設計開発本部 設計部 製作設計課 製作設計チーム 西村遥香氏
「3Dモデルで設計データを運用することで、2Dにデータを展開することも簡単ですし、各モデルで使用している部品や数量が自動的に算出されるため、ケアレスミスを大幅に削減できています。部品の管理自体もとても楽になりました」
2024年11月12日
製造業
株式会社コトブキ
遊具、ストリートファニチャー(屋外家具)、サイン、屋外健康器具、防災ファニチャーなど、多彩な製品を手がけるオープンスペース総合メーカーの株式会社コトブキ(以下、コトブキ)。約10年前に導入したAutodesk Product Design & Manufacturing Collection(PDMC)の中から設計開発のメインツールとしてInventor、企画デザインのチームでもFusionを活用することで、エンジニアリングの3D化を進めてきた。そして近年では、トップダウン設計やパラメトリック設計といった3D CADの特長を生かした手法を積極的に取り入れ、設計開発の効率化・自動化を推進している。
事業内容 | 公共施設/家具事業、都市景観事業、遊具事業、サイン事業、屋外向け家具事業における開発、設計、製造、販売ならびにこれらの輸出入 |
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従業員数 | 330名 |
サイト | https://townscape.kotobuki.co.jp/ |
創業以来100年以上にわたり、人々の暮らしに寄り添い、地域に合った賑わいを創出してきたオープンスペース総合メーカーのコトブキ。同社では、公園や公共施設に設置される各種遊具をはじめ、ベンチなどのストリートファニチャー、案内板をはじめとするサイン、屋外健康器具、防災ファニチャーなど、2,000点を超える多彩なラインアップを展開し、基本仕様を定めた「規格品」、オーダーメイドの「特注品」、規格品をベースにサイズや色違いの対応を行う「変形品」の、主に三つのタイプに分けて設計・製造を行っているという。
そして同社が、これらの製品の企画デザインから設計開発、製造、販売などの業務プロセスを支える基盤として、10年以上にわたって活用してきたのがオートデスクのPDMC(Product Design & Manufacturing Collection)である。同社は、PDMCの中でInventorを設計開発のメインツールとして活用し、3D化を大きく前進させてきた。
同社では、以前からも新製品開発において一部3D CADを活用していたが、規格品や変形品の図面作成の大半は2D CADで行われており、独自にカスタマイズしたAutoCAD Mechanicalの使い勝手の良さからなかなか離れられずにいた。しかし、ハードウェアの更新などのタイミングとともに改めて3D CADを活用した設計時のミス削減や正確な部品・データの管理に着目し、設計データの3D化を進めることで、設計開発の効率化を図ってきたのである。
設計開発本部 設計部 製作設計課 製作設計チーム 西村遥香氏
「3Dモデルで設計データを運用することで、2Dにデータを展開することも簡単ですし、各モデルで使用している部品や数量が自動的に算出されるため、ケアレスミスを大幅に削減できています。部品の管理自体もとても楽になりました」
そもそも3Dには2Dを根本的に上回るメリットがある。同社 設計開発本部 開発部 新製品設計課 課長の山浦匠氏は「図面からでは判断が難しいアセンブリ後の部品間の干渉チェックも、3Dモデルなら簡単に行えます。Inventorにより、これまで複数回行っていた設計段階での試作を大幅に減らすことができました」と話す。
一方、製品企画や意匠デザインといった分野でも3D化が進んでいる。こちらで主に活用されているのは、こちらもPDMCに含まれているクラウドベースのCAD / CAM / CAE / PCB統合プラットフォームのFusionだ。
設計開発本部 開発部 新製品開発課 江原徹朗氏
