前回の内容では改正省エネ法では考慮されていないが、通風提案としては道路を走る風をウインドキャッチャーでつかむなどの手法があるとご紹介しました。今回は出窓やウインドキャッチャーを用いたマルタの街並みについてもご紹介します。
通風設計の仕掛けとしての出窓・ウインドキャッチャー
― ウインドキャッチャーは通常の一般住宅で使用されているのでしょうか?
南氏:ほとんど使用されていない。日本は引き違い戸が多いせいもある。どちら側に開いた方がよいというのが分かっただけでもニュースになっている。「通風トレーニング」はその先を行ってしまった。ほかの建材メーカーからも次は何か出てくると思う。
― ウインドキャッチャーは今後普及していくのでしょうか?
南氏:そういうのはある。道路しか走らない風を捉えるために、これから普及していくとよいと思う。僕はマルタ島名物の出窓を面白いと感じている。日本の腰から上の出窓と違い、足もとまで囲われている。石造りの建物に取り付けられたバルコニーを囲ったのが流行ったらしい。夏は外して使用する家もあるが、日陰をつくるのが一番涼しい。デザインとしても面白いし、道路を走る風をつかむ意味でも機能的によい。
現在、私が設計しているものにも出窓を採用している。勉強していない人は「出窓は熱損失ですよ」「出窓は結露しませんか?」と言う。それは断熱の足りない設計の問題だ。もっと面白がってほしい。
南氏設計の建物
南氏設計の建物において、袖壁をなくすと通風量が増加した
マルタ島の出窓文化
― マルタ島の出窓は木製ですよね。
南氏:きれいにメンテナンスをしているが、最近ボロボロになっているのも多数ある。これを修繕するのには費用がかかるため、アルミの出窓も出始めた。アルミは安っぽいが腐らなくてよい。国は「これではマルタではない」ということで、木で造ると補助金を出しているようだ。外観はマルタの顔だということもあるようだ。
― マルタ島式出窓についても、日本で今後普及する可能性はありますか?
南氏:引き違いだと開けっ放しで出かけられないが、出窓の横なら開けっ放しで出かけられるという利点がある。何もないただの切妻の家を出窓でデザインすると面白いと思う。街並みもそろうし個性も出る。工務店は見積もりが読むことができるため、出窓1個でいくらと算出しやすい。
マルタ島名物の出窓
通風トレーニングが提示した、デザインとシミュレーションの関係
― 省エネ住宅の設計で、シミュレーションを用いるというのは昔からあったのですか?
南氏:省エネ関係では、これまでシミュレーションはなかった。先駆けて始めたのは最近のことで前先生がやりだした。
例えば、年間冷暖房負荷を計算するようになったのは最近のことだ。年間冷暖房負荷はヨーロッパなら通用するが、日本では通用しない。ヨーロッパは全館連続暖房で計算するためだ。日本では生活の仕方が違うし、計算の仕方が固められていないので年間冷暖房負荷は問えない。ヨーロッパの計算式で計算すると、実際には余ってしまう。そのような計算ばかりしている人に対して「通風トレーニング」では、どんな家を造りたいのか、どれくらいやればできるのか、窓を大きくすればできるのかを示した。あとは感覚的につかむしかない。
住宅業界はこれまでシミュレーションに対して疎く、風を科学的に捉える基準としては自立循環型住宅しかなかった。ただ、自立循環型住宅では風がどう流れるかまでは分からない。そんな時にFlowDesignerに出会い、風の流れを見た。
インタビューを通して ~通風トレーニングとシミュレーション~
インタビュアーA:風や温度は見えませんが、3次元シミュレーションの面白さは「見えない現象を見える化すること」にあると思います。見える化よって、設計者のアイディアが膨らむことがソフトメーカーとして一番貢献できるところだと思う。通風トレーニングは見えない現象を見てもらうことで、考える人にとって新しい発想が浮かぶところが面白いと思っています。この通風トレーニングを通して、見える化、そしてアイディアがどんどん膨らんでいくことが広がるといいなと思っています。
インタビュアーB:通風トレーニングは見えない現象を見せるきっかけにもなっていると思います。ウインドキャッチャーをつけたらどうなるとか、通風の本もなかった状況もありますが、そのような仕掛けがこんなに効果があるということを教えてくれているので。それをきっかけに見ることに興味を持つ人も増えてくるのではないでしょうか。
インタビュアーA:さらには、シミュレーションソフトを使ってみようという人も増えてくるかもしれないと思っています。経験と勘だけではなく、フィジックスが絡み、設計に付け加えられていくとソフトメーカーとしては面白いと思っています。
南氏:見える化しながら鍛えないと感覚がつくれない。批判者はシミュレーションで設計はできないと言いながら、一生懸命見てまだ落ち着いていない。シミュレーションとデザインとの兼ね合いを分かっていない。そこはこれからの部分だと思う。しかし、そういう人も見たら場所をこちらにつけた方がよい、というアイディアは出てくる。
南雄三プロフィール
省エネ・エコハウスの学術的な研究成果を独自のフィルターにかけながら住宅業界、消費者に伝達していく住宅技術評論が本業。そして、住宅産業を知り尽くした目で住宅産業全般のジャーナリストとしても活躍し、工務店業界では「お目付役」的存在である。
新宿にある自宅は大正時代の古住宅を環境共生住宅に再生して、資産価値を高めた実例として知られる。また、若い頃世界50カ国を放浪した破天荒な経験を持ち、今でも海外に出かけスケッチをしたり、自主ゼミを開くなど遊びと仕事の区別がない自由人としても知られる。
著書
「通風トレーニング 南雄三のパッシブ講座」
出版社:株式会社建築技術
定価:1,800円(税別)
南雄三氏
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