構造計算ソフトを用いた3階建て混構造住宅の構造設計(HOUSE-ST1編)
混構造の構造計算はどのように行うのか?
建築基準法では、構造種別ごとに構造計算手法が確立されていますが、世の中には「混構造」と呼ばれる複数の構造種別を用いて一つの建物が構成されている建築物が存在します。このような場合には、構造計算はどのようにして行うのでしょうか? 3階建ての混構造住宅を例に、その考え方について解説します。
混構造とは
「混構造」という言葉には、今のところ厳密な定義はありません。建築基準法施工例では、構造種別を次のように分類しており、一般にこれらを組み合わせたものは「併用構造」と呼ばれています。従って、このような併用構造が代表的な混構造といえます。
- 木造
- 組積造
- 補強コンクリート造
- 鉄骨造
- 鉄筋コンクリート造
- 鉄骨鉄筋コンクリート造
- 無菌コンクリート造
しかし、地下階から最上階に至る間に、鉄筋コンクリート造→鉄骨鉄筋コンクリート造→鉄骨造と成り立つ、超高層ビルを混構造と呼ぶことはありません。設計基準書の「3階建混構造住宅の構造設計」で対象としている混構造は、木造と鉄骨造または鉄筋コンクリート造とが併用されたものとなります。
なぜ混構造の構造計算が複雑なのか?
日本における木造住宅の設計にあたっては、純木造の構造計算に力点がおかれていたため、混構造建物の構造力学的な検討は遅れていました。また、混構造建物は、異種構造の接合部分など特殊な設計が求められます。
対象となる混構造(設計基準書上のものとソフト上のもの)
「3階建混構造住宅の構造設計(以下、設計基準書)」上で対象とする混構造は、部位的に見れば木造部分とその他の構造部分に分かれますが、建物全体としてその両者が組み合わさったものをいいます。
このような組み合わせは図1に示すように、さまざまなものがあり得ます。このうち、平面(a)・平面(b)・立面(d)のように一つの階の平面に、木造部分と異種の構造部分がある組み合わせには、特に水平力の分担や接合部分の処理に関して、個別性が強く、一般論では説明し切れないさまざまな難しい問題があります。そこで、このような組み合わせについては、基準書上でも別途基本的な考え方を述べるにとどめられています。
設計基準書では、当面最も多く需要が見込まれるであろう(c)の形の混構造、すなわち3階建てで1階のみ、しかもその全平面が鉄骨造または鉄筋コンクリート造で、2階と3階とが木造という形のものについて具体的に説明しています。
この1階のみを鉄骨造または鉄筋コンクリート造で、上部が木造である3階建てに関しては、地震力の分布(Ai分布)をどうとるか、および、上部(木造)と下部(鉄骨造または鉄筋コンクリート造)をどのように接合するかという2点について純木造とは異なった検討が必要です。
設計基準書が対象とする建築物は、特定建築物以外の建築物で、具体的には次の1から5に適合する建築物です。
- 地階を除く階数が2または3であるもの
- 1階が鉄骨造または鉄筋コンクリート造であるもの
- 2階および3階が木造(令第46条第2項に該当する建築物の構造部分を除く)であるもの
- 高さが13m以下で、かつ、軒の高さが9m以下であるもの
- 延べ面積が5,000m2以下であるもの
平面混構造の考え方
- 建築全体の形は、平面的にも、立面的にも単純なものとする。
平面的な凹凸を少なくし、上階が下階から突出することを避ける。また、木造部分と鉄骨造または鉄筋コンクリート造部分の組み合わせも単純な形として互いに複雑に入り組んだ形としない。 - 木造部分と鉄骨造または鉄筋コンクリート造部分とは完全に一体化する。
中途半端に結合することは、力の流れを不明解にしてしまう。もし、一体化しない場合には、それぞれの部分を構造的に別個の建物として設計することとし、外壁および屋根などの設計にあたってもそのことを考慮しなければならない。 - 基礎は、建物全体として一体の基礎とする。