「本格的にFusionを使い始めたのは2018年頃からで、特にトレーニングを受けることもなく独学でスタートしたのですが、ユーザーインターフェースが非常に使いやすく、3Dモデルの作成も直感的に行うことができました。おかげでストレスを感じることなく、自然体で操作を習得できました。直線的な部材のみで構成された比較的シンプルな構造物なら2D CADの図面でも問題ないのですが、私たちが企画する製品の中には、例えば鋳物を使った複雑な構造を持つものも多く、その感覚的な機微まで伝えるのは困難です。したがってFusionの導入以前は、デザイン案を伝える際に手描きのスケッチを渡すこともよくありましたが、現在はリアルな3Dモデルで意図を伝えられるようになり、社内の設計部や製造部はもとより外部のサプライヤーとのやり取りもずいぶんスムーズになりました」
上記のように組織横断でPDMCと3D設計の定着化を進めてきた同社は、現在もさらなる高度活用に向けた取り組みを加速させている。
その一つが、Inventorを活用した「トップダウン設計」へのチャレンジである。トップダウン設計を簡単に述べれば、全体のレイアウトを作成してから順次個別の部品を作成していく設計手順だ。まず構想設計を行い、その情報を利用して詳細設計へとブレークダウンしていくことが基本的な流れとなる。
これまで同社では製品を設計する際に、はじめに各パーツの図面を2D CADで作成し、それらのパーツを組み合わせた製品の全体像を3Dモデルに起こしていくといった、ボトムアップ設計に近いアプローチをとっていた。しかし、複雑な形状を持つ製品は必然的に部品点数も多くなり、3Dモデルの作成が困難になっていたという。そこでトップダウン設計を採用することで、課題の解決を目指している。
設計開発本部 開発部 新製品設計課 課長 山浦匠氏
「Inventorのスケッチで構想設計を行い、さらにスケッチから製品全体の3Dモデルを作成します。製品全体の3Dモデルから逆に各パーツを展開することができ、しかも全てのパーツは相互に紐づけて管理されるのがトップダウン設計のメリットです。構想設計に対して行った修正が、関連する他のパーツにも自動的に反映され、整合性が取られるので、設計変更時の手間は大幅に軽減されます。実際の設計業務への適用はまだですが、複雑な構造をもった遊具の設計に適用すれば、大きな効果をもたらすと考えています」
また、2021年頃から取り組んできた「テンプレート設計による自動化」についても、その適用範囲を拡大していこうとしている。テンプレート設計を活用した自動化とは、パラメトリック設計に対応しているInventorの機能を応用したもので、3Dモデルや図面のひな型(テンプレート)を用意し、導入パートナーと共同開発したマクロ設定済みのExcelシートにパラメータを入力することで、その数値に応じた設計データが自動的に生成される仕組みである。
具体的には、ある一定の範囲内のルールに従って初期設定を行うと、マスターモデルや図面が別名保存される。これらのデータに対してパラメータで数値を変えることにより、3Dの形状を生成するとともに、プロパティに文字を代入して、図面の画層コントロール、ビューや注記の表示・非表示、寸法整列まで自動で行われるのだ。続けて図面をPDFファイルで出力することも可能であり、特に問題がなければそのまま図面を生産管理部門やサプライヤーに渡すことができる。
「このテンプレート設計が特に大きな効果を発揮するのは、規格品に対して寸法を伸ばしたり、縮めたりといった仕様変更です。人手を要する作図を減らせるため、作業工数は1 / 2~1 / 5程度にまで削減できます。現時点ではテンプレート設計を適用できているのは鉄棒やブランコの周りの安全柵、砂場の外枠などシンプルな構造の規格品のみですが、今後はベンチなどにも適用したいと準備を進めているところです」(西村氏)
今後、同社では設計開発のDXを見据えた取り組みを強化していく構えだ。山浦氏は、「3Dモデルさえあれば、全ての業務が完結する」という設計開発の新たな世界にも期待している。
「現時点では3Dモデルからその都度2Dに展開して、詳細設計を行ったり、製造部門とやり取りしたりといったプロセスを踏んでいますが、今後は必ずしも図面化が求められない時代が到来するかもしれません。クラウド上の3DモデルにBOMも含めた全てのデータが集約され、社内の製造部門や営業部門、さらには社外のサプライヤーまで、あらゆる関係者がアクセスできるようにすることで、ワンストップのエンジニアリングを実現できると、より私たちの仕事もスムーズになるのではないでしょうか」(山浦氏)
クラウドでの製造プラットフォームの実現を進めるオートデスクとも緊密に連携しながら、PDMCやその他の製造向けプロフェッショナルツールのより効果的な活用を模索していくことで、同社はこのTo-Beを具現化していこうとしている。