製造業界を一変させるモデルベース定義

2019年 2月22日

製造業

3D設計が普及してきた現在でも製造工程では図面が必要とされています。3D・2D連携や図面作成・維持にかかる工数を解消するために「MBD(Model Based Definition:モデルベース定義)」という手法が注目されています。

苦悩する3Dモデル設計者へ

2018年に大塚商会が開催したオートデスクセミナーにおいて、現在の設計環境のアンケートを実施したところ、3Dモデルを活用されている回答が86%ありました。

大塚商会 2018年オートデスクセミナーアンケートより

中でも3D設計を基本としながらも一部図面を使用されている方のうち「図面共有に関する社内外コミュニケーションが課題である」との回答が45%ありました。

3Dモデルベースで一部図面設計のうち45%が図面のコミュニケーションに課題を持っている

この問題の根源は設計サイドでは3Dモデルで設計しているものの製造サイドではまだ図面が必要ということを意味します。

せっかく3Dモデルベースで設計していても、製造情報を付加した図面を別途準備しなければならず、設計者にとって大きな負担となります。

また、設計・製造・品質とつながる製品ライフサイクルの観点からも必ずしもベストとはいえません。納期短縮やコストダウン、働き方改革の推進にて全工程で効率化を求められる中で、これに反してささいなトラブルで手戻りが生じることは今も少なくないでしょう。

MBD(モデルベース定義)とは

この課題を大きく緩和するためにMBD(Model Based Definition:モデルベース定義)という製造業界で注目されている画期的な手段があります。

大まかにご説明すると、図面データを3Dモデルに取り込むことで図面レスにて製造工程へ渡せるという手法です。3Dモデルを使った完全なデジタル生産に移行できるので、3Dモデルが信頼できる唯一の情報源となることから設計チームと製造チームと共に無駄な時間を削減できます。

MBDは20年ほど前からアメリカで進められていた概念で、近年になって技術の進歩に伴い航空宇宙および防衛業界を中心に世界的に急速に実務レベルでの活用が進んでいます。事例が増えるに従って新たな3Dモデルのスタイルとして認知されていくでしょう。

Autodesk Inventorでは満を持してバージョン2018から標準搭載されるようになり、2019でさらに大幅強化されています。

MBDがもたらす効果

具体的にMBDを活用するには、3Dモデルに製品とプロセス情報、さらに確実に設計意図を3Dアノテーション(3Dモデルに取り入れて関連付けること)することが必要です。データムや基本寸法やGD&T(幾何寸法公差)、また表面仕上げやBOMや注記などのPMI(製品製造情報)を3Dアノテーションさせることが該当します。

これによって設計サイドは図面作成工数を削減でき製造サイドは集約された3Dデータを見るだけでスムーズに仕事を進められるため、次のような効果を得られます。

  • 図面ドキュメントの削減
  • 図面との不一致による設計ミスの回避
  • 不要な材料費の削減
  • より良いコミュニケーションの構築
  • コストダウン

ただし添付情報を増やしすぎると、目視での確認が困難になるためかえって混乱を招く可能性があります。製品ライフサイクルの担当者間で添付情報について事前に慎重に相互確認しモデルの標準化を図ることが極めて重要です。

データフォーマットの問題

MBDを解説するうえで欠かせないのがSTEP AP242で出力できる点です。

設計サイドと製造サイドがそれぞれ3D CADを持っていても製品が違えば別途中間フォーマットが必要になるでしょう。STEP AP242とはISOが規定する国際基準の認定を受けた3Dアノテーションに特化した中間フォーマットで、例えばAutodesk Inventorで設計した3Dモデルを異なる3D CADやまたCAMやCMMにダイレクトに送ることができます。

3Dモデルからダイレクトに加工、検査、作業指示が可能になるため、工程短縮とミスの防止に大きく貢献します。また3Dモデルにとって気がかりなデータの長期保存の問題においても、この中間フォーマットを活用することによりCADソフトのバージョンに依存せずに安全に長期保存が可能です。

3D PDFとして渡せる点も非常に大きな特長です。STEP AP242が添付されたPDFを作成し、3Dアノテーションのついた3次元モデルを手軽にエクスポートできます。

データを送られた製造現場サイドは特別なビューアーを必要とせず、無償のAdobeReaderで開ける手軽さや一元化された3Dモデルを拡大縮小・回転させて確認できる有用性、重いPCでなくタブレットでも使える柔軟性により、これ以上ない使い勝手を実現します。

Autodesk Inventor 2017にて一層強化された3D PDFエクスポート機能を実装しているので、一度実際に体感してみてはいかがでしょうか? また三つ目の特長として作成した3Dモデルを図面出力可能なため、将来において図面を転用したい機会などに役立ちます。

図面情報の方向性

「AutoCADが国内No.1の2D CAD」という圧倒的な強みがあるゆえん、特にオートデスクユーザーはベースが2D CADで、必要に応じ3D CADを一部活用するパターンが多いかと思います。

実際、図面設計はなくてはならないもので、必要な情報を明白に提供するため、全ての製造関連に携わる方々がこれをデファクトスタンダードとして認識しています。

しかし、製品開発期間を短縮するための技術の進歩に伴い、設計およびPMIを伝達する図面主体の考え方自体を根本から覆す方向性にシフトしつつあります。図面の必要性を排除することを目的とするためのMBDはまさにその方向への推進力となり、Autodesk Inventorはこれを支援する強力なツールとして存在意義をより一層高めることになるでしょう。

Autodesk Inventor 製品情報

参考
モデルベースの定義(Autodesk Knowledge Network)