NECのVR体験キットは梱包作業がリズムゲームに、2週間で5万円から

NECは2016年10月7日、法人向けのVR(バーチャルリアリティー、仮想現実)技術の活用ソリューションを体系化した「法人VRソリューション」と、その評価パッケージとなる「VRお試しパック」の提供を始めると発表した。VR対応PC、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、モーションコントローラーなどの市販製品から構成されるVRお試しパックの価格(税別)は、機材レンタルの費用が、2週間で5万円、1カ月間で9万5000円、3カ月間で27万円。ユーザーがアンケートへの回答をはじめとする実証実験に合意すれば、梱包ライン作業の技能伝承、消化/伐採/高所作業といった危険作業体験のVRコンテンツも無償で貸し出す。またオプションとして、ユーザーの3D CADデータをVR環境に取り込むデータインポートサービスも10万円から(税別)で提供する。

この発表に併せてNECは同日、東京都内で、先述した無償貸し出しのVRコンテンツなどを使った記者向けのVR体験会を開催した。本稿では、その体験内容を紹介する。

NECのVR体験会の様子。ディスプレイに表示されているVRコンテンツ「梱包ライン作業における技能伝承」を、HMD装着者が仮想体験している

  • * 本記事は、製造業技術者向けポータルサイト「MONOist」から転載しています。

VR体験キットは市販品で構成

VR体験会で使用した環境は、一般的なデスクトップPCやゲーム用ノートPC、「Oculus Lift」などのHMD、手の動きを検知するモーションセンシングのカメラなどは全て市販品で構成されていた。お試しパックの価格が、2週間で5万円からと安価になっているのはこのためだ。「かつては専用機材が必要だったため高価にならざるを得なかった。今後も、当社から提供する環境は市販品を中心に構成する予定だが、その時の最先端製品を使っていくようにする」(NECの説明員)という。

VR体験会で体験できたコンテンツは3つある。「梱包ライン作業における技能伝承」「樹木伐採など危険な作業の仮想体験」「住宅レイアウトのカスタマイズ」である。

まず「梱包ライン作業における技能伝承」は、NECの掛川工場(静岡県掛川市)で実証実験を行っているコンテンツになる。HMDを装着すると、製品に説明書などを梱包していくラインが装着者の周りに出現する。モーションセンシング用のカメラでHMD装着者の両手の位置を検知し、その両手を使って仮想の梱包ラインの中で作業を進めて行くことになる。

「梱包ライン作業における技能伝承」では、赤く表示されている作業対象(左)を仮想の梱包ラインの中で手に取り(右)、箱の中に詰め込んでいく

仮想ラインでの梱包作業の順番は、作業対象が赤色で示されるので、初体験の人間(例えば筆者)でも分からないことはない。さらに、作業タイミングに合わせて「Slow」「Excellent」などと表示するリズムゲームのようなモードも用意されている。

リズムゲーム風のモード。遅いと「Slow」、いいタイミングだと「Excellent」などと表示される

この他、作業者の身長を自由に設定することもできる。これにより、身長の高い人(190cm前後)や低い人(150cm前後)にとって、梱包ラインが作業しやすいかどうかの確認も行える。HMD装着者にとって、梱包作業対象を手に取る際に障害となるものの範囲を示すモードもある。

  • 高身長の人から見える梱包ライン

  • 車いすに乗っている人から見た高さに設定すると、梱包ラインがかなり高い位置にあることが分かる。HMD装着者が手を伸ばしても、全く届かない

NECの説明員は「ユーザーが新規に製造ラインを設計する際の事前検証に、こういったVR環境は役立つはずだ。製造ラインを設計する際には3D CADデータを作成することが多いので、それをVR環境にインポートして事前検証を行いたいという引き合いも多いと説明する。また、実際にラインを構築した後には、新たに入ってくる作業員のトレーニングに利用できる。「特に海外の工場は人員の入れ替わりも多い。そのトレーニングに実際のラインを使うのではなく、まずはVR環境を使うのが効率的だ」と語る。

危険作業の仮想体験に最適

「樹木伐採など危険な作業の仮想体験」では、林業の現場で樹木を伐採する際に、伐採の方向を間違えて樹木が作業者に向かって倒れてくる状況などを体験できる。モーションセンサーで検知した手を使って樹木を倒す(伐採するイメージ)のだが、その倒し方によって樹木の倒れる方向が変わり、自分に向かって倒れてくることもある。また、何本も樹木がある場合、樹木がぶつかり合って結果的に作業者に向かって樹木が倒れてくるような状況も体験可能だ。「死亡事故が多発している現場で、こういった危険な状況を実際に体験するわけにはいかない。命に関わる事象を体験するには、VR環境がうってつけだ」(同説明員)としている。

「樹木伐採など危険な作業の仮想体験」では手を使って樹木を倒す。「できればチェーンソーを使っての伐採を体験できるようにしたかったが、今回の体験会には間に合わなかった」(NEC)という

「住宅レイアウトのカスタマイズ」は、1990年に松下電工がショールームで公開した「VRシステムキッチン」と同様のコンテンツになる。各種収納ドアの開閉を体験したり、自身で設定した身長に合わせてキッチンテーブルの高さを調整したりできる。

また、危険作業の体験と同様に、コンロから火災事故が起きた際にどのように避難すれば延焼した火から逃れられるかといった体験も可能になっていた。

  • 「住宅レイアウトのカスタマイズ」でキッチンテーブルの高さを調整する様子

  • 火災事故からの避難も体験できる

  • * 本記事は、製造業技術者向けポータルサイト「MONOist」から転載しています。