コア数は何コア必要? 解析時間はどこまで短縮できる? ―大塚商会が実機で検証したThinkStation最適スペック選定術

SOLIDWORKS解析を加速するワークステーション検証

製造業における設計・解析業務の効率化に向けて用いるワークステーションの性能は、自社の競争力にも大きな影響を及ぼす。しかし「どのスペックを選べば最適か」「費用対効果をどう判断すべきか」という声は後を絶たない。

そこで、CAD/CAE分野で豊富な提案実績を持つ大塚商会は、3D CADソフトウェア「SOLIDWORKS 2025」の各種解析において、世代の異なるAMD Ryzen Threadripper PRO搭載のLenovo ThinkStation P620とLenovo ThinkStation P8で実機検証を実施。解析種別ごとの最適コア数や、CPU世代による性能差を定量的に明らかにした。

CAE解析用ワークステーション選定でありがちな「性能重視 vs コスパ重視」のジレンマ

大塚商会では、解析業務のデジタル化を目指す製造業に対してSOLIDWORKS SimulationやSOLIDWORKS Flow Simulation、SOLIDWORKS PlasticsといったCAEソフトウェアを提案している。また、この商談の際には、顧客企業の実際の解析モデルを用いて事前にベンチマーク(テスト解析)の実施を必要とすることがある。解析作業は計算負荷が極めて高く、ワークステーションの性能が業務効率に直結するためである。

しかし、ここで「スペック選定」という難題に直面する。顧客からは「どのスペックを選べば最適か」「費用対効果をどう判断すべきか」という相談が後を絶たない。

ある顧客は「最大性能」を求める一方、別の顧客は「コストパフォーマンス」を最優先する。計算時間と導入コストのバランス、さらにはモデル規模や解析種類――これら多岐にわたる条件を総合的に勘案し、用途に最適なスペックを提案することが求められる。

大塚商会ではこれまでも顧客の業務内容に応じた費用対効果を重視したワークステーション選定を行ってきた。しかし、より精度の高い提案を行うには、さらなるデータの裏付けが必要だ。コア数やクロック数が異なるCPUでは、実際にどれくらいの性能差が生じるのか。どの解析用途に、どのスペックが最も適しているのか――こうした疑問に明確に答えるためには、感覚ではなく定量的なデータが不可欠である。

多くの企業が陥る「スペック選定」の落とし穴

実際、CAE解析で用いるワークステーションの選定は単純ではない。多くの企業が技術的な理解不足や予算優先の誤った判断により、生産性低下やコスト増を招いている。

よくあるのが「ゲーミングPCでも十分では?」という誤解にもとづく失敗だ。確かに最新のゲーミングPCは高性能なGPUを搭載し、しかもワークステーションより安価に導入できる。しかし、CAEソフトウェアの多くはワークステーション系のGPUに最適化されており、逆に言えばゲーミングPC系のGPUでは描画精度に差異が生じる可能性がある。

さらに決定的なのは、ゲーミングPCの多くが互換性や安定性を保証するISV認証を取得していないことだ。つまり、ソフトウェアベンダーのサポート対象外となり、トラブル発生時に「動作保証外の環境です」と突き放されるリスクを抱えることになる。初期コストを抑えたつもりが、結局は解析精度の問題や動作不安定によって作業が滞り、最終的には買い直しを余儀なくされる―こうした事例は決して珍しくない。

また、「コア数が多ければ多いほど解析は速くなる」という思い込みも危険だ。確かにコア数の増加は並列処理の性能向上につながるが、全ての解析ソフトウェアが多コアの恩恵を等しく受けられるわけではない。アプリケーションによっては、一定のコア数を超えると性能向上が頭打ちになるケースもある。過剰なスペックに投資した結果、費用対効果が見合わなくなってしまうのだ。

「既存ワークステーションで十分」という判断も失敗に陥りやすい。顧客からは「使用する解析ソフトに関わらず、可能な限り高性能なワークステーションを選定するべき」「導入してから数年経つが、導入時点で高性能なワークステーションを選定したため、買い替える必要性を感じない」といった声がよく聞かれる。

