一貫生産を強みにした電力制御装置メーカーが属人化していた設計・製造工程の省力化に挑み、生産性アップと手作業からの脱却を実現

2025年 1月27日

製造業

株式会社日東電機製作所

電力制御装置の開発・製造事業を展開する株式会社日東電機製作所(以下、日東電機製作所)は、2002年にオートデスクの「Autodesk Inventor」を導入した。それから20年以上にわたって3D CADソフトウェアを活用しながら、3Dモデルから板金金物図面を作成するツールの開発、統合経営管理システムとの連携など独自の取り組みを推進。製造工程全般の省力化や現場業務の自動化に役立てている。

事業内容電気機械器具製造
従業員数145名
サイトhttps://www.nitto-e2.co.jp/

設計手法の属人化を解消すべく3D CADへの刷新を決断

日東電機製作所は、1951年に創業した電力制御装置メーカー。主に国内電力会社や大手重電メーカー、鉄道事業者向けに、配電盤、受電設備、発電用電源設備、蓄電池システムといった電気の安定供給を支える電力制御装置を提供している。設計・開発から板金加工、組立、品質保証に至るまで一貫した体制で高付加価値なフルオーダーメイド(完全受注生産)製品を生産しており、製造工程や業務のデジタル化も早い時期から積極的に推進。2022年には経済産業省がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む中堅・中小企業の優良事例を選定する「DXセレクション」の準グランプリを受賞するなど、目を見張る成果を上げている。

そんな日東電機製作所が製品設計にCADソフトウェア(2D CAD)を取り入れたのは1980年代のこと。それから20年近くにわたって2D CADを利用してきたが、その設計手法には課題があったと同社 取締役社長の青木孝浩氏は振り返る。

取締役社長 青木孝浩氏

「2D CADによる従来の設計手法は、設計者がどのような矢視図になるのかを頭の中で思い描く必要があり、非常に高い熟練度が要求されました。また、設計図面を受け取った板金工場では改めて板金用の展開図を作成する作業が発生していたことにも課題を感じていました」

こうした課題を解決するために、2002年ごろに日東電機製作所は従来の2D CADから3D CADへ刷新することを決断した。

「3D CADソフトウェア3製品を候補に挙げて比較検討した結果、ハイエンド過ぎない手頃感、クオリティの高さを評価してAutodesk Inventorを導入しました。当初は配電盤の筐体や扉といった部品の設計から3D CADを使い始め、およそ4年をかけて試行錯誤しながら製品全体の設計を3D CADに移行しました」(青木氏)

生活基盤を支える電力制御装置を一気通貫で生産

手作業が必要な製造工程を自動化し、1面あたり最大120分の時間削減効果を得る

Autodesk Inventorを導入して3D CADへの移行を進めると同時に、日東電機製作所では加工・組立の現場に3D CADデータを表示・確認できるオートデスクのCADビューアー「Design Review」を導入し、現場との情報共有のペーパーレス化を推進。さらに材料の原価管理や自動発注を目的に、3D CADと自社開発の統合経営管理システム「NT-MOL」との連携を実現するなど、製造工程全般の省力化を目指す取り組みを進めていった。

一方で、3D CADを使った設計業務に物足りなさを感じることがあったと同社 営業技術部 後藤圭吾氏はいう。

営業技術部 営業技術1課 後藤圭吾氏

「Autodesk Inventorを導入したことにより、3Dモデルから板金金物図面への作成が自動化され、作業の無駄を省けるようになりました。しかし、3D CADデータから図面を作成できるようになったものの、導体(大容量の電気を流す板金加工物)のデータに自動展開用のマーク(属性定義)を人手で付与する必要がありました。マークの付け忘れがないかを目視で確認しながら、板金へ製作依頼するための製作品リストに最大寸法を入力するのは効率が悪く、時間もかかります。そこで専用ボタンをクリックするだけで製作リストの導体寸法データを自動更新できるプロパティツールを大塚商会様と共同で開発しました」

