【Autodesk Inventor】たたき台をサクっと。手間なく構想検討を進める方法

2025年 7月23日

製造業

Autodesk Inventorで構想検討を手軽に行う方法をご紹介します。今回は本番環境でのモデリングはなく、手早く検討するための「たたき台」を作るのが目的です。できるだけモデリングの手間を省いて、思考を具現化していきましょう。

動作環境

この記事の環境は、下記のとおりです。

  • Autodesk Inventor Professional 2025
  • Windows 10

課題

今回は、課題として市販のホビー用モーターを使った自動販売機のような卓上のおもちゃを検討します。実験用ですので、手加工で工作できるように構造を考える想定です。

以下のような完成イメージです。

動作としては、ICカードに見立てたカードをかざすと、モーターが動いてワークであるお菓子を押し出します。上図の左上の部分は、お菓子を展示するショーケースです。

完成データ

先に最終的な完成データをご紹介します。

このデータはアセンブリ環境ではなく、パーツファイル(.ipt)として作っています。3Dモデルとしては簡素だと思われるかもしれません。事実、全く詳細を作り込んでいません。

しかし、以下のようなことができます。

  • アセンブリ環境に入らず、パーツファイル内で構成部品の各部の構造や寸法を検討できる。
  • 障害物となる構造部品を描いているので、配線の通り道を考える具体的なイメージ図になる。
  • 生成した部品表からエクセルファイルに変換して、部材の手配を行う。

原理実験などの簡易的な試作では十分役立つのではないでしょうか。では、次項からInventorで検討を進める流れを説明します。

1.パーツファイルを作る

パーツ環境に入り、これから検討を進めるためのファイルとして、.iptファイルを保存してください。今回は「装置検討.ipt」と名付けておきます。現時点では、空ファイルで構いません。

2.仕様情報をまとめたファイルを作っておく

次に本格的に検討を始める前に「仕様条件をまとめた別のパーツファイル」を作っておきます。例えば、筐体(きょうたい)のサイズや床からの距離など、制約となる条件を描いておきましょう。

描くといっても詳細にモデリングする必要はありません。スケッチや作業フィーチャーの平面を作っておくだけです。これが検討を進めるうえでのガイドラインになります。

今回は筐体のサイズや、デザイン上決まっているカードをタッチする部分の位置などを描いておきます。サーフェスやスケッチでさっと描きました。「仕様.ipt」と名付けて保存しておきます。後は閉じてください。

3.仕様情報を派生パーツとして読み込む

ここで、1.で作った「装置検討.ipt」を開いてください。ここに2.で作った「仕様.ipt」を読み込みましょう。

管理タブ→挿入→派生をクリックして「仕様.ipt」を指定します。

すると、パーツ環境でありながら他のパーツファイルを読み込んで配置できました。

4.検討を進める

検討を進める準備が整ったので、具体的な検討を進めていきましょう。

先ほど配置した仕様.iptをガイドとして、各部材の配置などを考えながら描いていきます。ここからは通常のパーツモデリングの要領でモデリングを進めていけばOKです。

シュートを作る

押し出されたワークの通り道(シュート)を作図します。仕様.iptの絵から取りあえず押し出して、ざっくり形を作ります。こうするとシュートがどの程度筐体の中で場所を取るのか、認識ができるようになります。

ベースプレートの位置を決める

次にベースプレートの位置を決めます。ベースプレートは、今回だとモーターやワークが載る台です。すぐに正確な位置は決まりませんので、暫定で描いておきます。

後で適宜変えられるように作業フィーチャーで平面を作って、その平面上にスケッチするようにしておきます。

作った平面上でスケッチして、押し出しでベースプレートをモデリングします。

ベースプレートの足も描いておきます。今回の筐体は狭いので、足が何かにぶつかるかもしれません。

M3の六角スペーサーを使う予定ですので、二面幅5.5mmの外接円をざっと位置を決めてスケッチし、押し出します。

必要な部材を描いていく

引き続き、現時点で必要だと考えられる部材をどんどん描いていきます。ワークを展示するショーケースやベースプレート下の制御用のマイコンボードのサイズを、実寸で描いておきます。細かい部品でも影響が大きいと考えられる場合は、描いておいてください。

