ウクライナ侵攻は企業にどのような影響を与えるのか

ロシアによるウクライナ侵攻の背景

ロシアによるウクライナ侵攻が2月24日に始まりました。今回のウクライナ侵攻にはさまざまな背景があるといわれています。ロシアとウクライナは、もともと30年ほど前まではソビエト連邦を構成する15の共和国の一つだったという歴史があります。

そのため、プーチン政権はウクライナを同じルーツを持つ国として、ロシアの影響力を強めようと積極的に関与を行ってきました。また、ウクライナの東側はロシアにルーツを持つ民族がいます。反対に西側はオーストリアやハンガリーに帰属していた過去を持っており、親ロシアの東側とロシアからの独立を望む西側と分断された状態が続いています。

また、かつてソビエト連邦をはじめとした共産主義国家の脅威に対抗するため、アメリカやヨーロッパ諸国を中心とした「NATO(北大西洋条約機構)」に2004年、バルト三国が加盟したことをはじめ、近年、西側寄りの政権が誕生した東欧諸国などの加盟を望む国が相次いだ西側勢力の東方拡大がロシアを脅かす懸念材料になっていました。

そのような背景をもとに今回のウクライナ侵攻は、2014年におきたクリミア併合から8年続いているウクライナとロシアの戦争だという見方をすることができるといわれています。

執筆:渡部 貢生

ウクライナ侵攻により原材料の供給に懸念

ロシアは石油、天然ガス、アルミニウム、銅、パラジウム、ニッケルなどの原材料の主要産出国。ウクライナはネオンガスや鉄鉱石の主要供給国であるほか、製造業においては欧州自動車メーカー向けにワイヤハーネスなどを輸出しています。日本にとっての影響に関しては、特にロシアで産出されるアルミニウムに対して懸念が高いといわれています。

世界全体で見ますと、半導体製造に欠かせない原料の希少金属「パラジウム」や希ガスの一つである「ネオン」はロシアやウクライナに依存している割合が高く、全世界の半導体製造に影響が表れてくることが懸念されています。今すぐにというわけでなく、原料の今ある在庫として、数カ月分程度の余力はあるといわれていますが、この戦争が長引けば供給量の低下が起こり、価格が高騰していくことが予想されています。供給量の低下で心配されているのが、DRAMやフラッシュメモリーといった製品になります。また現在、半導体のほか、リチウムイオン電池や触媒を必要とする製品にも影響が出ることが不安視されています。

さらに心配されるのはサプライチェーンになります。ウクライナ侵攻の影響はヨーロッパだけでなく、ヨーロッパからアジア諸国を行き来する物流が既に滞り始めています。ヨーロッパ各国の飛行機はロシア上空通過ができなくなったほか、新型コロナウイルス感染症のまん延により物流を担う人材不足、世界的な原油高も重なり、物の移動に混乱が生じています。

ウクライナ侵攻が与える現場への影響

ウクライナ侵攻により、ウクライナやロシアが産出、製造する原材料や部品の供給量が減少することが予想されます。さらにサプライチェーンの分断により納品の遅延なども予想されます。供給量の減少や物流面での混乱は価格や輸送コストの高騰を招きます。

現場での混乱を避けるためにも原材料や部品などが確保できるのか、いつ納品されるのか、常に確認することが必要になります。経営層、マネジメント層、現場が連携して状況を把握し、想定される外部環境に柔軟に対応できることがとても重要になってくるはずです。納品されないもの、遅延が見込まれるものがあれば、臨機応変に在庫がある業者から仕入れたり、代替品を検討したりするほか、設計自体を変更するなど、効率よく、滞りなく業務が行えるようさまざまなリスクを考えていくことが必要になってくるでしょう。全社的に調達から設計、製造、物流、販売、サポートまでの工程を見直し、柔軟に対応できる体制を整え、バリューチェーンを強化していくことがさらに重要となっていくでしょう。

執筆:渡部 貢生

ビジネス・経済、不動産、IT、医療行政をはじめ、飲食、旅行など幅広いジャンルで執筆、編集者として活動。タイにおよそ6年間滞在し、タイとASEANのビジネス・経済情報誌で巻頭特集の企画・取材・執筆のほか、雑誌全般の制作に従事。タイに進出している日系企業をはじめ、行政機関、学校関係など、さまざまな有識者へのインタビュー取材を行った。そのほか、不動産や医療行政の専門紙での記者経験を持ち、紙媒体とWeb媒体の両方で活動を行っている。