一見合理的に思えるものの、最新CPUで同じモデルを解析すると「倍以上速くなった」と驚かれるケースは少なくない。つまり、「費用対効果の誤認」が発生しやすい領域なのだ。

CAE解析用ワークステーションは単なるハードウェア投資ではなく、企業の設計・開発能力を左右する戦略的投資にほかならない。目先のコストだけでなく、長期的な生産性と競争力の観点から適切な選定を行うことが、自社の競争優位性の維持につながる。

コア数増加の効果とCPU世代差を実機で検証

上記のような困難や問題を踏まえつつ、ワークステーション選定で失敗しないための定量的なデータを示すため、大塚商会では実機ベンチマークによる性能検証を実施した。

「コア数が多ければ解析が速くなるのか?」「CPU世代が新しければどれくらい速いのか?」「解析種別によって最適構成は変わるのか?」といった疑問に対する、正確な答えを導き出すことを目的とするものだ。

この検証に用いた環境と実施内容は、下記のとおりである。

ワークステーション

 

機種Lenovo ThinkStation P8Lenovo ThinkStation P620
OSWindows 11 ProWindows 11 Pro
プロセッサー(CPU)AMD Ryzen Threadripper PRO 7965WXAMD Ryzen Threadripper PRO 5965WX
プロセッサー動作周波数4.2GHz3.80GHz
ターボブースト最大周波数5.3GHz4.50GHz
CPUコア数2424
スレッド数48
検証時設定:24(注1)
48
検証時設定:24(注1)
主記憶(RAM)容量256GB32GB
グラフィックスNVIDIA RTX 2000 Ada GenerationNVIDIA RTX A2000
ビデオRAM容量16GB12GB
  • (注1)SMT(Simultaneous Multi-Threading、同時マルチスレッディング)をオフにして検証
  • * 今回のベンチマークテストではメモリ側がボトルネックになることはなく、CPU性能のみを比較しています。検証環境を正確に把握するために、機材情報を記載しています。

CAEソフトウェア

  • SOLIDWORKS Simulation(構造解析)
  • SOLIDWORKS Flow Simulation(熱流体解析)
  • SOLIDWORKS Plastics(樹脂流動解析)

検証のポイント

1.CPU世代による性能差の定量化

旧世代のThinkStation P620(AMD Ryzen Threadripper PRO 5965WX)と、新世代のThinkStation P8(AMD Ryzen Threadripper PRO 7965WX)では、動作周波数やアーキテクチャが異なる。この差が実際の解析時間にどれほどの影響を及ぼすのかを明らかにする。

2.コア数を変化させた場合の計算時間比較

「コア数が多ければ多いほど速い」という単純な法則が成り立つのか、それとも一定のコア数を超えると効果が頭打ちになるのか。さらに、解析種別によってコア数の有効性は変わるのか――これらの疑問に、定量的なデータで答えを出す。

検証結果:新世代CPUで大幅な時間短縮、ただしコア数増加は頭打ちも

1.CPU世代による性能差

まず明らかになったのは、CPU世代による性能差の大きさだ。検証した全ての解析において、新世代のThinkStation P8は旧世代のP620と比較して計算時間の短縮を実現した。特に動作周波数の高いCPU構成では、その差が顕著に表れている。

最も効果が大きかったケースでは、計算時間が52%も短縮された。これは言い換えれば、ThinkStation P620で10時間かかっていた解析がThinkStation P8では約4.8時間で完了するということだ。この差は、設計の試行錯誤回数や納期に直結する重要な要素である。

2.コア数増加による計算時間短縮効果

次に注目すべきは、コア数増加による計算時間短縮効果だ。ThinkStation P620、ThinkStation P8のどちらのハードウェアにおいても、同時処理を行うコア数が多いほど計算時間が短縮される傾向が確認された。特にThinkStation P8では、並列数が増えることによる短縮効果が顕著だった。より新しい世代のCPUでは、並列計算の効率そのものが向上していることが裏付けられた形だ。

今回の検証で最も印象的だったのは、使用するコア数による解析時間の差である。近年は大規模な計算ニーズが高まっており、計算時間の短縮はPCのリソース、すなわちコア数と動作周波数に大きく依存することが改めて確認された。

