IPD

IPDとは、Integrated project Deliveryの略称です。

発注者、施工者、専門工事業者など、プロジェクトにかかわるステークホルダーが初期の段階から協力することによって、有効な意思決定を実現するための協業形態を指します。これによって、設計のフロントローディングが実現され、変更コストを抑えられます。以下に従来ステークホルダーの関連とあわせて図で示します。

図1:設計プロセスにおける日本の従来型のステークホルダーの関わり

図2:設計プロセスにおけるIPD型のステークホルダーの関わり

図3:従来型とIPD設計プロセス内での作業負荷と変更コスト

日本におけるIPDの問題点

日本においてIPDを推進するには阻害する要因が多く存在します。その要因を八つの課題に整理して考えます。

1.「コンティンジェンシー」が顕在化されない

コンティンジェンシー(英:contingency)̶̶-米国などでは建設事業を遂行するうえでの「予備費」と認識され、発注者予算に組み込まれます。すなわち、想定されるリスクを定量化(金額換算)し、発注者が管理対象として認識する文化が背景にあります。

日本では、受注者がリスクを引き受け、発注者リスクが不可視となっています。リスクはさまざまなコストに転嫁され、発注者が認識し難い状況にあります。IPDでは関係者が協働し、想定されるリスクを適切に管理し、それにより得られる便益を共有します。前提となるリスクとそれを金額換算したコンティンジェンシーが明確に認識されない文化の下にあっては、IPDのメリットが十分に理解されることはありません。

図4:米国と日本の予算とコンティンジェンシーの関係性

2.明瞭な積算基準がない

現在の概算手法は共通の数量算出基準がなく、個人の裁量がコストに与える影響が大きいです。また、共通化できないことにより、建物オーナーへの説明責任が欠如しており、概算手法による共通の数量算出基準が必要です。また、リスク分散型であるIPD実行にはリスク要因となる不確定要素を、コンティンジェンシーとして明記した内訳書が必要になります。

しかし、現在の内訳書ではこれを明記してないため、明らかにする必要があります。

図5:総価請負型概算からリスク分散型概算へ

3.クライアントのFMの視点

クライアントの視点に立ってFMを最適化するには、設計思想に基づいた建物や設備の情報が的確にビル運用者に伝達されることが重要です。

しかし、現状はビル運用者が設計段階からプロジェクトに関与する例はまれで、設計終了後も十分な引き継ぎが行われないままFMがスタートする場合が多いです。BIM導入にかかる費用負担問題などを早期に解決し、IPDの導入によって建物のライフサイクル全般に渡る情報の伝達と共有が期待されます。

図6:クライアントのFMの視点

4.日本版 COBieがない

米国で開発されたBIMからFMへの情報連携を目的としたデータフォーマットがCOBieであり、BIMからFMへ単純な表形式で情報を渡す仕組みです。また、OmniClassなどのコード体系をあわせて用いることで、効率的にFMシステムにデータ連携できることが実証されています。BIM先進諸国は、各国の事情に合ったデータ連携をCOBieをベースに構築し、建物のライフサイクルにおいて最も長く重要な役割を担うFMで効果を発揮しようとしています。

COBie=Construction Operations Building Infomation Exchange
CMMS=Computerized Maintenance Management System

図7:日本版COBieの必要性

5.基本設計のマイルストーンがない

IPDの利点としてフロントローディングが可能といわれますが、関係者が早期に集結してBIMを利用するだけではその実現は困難です。

米国や欧州ではSD30%、DD80%、CD100%(注1)など各フェーズでの完成度が示されたガイドラインが整備されているため機能しています。日本でも実務に即したこのようなガイドラインの整備が急務です。そして、特に重要な基本設計のマイルストーンが何かということも業界で共有しておく必要があります。

図8:マイルストーン

  • (注1)SDとは概略設計(Schematic Design)のこと。DDとは設計開発(Design Development)のこと。CDとは設計図書(Construction Documents)のこと。

6.確認申請のあり方

IPDの検討上、建築確認はプロジェクト進行を中断させる要素となります。紙文書の電子化による現在の電子申請では、手続きのための「二重作業」を生み、情報のつながりも乏しいです。建築確認を含めたIPDを実現するには、共通データ環境(CDE)を介して設計側と審査側をつなぎ、手続きに必要な情報を(データ)として、交換可能とする必要があります。

そのためには、BIMモデル内のテキスト、数値などの審査に必要な情報とその交換手順の定義(MVD / IDM)やデジタルデータの公証性を担保する技術が必要です。

図9:共通データ環境(CDE)によるBIM確認申請

7.IPDをけん引するインセンティブの重要性

諸制度や経済的な要因により、発注者・受注者がIPDへの取り組みを必要とした場合、新しい価値や利益を創出する明確な仕組み・シナリオがIPD導入のインセンティブとなります。FM、資産管理、IFRS対応などにおいて、IPDによりBIMが効率化、省力化、資産価値向上に有効となるシナリオが必要です。所有不動産のBIMデータにより、各種性能を定量的に見える化し、保険、REITなどへプラスの評価を与える仕組みによりIPDが活性化します。

図10:IPDをけん引する外的要因

8.民間の提携・国の指針が必要

IPDでプロジェクトを進めるにはBIMが不可欠となるが、日本とアメリカのBIMが異なることについては日米の業界構造の違いに一因があります(「BIM推進、現状の課題」BIM の日2017シンポジウム)。しかし、日本同様、各国の業界構造はそのようにできていません。英国やEU諸国では国が指針を定め、民間が提携し、実現に向けて検討を進めています。日本においては民間企業が提携し、議論の土台となる日本の実情に合った指針案を作り、国に提言することが求められます。

出典:日本建築学会 IPDコラボレーション研究WG BIMの日2018シンポジウム 2018/2/20資料より

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