こうすることで、レイアウトに影響する部材を視覚的に把握できるようになります。

5.動きの簡易検証は、ブロックで

次は機構部の検討を進めます。動く構造は3Dでモデリングすると時間がかかりますので、今回はブロック機能を使って、2Dスケッチで簡易的に検討を進めましょう。

まずはスケッチ環境に入り、市販のギヤボックスを採寸してスケッチします。詳細は不要で、出力軸と外形だけで構いません。

描き終わったら、作成パネル→「ブロックを作成」をクリックします。

ジオメトリ枠の矢印(1)をクリックし、ブロックにしたい図形を選択します。点を挿入枠の矢印(2)をクリックし、挿入点を決めておきます。適用→「OK」で閉じます。

同じ要領で「スケッチとして描いて、ブロック化する」を繰り返し、機構部材を描いていきます。

ブロックは通常スケッチと同様、各種拘束を適用できます。ここでモーターを暫定位置で固定したり、シャフトやモーターに水平拘束をかけたりします。そして、クランクアームのブロックをドラッグすると、シャフトが前後する動きが見られるようになります。

後はワークの位置などを描きながら、位置の検討などを進めていきます。

ちなみに下図は実際に手加工で試作したものです。今回は加工作業をできるだけ避けたいので市販品を組み合わせるという方針のため、モーター位置に制約がありました。

スライダー部分の模型用のロッドなど、Inventorで各市販品を採寸し、あらかじめ検討を進めておいたので、実験での試行錯誤をある程度減らせました。

6.外装も考えておく

最後は外装のパネルを描いておきます。外装は内部構造に比べて検討を忘れがちですので、簡単にでもモデリングをしておくと意識を向けられます。

例えば、プラ板や板金を折り曲げて作るのか? もしくはスチレンボードを貼り合わせるのか?……など、曖昧だと手配する部材に影響が出ます。

7.部品表を作ることもできる

実験のための部材の手配が必要な場合は、部品表を作ることもできます。現在はパーツ環境ですので、アセンブリに変換すると部品表を扱えるようになります。

管理タブ→「コンポーネントを作成」をクリックします。

左上の矢印をクリックし、ソリッドボディーの一覧から、対象となるボディーを選択します。

アセンブリの名前や場所は適宜指定します。「次へ」をクリックします。

すると、テンプレートや各パーツのファイル位置などを指定する画面が表示されます。ファイルの位置は、[ソースパス]だとこれまで検討していたパーツと同じ場所になります。

新しく作るアセンブリファイルと同位置にしたい場合は、右クリックのうえ「ターゲットアセンブリの場所」を選択します。

適用をクリックします。

すると、一見何も起こりません。しかし、下側のタブには新しく生成されたアッセンブリファイルがあります。

このアセンブリファイル(.iam)を開き、まずは上書き保存します。するとこのような画面が表示されるので「すべてはい」をクリックして「OK」を押します。

そして、アセンブリタブ→「部品表」をクリックします。構成タブを開きます。無効になっていたら、タブで右クリックし、有効にチェックを入れてください。

すると、各ボディーの構成が部品表として表示されています。

部品表の左上のボタンをクリックすると、エクセルファイルへエクスポートが可能です。すると簡易的な手配リストができます。

最後に

最初からきれいな3Dモデルを作ろうとすると、アセンブリデータ構造や、モデリングの手順など細部に気を取られがちです。しかし、今回のように検討に特化すると思考が邪魔されません。

設計フェーズに応じ、初期は割り切って手でポンチ絵を描く感覚でInventorを活用してみてください。