CIMを導入し、3次元データを有効活用した社会インフラ基盤整備に取り組む

2017年12月15日

建設業

株式会社共立エンジニヤ

3次元データを活用した測量・設計・地質調査から補償・インフラ点検までを一貫して提供するCIMのトップランナーを目指す

島根県松江市に本社を構える株式会社共立エンジニヤは、地域密着型の総合建設コンサルタントとして中国地方の道路、橋梁、トンネルなどの社会インフラ基盤の整備に深く関わる。国土交通省がCIMを推進し、3次元データを建設サイクルの全プロセスで共有するICT施工が公共事業に適用される中で、同社は3次元CADベースの設計ワークフローを実現する統合ツールセット「Autodesk Architecture, Engineering & Construction Collection」を導入し、1年後に2ライセンスを追加した。全社を挙げたCIMへの意欲的な取り組みが注目されている。

株式会社共立エンジニヤ

昭和61年に測量会社としてスタートし、社会インフラ基盤の設計、点検、施工管理、地盤の地質調査、建築物の補償業務へと幅広く業務を拡大。価値ある環境を未来に紡ぐエイト日本技術開発グループの一翼を担い、島根県を中心に中国管内(鳥取、山口、広島、岡山)に12カ所の支店・営業所を構えて成長を続けている。確かな品質で道路・橋梁・トンネル・河川・上下水道施設・建築構造物などの長寿命化を担保する総合建設コンサルタントに、発注元となる中国地方の自治体や地域の土木建設事業者から寄せられる信頼も厚い。

業種総合建設コンサルタント
事業内容社会インフラ設備の設計、測量、点検、建築・補償、地質調査
従業員数49名
サイトhttp://kyouritsu-e.co.jp/

地域の豊かな自然と都市機能の調和を目指す地域密着型の総合建設コンサルタント

導入の狙い国土交通省の推進するCIMに対応した3次元CADの導入
導入ソフト

Autodesk Architecture, Engineering & Construction Collection

導入効果
  • CIM、ICT施工に対応する組織体制の構築
  • 3次元CADへの移行に伴う設計品質の向上
  • 3次元データの社内共有による業務の効率化

加速するCIMに対応するために3次元CADを導入

弊社では、公共基盤整備に関わる受注が7割を占めますが、公共事業の受注環境はこの数年で大きく変化しています」と、代表取締役社長の奥田真二氏は語る。

かねてより、土木・建設業界でのICT活用を奨励してきた国土交通省は、平成24年度から計画・調査・設計の段階から3次元モデルを導入し、その後の施工・維持管理のプロセスで3次元データを共有して建設生産サイクルの効率化や高度化を図るCIM(Construction Information Modeling / Management)の検証を開始。平成28年度には同じく国土交通省からの施策である「i-Construction」の導入を表明し、コンクリート工での規格の標準化、施工時期の平準化とあわせて、全ての建設プロセスで3次元データを有効活用するICT土工を全国規模で展開した。

「中国地方でも平成28年度に全国に先行して10数件のICT土工が行われ、鳥取県の国道事務所からは3次元データでの測量が求められるようになりました。国土交通省ではICT施工を土工だけでなく舗装工や橋梁工等にも適用し、i-Constructionを『ICT舗装工』、『i-Bridge』『ICT浚渫工』、『i-Water』へと横展開しています。地域の公共基盤整備を担う弊社にとって、CIMに対応した業務体制の確立と3次元CADの導入は、必然の課題とされていました」(奥田氏)。

同社では、平成28年にCIM施工推進委員会を設置し、社内のシステムを管轄する技術管理部は2次元CADから3次元CADへ早急に切り替えることを決定。その年の11月に建築設計、土木インフラ、建設・施工向けの統合BIM/CIMツール「Architecture, Engineering & Construction Collection(以下、AECコレクション)」を2ライセンス導入した。

代表取締役社長 奥田真二氏
「土木は経験工学ですから、全世界の知見や技術を公式化すれば、より安全で安心な社会インフラ基盤の構築がどの地域でも実現されます。AI機能を持った3次元CADへのバージョンアップを期待しています」

