PLMとは? 製造業DX実現に向けて、導入の効果・メリット・進め方を解説
多くの企業がDXへの取り組みを検討する中、昨今製造業を中心にPLM(Product Lifecycle Management)導入のご相談をいただくことが非常に増えています。顧客ニーズの多様化、競争激化、グローバル化、法規制、労働人口減少など、さまざまな環境変化がある中、DX実現につながる仕組みとしてPLMが注目されています。PLMにより企業全体で製品情報を共有・活用することでなぜDX実現につながるのか、本記事ではPLMとは? 導入の効果・メリット・進め方と、代表的な製品をご紹介します。
世に数多く存在するPDM・PLM製品は、それぞれ機能・規模感・ライセンス体系などさまざまで、特徴が異なります。課題・実現したいこと・DXの目的によって、最適な製品を選定し導入を進めることが重要です。
大塚商会はマルチベンダーとして、複数のPDM・PLM製品を対象とした導入の進め方のアドバイスから具体的なご提案、構築まで、全般にわたってご支援します。ご検討中、またはこれから検討を開始するお客様は本記事をお読みいただき、まずは一度ご相談ください。
製造業DXにおけるPLMの位置づけと重要性
まず初めに、大塚商会が考える製造業DXにおけるPLMの位置づけと重要性を解説します。
大塚商会が考える製造業DXにおけるPLMの位置づけ
下図は、3D設計~3Dデータ活用環境の理想形を分かりやすく「つくる」「ためる」「つかう」に分類して表現しています。
- 3Dを設計検討に活用して、良い製品を効果的かつ効率的に「つくる」取り組みができている。
- 3D設計情報をものづくり工程で効果的に使えるように「ためる」環境ができている。
- 3D設計情報をQCD改善、業務改革のために「つかう」取り組みができている。
製造業DXを成功させるためには、3Dデータを流通、活用するための仕組みが不可欠です。
「つかう」で3Dデータを活用するためには3Dデータだけではなく、BOM(Bill Of Materials)情報などの設計情報を付加した3D+BOMデータである必要があります。「つくる」で作成された3Dデータに情報を付加し、「つかう」人がほしい状態で3Dデータを取り出すことのできる仕組みとして、PLMを構築することが重要です。製造業DXのプラットフォーム、デジタルデータを管理する基盤となるPLMに関して、ここから詳しく解説します。
3Dデータがつかいやすい状態とは? 3D+BOM管理の重要性
前述したように、さまざまな業務において3Dデータを活用することが重要ですが、ここで一つ問題提起します。
3Dデータをつかう人(製造・サービス・営業・など)が、つかいやすいように3Dデータは管理されているでしょうか? では、3Dデータがつかいやすい状態とは、どのような管理がされていればよいのか、解説します。
製造業が設計・製造するものは当然製品であり、設計・製造・サービスなどあらゆる業務において、3Dデータをつかう人がほしいのは製品の情報です。製造業の業務においては、多くの場面で3Dデータや図面を確認したり、製品の構成情報であるBOMや部品表を確認したりします。形状を表す3Dと製品構成を表すBOMの情報、これらを合わせて製品のデジタルデータといえ、このデータが容易に入手できる状態が理想的です。
このように3Dデータがつかいやすい状態とは、3Dデータだけではなく、BOM情報を付加した3D+BOMデータが管理されている状態といえます。
実際の業務に当てはめてみると、設計・生技・製造・サービス・営業など、各部門はBOMから製品の情報を探すことが多いと思います。3D+BOMとして管理されていれば、例えば品番、状態、バージョン、仕様などの情報から、3Dデータも簡単に入手できるため、つかいやすい状態といえます。
活用例としては、以下が挙げられます。
- 生産技術部門では、設計の進捗(しんちょく)を確認しながら承認前のユニットの3D組み立て検討と指示書作成を開始
- サービス部門では、保守部品の情報も確認しながら、3Dをつかってイラストやパーツカタログを作成
- DR(デザインレビュー)での活用例としては、設計から3Dデータを送付してもらう必要なく、関係部門がそれぞれ承認前の3Dを確認してDRが可能
まずは初めに、3Dデータがつかいやすい状態を確認しました。
しかし、まだまだ3DとBOMは別で管理されていることが多いのが現状です。
よくある管理の例としては、
- 設計部門のサーバーで製品ごとのフォルダーに3D CADデータとExcel部品表を管理
- フォルダーではなく、3DはPDMシステム、BOMはERPシステムとそれぞれ別のシステムで管理
などが挙げられますが、3Dデータの活用を促進するためには、3D+BOMデータを全社で流通させる必要があります。
下図では、理想的な3Dデータの流通・活用の姿を表現してみました。3D+BOMが製品のデジタルデータの大本となり、営業・マーケティングではCG、VR(バーチャルリアリティー)など、設計検証関連ではCAEや3Dプリンター、生産技術・製造では組み立て検証やメカトロシミュレーション、点群データ活用、サービスでは3Dパーツカタログ、ARメンテナンス、IoTなどなど。
このように3Dデータを全社で流通すれば、さまざまな業務で3D関連のソリューションにより、3Dが最大限の効果を発揮します。
