Ansys社がマルチフィジックス解析ソフトウェア「Ansys 2025 R2」をリリース

2025年 8月 4日

Ansys社 2025年7月30日

Synopsys社傘下のAnsys社は2025年7月29日、同社製シミュレーションソフトウェアの最新版となる「Ansys 2025 R2」を発表した。Ansys 2025 R2は、シミュレーションを高速化し、アクセスを拡大する新しいAI機能をポートフォリオ全体に搭載している。また、ソルバーの強化、ワークフローの効率化、Pythonとの互換性の拡張、オンデマンド型クラウドコンピューティングにより、エンジニアリングの俊敏性をさらに向上させるものとなっている。Ansysのテクノロジーは、チームがモデルをスケールアップし、より革新的な設計の可能性を探求し、次世代の衛星からデータセンターの設計までインテリジェントな製品決定をより早く行えるようにすることで大きな影響をもたらしている。

Ansys社の製品担当シニアバイスプレジデントであるShane Emswiler氏は次のように述べている。「Ansysのシミュレーションは、物理学において現実の基準となるもので、理論と実験を橋渡しする役割を果たしています。50年以上の高度な物理計算の専門知識を活かした2025 R2はよりスマートで高速かつ複雑なシミュレーションを実現する機能強化を提供し、限界を押し広げ続けています。Ansysのテクノロジーは、モデル、メタデータ、トレーサビリティ、多くの標準を通じてデータを有意義なものへと変換するフレームワークを提供し、現在および将来にわたって革新的な製品の開発を支援していきます。」

Ansys 2025 R2は、AIを活用したツールと機能により人間の創造力を引き出し、シミュレーションの導入を簡素化するとともに、コラボレーションを促進し、チーム全体の生産性を向上させる。

直感的なシミュレーションを実現する物理ベースのAI

Ansys 2025 R2では、Ansysの技術を基に開発された安全性、堅牢性、信頼性に優れたバーチャルアシスタント「Ansys Engineering Copilot」が導入されている。Ansys Engineering Copilotは、AIを活用した支援機能をAnsys製品内で直接展開し、一貫したシームレスなユーザー体験と、広範な知識ベースへの即時アクセスを提供する。これには、Microsoft Azure AI Foundry(Foundry ModelsにおけるAzure OpenAIを含む)を統合したAnsysGPT、Ansysのすべてのウェブサイト、数千の記事、800を超えるイノベーションコース、グローバルなユーザーフォーラムが含まれ、サポートケースの作成と追跡機能が可能になる。

Microsoft社のAzure AI Infrastructure担当バイスプレジデントであるNidhi Chappell氏は次のように述べている。「Ansys社がお客様向けに革新的なAIソリューションの開発と統合を継続する中で、同社と協業できることを嬉しく思います。Microsoft Azure AI FoundryをAnsysGPTに統合することで、エンジニアは重要な情報に迅速にアクセスし、Ansysの深いエンジニアリングの専門知識を活用して生産性を向上させ、イノベーションを加速させることができます。」

2025 R2では、Ansysのポートフォリオ全体にAI機能が追加され、高忠実度のシミュレーションを自動的に生成、検証、最適化することで、モデル作成の高速化、手作業の削減、ヒューマンエラーの低減を実現する。

  • Ansys Engineering Copilotは、Ansys Mechanical、Ansys Discovery、Ansys Fluent、Ansys HFSS、Ansys Electronics Desktop(AEDT)、Ansys Scade One、Ansys Speos、Ansys Maxwell、Ansys optiSLang、Ansys Lumerical製品で利用でき、エンジニアがワンクリックでエンジニアリングの専門知識を取得可能に。
  • HFSSの使用により、放射パターン計算が17倍高速化するとともに、5G/6G、レーダーセンサー、衛星通信などのアプリケーションに不可欠なフェーズドアレイアンテナのビーム制御シミュレーションの精度が向上。
  • シミュレーションを簡単かつ高速で、アクセスしやすいものにするビルトインAI機能「AI+」が7つのAnsys製品に搭載。これには、軌道精度向上を支援する新しいAnsys Missions AI+ ODTKツールが含まれる。
  • optiSLangとAnsys SimAIプラットフォームの統合により、データセットの作成とAIトレーニングが加速。

これらの機能を向上したデータ処理および自動化と組み合わせることで、新たな効率化を実現し、効率的でスケーラブルなワークフローの構築が可能になる。

データ処理と自動化の強化で成果を最大化

最新のリリースは、データ処理と管理タスクを簡素化することで企業全体の効率と協業を向上させ、デジタルエンジニアリングを進化させるものとなっている。堅牢なデータ管理戦略により、企業は製品ライフサイクル全体を通じてデータの有用性を最大限に引き出し、AIモデルをトレーニングし、安心して合成データを生成できるようになる。さらに、モデルベースシステムエンジニアリング(MBSE)の強化により、チームは唯一の情報源に基づいて協業できるようになり、デジタルの継続性とチーム間の協業の確保が可能になる。

また、Pythonの互換性が拡張されたことで柔軟性がさらに向上し、エンジニアはワークフローを加速させ、データ管理を強化し、プロジェクトの再現性を確保するカスタム自動化を作成できるようになった。