3.一定のコア数を超えると効果は頭打ちに

ただし、コア数が多ければ多いほど良いというわけではない。検証の結果、コア数が多いほど計算処理性能は向上するものの、一定のコア数を超えるとその効果は小さくなることが明らかになった。しかも、速度向上の効果が得られる「有効コア数」は、ThinkStation P620よりもThinkStation P8の方が高い傾向にある。つまり、新世代のCPUほど、多コア構成の恩恵を受けやすいということだ。

4.意外な発見:アプリケーションによる並列処理効果の違い

概ね想定通りの結果ではあったが、アプリケーションによって並列処理の効果に違いが生じるという意外な発見もあった。SOLIDWORKS Flow SimulationやSOLIDWORKS Plasticsでは、コア数増加による速度短縮の恩恵を大きく受けられる。

一方で、SOLIDWORKS Simulationでは並列化の効果が限定的であることが明らかになった。

解析種別ごとの有効コア数
解析種類解析ソフト有効コア数(P620)有効コア数(P8)
構造解析(線形)SOLIDWORKS Simulation1224
構造解析(非線形)SOLIDWORKS Simulation2424
熱流体解析SOLIDWORKS Flow Simulation1624
樹脂流動解析SOLIDWORKS Plastics1620

この結果は、用途や解析規模に応じたCPU選定の重要性を浮き彫りにした。「コア数が多ければ多いほど良い」という単純な判断では最適解にたどり着けない場合もある。アプリケーション特性を理解したうえでのスペック選定が不可欠だ。

検証から得られた性能面以外の気づき

特にThinkStation P8は性能面だけでなく、使い勝手や設計品質といった面でも優れた特徴が数多く感じられた。下記はその主なポイントである。

  1. 外観デザインの美しさ:ワークステーションとしての存在感があり、オフィス環境にも調和する。
  2. 静音性の高さ:高負荷の解析計算を実行しても、ファンの回転音がほとんど気にならず、非常に静かで快適な作業環境を維持できる。
  3. 内部アクセスの容易さ:ケース内部へのアクセスが簡単で、ケーブル類も整理されており、メンテナンスや拡張作業がスムーズに行えた。
  4. 再起動の速さ:OS再起動やアプリケーションの立ち上がりが非常に速く、作業効率の向上に寄与する。
  5. 背面電源スイッチの便利さ:セッティング時に背面にも電源スイッチがあることで、設置や調整が容易になり、現場での取り回しが良好だ。

これらの点から、ThinkStation P8は性能面だけでなく、日常的な使い勝手においても実務者の視点で設計されていることが分かる。また、解析・設計業務では外部ストレージや計測機器を頻繁に接続する機会が多い。接続機器が多いユーザーには、USB-Aポートをフロントパネルに増設できるオプションをお勧めする。

総評:データに基づく提案で顧客の納得感が向上

今回の検証により、CPU性能がCAE解析時間に与える影響を定量的に把握することができた。この成果は、実際の提案活動において早くも効果を発揮している。ある既存ユーザーに樹脂流動解析の提案と合わせてThinkStation P8のベンチマーク結果を提示したところ、現行ワークステーションと比較して「約2倍の高速化を実現している」との評価を得て、リプレースの検討につながった。また、振動解析においても現行ワークステーション(Core i7-1355、20コア)と比較して約2倍の高速化を確認している。

大塚商会では、以前から顧客の業務内容や解析規模に応じて、費用対効果を最大限に考慮したワークステーション選定支援を行ってきた。常に「顧客にとって最も合理的な投資」を意識した提案を心がけてきたが、今回の検証によってその精度が大きく向上した。最新CPUにおける実解析での性能差、解析種別ごとの「有効コア数」や「最適構成」、そして「なぜその構成が最適なのか」というロジックを具体的な数値で説明できるようになったのである。

これにより、従来から取り組んできた費用対効果重視の提案姿勢を、さらに高い精度で実践できるようになった。結果として、大塚商会の提案スタイルは「性能重視の提案」から「モデル規模や解析種類に応じた最適化提案」へと深化・ステップアップし、顧客の納得感と満足度の向上を実現している。