この姿を実現するための仕組みがPLMシステムです。3D+BOMをPLMで管理することにより3Dデータが全社で流通・活用され、結果製造業DXの実現につながると考えています。
PLMとは
それではここから、PLMとは? を詳しく解説します。
企業における基幹システムの位置づけ(ERPとPLMの違い)
まず初めに、企業における基幹システムの位置づけとして、ERPシステムとPLMシステムの違いを確認します。BOM情報を管理する、という意味でこの二つのシステムは混同されることがありますが、明確に異なる役割を持っています。
ERPシステム | 販売生産活動、いわゆるサプライチェーンの情報を管理・業務を支援する仕組み |
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PLMシステム | 製品化活動、いわゆるエンジニアリングチェーンの情報を管理・業務を支援する仕組み |
ERPシステムの中でも、生産活動は主に生産管理システムによって支援されます。このとおり、二つのシステムには明確な役割の違いがありますが、BOM(製品構成情報)を管理する点が共通点として挙げられます。
共通の情報であるBOMを二つのシステムでそれぞれ登録・更新する手間を削減するために、BOM情報を連携するようなシステム間連携の仕組みを構築することが一般的です(標準機能での出力/入力、または連携機能開発が多い)。
PLMの概要
PLM(Product Lifecycle Management)とは、製品ライフサイクル管理を意味します。PLMシステムを少しかみ砕いてご説明すると、製品のライフサイクル全般に関わる情報(データ)をBOMを中心に管理する仕組みといえます。製品が企画されてから廃棄されるまでの情報を、全社で管理・活用できることがポイントです。
このようなPLMシステムですが、現在のように製造業での導入が進むまでに下図のような発展を遂げてきました。
従来の情報管理
製品に関わる情報は、さまざまなシステムやサーバーあるいは紙媒体として保管。正しい情報の入手は困難、設計者を介して情報を入手する必要がある。
CADデータ管理
3D・2DCADの参照関係、属性、履歴、状態を管理。CAD利用者のみが利用するシステム。
PDM(Product Data Management):製品データ管理
製品構成(BOM)を中心に情報を管理。多くは設計部内でのEBOM、およびドキュメント管理に利用。
PLM(Product Lifecycle Management):製品ライフサイクル管理
製品のライフサイクル全般に関わる情報を管理。全社でのxBOM(目的別BOM)管理+αが可能。
このように非常に広い範囲の業務をカーバーできるPLMシステムですが、企業によって導入範囲は異なり、業務改善・改革のテーマによって部分的な導入からスタートするケースが一般的です。
下図は、PLMシステムで主に管理できる情報とそのつながりを簡易的に表しています。前述したように、このように製品情報を流通、活用するための仕組みを構築し業務を変革することが、製造業DX実現につながります。
PLMの導入効果(ROI例)
続いて、PLMの導入効果を費用対効果(ROI)の例も踏まえて確認します。
まずは「情報共有が不十分」であることにより発生する問題を確認します。
下図のとおり、情報を探し出すことができない状況は、赤字案件の発生、残業時間の増加、生産性の低下、原価高による利益圧迫、品質の確保が困難、仕損による損失が増加、損失発生・顧客満足低下など、多くの問題を引き起こします。
続いて、PLMシステムによる情報管理を実現した場合の効果を確認します。
下図のとおり、さまざまな情報の入手・活用が容易になることにより、結果としてQCD(コスト・品質・納期)改善につながり、企業の最大の目的である利益率向上の効果が見込めます。
このように大きな効果を見込めるPLMシステムですが、当然システムの導入(イニシャルコスト)と維持(ランニングコスト)には費用がかかります。それらの投資を上回る効果が出るか? は当然導入の判断として重要となります。
下図は、PLMシステム導入の費用対効果(ROI)の例です。業務ごとに見込める導入効果に対し、関係人数×時間単価×所要時間×削減割合を掛け合わせて算出します。削減の割合は企業や業務によって異なりますが、一般的に20~30%が目安となります。
ポイントは単なる人的工数の削減効果だけではなく、その他、品質向上、開発LT短縮、試作削減、人的ミス削減などの効果も期待できます。さらに、削減された時間を新しい仕事に割り当てることにより、新たな売り上げを生み出せます。
しかし、当然PLMのパッケージ製品を購入するだけではこのような効果は得られません。いかに大きな効果を出すか、そのための導入の進め方は後ほど解説します。
代表的なPDM・PLM製品の特徴(各製品ページへリンク)
ここまでPLMの概要とその効果を確認しました。続いては代表的なPDM・PLM製品の特徴を解説します。
冒頭でも解説しましたが、世に多くの製品が存在し、それぞれカバーする業務範囲、機能、規模感、ライセンス体系等々さまざまで、特徴が異なります。例えば、製品ライフサイクル全般にわたって情報管理ができるPLMや、特定のCADデータ管理を得意とするPDMまでありますが、何を実現したいか、どんな効果を目指したいか、自社の課題・実現したいこと・DXの目的によって、最適な製品を選定し導入を進めることが重要です。
