鹿島建設 土木設計本部様 CATIA導入事例

2022年3月9~10日の2日間に渡り、建設通信新聞の連載「BIM/CIM未来図」に、鹿島建設様のCATIA活用事例が掲載されました。このたび日刊建設通信新聞社の許諾をいただき、記事を転載いたします。

西原 一仁(にしはら かずひと)

株式会社日刊建設通信新聞社 関西支社長

BIM/CIM未来図・鹿島(上)

 鹿島の構造設計部橋梁・インフラ更新グループで、3次元モデルデータを活用した設計効率化の試みが実用段階を迎えようとしている。トライアルとして床版更新工事に適用し、PC箱桁橋梁などにも対象範囲を拡大する方針。南浩郎設計部長兼グループ長は「3次元ありきの流れを確立し、設計から施工へとプロジェクト全体の生産性向上に結び付けたい」と先を見据えている。国土交通省のBIM/CIM原則化を背景に、土木分野の3次元データ活用が広がる中、従来に比べて約5割の設計効率化を目指すという同社の試みを追った。

 2015年から国の特定更新事業がスタートし、高速道路会社各社では大規模リニューアル工事が動き出した。難易度の高い工事では設計段階から施工者が関与するECI方式が導入され、施工者であるゼネコンにとっては主体的に調査・設計段階からプロジェクトに参加するケースが増えている。同社は構造設計部の橋梁グループを橋梁・インフラ更新グループに改め、更新工事への対応を強化してきた。

 同グループではより効率的に設計を進めながら詳細な施工検証が実現する手段として、3次元モデルデータの活用を考えていた。南氏は橋梁プロジェクトに参加した測量会社が表計算ソフトを使ってコマンド入力から3次元的な図面を作成する独自の取り組みを目の当たりにして「3次元による設計効率化に以前から着目していた」と明かす。

 従来の2次元に縛られず、プロジェクトの最初から3次元設計に着手できれば、部材干渉など手戻りのない設計が実現する。本格導入に向けて3次元ツールの調査に乗り出したのは2年前のことだ。ベンダー各社にヒアリングし、パラメトリック機能によって設計変更に合わせてリアルタイムに3次元モデルが自動生成される追随性能をもつダッソー・システムズのクラウド版『CATIA』の導入を決めた。同グループの佐々木優介設計主査は「モデル追随性が設計効率化に有効な機能になり得ると直感的に感じた」と振り返る。

 当初は、需要が多い一般的なPC箱桁橋梁への採用を検討していたが、大規模な道路橋の更新プロジェクトを受注したタイミングもあり、トライアルとして床版取替工事への採用を決めた。遠藤史設計長は「床版の長さや据付け方法など現場の条件が変更されると、その都度、設計を変更せざる得ないだけに、変更に合わせてモデルが自動生成されることによって、図面の対応は迅速に進められる」と期待している。

 とはいえ、3次元ツールを導入するだけで設計作業が効率化するわけではない。同社は21年6月からダッソー・システムズ、大塚商会の2社と連携し、床版モデルのテンプレート整備などを進めてきた。佐々木氏は「条件設定の数値を入力するだけで、誰にでも3次元モデルを構築できるようになった」と強調する。すでに床版更新ではモデル生成の枠組みを確立しており、実プロジェクトへの適用にめどを付けているという。

 初のトライアルプロジェクトでは比較検証を目的に、従来の2次元設計と同時並行でCATIAを活用した3次元設計に取り組む。図面整合性の確認に加え、歩掛かりも検証し、社内展開に向けた最終準備を進める。南氏は「いよいよ来年度から実用段階のステージに入る」と力を込める。

BIM/CIM未来図・鹿島(下)

 製造業で一般的なダッソー・システムズの3次元CADソフト『CATIA』だが、土木分野への普及が加速している。2010年から上海を中心に数多くの橋梁設計を手掛けるSMEDIと土木に特化した製品開発を進め、その後に中国全土へと波及した。日本の企業への導入が広がり始めたのは19年に入ってからだ。鹿島が床版更新プロジェクトへのCATIA適用を準備する中で、テンプレート整備などを支援してきた大塚商会の馬場真郎BIM・CIM/i-con担当専任課長は「当社にとっても大きな一歩だった」と手応えを口にする。

 これまでは製造業に対してのCATIAの導入サポートが主で、建設分野に特化したCATIAエンジニアの育成が遅れていた。大塚商会は鹿島へのサポート対応と併行し、社内教育で建設系CATIAエンジニアの育成を本格化した。PLM特販2課の相川創アプリケーションエンジニアは「土木分野は製造業に比べ複雑な曲面が少ないので、パラメーター制御がやりやすく、CATIAの強みを発揮しやすい」と説明する。

 ダッソー・システムズの森脇明夫建築・建設業界インダストリー・マーケティング・ディレクターが「ナレッジテンプレートの蓄積によって経験値が高まり、より効率的な設計が実現できる成長性がCATIAの特徴」と強調するように、プロジェクトごとに工事条件が異なる建設分野とCATIAの相性は良い。

 鹿島の佐々木優介橋梁・インフラ更新グループ設計主査は「形状変更に追随してCATIAモデルがリアルタイムに修正されるため、これまでの図面修正に費やしていた手間は大幅に解消できる」と力を込める。モデル内の複雑な配筋も連動して修正され、その都度行っていた設計計算の時間短縮にもつながる。そうしたCATIAの持つ「自動生成」力によって、設計作業の進め方は大幅に改善できる。

 3次元の導入効果は、設計作業だけではない。床版の製造工程に詳細なデータを活用できるほか、組み立て工程の事前検証にもデータの活用が可能だ。使用材料の数量もモデルの属性情報を使って厳密に把握でき、床版タイプの最適化も迅速に導き出せる。設計段階から施工段階に3次元モデルデータを引き継ぐことができれば、より精度の高い施工を実現できる。ダッソー・システムズの森脇氏も「CATIAと3DEXPERIENCEプラットフォームを活用してデジタルコンストラクションを実現してほしい」と期待している。

 国土交通省のBIM/CIM原則化は、設計から施工、さらには維持管理へと3次元データを一貫利用し、プロジェクトの全体最適化につながることが狙い。鹿島はその流れを強く意識し、床版更新工事を出発点に、PC橋梁箱桁やボックスカルバート、シールドセグメントなど連続性のある構造物にも展開する方針だ。

 佐々木氏は「モデルの追随性によって図面作成の手間は大幅に減らせ、従来比で約5割の時間短縮とコスト削減の効果がある」と試算している。施工段階でも3次元モデルデータの活用効果は大いに期待できる。南浩郎グループ長は「トライアルの成果を社内外に広く発信し、業界への3次元普及のきっかけをつくりたい」と考えている。同社は生産性向上の新たな扉を開こうとしている。

大塚商会 担当者より

営業担当 プロジェクトPLM1課

馬場 真郎、大坪 浩明

土木分野でもBIM/CIM対応が目的ではなく、生産性向上のための3D導入活用ができます。効率化により投資対効果を得られることも見込めます。
さまざまな工種で利用できると思いますので、ご興味がございましたらぜひご相談ください。

サポート担当 PLMプロダクトサポートほか

相川 創、青木 陽史、大福 浩之

15年以上培ってきたCATIA活用のノウハウと3DEXPERIENCE CATIAで実装された土木設計に特化した機能の融合により、お客様の設計・施工業務の生産性向上に寄与できるサポートサービスを提供してまいります。