号線は、開通からわずか17カ月で全20駅のうち11駅が一時閉鎖に追い込まれた。脱線の恐れが生じたためだが、その原因は粗悪な建設工事だけでなく技術不足もあった。

今回のプロジェクトは、メキシコの土木工学関連サービス会社で、高い技術力と最新テクノロジーを駆使するConsorcio IUYETが関与しているため、ゴールデン線の轍(てつ)を踏むことはなさそうだ。

新しい高速鉄道のレンダリング画像[提供:Consorcio IUYET]

3次元モデルを使うメリットを認識

メキシコ市~トルーカ市の都市間鉄道プロジェクトは立体的な構造で2次元モデルによる調整が難しいため、Consorcio IUYETのBIMディレクターであるアンジェリカ・オルティス氏によると、BIM / CIMを採用するには最適なタイミングとなった。

3次元モデルを使うことで、関係者はプロジェクトの各階層をタマネギの皮をむくようにはぎ取ることができる、と彼女は説明する。その好例である鉄道駅は、地階、1階、地上階がそれぞれ重なり合った要素を持つ。「極めて詳細な地勢図を使っていますが、その情報全てを2次元化しても、技術者には『自分たちエンジニアには、これは読めない』と言われるでしょう」と、オルティス氏。「それを3次元にすることで、実際に理解してもらえるようになりました」。

Consorcio IUYETは数年前、本社の建設に2次元モデルを用いていたが、そこでBIMを試すことになった。設計プランを3次元に変換すると、重大な間違いが発覚した。エレベーターが建物の基礎部分と干渉する形で設計されていたのだ。「極めて基本的かつ初歩的な誤りかもしれませんが、こうした間違いが見落とされることもあるのです」と、オルティス氏。「どれだけ多くのベテランがいても、関係ありません。皆、自分の担当箇所しか見ていないからです」。この経験からConsorcio IUYETはメキシコ~トルーカ都市間鉄道プロジェクトの自社担当部分にBIM / CIMを使用することを要求した。

Consorcio IUYETのドローンが現場の樹木やその他の障害物の地理空間情報を取得するための画像をキャプチャー[提供:Consorcio IUYET]

成功を導くスキャニング

メキシコ市とトルーカ市を結ぶルートには、交通量の多い幹線道路や幅の広い橋、広大な谷間、深い山々、慎重な扱いが要求されるインフラなどがあふれている。列車はこれら全ての間を迅速かつ安全に、かつ手ごろなコストで横断する必要がある。

Consorcio IUYETは正確な3次元モデルを構築するために地球情報学を活用し、さまざまなリアリティキャプチャーツールと技巧を組み合わせて使って、クルーが建設を行う地域一帯の完全な図画を描いた。「通常はスキャンは一度に行います」と、オルティス氏。「今回は1,000回以上のスキャンを行い、それらを高精度で組み合わせる必要がありました」。

Consorcio IUYETは現場を訪れ、スキャン結果を調整するためのGPS座標の参照ネットワークを作成した。実際のスキャンでは、樹木や公共インフラ、橋などの障害物の地理空間情報を取得するため、ドローンを用いた写真測量で空撮画像を生成。この地域一帯のマッピングのため、光検出と測距(LIDAR)、高精度測量(HDS)を使用して地理空間情報をキャプチャーした。また、地中レーダー(GPR)と水中を確認できるソナーを搭載したドローンを地中と海底地形の把握に役立てた。

「点群データは、その後オートデスクのソフトウェアを使ってまとめられました」と話すオルティス氏が、プロジェクトチームが頼りにしていたというAutodesk AEC Collectionには、写真やスキャンをデジタルモデルに変換するReCapや、モデルを取り込むCivil 3D、建設の詳細を管理するRevit、そして全てのレビューを行うNavisworksなどが収められている。「点群データを統合することで、実際の現場であらゆるシミュレーション、計算に使用可能なデジタル地形モデルが得られます」と、オルティス氏。

LeicaP40ScanStationレーザースキャナーは2mmx2mmの密度で1秒間に100万点をキャプチャー[提供:Consorcio IUYET]

完成した3次元モデルは、一度ならず窮地を救った。建設チームが憂慮していたことに、メキシコ市の水道網との干渉がある。地方自治政府は、水道網は路線エリア外にあると主張したが、スキャンの結果、それは間違いだと判明。BIMを使っていなければ、クルーは水道本管に穴を空けていただろう。

政府関係者にもメリットをもたらした。路線上のある地点では高架線が山腹を通過しており、森を切り開いて支柱を支える空間を設ける必要があった。環境問題専門家の懸念に対応し、政府はConsorcio IUYETのモデルを使用して複数の建設シナリオを作り、環境への影響が最も少ない案を選択した。「質と量の両方が充実した情報を得ることで、より優れた解決策に到達できます」と、オルティス氏。

情報共有が懐疑的な関係者の説得に役立つと語るオルティス氏のチームは、ARとVRを用いたプレゼンテーションを作成することで、異議を唱える人々の不安を和らげた。例えば、支柱がキャンパス入り口をふさいで学生を危険にさらすのではないかという大学からの苦情に対し、Consorcio IUYET はVRを使って実際の支柱の位置を示した。「プロジェクト周辺で生活する人からの反対は、プロジェクトの細部を理解できないことが原因の場合もあります」と、オルティス氏。「だからこそ、目に見える形で提示するのです」。

こうした多様で複雑な地域における鉄道建設の安全を、専門知識を持たない一般の人々に伝えるのは難しい。だがオルティス氏は、それが苦であるとは感じていない。彼女にとって最も重要なのは、このプロジェクトによって通勤通学に必要な時間が減り、その時間を睡眠や家族団らんに回せるようになることだ。

本記事は「創造の未来」をテーマとするオートデスクのサイト「Redshift 日本版」の記事を、許可を得て転載したものです。

この記事の提供者

Matt Alderton

ビジネスやデザイン、フード、トラベル、テクノロジーを得意とするシカゴ在住のフリーライター。

【Redshift 日本版】地球情報学によりメキシコ市初の高速鉄道を mm単位の精度でマッピング