製造業DXに向けたAI・IoT活用のポイント、業務改善の事例を解説
AI・IoT活用による業務改善で、製造業DXの実現に大きく近づくことが期待されますが、製造業でのAI・IoT活用にはさまざまな課題があり、特に中小製造業にとっては取り組みにくい状況になっています。そこで今回は、製造業におけるAI・IoT活用のポイントや業務改善の事例などをご紹介します。
柵山 英之(監修)
株式会社大塚商会 本部SI統括部 ニュービジネスプロジェクト 課長
製造業DXとは
製造業におけるDXとは、ものづくりの現場で培ってきたデータを活かしてQCD(Quality:品質/Cost:原価/Delivery:納期)を向上させると共に、顧客や社会のニーズに合わせてビジネスモデルを変革させることです。そのためには、データやデジタル技術を駆使するだけではなく、企業文化や風土そのものも変革する必要があります。
昨今、製造業でDXに取り組んでいる企業は増加傾向にありますが、具体的な成果を出せている企業はまだまだ少ないのが実情です。実際にIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が刊行している「DX白書2023」によると、調査対象となった製造業の中でDXに取り組めているのは20%~30%という結果が示されており、売上規模が大きくなるほど取り組みが進んでいる傾向にあります。
DXを推進するうえで、AI・IoTの活用はかかせませんが、これらを導入・活用するのにもさまざまな課題があります。
製造業がAI・IoTを活用するうえでの課題
ここでは、製造業でAI・IoTの活用が進まない理由やよくある課題についてご紹介します。
データを集められていない
多くの製造現場では、紙帳票への手書きやエクセル入力といったアナログな業務がまだまだ残っています。その影響で、ものづくりのノウハウや作業内容が属人化しており、ほかの人やシステムに情報を共有して活用しやすい形でデータを蓄積できていないケースがあります。
AIをものづくりに活用するには、社内や製造現場に存在するさまざまなデータから学習させる必要がありますが、データが少ない状況では最大限に活用できなくなってしまいます。AIを活用していくには、先にデータを蓄積する仕組みを構築することが重要です。
ITツールへの投資ができていない
AI・IoTを活用するには何らかのITツールを導入することになりますが、それらの多くは一般的に高額なものが多く、特に中小製造業にとっては簡単に導入できるものではありません。また、製造業全体の課題として、AI・IoT活用のために既存の生産設備などを新しいものに全て入れ替えることは現実的に難しく、DXを推進するための攻めのIT投資ができていない傾向にあります。
確かに予算には限りがありますが、既存の生産設備なども活用しながらデジタル化できる仕組みも増えてきています。自社の課題や目指す姿を明確にしたうえで、スモールスタートで攻めのIT投資を行うようにしましょう。
デジタル技術に精通した人材が不足している
昨今では日本中の企業がDXに取り組み始めていますが、DXを推進できるほどデジタル技術に精通した人材は社会全体で不足しています。特に中小製造業においては、情報システム部門を持っていない企業も多くその傾向が顕著です。そのため、自社の課題や目的に合致したITツールを選定・導入するのが難しくなっています。
AI・IoTのような新しい技術を活用していくには、自社の人材に対してデジタル技術やデータ分析の教育を行う必要があります。また、必要に応じて外部の専門家の力も借りながら、DXを推進していくことが重要です。
製造業DXにつながるAI・IoTの活用
ここでは、製造業でのAI活用方法や、AIの効果を最大限に発揮するために欠かせない、IoTによるデータ収集の重要性についてご紹介します。
製造業におけるAI活用方法
AIの活用方法は、画像認識・音声認識・自然言語処理・生成AIなど多岐にわたります。製造業においては、古くからあった画像認識による品質検査などにはAIが搭載されるようになりましたが、それ以外の用途では、まだあまり活用されていない状況です。
しかし、昨今ではAIによるデータ分析が実用化されており、従来は人の勘や経験によって行われてきた次のような業務をAIに置き換えられるようになっています。
- センサーから取得したデータを基にした設備の故障予測・異常検知
- 過去の売上実績や外部の気候データなどを基にした需要予測
- 設備の稼働実績や作業者の記録、検査結果などを基にした不良要因の分析
これらの業務に対して積極的にAIを活用することで、製造業のQCD向上に貢献できます。また、AIを活用するメリットは人の「思い込み」や「決めつけ」を排除して予測や分析を行える点にもあります。AIが新たな気付きを与えてくれることで、今まで実施できていなかった品質改善や業務改善も行えるようになっていくでしょう。
AIの活用にはIoTによるデータ収集が必須
AIによる予測や分析の精度を高めるには、学習用データの量と質が極めて重要です。データ量が少なかったり、欠損していたりすると、AIの学習が不十分になり適切なアウトプットを得られない恐れがあります。
