【Autodesk Inventor】Nastranことはじめ。手計算と見比べて手に馴染ませよう

2025年 1月27日

製造業

この記事では、有限要素解析ソフトウェアであるAutodesk Inventor Nastranを使って、解析を実行する流れをご紹介します。解析ソフトの使用が初めてだと、操作方法以前に「そもそも入力に対して、結果がどんな風に出るのか分からない」という戸惑いがあると思います。

そこで、まずはごくシンプルな課題を解析して、手計算での結果と比べてみましょう。操作の手間やPCへの負担を減らして結果の観察に集中できるように、解析は1次元要素を使って行います。

  • * Inventor Nastranのライセンスは、業界別コレクションに同梱(どうこん)されています。

動作環境

この記事の環境は、下記のとおりです。

  • Autodesk Inventor Professional 2025
  • Windows 10

今回解析する課題

今回の課題は、下図のような円弧状に曲がった片持ち梁の先端の変位を求めます。

  • 断面形状:φ20mmの円
  • 縦弾性係数E:220Gpa
  • 荷重:P=-100N(垂直下向き)
  • 円弧の半径r:200mm
  • 自由端までの角度:θ=90°、120°、180°の3種類

まずは、早速Inventor Nastranを実行してみましょう。

操作の流れ

Inventor Nastranでの解析は、以下のような流れで進めていきます。

  1. 解析形状を作図する(モデリング)
  2. 材料などの条件を設定する
  3. メッシュを切る
  4. 荷重、拘束条件を設定する
  5. 解析を実行する

1.解析形状を作図

最初に解析したい形状を作図します。通常のパーツモデリング環境のスケッチ画面で、円弧の絵を描きます。

2.材料などの物性条件を設定する

次に環境タブ→Autodesk Inventor Nastranをクリックして、解析環境に入ります。

環境に入るとブラウザーが解析環境に特化された内容になります。ここで、もろもろの条件を設定していきます。

単位

ツリーの「単位」をダブルクリックすると単位の設定画面が出ます。スケッチ時に用いた単位系を使用する場合は、単位系に「CADモデル」を選び、OKで閉じます。

理想化

基本設定

準備パネル→理想化をクリックします。ここで、これから材料などの条件を定義していきます。理想化ウィンドウで、まずは以下の項目を選択します。

  • タイプ:ライン要素
  • ライン要素タイプ:ビーム
  • 入力タイプ:断面

次に左側中段の「関連ジオメトリ」にチェックを入れて、対象となる図形を選択します。今回はスケッチした円弧です。

材料定義

次に左側の材料欄で一般の横のアイコンをクリックします。すると、新規材料を定義する画面が出てきます。

全ての項目を自分で記入するのは手間がかかるので、左上の「材料を選択」をクリックします。すると、デフォルト材料のライブラリーが表示されます。今回は「Inventor Material Library」から軟鋼を選んでみましょう。

データベース画面は、OKで閉じてください。

断面定義

理想化画面に戻ったら、入力タイプ:断面の横のアイコンをクリックします。すると、断面に関する設定画面が出てきます。

形状横のメニューからは、形鋼のさまざまな形状を選択できます。今回は、RODを選択しDIM1に半径を入力します。左下の断面表示Aボタンをクリックすると設定した形状がプレビューされます。確認してからOKで閉じます。

ここまで完了したら、理想化ウィンドウはOKで閉じてください。

3.メッシュを切る

次にツリーの「メッシュモデル」を右クリック、編集を選択します。

表示された画面に設定値を入力し、「メッシュを生成」ボタンを押します。今回は、以下のように設定しました。

最後はOKで閉じてください。すると、モデルが分割されているのが分かります。

断面形状を確認しておく

ここでツリーの「要素」を右クリックし、「断面を表示」を選んでください。

すると、理想化で設定した断面形状が仮想的に表示されます。設定した形状に間違いがないかを視覚的に確認できます。

4.荷重、拘束条件を設定する

荷重

ツリーのサブケースにある「荷重」を右クリック、新規作成を選択します。

ここで、荷重の大きさや位置を指定します。例えば、自由端に下向き100Nの場合、以下のように設定します。荷重をかける位置は、エンティティボックス内をクリックしてから、画面上で先端の点を選択します。

OKで閉じます。

拘束条件

ツリーのサブケースにある「拘束」を右クリック、新規作成を選択します。この画面で、自由度を規制します。エンティティのボックス内をクリックしてから固定端をクリックします。右側の「固定」アイコンをクリックし、OKで閉じます。

5.解析実行

それでは、準備が整ったので解析を実行します。上側のメニューの「実行」をクリックします。

終わるとメッセージが出ます。

結果を確認

早速、結果を見ていきます。

左上の項目を変えるとさまざまな結果を確認できます。今回は変位に注目しているので、左上をDisplacementに変えておきます。

そして、上のメニューから「プローブ」を選んで、自由端にカーソルを当てるとそのポイントでの解析結果が吹き出しで表示されます。

数値を書き出すと以下のような結果になりました。

  • 垂直方向の変位:下向きに0.364mm
  • 水平方向の変位:画面左向きに0.232mm

理論解と比較する

ここで解析結果と比べるため、手計算で理論解を出してみます。今回はカスティリアーノの定理を使って計算します。

計算に当たり、まずはモーメントの合計とひずみエネルギーの式を立てます。そして、変位はひずみエネルギーを荷重で偏微分して求めます。

計算結果

解析結果との比較は以下のとおりです。手計算と比べると「条件の入力が間違っていて桁違いの結果が出てしまった」ということはなさそうだと判断できます。

垂直方向の変位(λp、単位はmm)
θ手計算Inventor Nastran
90°-0.364-0.364
120°-1.028-1.029
180°-2.182-2.183
水平方向の変位(λQ、単位はmm)
θ手計算Inventor Nastran
90°0.231-0.232
120°0.246-0.247
180°-0.9260.926
  • * 水平方向の符号の違いは設定軸方向の違いによるもの。

θ=90°の解析結果画面(自由端を拡大)

θ=120°の解析結果画面(自由端を拡大)

θ=180°の解析結果画面(自由端を拡大)

最後に

現段階で解析ソフトに抵抗がある方も、まずは慣れることを目的にソフトに触れてみてください。ただ、初めて使うソフトウェアでいきなり未知の課題を解析して結果が出てきても、どう受け取ればよいのか戸惑いますよね。

そこで、この記事のようにまず初めはベンチマークとして、材料力学の標準的な課題で手計算結果と比較をすると判断材料を持った状態で解析結果を確認できます。ぜひ気軽に取り組んでみてください。

参考資料

  • 「3.10.3 エネルギー法」, 機械工学便覧 基礎編〈α3〉材料力学, 日本機械学会, 2005, p. 34.
  • Autodesk Inventor Nastran2024 オンラインヘルプ(https://help.autodesk.com/view/NINCAD/2025/JPN/)