メタバースで変革するものづくりと可能性

メタバースとは何か

メタバースとは、もともとの意味として、「超越」を意味するmetaと「宇宙、世界」を意味するuniverseの二つの単語を組み合わせた造語で、バーチャル空間や仮想現実(VR)空間など、インターネット上の仮想空間として広く定義されるものです。2000年代に入って、アメリカの企業がインターネット上に3D仮想現実でメタバースを構築しました。その世界の中で自分の分身となるアバターが家を建てたり買い物をしたり、ビジネスをしたりといったことも可能で、現実世界のような疑似体験ができるというものでした。

そして、2020年に任天堂から「あつまれ どうぶつの森」が発売され、6週間で1,300万本以上を売り上げる人気ゲームとなりました。このゲームでは、プレーヤーがアバターを通して、無人島で家を建てたり作物を育てたりして、ゲーム内に自分なりの世界を作り上げていきます。また、ゲーム内ではインターネットを介してさまざまなユーザーとコミュニケーションを取ることができ、ほかのプレーヤーを招待してコンサートや発表会をはじめ、誕生日会や結婚式などまでも行われています。発売時期がコロナ禍と重なったため、ソーシャルディスタンスを求められ、人との交流が難しくなった現実世界とは反対に、メタバース上でのコミュニケーションが発達していきました。

執筆:渡部 貢生

メタバースを活用したビジネス事例

メタバースはビジネスでもさまざまなシーンで活用されています。例えば、不動産業界では、顧客と営業スタッフのアバターが、物件の選択から内見、契約に至るまでメタバース内で完結できます。アバター同士で会話ができるだけでなく、顧客は家の内外を自由に歩き回ることができ、照明を点灯したり、蛇口から水を出したり、コンロに点火したりできるほか、壁紙や床材の張り替えなども自由にできます。これは設計図や3D計測/色彩計測などのデータをメタバースに取り込むことで、正確に3Dデータ化し、忠実に再現することで可能になりました。

製造業では、CGツールを扱うデザイナーやCADやBIMを操作するエンジニアなど、離れた場所にいる複数の関係者がメタバース上に集まり、リアルタイムで3Dモデルを見ながら共同でデザインや設計の編集作業が可能になります。海外の企業とも簡単にコラボレーションができるようになり、またデータもデジタルデータであればコピーや共有も簡単にできるため、開発の可能性は広がります。

3Dデータの価値を守るNFT

メタバース内における取引の中で、主に仮想通貨の一つであるイーサリアム(ETH)のブロックチェーン上で構築できるNFT(Non-Fungible Token)の活用が期待されています。仮想通貨は、取引履歴を暗号化し、その情報を連携させてブロックチェーンを構成します。ブロックチェーンは、1カ所のみの情報改ざんが難しくなり、安全性が担保されます。

また、NFTは非代替性トークンと呼ばれており、非代替性とは、ほかに代えることができない、代替えができない特定の識別子を持っていることを意味します。NFTは、発行者および所有者をはじめ、取引履歴も全て記録されるため、誰が所有しているものかを識別できます。所在が明確になるため、絵や文章、音楽などの著作権のほか、デジタルコンテンツなどにおいて、所有者がNFTを発行することで、権利に唯一性を持たせることができ、権利侵害といった不正が起こりにくい仕組みです。ブロックチェーンの仕組みと、NFTの持つ唯一性が合わさることで、より高い安全性を構築できます。

安全性が担保されることでデジタルデータの売買が可能になります。2021年3月、メタバースでアバターが住む家として使用できるNFT作品のデジタルの家が50万ドル(約5,500万円)を超える価格で販売されたというニュースがありました。このデジタルデータを基に実際、現実世界に建築ができるそうです。このようにNFTを活用して権利に唯一性を持たせることで、さまざまなデジタルデータの売買なども活発になってきています。

製造業や建設業で注目を集める「デジタルツイン」とは

メタバースで注目を集める技術として「デジタルツイン」を上げることができます。デジタツインの「ツイン」は双子という意味で、デジタルツインは現実にあるものの複製・コピーを作成し、バーチャル空間にリアル空間を再現する技術です。例えば、製造業であれば、試作品をバーチャル空間上に作成したり、倉庫業であれば、倉庫内の状況を正確に把握するために精度が高いシミュレーションを行い、最適な人員配置などの予測もできたりします。また、建設業でも建設する際、規模が大きい建物でも仮想空間上で再現できます。さらに都市空間自体もメタバース上に再現することも可能です。

ある自動車メーカーでは、実際にある工場と全く同じ状況の複製工場をメタバース上に作成しました。この複製工場には実際の工場で使われているAIやソフトウェアなど、同じ環境が整備され、実際の人やロボットを動かすことなく、生産環境を確認できます。複製工場で自動車を製造するシミュレーションを行い、新工場のレイアウトを作成するためにどうすれば業務効率化が図れるかを模索しました。デジタルツインを活用することで今までの計画のプロセスを大幅に削減することができたといいます。

デジタルツインを活用することで、コスト削減や業務の効率化、リスクの回避などにつなげることができます。今後ますますメタバースやデジタルツインの活用が拡大していくと予想されています。

執筆:渡部 貢生

ビジネス・経済、不動産、IT、医療行政をはじめ、飲食、旅行など幅広いジャンルで執筆、編集者として活動。タイにおよそ6年間滞在し、タイとASEANのビジネス・経済情報誌で巻頭特集の企画・取材・執筆のほか、雑誌全般の制作に従事。タイに進出している日系企業をはじめ、行政機関、学校関係など、さまざまな有識者へのインタビュー取材を行った。そのほか、不動産や医療行政の専門紙での記者経験を持ち、紙媒体とWeb媒体の両方で活動を行っている。