比較的軽快に動作することに加え、クラウドを活用して設計データを手軽に共有でき、メンバーとの共同設計を進めやすいという利点があります。
さらに、3D CADに加えてCAMや解析などの機能も備えており、設計から製造までを一つの環境で進められる統合パッケージとなっています。
公開 2026年 8月19日
製造業

Autodesk社の3D CADである「Inventor」と「Fusion」。いずれも機械設計の現場で活用されている3D CADですが、どちらを導入すべきか迷われていませんか?
本来、最適なツールは利用者の作業環境や目的によって異なるため、一概に優劣を決めることはできません。
そこで今回は、あえて一ユーザーの視点から「5番勝負」という形で両者を比較します。
以下の5項目で比較しました。まずは、その結果をご覧ください。表だけを見ると、Inventorが「3勝2引き分け」となりました。
| 比較項目 | Inventor | Fusion | コメント |
|---|---|---|---|
| ファイル管理 | ○ | Inventor:ローカル管理 Fusion:クラウド管理 | |
| パーツモデリング | ○ | ○ | 両者とも基本的な操作感は同様。 Inventor:ipartsなどの付加支援機能あり |
| ビジュアル表現 | ○ | ○ | Fusion:レンダリングが出色 |
| カスタマイズ性 | ○ | Inventor:ilogicで手軽さと高度な拡張性の両立 | |
| 図面作成機能 | ○ | Inventor:細かな製図機能で、2D CADでの手直しがほぼ不要 |
この表だけを見ると「Inventorが圧倒的に優位では?」と思われるかもしれません。しかし、ここでの評価は絶対的な優劣を示すものではありません。
筆者は、請け負った仕事の成果物を個別のファイルとして納品する業務スタイルであるため、ローカル環境で作業できるファイル管理の自由度を高く評価しています。
両者の主な特徴を簡単に整理すると、次のとおりです。
比較的軽快に動作することに加え、クラウドを活用して設計データを手軽に共有でき、メンバーとの共同設計を進めやすいという利点があります。
さらに、3D CADに加えてCAMや解析などの機能も備えており、設計から製造までを一つの環境で進められる統合パッケージとなっています。

機械設計に特化した従来型のデスクトップCADです。ローカル環境でファイルを管理できるほか、詳細な図面作成や解析にも対応しています。板金、フレームなどの専門作図機能も充実しており、多数の部品を扱う装置設計に適しています。
また、iLogicを利用して、設計変更や定型作業を手軽に自動化できる点も強みです。一方で、PCには高い性能が求められ、大規模なアセンブリや複雑な図面を扱う際には、動作が重くなることがあります。

次項から、表で取り上げた各評価項目について詳しく見ていきます。
Inventorは、ローカル環境でファイルを管理できます。パーツは「.ipt」、アセンブリは「.iam」、図面は「.idw」と、用途ごとにファイル形式が分かれています。
また、プロジェクトファイルを作成することで、参照先やライブラリなどの設定をプロジェクト単位で管理できます。一般的なフォルダ構成に沿ってデータを整理できるため、単体ファイルの受け渡しに対応しやすい点が特徴です。
Fusionでは、設計データをクラウド上へ保存し、ハブやプロジェクトを作成して管理します。ローカルフォルダ内のファイルを直接編集するような運用とは異なり、データはクラウド経由で扱います。
過去のバージョンを確認したり、必要に応じて以前の状態へ戻すことも可能です。複数人でデータを共有しながら設計を進める場合には便利な仕組みです。

Fusionでバージョン履歴を表示した様子
パーツモデリングについては、InventorとFusionで基本的な考え方に大きな違いはありません。
スケッチを作成し、押し出しや回転などのフィーチャーを追加して形状を作るという流れは共通しています。一般的な機械部品を作成する範囲では、どちらを使用しても同様の操作でモデリングを進められます。
Inventorは、履歴ベースのパラメトリックモデリングを中心とした構成で、寸法や拘束条件を設定しながら形状を作成します。
各部位の寸法を可変して部品のバリエーションを作成する機能や、フレーム構造をモデリングする機能もあり、作図作業を省力化して設計に専念できます。


Fusionもスケッチやフィーチャー履歴を利用したパラメトリックモデリングに対応しています。基本的な操作はInventorとよく似ているため、Inventorの使用経験があれば比較的取り組みやすいでしょう。
また、自由曲面を扱うフォーム機能を備えており、形状を直接編集しながら検討することもできます。