例えば、エネルギー効率に優れたモーター制御ソリューションのグローバルリーダーであるDanfoss Drives社は、Ansysのシミュレーションを利用して複雑なシステム設計を検証し、革新的なドライブ技術を通じて業界が性能の最適化、エネルギー消費の削減、運用の信頼性を実現できるよう支援している。

Danfoss Drives社のバーチャルデザイン、テスト、最適化部門責任者であるMichael Laursen氏は次のように述べている。「PyAnsysは、当社のシミュレーション環境においてカスタムワークフローの自動化、統合、拡張性を実現する上で不可欠です。オープンなエコシステムによりツールを接続し、AIを活用してエンドツーエンドのワークフローを加速させることができます。Ansysのテクノロジーは、当社のチームがデジタル設計プロセスを推進し最大化することで変化を遂げる業界に対応しつつ、コスト削減と製品開発の加速を実現するのを支援してくれています。」

  • AnsysソリューションへのPythonインターフェースを提供し、ワークフローの自動化、アプリケーション全体の生産性と効率の向上を実現するPySTKおよびPyChemkinが、PyAnsysコレクション内の40以上のPythonライブラリに追加。
  • 新しいウェブベースの完全協調型ソリューション「Ansys medini Cybersecurity SE」によって、脅威分析と脆弱性管理の自動化と、サイバーセキュリティのリスク低減が実現。
  • SysML v2を使用し、包括的なMBSE手法を提供するウェブベースのプラットフォーム「Ansys System Architecture Modeler (SAM) Enterprise」により、ソフトウェア、安全性、シミュレーションが1つのソリューションで直接接続。

スマートオートメーションと包括的なデータ管理を採用することで、企業全体のチームがよりシームレスに連携できるようになる。また、高度な計算ツールにより、インサイトを迅速に行動に移すことが可能になり、チームは自信をもって正確な実行ができるようになる。

高度な計算で現実を再現

複雑な設計上の課題の解決には、現実の条件を再現する高度な物理モデルとシミュレーションが必要となる。Ansysは、お客様がイノベーションを推進できるようコアテクノロジーを継続的に強化しており、ユーザーが大幅に高速な結果を達成し、製品開発における新たな機会を拓けるよう支援している。

  • Ansys Mechanicalの新しい混合ソルバーにより、大規模な非定常モデルにおけるパフォーマンスが向上し、時間経過に伴う熱変化の効率的な解析が可能に。
  • Mechanicalの新しいメッシュフローにより、手動設定が排除され、複雑な積層電子システムのメッシング速度、レンダリング、操作性が向上。
  • Ansys RockyとAnsys FreeFlowは、熱、流体構造、電磁の連成解析を含む高度なマルチフィジックス機能を提供し、詳細なシミュレーションとパフォーマンスの最適化を実現。
  • Ansys PowerXデバッグツールは、パラサイト問題の迅速な特定、設定タスクの効率化、効率的な2次元メッシュ生成により、半導体パワーデバイスの設計時間を大幅に短縮。

例を挙げると、RFパワーのパイオニアであるAmpleon社は、高度なシミュレーション技術を活用して、4G LTE、5G NRインフラストラクチャ、ならびに産業、科学、医療、放送、ナビゲーション、安全無線アプリケーション向けの高信頼性・高性能なGaNおよびLDMOSソリューションを設計している。

Ampleon社のモデリングおよび特性評価グループチームリーダーであるVittorio Cuoco博士は次のように述べている。「電磁、熱、機械的な相互作用を効果的に管理するうえで、RFパワー製品の設計は困難なものとなります。Ansysのソリューションは、これらの課題に直接対応する精密なシミュレーションを提供し、設計リスクを最小限に抑え、信頼性を向上させます。その結果は、パフォーマンス向上、エネルギー節約、そして効率の向上と、計り知れないものとなっています。」

この加速は、クラウドベースのシミュレーションの柔軟性によってさらに強化される。オンデマンドテクノロジーを活用することで、企業はデジタルトランスフォーメーションを容易に推進できる。

クラウドベースのシミュレーションでデジタルトランスフォーメーションを推進

その他のハイライトとしては、クラウドテクノロジー、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)、GPU最適化インフラストラクチャによる計算能力の最大化などが挙げられる。これらの機能によって、さらに高速かつスケーラブルなシミュレーションを通じて、より短い時間でより多くの設計可能性を探索できるようになる。拡張されたウェブベースおよびオンデマンドの機能により、エンジニアはツールにシームレスにアクセスし、ワークフローを効率化して、デスクトップの枠を超えた製品開発の可能性を広げることができる。

  • 電子機器冷却ソフトウェア「Ansys Icepak」がGPUアクセラレーションによって大幅に強化され、より高速な反復計算、より多くのシミュレーション、非常に困難な電気熱応用分野に関する深淵なインサイトを提供。
  • Ansys Discoveryのメッシュ生成機能の向上により、シミュレーションの信頼性と品質が向上し、解決までの時間が短縮。新しいGPU機能によって、より迅速で自信の持てる設定が可能に。
  • Ansys Cloud Burst ComputeのオンデマンドHPC機能がAnsys SpeosとAnsys Lumerical FDTDなど6つのAnsys製品で利用可能となり、セットアップ、ITサポート、HPCの専門知識が不要に。

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