下図に代表的なPDM・PLM製品がカバーする領域と簡単な特徴を記載します。各製品のアイコンをクリックして、製品紹介のページもご確認ください。
PLM導入の進め方
ここまでの内容で、PLMで何ができるのか、どのような効果があるのか、ご理解いただけたと思います。ここからは一番多くいただくご相談「どのように導入を進めればよいか」にお答えします。
大塚商会のPLMへの取り組み
大塚商会は古くからCAD関連ビジネスの専門部門を設け、幅広いソリューションをお客様へ提供しています。PDM・PLMビジネスに関しても、東証プライム上場企業主要製造業様の18%に導入の実績があります。さらに独立系SIerとしてマルチベンダーとしての特徴を持ち、複数のPDM・PLM製品を取り扱っているため、お客様に合った製品のご提案・サポートが可能です。
PLMシステム導入の進め方
企業におけるシステム導入ステップとして、一般的に次の流れが挙げられます。
- 中期経営計画や情報戦略
- 現状業務・システム調査分析
- 改革方針・システム化計画
- プロジェクト目的・ゴール・方針
- プロジェクトスコープ決定
- プロジェクト体制発足
- プロジェクト計画策定
- システム導入プロジェクト開始
- システム稼働
PLMシステム導入においてもこの流れの中で、現状と導入後業務の整理(AsIs-ToBe)、製品の選定、効果の明確化、導入プロジェクト計画の策定を経て、実際の導入プロジェクトをスタートします。
通常自社のみで導入を進めることは困難ですので、大塚商会はPLMシステム導入の計画~構築~運用まで全般にわたって、以下のようなご支援をしています。
まずプロジェクト開始までの支援として、サーバーなどのインフラも含む導入支援をご提案します。
ヒアリングによる現状課題の整理
これまでの経験・ノウハウを基に潜在的な課題・要望も顕在化して整理。
製品選定に向けた製品情報提供・デモ
選定ポイントは? 機能・実績・ライセンス体系・価格・グローバル・拡張性 など。
システム導入の ROI(費用対効果)の試算
何年で投資回収できるか? 定量的な効果を試算。
システム化計画・プロジェクト計画の策定支援
導入の進め方検討、最近は PoC(Proof of Concept)・PoV(Proof of Value)も。
続いて実際の導入プロジェクト支援として、環境構築・コンサルティング・教育・開発を実施、システム稼働後は保守としてサポートを継続します。もちろんPLMだけではなく、関連するCADや3D活用ソリューションのご支援も可能です。
PLMシステム構築のポイント
PLM構築時のポイントは多くありますが、ここでは3Dデータ活用のための重要なポイントを3点紹介します。
1点目は、プロジェクト初期の要件定義段階で、「全社での3D活用イメージを具体化する」ことです。
当然業務改善や効果を出すために導入を進めますが、ありがちな話としていつの間にか導入すること自体が目的になってしまうケースが挙げられます。全社・各部門でこんな風に3Dを活用したい、DXを実現したい、そのイメージ、ゴールを明確化しプロジェクト内で共有することが重要です。
2点目は構築方針に関して、基本はFit to Standardの方針で、「パッケージ標準機能での実現方法を検討する」ことをおすすめしています。
Fit&Gap分析から、業務に合わせたカスタマイズを実装する方針ももちろんメリットはあります。しかし、PLMシステムも進化・成熟しており、クラウドサービス・SaaSとして提供されることも増えてきました。それぞれのPLMが持つベストプラクティスに業務を合わせ、効果の高いカスタマイズのみ検討することにより、PLM構築時の大きなハードルであるコストと期間を大幅圧縮できます。Fit to Standardの代表的な例は紙図面への押印から電子ワークフローへの変更です。デジタル化に合わせて業務自体を変える、これはDXへの一歩と言えると考えます。これからのクラウド時代、自前のシステムを業務に合わせてカスタマイズすることだけではなく、Fit to Standardの考え方もぜひご検討ください。
最後3点目は、つかいやすい3Dをつくるために、「3D CADの運用検討も同時に実施する」ことです。
BOMは3Dから生成されます。3D+BOMデータの理想は、3Dに製品の全ての情報を持たせる、つまり3D=製品の状態です。デジタルツイン、フル3Dと呼んだりもします。このためには設計段階で3Dのつくりこみが必要、そしてそれを実現する運用が必要となります。
大塚商会は3Dソリューション全般得意としていますので、ぜひご相談ください。
まとめ
冒頭でご紹介した図を再掲します。
3D設計~3Dデータ活用環境の理想形に向けて、「つくる」「ためる」「つかう」それぞれの領域でIT技術やソリューションを効果的に活用すること、そして全ての業務においてデジタルデータをつなげて活用することがポイントです。
その中核となるPLMについて、今回は詳しく解説しました。効果、導入の進め方など、概要はお伝えできたと思います。しかし、実際の導入に向けてはさらに深く検討が必要であり、どこから手を付けてよいか? 迷われるケースもあると思います。
ご検討中、またはこれから検討を開始するお客様、ぜひ一度大塚商会へご相談ください。