AECコレクションの汎用性と信頼性を高く評価

3次元CADへの移行にあたっては、実際に設計業務に携わる技術一部の社員の意見を尊重し、これまで活用していた建設系2次元汎用CADの3次元対応アプリケーションとAECコレクションを候補に社内で詳細な検討を行った。ソフトのデモンストレーション後に意見を集約したところ、「社員の意見としては使い慣れた機種を推す声の方が多かった」と奥田氏は語るが、それでも最終的にはAECコレクションの採用が決定したという。その理由を技術管理部 副課長の和多田実氏は次のように語る。

「やはりCIMへの対応が主目的となりますので、メインで扱う土木設計用3次元CAD・AutoCAD Civil 3Dだけでなく、3次元モデルベースの構造物設計に役立つAutodesk Revit(以下、Revit)やCIM/BIMデータを統合するAutodesk InfraWorks(以下、InfraWorks)などの豊富な機能を搭載する汎用性を評価しました。CIM系ソフトとして全国シェア80%(パーセント)を確保するAutoCAD Civil 3Dの信頼性にも期待しています」。

しかし、2次元CADから3次元CAD、全く異なるツールへの移行は多大な困難を強いるものとなる。技術一部 設計課 主任の岩佐和枝氏は導入時の戸惑いを振り返る。

「これまで2次元のソフトで作図を行っていましたので、ビギナーに戻った気持ちで一つずつ3次元CADでの操作を学んでいきました。AutoCAD Civil 3Dはチュートリアルやガイダンスも英語で表示されますし、講習会やセミナーも島根県では開催されていないため、私は会社にいながら3次元CADの操作講習が受けられる大塚商会のCADオンラインサポートに参加しています。操作方法で分からないことがあるたびに電話でのサポートを受けていますが、いつ電話しても親身に説明していただけるので助かります」。

技術管理部 副課長 和多田実氏
「現在は測量や設計での活用に留まっていますが、AECコレクションの機能を全て使いこなせるようになれば、3次元データをベースに施工管理やインフラ点検業務の精度を上げていくことができます」

3次元CADへの習熟度に関わらず、設計業務ではCIMと連携する3次元モデルでの作図要請が次第に増えてくる。技術一部 設計課 副課長の三好恵美氏は、実務と併行しながら3次元での設計ワークフロー構築を図った1年間を次のように総括する。

「私は平面図から立体をイメージするのが設計者の仕事だと思っていたのですが、3次元CADに平面図や縦断図のデータを打ち込むとそのまま立体モデルとして画面上に反映されますので、その場で直感的にデータの照査が行えます。施工上の不具合のチェックが設計工程にフロントローディングされるばかりでなく、3次元モデルとして施工・維持管理のプロセスに共有されますので、CIMが狙いとする土木・建設プロセスの生産性向上にも貢献できるツールであることを実感しました」。

3次元CADの有効性を確認した技術管理部では、AECコレクション導入から1年が経過した平成29年11月、新たに2ライセンスの追加導入を決定した。

技術一部 設計課 副課長 三好恵美氏
「CIMを推進するためのインプットデータとなる3次元モデルの精度を高めるために、2次元CADでの設計成果を取り込んでいます。施工管理品質が設計にフロントローディングされるので、責任大ですよね」

CIMモデルに準拠した設計ワークが建設サイクルの生産性を向上

AECコレクションの活用にあたり、「3次元モデルでの設計成果が求められることが多い道路系と造成系のプロジェクトでライセンスを使い分けている」と三好氏は語る。

国土交通省は平成29年3月にCIM導入ガイドラインを公開し、設計成果物の3次元モデルに地形や構造物の属性情報をひも付けたCIMモデルへの適用を求めている。ICT土工においては線形モデル、土工形状モデル、地形モデルでの精度が問われることになるが、Autodesk Civil 3Dのフレキシブルなフレームワークがそれを支えている。