押し出し機能を使用している様子

フォーム機能を使用している様子
Inventorには、分解図や組立手順などのテクニカルイラストを作成するためのプレゼンテーション環境が用意されています。
プレゼンテーションファイルは「.ipn」という独立した形式で保存され、アセンブリを参照しながら、部品の移動、分解軌跡の表示、スナップショットビューやアニメーションの作成を行えます。
プレゼンテーション上で部品を移動しても、元のアセンブリファイル内で設定された部品の配置や拘束には影響しないため、設計モデルを変更せずに分解図を作成できます。


一方で、製品写真のような写実的な画像を作成する用途では、Fusionに優位性があります。Inventorでも作成自体は可能ですが、調整できる設定項目が限定的です。

Inventorでレンダリングを実行した様子
Fusionでもアニメーション環境を使用して部品を移動し、分解ビューや組立アニメーションを作成できます。
Fusionで分解ビューを図面に使用するには、アニメーション環境でストーリーボードを作成して保存したうえで、図面環境に切り替え、「アニメーションから」ベースビューを配置します。


Inventorのような独立したプレゼンテーションファイルによる専用環境ではないため、分解図やテクニカルイラストを継続的に作成・管理する用途では、Inventorの方が扱いやすく感じます。
一方、材質、外観、照明を設定して写実的なレンダリング画像を作成する機能は、Fusionの方が優れており、製品イメージや提案資料に使用する画像を手軽に作成できます。


レンダリング環境の「シーンの設定」で、光源としてユーザーのHDRIファイル(.exr、.hdr)を指定することが可能
Inventorは、iLogicを利用して設計作業を自動化できます。簡単なルールであれば、用意されたスニペットや豊富なドキュメントを利用して手軽に作成できるほか、操作パネルも構築できます。
さらに、Inventor APIを利用すれば、形状作成、図面処理、ファイル操作などを含む高度な自動化にも対応できます。
手軽に始められる一方で、必要に応じて本格的な開発へ発展させられる点が強みです。

iLogicのフォームエディタで、操作パネルを作っている様子
FusionもAPIを利用したカスタマイズに対応しており、PythonやC++を使ってスクリプトやアドインを作成できます。
各種作業の自動化や独自コマンドの追加が可能ですが、InventorのiLogicのように、CAD上で簡単なルールを直接記述して利用する仕組みとは異なります。
プログラミングの知識があるユーザーにとっては柔軟性がありますが、手軽に自動化を始めるという点ではInventorの方が取り組みやすく感じます。

Fusionで、スクリプトやアドインを追加する様子。「アドイン」→「スクリプトとアドイン」を選択すると、設定画面が立ち上がる
Fusion APIのコードサンプルが公開されています。
Autodesk Fusion API Samples(Autodesk)(英語)

Inventorは、機械製図向けの機能が充実しています。投影図や断面図、詳細図の作成に加え、寸法、公差、幾何公差、表面性状、溶接記号などを配置できます。
また、部品表やバルーン、図面スタイルの設定にも対応しており、社内規格に合わせた図面テンプレートを整備しやすい点も特徴です。
多種多様な取引先の仕様に合わせた図面作成が求められる場面においては、Inventorの方が扱いやすさを実感できます。

Inventorの図面作成関連メニュー。ビューの配置や注記、スケッチ、管理といったタブごとに、機能が豊富に用意されている
Fusionにも3Dモデルから投影図や断面図を生成し、寸法や注記を配置する図面作成機能が搭載されています。標準的な部品図や組立図の作成であれば、十分に活用できます。
しかし、詳細な製図設定や図面スタイルの管理、複雑な注記を多用する業務においては、Inventorほどの充実度はありません。
独自の作図ルールがある場合は2D CADでの手直しが必要になることがあり、本格的な機械製図の用途では制約を感じる場面があります。

Fusionの図面作成関連メニュー
勝敗はさておき、それぞれに独自の強みがあることをご理解いただければ幸いです。
あらためて両者の特徴をまとめると、クラウド上でメンバーとスムーズにデータを共有し、軽快に設計を進めたい場合はFusionが適しています。一方、ローカル環境でファイルを管理し、図面作成の手間を減らして設計に注力したい場合は、Inventorが適していると言えます。
また、設計の工程や用途に合わせて両方のツールを併用するアプローチも効果的です。ぜひ、ご自身の業務スタイルや目的に最適な活用方法を検討してみてください。