許容応力度はどのように決まっているのか(FAP-3で行う構造設計入門1)
建築構造でよく聞く、断面算定とは?
建築物の強度性能は、建物の種類や構造によって大きく異なります。例えば、高層ビルと一戸建て住宅では、求められる強度が全く違います。
日本の建築物は、骨組み構造が主流です。この骨組みを構成する部材の断面性能が、建物の強度を大きく左右します。鉄骨造、RC造、木造など、構造の種類によって部材の断面性能は異なります。
部材にかかる力と求められる強度
建築物の骨組みを構成する部材には、柱や梁などさまざまな種類があります。それぞれの部材には、異なる種類の力がかかります。柱には主に圧縮力が、梁には曲げモーメントやせん断力がかかります。
部材にどのような力がかかり、どの程度の強度が必要なのかを、部材ごとに詳しく検討することが重要です。
許容応力度とは
許容応力度とは、ある材料や部材が安全に使用できる範囲内の最大応力のことです。この値を超える力がかかると、部材が破損したり変形が大きくなりすぎたりして、使い物にならなくなってしまう可能性があるということです。
許容応力度は、材料の基準強度(F)を安全率(n)で除して求められます。同じ材料であっても、材料の種類や形状、使用条件などによって許容応力は異なります。
基準強度(F)
鋼材 | 降伏点と引張強さの70%のうち、小さい方の値 |
---|---|
コンクリート | 設計基準強度 |
木材 | 木材の種類や品質により定める |
鋼材は、降伏点を超えないように降伏点と引張強さの70%のうち、小さい方としている。明確な降伏点がないコンクリートや木材では、コンクリートが設計基準強度、木材は種類や品質ごとに定めています。
安全率(n)
鋼材(長期) | 圧縮・引張・曲げ(n=1.5) せん断(n=1.5√3) |
---|---|
コンクリート(長期) | 圧縮(n=3) 引張・せん断(n=30) |
部材の設計の行う場合、部材の強度や変形に対して、安全率を見込んで許容応力度を定めている。安全率は1より大きい値とし、材料が弾性体となるように許容応力度を抑えています。
長期許容応力度と短期許容応力度
許容応力度には、長期許容応力度(長期に生じる力に対する許容応力度)と短期許容応力度(短期に生じる力に対する許容応力度)があります。
- 長期許容応力度:長期間、継続的に力がかかる場合に使用する許容応力度です。例えば、建物の自重による力や、常に置かれている荷物など、長時間変わらない力がかかる場合に用います。
- 短期許容応力度:短時間、大きな力がかかる場合に使用する許容応力度です。例えば、地震や風など、瞬間的に大きな力がかかる場合に用います。
また、大地震が発生した場合、建物には非常に大きな力がかかります。この時に、部材が完全に壊れることなく建物全体が倒壊しないようにするためには、部材の終局耐力についても考える必要があります。
許容応力度 | 長期許容応力度 |
---|---|
短期許容応力度……中地震 | |
材料強度 | 大地震 |
断面算定・許容応力度の種類・基準強度・材料強度
1.断面算定(許容応力度設計)
断面算定(許容応力度設計)は、以下を満足するように行います。
(部材ごとの)応力度≦許容応力度
2.短期許容応力度と長期許容応力度はどっちが大きい?
- 短期許容応力度:10分間ならその力が働いても大丈夫という限界値(発生頻度の少ない、比較的大きな応力度)
- 長期許容応力度:50年間その力が働いても大丈夫という限界値(発生頻度の多い、比較的小さな応力度)
よって、しきい値の大きさとしては、「短期許容応力度>長期許容応力度」となります。短い時間だったら頑張って大きな力にも耐えられますが、同じ力が長い時間かかると疲れてしまいます。
3.基準強度Fとは
基準強度Fとは、許容応力度や材料強度を定めるための基準となる強度で、具体的な値は告示で定められています。
例:
異形鉄筋SD345→F=345N / mm2
鋼材SN400B→F=235N / mm2(板厚40mm以下)
許容応力度には、長期許容応力度と短期許容応力度があり、さらにそれぞれに圧縮、引張、曲げ、せん断などがあります。それらを一つずつバラバラに決めなくても基準となる強度をひとつ定めて「基準強度F」と呼び、それぞれの許容応力度はその何倍か、で表します。
例:
1.鋼材の長期許容圧縮応力度は、基準強度Fの2 / 3
2.木材の繊維方向の短期許容応力度(積雪時以外)は、基準強度Fの2 / 3
3.コンクリートの長期許容圧縮応力度は、設計基準強度Fcの1 / 3 など
4.材料強度とは
部材の終局強度(=終局耐力=保有水平耐力)を算定するために用いる材料の強度です。ほとんどの場合は、「基準強度Fの値そのもの」となります。
建築基準法および告示に基づく、許容応力度および材料強度まとめ
建築基準法および告示に基づく、許容応力度および材料強度を図1にまとめます。ただし、コンクリートにおいては、鉄筋コンクリート構造計算規準(RC規準)では引張は無視し想定せず、短期のせん断および付着は、長期の1.5倍としており相違点があります。
図1
図2:鉄筋・鋼材の諸強度
図3:コンクリート・木材の諸強度
結論
基準強度Fに対して、鋼材とコンクリート、木材では短期許容応力度、長期許容応力度は以下のように設定されています。長期許容応力度を満足する設計ならば、材料強度に比べて小さな値以下での設計となるため、より安全であることが確認いただけます。
短期許容応力度と長期許容応力度
- * Fは基準強度。コンクリートの場合は設計基準強度。
- * 鉄骨のせん断は、長期、短期それぞれ1/√3する。
- * 2F / 3=F / 1.5
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