「弊社には測量部門がありますので、UAVやレーザースキャナーから正確な点群データが得られます。AutoCAD Civil 3Dはこのデータを生かして、道路中心線や区画線をグラフィカルに表示し、任意の平面図や縦断面を切り出して修正が行えます。ラウンドアバウト(環状交差点)などの最新施設についてもコマンドが充実していますので、自由自在なサーフェスモデリングを楽しみながら、正確な作図を行っています」(岩佐氏)。

中国地方では山陰自動車道の整備が進み、島根県では起伏の激しい地盤に道路が走る。勢いサーフェスモデルのパフォーマンスの高いAutoCAD Civil 3Dでのワークが増えることになるが、社会インフラ基盤全般に関わる同社にとって構造物モデルへの対応も欠かせない。新たに追加したライセンスは「当然、構造物系のプロジェクトに振り分けられる」と三好氏は語る。

「橋脚やボックスカルバート(水路や地下道に使用されるコンクリート構造物)の設計では、鉄筋の配置と干渉のチェックが重要になります。Revitの構造設計専用ツールを使えば、内部構造を3次元モデルで確認できますので、コンクリート構造物の設計・施工を効率化していけます。特に、トンネルや橋梁では地盤の土質が問われますので、地質調査部門とも連携を図り、弊社独自の技術力を生かした精度の高いCIMモデルを納品していきたいと考えます」。

同社では、BIM / CIM プロセスを統合して土木インフラの計画・設計・運用をサポートするプラットフォーム・InfraWorksを活用してAutoCAD Civil 3DとRevitとの連携性を確保。2次元CADでの設計成果の3次元データ化にも意欲的取り組み、CIMモデルに準拠した設計ワークを実現する基盤システムとしてAECコレクションの活用範囲を広げている。

技術一部 設計課 主任 岩佐和枝氏
「2次元CADのオペレーションで養われていカンだけを頼りにAutoCAD Civil 3Dに対応していきました。地方でも3次元CADビギナー向けのセミナーを開催していただけるとありがたいです」

安全な社会インフラを実現するCIMのトップランナーへ

公共基盤整備では、区画整理の計画や完成時のイメージを地域住民に分かりやすく説明し、事業への合意を獲得することが求められる。このために、技術管理部では3次元モデリング・アニメーション合成ツール・Autodesk 3ds Max(以下、3ds Max)の活用を計画する。

「今までは写真や図面などの2次元データを合成したCGを活用していましたが、3ds Maxを使えばフォトモンタージュやアニメーションを使って立体的な3次元モデルで時間軸に沿ってご理解を促せます。また、弊社の技術と経験を分かりやすく発注者に伝える営業用のコンテンツもつくれます。そのために、追加したライセンスの一つは社内研修用に振り分け、AECコレクションの機能をフルに使いこなせる人材を育成していきます」(和多田氏)。

AECコレクションを活用する業務のレンジが広がれば、UAVや水中ドローンによる正確な3次元データの計測・解析結果とCIMモデルに準拠した高品質な設計成果が地質調査部門の地質ボーリング柱状図や表層地質図にも反映され、正確な積算・施工管理や区画変更に伴う補償額の算定業務も高精度化される。拡張性の高いワークフローを実現するAECコレクションは、公共インフラ基盤整備の測量・調査・計画・施工・維持管理に一貫して関わる同社のポテンシャルを高めていく。

「弊社が所属するエイト日本技術開発グループでは、『平成30年までにCIMのトップランナーになる』ことを目標に掲げています。これを実現するためにも、AECコレクションのライセンスと使える人材を拡充し、平成30年までには密度の高いコンサルティング業務を展開できるようにしたいと考えます。3次元データを活用して各部門の効率性が上がれば魅力ある職場づくりにもつながり、社員が各々の専門技術を高める励みにもなります。全社で結束してCIMに取り組み、自然と調和した魅力あるインフラ基盤の整備に努めていきます」(奥田氏)。

CIMに意欲的なトップと社員の気持ちが一つになって、よりサステイナブルな社会インフラ基盤を実現するための環境が整えられていく。

道路や造成のサーフェスモデルから構造物内部の干渉チェックまで。多彩なワークフローを実現するAECコレクションがCIMと連携したコンサルティングの品質を高めていく