B-LOOPで簡易省エネシミュレーションを試してみた ~オフィスビル設計でBPI・BEIを比較~

設計初期から省エネ性能を見える化!

現代のオフィスビル設計では、収益性と快適性を両立させるために空間効率の追求が欠かせません。しかし、設計初期段階で「どれくらい省エネ性能を確保できるのか」を把握するのは難しいものです。

そこで今回は、B-LOOPの簡易省エネシミュレーション(β版)を使い、片寄せコア型オフィスビルを札幌市と那覇市に建てた場合のBPI値・BEI値を比較しました。地域による省エネ性能の違いを、実際の数値で見てみましょう。

オフィスビル設計で重要な指標:レンタブル比とコアプラン

レンタブル比とは?

レンタブル比とは、建物全体の床面積に対して、実際に賃貸可能な面積(レンタブルスペース)が占める割合を示す指標です。レンタブル比の計算式は、次のとおりです。

レンタブル比(%)=賃貸可能面積÷延床面積×100

レンタブル比が高いほど、建物の収益性は高くなります。
例:延床面積10,000m2、賃貸可能面積8,500m2→レンタブル比85%。

なオフィスビルのレンタブル比の目安は、80~85%といわれています。高いレンタブル比を実現するには、共用部や設備スペースをコンパクトにまとめる工夫が必要になりますが、比率を高めすぎると共用部の快適性や機能性が損なわれるため、バランスが重要です。

コアプランとは?

コアプランは、建物の中心部に配置されるエレベーター、階段、トイレ、電気・機械室などの共用設備の配置計画を指します。コアの配置は、フロアの使いやすさやレンタブル比に大きな影響を与えます。

代表的なコアプランのタイプ

集中方式

 

コアプラン片寄せコア型
(片コア、偏心コア)
センターコア型
(中央コア)
センターコア型
(中央コア)
特徴外壁に面する部分が多く取れるため、コア部分に外光・眺望・外気を導入しやすい。
比較的面積の小さい場合(基準階床面積500m2程度)に適する。二方向避難が難しい。
比較的面積の大きい場合(基準階床面積1,000m2以上)に適する。レンタブルの高い計画としやすい。二方向非難が難しい。比較的面積の大きい場合に適する。外壁に面する部分がとれるが、執務室が二つに分断される。通称「三枚おろし」。「オープンコア」ともいう。

分散方式

 

コアプラン両端コア型
(ダブルコア)
分散コア型分散コア型
特徴大きい柱スパンとしやすいため、特殊階のフレキシビリティが高い。二方向避難の計画がしやすい。片寄せコアからの発展形、メインコア以外に避難施設・設備シャフトなどのサブコアがあるタイプ。各コアを柱とみなしたメガストラクチャーにより大空間を確保できる。特殊階のフレキシビリティが高い。

分離方式

 

コアプラン分離コア型
(外コア)
特徴比較的面積の小さい場合(基準階床面積500m2以上)に適する。床面積が大きくなると避難施設などのサブコアが必要になる。

省エネ設計で求められる指標:BPI値・BEI値とは?

BPI値とは?(外皮性能指標)

BPI値は、建物の外皮性能を評価する指標で、建物用途ごとに定められた基準PAL*値に対する設計PAL*値の割合を指します。

計算方法BPI値=設計年間熱負荷係数(PAL*値)÷規準年間熱負荷係数(基準PAL*値)

ポイント

  • 基準PAL値は、地域によっても値が異なるため、同じ設計PAL*値であっても建物の立てる地域が異なれば、BPIが変わる。
  • ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)実証事業では、BPI値は1.0以下に抑えるよう定められている。

BEI値とは?(一次エネルギー消費指標)

BEI値は、建物の一次エネルギー消費量を評価する指標です。一次エネルギーとは、電力・ガス・燃料などを発電や供給する前のエネルギー量を指します。

計算方法BEI値=設計一次エネルギー消費量÷基準一次エネルギー消費量

ポイント

  • BPIと同様に地域によって値が異なるため、同じ設計一次エネルギー値であっても建物の立てる地域が異なれば、BEIが変わる。
  • BEI値は基準値以下に抑えることが求められる。

なぜBPI・BEIが重要?

BPI値とBEI値は、省エネ設計の成功を左右する重要な指標です。

  • 設計初期段階でこれらを確認することで、効率的なプランニングが可能になり、後から大きな修正を避けられる。
  • ZEB認証や省エネ法対応には必須で、補助金申請にも影響する。
  • 地域ごとに基準値が異なるため、寒冷地では外皮性能(BPI)、温暖地では一次エネルギー消費量(BEI)を重視するなど、地域特性に合わせた設計が求められる。

B-LOOP新機能「簡易省エネシミュレーション」で、設計初期段階のZEB設計を実現!

シミュレーションモデルの作成

では、B-LOOPの簡易省エネシミュレーション(β版)機能を用いて、片寄せコア型5階建てオフィスビルについて、企画段階の設計プランからBPI・BEIの値を求めます。平面プランは、次のとおりです。

  • 1階平面プラン

  • 2~5階平面プラン

B-LOOP内のモデラー「CADECT」で作成した簡易空間モデル

外壁の設定

カーテンウォールの仕様(共通)

  • 建具種類:金属製
  • 二層ガラス(Low-E 1枚、断熱ガス、日射取得型、空気層6mm)

異なる2地域に同じ建物を設計した場合のBPI値とBEI値を比較してみる

上記の建物を、札幌市に建築した場合と、那覇市に建築した場合とで、BPI値とBEI値の結果を比較します。あくまでラフ値の計算なので、参考にしていただければと思います。

建物片寄せコア型5階建てオフィスビル
ツールB-LOOP簡易省エネシミュレーション(β版)
比較地域札幌市(省エネ地域区分:2地域、年間日射地域区分:A2地域)
那覇市(省エネ地域区分:8地域、年間日射地域区分:A4地域)

札幌市の場合の計算結果

BPI:0.60 BEI:0.82

那覇市の場合の計算結果

BPI:0.85 BEI:0.71

まとめ

今回、札幌市と那覇市に同じ片寄せコア型オフィスビルを設計した場合のBPI値・BEI値を比較しました。

省エネ地域区分と年間日射地域区分については、各地域の設計基準が登録されており、設計者は、各地域の設計基準に則ることが非常に重要です。B-LOOPの簡易シミュレーションは、設計初期段階でこうした差異を把握し、効率的なプランニングを行うための強力なツールとなります。

札幌市ではBPI値が0.60と良好な結果を得られているが、次回は、建具仕様を変更した場合のシミュレーション結果を比較し、さらに実践的な省エネ設計のポイントを解説します。