【AU2020レポート】3Dデータ(Inventor)を活用したデジタルエンジニアリングによる設計開発

2021年 2月12日

製造業

Inventorでモデリングした製品の3Dデータを活用し、CAEや3Dプリンターによる製品設計の最適化を図るデジタルエンジニアリングについて、実際に社内運用している株式会社十川ゴム様の事例セミナーレポートをお届けします。

登壇された井田剛史氏は、1997年入社時より3D CADデータを活用したCAEなどデジタルエンジニアリングの強化を推進し、2009年には3Dプリンターを導入、ゴム・樹脂部品の設計開発における試作・評価や工場における成形設備の補助治具などものづくりの効率化を図るなどの業務に従事。

現在は研究開発部次長に就任し、3D造形技術を活用したゴム・樹脂部品の製作やIoTなどのものづくりを革新するための活動を行っていらっしゃいます。

井田剛史氏

デジタルエンジニアリングの重要性

かつてものづくり大国であった日本は、バブル崩壊以降約30年にわたり国際競争力の低下が続いています。3Dデータの普及やグローバル化によりコスト競争力が問われている背景の中、後れをとっている日本は中堅・中小企業を中心に変革の必要性がある状況下にあります。

井田様は変革の要件に「業務効率の向上」「コストダウン」「製品ライフサイクルの短縮」を挙げられ、これを満たすために、3DプリンターやCAEをいかに組み合わせればよいかをテーマに講演されました。

今の製造業界において求められるデジタルエンジニアリングの重要性について、具体的にポイントを二つ挙げられました。

  1. 技術活動を同時進行するコンカレントエンジニアリング
  2. 設計開発作業を前倒しするフロントローディング

これを満たすには設計者がかなりの作業を起こす必要があるのですが、井田氏はこれを満たす解決策として、高度な解析を設計者ができるCAEを活用することにより構造解析による強度確認や仮想テストを用いて実施計画の削減が見込まれること、また3Dプリンターで簡易試作を活用することにより部品チェックや簡易な機能テストができると提言されました。

そして3Dデータにてこれらを組み合わせることで、開発初期段階における設計・生産者のコミュニケーション促進、言い換えると生産条件を盛り込んだ設計が可能になり、またコンピューター上での仮想的な試作(デジタルモックアップ)との連携により開発期間の短縮・設計ができるとのことです。

デジタルエンジニアリングが求められる背景

デジタルエンジニアリングの運用事例

Inventorの3Dデータを活用する

以前は金属製の減圧弁を作成していたのですが、軽量化やコストダウンの必要性に迫られてカバー材を樹脂製に切り替えることになりました。比較すると樹脂は強度で劣るのですが、デジタルエンジニアリングにて設計開発を実施することにより問題を早期にクリアしたそうです。

具体的にはまずInventorで減圧弁のモデル化を行います。その際に減圧弁の中の流体に圧力をかけたときの強度を確認する必要があるため、ねじで拘束しておいて内側から流体圧がかかるようにしてCAEで応力解析を行います。減圧弁のカバー材に流体圧をかけると補強ポイントが特定できるので、Inventorで板厚やリブの追加・調整を行ったりとさまざまな形状パターンにて解析を繰り返し最適なモデルを設計します。

そしてこれを金型作成せずに、3Dプリンターでカバー材を制作して実際の補強効果を確認します。このようにInventorの3DデータをCAEや3Dプリンターで活用することにより、一日でこれを実施可能とのことでした。

試作コストや試作期間で大きな成果

3Dデータから3Dプリンターで作成したカバー材をとりつけて耐圧テストで圧力負荷を計ったところ、金属製品を単純に樹脂化すると耐圧性能の結果が1.2Mpaだったのですが、CAEと3Dプリンターで何度か作成することで補強モデルは2.6Mpaまで強化できたそうで、強度比はなんと2.17倍にも当たります。

性能強化のみならず、試作コストや試作期間についても自社データを用いて言及されました。まず試作コストでは、3Dデータ活用されない従来型開発の場合、金型作成費で100万円、当然発生する金型修正分が15万円、試作費で5万円、合計では120万円かかるものの、3Dデータ活用による試作費用では、3Dプリンター試作の合計5,000円(500円×10回)のみで済んでいるそうです。同様に試作期間は、従来型では金型製作で1か月かかりさらに試作トライを少なく見積もって2パターンで各1週間かかるとして合計1.5か月、一方3Dデータ活用では3Dプリンターでの製作(4パターン×1日)によりかかる期間は計4日で済むそうです。

従来型でもInventorで設計はするものの、3Dデータを活用せず勘と経験や過去の実績に基づいて金型で作ることしかできないため、結果的にテストを1回でクリアできず繰り返し行い設計に逆戻りすることになります。当然に金型費用やテスト費用および時間もロスします。一方デジタルエンジニアリングでは3Dデータを使って最適な形状を試作せずにデジタル管理でき、最適化をはかったデータを3Dプリンターでテストするので、ロスを最小限に抑えてテストをクリアできます。

先程の数値データで比較すると、デジタルエンジニアリングでは試作コストで99%カットされ、試作期間は10分の1になる計算です。デジタルエンジニアリングを実践することで、全く次元の異なる設計環境に一変することがよく分かりました。

未来への展望

最後に、事業売り上げ規模で最大シェアの自動車産業について、近未来予測による自社の展望を述べられました。

現在の自動車エンジンは、ハイブリッドを含めて内燃機関の比率が9割以上を占めています。しかし予測では20~30年後にEV車の比率がどんどん上がるといわれており、次世代車に変わるかどうかが製造業として非常に大きな課題でさまざまな会社で課題として挙げられているそうです。

なぜなら次世代自動車に変わることによって、自動車部品会社に求められる要素技術が以下のように大きく変化するからです。

内燃機関車の要素技術

  • 耐熱性
  • 燃料透過価規制(環境対応)
  • 耐熱技術(ガソリンの熱)
  • 耐振動技術(エンジンの振動)

EVなどの次世代車で要求されそうな要素技術

  • 熱対策技術(高熱蓄熱、バッテリー、水素燃料、これまでと異なる熱環境)
  • 電気、電磁波対策(電磁波シールド、蓄電池、発電)
  • 軽量化技術(樹脂でできた自動車もできあがっている。バッテリーを長期で使えるように軽量化技術が求められる)
  • 自動化技術(自動運転)
  • 通信技術(5G、IoT)

内燃機関の自動車にソフトウェアを組み込むことによって、ソフトウェアで動くスマートフォンのような車が生まれるともいわれています。自動車産業の大きな変化によってどのような対策が必要か、井田様は燃料関連の製造部品を作っているメーカーとして非常に大きな危機感を持っているとのことです。これを聞いて、デジタルエンジニアリングなしで時代の変化に対応できるのだろうか、私にはそう提言されていると感じずにいられません。