このプロパティツールによって、専用ボタンをクリックすればマークの有無を判別して導体の最大寸法を自動更新できるようになったと、同社 第2技術部の臼木博紀氏は話す。

第2技術部 スイッチギヤ設計課 臼木博紀氏

「プロパティツールを使い始めてからは、製作品リストの照合が不要になって作業時間が削減されるとともに、作業精度が大幅に向上しました。導体単体の時間削減効果は1分程度ですが、製品の1面あたり約30~120分もの時間を削減できました」

RPA機能を用いた測長処理の自動化により人手による作業が簡略化され作業効率が向上

さらに日東電機製作所では、Autodesk Inventor Professionalに搭載されたケーブル&ハーネス設計機能を活用し、2009年から3D CAD上で電線の自動配線を行う「測長処理」の自動化に取り組んでいる。同社 第2技術部の磯部達也氏は当時の課題を踏まえ次のように語る。

第2技術部 スイッチギヤ設計課 磯部達也氏

「製品に組み込む電気回路を接続する配線は従来、担当者が電気回路図を見ながら電線の長さを測定し、電線を加工していました。この測長処理の作業を効率化して配線の精度を高めるために、3D CADの中に電気回路図データを取り込んでCAD上で自動配線処理を行うようにしました。電気回路設計で使用しているCADソフトウェアとAutodesk Inventorをつなぐ部分は自社でソフトウェアを開発し、電線加工に必要な3D CADの配線データはリスト化して一元管理しています」

この仕組みにより、現在は作業者を介すことなく測長処理から結果の書き出し・取り込みまでの自動化を実現。担当者の作業工数を削減するという効果が得られた。

「標準的な製品であれば、1面あたり10~15分程度の作業時間を削減できます。担当者の作業工数が軽減されたことで空いた時間を別の作業に割けるようになるなど、業務効率が大幅に向上しました」(磯部氏)

Autodesk Inventorで設計作業を行っている作業風景

測長処理については、マイクロソフトの自動ワークフローツール「Microsoft Power Automate」に搭載されたロボティックプロセスオートメーション(RPA)機能を活用した自動化にも取り組んでいる。RPA機能による効果について、同社 営業技術部の齋藤靖幸氏は以下のように話す。

営業技術部 営業技術1課 齋藤靖幸氏

「処理データの情報を取得して盤内か扉か、弱電盤か強電盤かを判別するところから、Autodesk Inventorを起動して配線データを検索・編集し、測長データを書き出すという処理を繰り返して、自動実行・制御するシナリオを作成しています。人手による作業が簡略化されて作業効率が向上するという効果があります」

ちなみに日東電機製作所は、電線を最適な長さに切断・加工するIoTロボットも導入。電線の加工時に発生する廃棄ケーブルの量が激減するなどコスト削減の観点でも大きな効果が得られている。

電線圧着加工のロボットも内製化している

3D CADデータと3D空間スキャンを利用したデジタルツインでさらなる作業効率化を推進

このような日東電機製作所の取り組みは、基本的に自社エンジニアが内製化しているが、その取り組みを強力に支援しているのが、オートデスク認定ディストリビューターの大塚商会だ。

「大塚商会にはAutodesk Inventorの導入だけでなく、設計業務のプロセスアセスメントから自社ツールの開発、IoTロボットの導入に至るまで支援・サポートしていただいており、非常に心強いパートナーとして高く評価しています」(青木氏)

Autodesk Inventorの3D CADデータを活用することで製造工程全般の省力化を実現してきた日東電機製作所だが、今後は活用の幅をさらに広げる取り組みも進めていく予定だ。

「当社がいま進めているのは、3D CADデータと3D空間スキャンを利用したシミュレーションです。高精度3D空間スキャナーを導入して当社工場や納入先の建物の点群データを取得し、製品の3Dモデルを組み合わせた仮想空間のデジタルツイン環境を構築するというものです。当社製品の納入先は移動に時間がかかる山間部に立地していることも多いので、こうした仕組みを構築することで現場調査の作業時間や設備搬入の検討時間が短縮できると期待しています」(青木氏)

3D CADを中核にした先進的な取り組みを次々と展開する日東電機製作所。Autodesk Inventorはこれからも、同社の設計業務を支えていくことだろう。