新人教育を担う人へのヒントと新人が持つべき心得

新人教育を行う目的は何か

新人教育を行う目的は、会社や先輩社員が持つナレッジ、ノウハウなどを新入社員に共有し、業務に適応してもらうことと将来の幹部候補の育成になります。早期に業務に適応できれば、新入社員は戦力化することができます。さらに幹部候補生となるような人材が育成できれば、会社の将来を担って会社の競争力を高めてくれることも期待できます。そのため、効果的で計画性のある新人教育が必要なのです。

また、効果的な新人教育が実施できれば、新入社員は自分自身の成長を感じられると同時に仕事にやりがいを見いだせるようになり、早期離職の防止につながることも期待できるでしょう。

「見て技を盗め」「経験して身体で覚えろ」。製造業や建設業では、このような職人を育てる方法もありました。しかし、この方法はゆっくりと成長していくため、社会の変化が激しく、人材の流動化が進む時代においては、スピード感に課題がありました。また、業務への適応や幹部候補の育成を目標とする新人教育において、研修を行う側と新入社員がコミュニケーションをスムーズに取れる環境が整っていなかったり、新人が理解できない言葉を使ったり、はたまた研修の目的や背景、意図を伝えないなど、せっかく新人教育を行っても、その効果を薄めてしまう要因になります。

では、どのように実施していけば、スピード感を持った効果的な新人教育ができるのでしょうか。

執筆:渡部 貢生

ナレッジを共有するためには何をすべきか

新人教育に限らず、会社で培ったナレッジのほか、ベテラン社員の勘やノウハウまでも全社的に共有することができれば、社員全体のスキルアップが期待できます。それらの共有方法として、一橋大学大学院の野中郁次郎教授らが提唱したナレッジマネジメントにおける基礎理論「SECI(セキ)モデル」が用いられます。

SECIモデルとは、個人が持つ知識や経験、勘などの暗黙知を、組織全体で共有して形式知化し、それらを組み合わせることで新たな知識を生み出し経営に生かすフレームワークのことです。このフレームワークには「共同化プロセス」「表出化プロセス」「結合化プロセス」「内面化プロセス」の四つの変換プロセスから構成されています。これらのプロセスはスパイラル構造となっており、繰り返すことで、よりレベルの高い知識を生み出します。

SECIモデルでは、四つのプロセスを活性化させるためには、各プロセスに適した「場」が必要だと提唱しています。

  • 他者と知識の交換を行う「創発場」
  • 業務や会議におけるディスカッションを通じて、形式知化する「対話場」
  • 大勢の人が知識を持ち寄る「システム場」
  • 再び暗黙知へと変換して内面化する「実践場」

SECIモデルを実践するにあたり、社内で「場」を用意することが不可欠です。

新人教育において、教える側の「教え方」というスキルが重要になります。このスキルは知識と訓練で向上させることが可能で、教え方のスキルを身に付けることができれば、新人や部下の成長を早めることが期待できます。新人教育における知識の一つとして、先述したSECIモデルをあげることができます。教える側がSECIモデルを活用した教育プログラムを設計することで、効果的な新人教育を実施することができるでしょう。

新人から会社の戦力となる社員を目指す心得

右も左も分からない新入社員はまず学ぶという姿勢が第一歩になります。社員として働くということは、自分で考えて行動するということです。新人のうちは上司や先輩からの指示を的確に対応するため、その指示の意味を考えて動き、その仕事の意味を理解し、慣れてきたら自分で考えて動くこと、つまり仕事を学ぶことが重要です。

実際の業務は、仕事をとおして身に付けていくしかありませんが、早く会社の戦力となるよう実践すべき新入社員の心得があります。

まずは整理整頓が基本

はじめに仕事を早くするためにはデスクや自分の持ち場をきれいに整理整頓すること。これはデスクなどが散らかっていれば、作業スペースがなく、またどこに何があるのか把握できないため、効率的に仕事ができません。また、人からの印象を左右する身だしなみにも注意が必要でしょう。

時間を守ることは社会人としてのルール

次に時間を気にすること。1日のスケジュールを考え、時間で区切って仕事をすることが重要です。仕事は打ち合わせやアポイントの時間、締め切り日時など、決められた時間は守るということが社会人としてのルールになります。仕事の予習や復習を行うこと。ミスを防いだり、間違いを発見できたりするほか、より効率的なやり方が発見できたりすることもあります。

「報・連・相」は確実に実施。また、分からないこと、疑問点などはすぐに質問すること。分からないこと、疑問点はそのままにせず、すぐに上司や先輩に相談しましょう。あいまいなまま仕事していると間違った仕事の進め方をしていたり、取り返しのつかない事態に陥ったりすることもあります。「報・連・相」(報告・連絡・相談)を心掛け、社内でコミュニケーションを取ることはスムーズに仕事を進めていくためにも重要なことです。

社会人としての基本的な心得を紹介しました。心得を意識しながら業務に必要な知識や技術は積極的に学び、習得していくこととはスキルを磨くことと同意義になります。スキルを磨くということは自身の価値をあげていくことになります。自分のためになると思って仕事に積極的に取り組む、それが新入社員としての心掛けるべき姿勢と言えるでしょう。

執筆:渡部 貢生

ビジネス・経済、不動産、IT、医療行政をはじめ、飲食、旅行など幅広いジャンルで執筆、編集者として活動。タイにおよそ6年間滞在し、タイとASEANのビジネス・経済情報誌で巻頭特集の企画・取材・執筆のほか、雑誌全般の制作に従事。タイに進出している日系企業をはじめ、行政機関、学校関係など、さまざまな有識者へのインタビュー取材を行った。そのほか、不動産や医療行政の専門紙での記者経験を持ち、紙媒体とWeb媒体の両方で活動を行っている。