しかし、上述したように多くの製造業ではデータを集める仕組みが整っていません。そのため、AIを導入する前にIoTなどを活用したデータ収集に取り組む必要があります。ここでポイントになるのが、「AIの活用を目的にデータ収集を始める」という点です。AIの用途やそのために必要なデータが何なのかを考えないままIoTを導入してしまうと、せっかく収集したデータを有効に活用できずに失敗する可能性が高まります。
AIをどのような用途で活用するのか、そのために必要なデータが何で、どのように収集すればよいのかを事前に検討したうえで、IoTを導入するようにしましょう。
製造業がAI・IoTを活用する際のポイント
ここでは、製造業がAI・IoTを活用してDXを実現するために重要なポイントを三つご紹介します。
基幹業務システムによるデータ蓄積
まずは、自社のあらゆるデータを二重入力することなく活用するために、基幹となるシステムを導入します。受注・発注・生産・在庫・出荷などの業務を基幹業務システム上で行うことで、それらの業務・作業にひも付いたデータを記録できると共に、データの一元管理が実現します。
基幹業務システムを導入する際には、自社の規模や業種・業態に合ったシステムを選定しなければなりません。また、AI・IoTを活用していくためには、IoTによって収集したデータや、市況・気象・相場変動といった外部のデータとも連携できるように、拡張性の高いシステムを選定することも重要です。
IoTによる製造現場でのデータ収集
次に、製造現場で発生するさまざまなデータをIoTで収集します。紙帳票への手書きや、システムへの手入力で記録をしていると、データ収集の手間が発生するだけでなく、記録ミスなどが発生してデータの精度も悪くなりがちです。精度の高いデータを手間なく、リアルタイムに収集するには、IoTを活用するとよいでしょう。
- 生産設備(PLC)から得られる稼働実績データ
- 作業者がタブレット端末などで記録した作業実績データ
- 各種センサーから得られる画像・音・振動などのデータ
- 計測器・計量器から得られる品質データ
- バーコード/QR/RFID/ビーコンから得られる在庫の入出庫データ
このような製造現場データをIoTで収集し、さらに基幹業務システムのデータにひも付けることで、AIによるデータ分析を実現しやすくなります。
AIによるデータ分析
最後に、基幹業務システムやIoTで収集・蓄積したデータをAIモデルに学習させ、要因分析などのさまざまな用途で活用していきます。AIは膨大なデータの中から属性や事象などの目的につながる特徴量(要因)を抽出することで、今まで人が気付けなかった要因も発見できます。その要因を参考にしながら業務改善を繰り返すことで、製造業DXに近づけるでしょう。
一般的にAIは、データサイエンティストと呼ばれる専門家が試行錯誤しながらデータ分析を進めるものと考えられています。しかし、昨今ではデータ分析における大半のプロセスを自動化できるAIも存在しているため、必要なデータさえ用意できていれば、製造業が気軽にAIを活用できるようになっています。
製造業DXにつながるAIデータ分析の事例
こちらは、製造業全般に活用可能ですが、例として化学・化粧品・食品製造業での事例となります。原料を攪拌(かくはん)するなどして加工し、中間検査を経ながら製品として完成させていくという製造プロセスの場合、その各工程で記録した加工条件・品質記録・設備の点検記録などのデータを基に、適切な製造条件を予測するAIモデルを作成することで、不良要因分析を行えます。
従来は、人が限られた情報の中から不良要因を分析するのが限界でした。しかし、AIであればビッグデータの中から人が見つけられなかった深い要因を抽出することが可能です。例えば、原材料の受入検査において、ある項目の検査結果が一定の数値を下回ると不良率が上がることが分かれば、その時点で担当者に注意喚起を促して、その後の製造条件を調整するといった対応ができます。また、加工後の中間検査で成分・濃度・色などの検査結果が閾値(しきいち)を外れた場合に設備のメンテナンスを実行して、不良の発生を未然に防ぐといった施策も考えられます。
このように、AIによるデータ分析の結果を基にさまざまな取り組みをすることで、ものづくりのQCD向上に貢献できます。
まとめ
製造業がDXを実現するには、AIの活用を見据えつつ、まずは基幹業務システムの導入やIoTによるデータ収集から取り組んでいくことをおすすめします。これらのシステムは一般的に高額になりがちですが、大塚商会では、お客様の業種・業態や目的に応じた適材適所の提案によって、段階的に検討・導入していただけます。製造業DXに取り組んでいきたい企業の方は、お気軽にご相談ください。
柵山 英之(監修)
株式会社大塚商会 本部SI統括部 ニュービジネスプロジェクト 課長
JDLA(一般社団法人日本ディープラーニング協会)Deep Learning for ENGINEER 2024#1、Deep Learning for GENERAL 2022#3