例えば、1階に木造部分と鉄筋コンクリート造部分がある場合、木造部分の基礎も鉄筋コンクリート造部分の基礎梁と同等程度の強度・剛性を持つものとし、かつ両者を一体化する。 - 平面的に、木造部分と鉄骨造または鉄筋コンクリート造部分が併存する場合には、それぞれの部分の剛性および水平構面の面内剛性、さらにねじれなどによる影響を考慮して水平力の分担を適正に行う。
平面内で鉄筋コンクリート造が大部分を占めるような場合には、全水平力をその部分だけで負担させるなどの判断も必要である。 - 木造部分は、鉛直荷重を受けると、仕口部分の緩みが締まることなどにより多少の沈下を生じるが、これに伴う不都合(木造部分と沈下を起こさない鉄骨造または鉄筋コンクリート造部分とに架け渡される床の傾斜など)がないように十分に配慮する。
以上のように、的確な構造計画がなされた架構に対して各部の応力を計算し、その部分の強度を確認します。
その際、構造の違いを正しく把握してモデル化を行う必要があります。できれば、架構の主要な部材や接合部については、応力を略算法でもよいから手計算で確認するとよいでしょう。施工にあたっても、上記構造計画および構造計算に忠実な架構となるよう特段の配慮が必要です。
地震力に対する構造計画
木造と他の構造を高さ方向に併用した建築物では、木造部分および他の構造部分がそれぞれの耐震規定を満足するように設計するとともに、異種構造の剛性(外力が作用する構造物または、構造部材の弾性変形に対する抵抗の度合、剛さともいう)の違いを勘案し、応力が異種構造間で確実に伝達されるように設計しなければなりません。
図2は、下層が他構造(鉄骨造または鉄筋コンクリート造)で上層が木造である建築物において、木造部分および他構造部分の剛性、重量と木造部分に作用する地震力の関係を示したものです。
木造部分の重量が他構造部分と比べて極めて小さい場合、木造部分の剛重比(剛性と重量の比)と他構造部分の重量比が近いと、木造部分の地震力が極めて増大することを示しています。
1階部分が鉄骨造で上階が木造の建築物では、前述のように、地震時に木造部分に過大な水平力が作用することがあるので、それぞれの重量および剛性のバランスを勘案して設計を行うとともに、耐力壁の偏在により地震時に建築物にねじれが生じないようにすることが肝要です。
1階部分が鉄筋コンクリート造で、上階が木造の建築物では、鉄筋コンクリート造部分の剛重比が木造部分と比較して十分に大きければ、木造部分の地震力が著しく増加することはありませんが、鉄筋コンクリート造部分の剛性が小さいと木造部分の地震力が増大する可能性があります。従って、鉄筋コンクリート造部分の剛性を十分確保するように留意しなければなりません。
なお、鉄筋コンクリート造では、一般に床スラブを設け、床面の面内剛性を確保しています。これによって、地震による水平力を鉛直構面にスムーズに伝達させるようにするとともに、鉄筋コンクリート造の鉛直構面の剛性に偏りがないように設計します。
(壁式)鉄筋コンクリート造との混構造計算
1階部分が鉄筋コンクリート造で上階が木造である建築物の耐震計算ルートは、鉄筋コンクリート造の柱、壁量により異なります。図3に示すルートに従って計算を行います。
ルートI相当の計算
鉄筋コンクリート造部分の耐力壁、および構造耐力上必要な部分である柱、並びに耐力壁以外の鉄筋コンクリート造の壁(上端および下端が構造耐力上主要な部分に緊結されたもの)の水平断面積が、次式(1.1)に適合する場合は、鉄筋コンクリート造部分、木造部分ともに令82条に示された許容応力度計算(ルートI相当の計算)を行います。
1階部分の重量(W1)が、2階部分の重量(W2)の2倍を超える場合、図4のように2階および3階のAiは、1階部分の重量(W’1)を2階部分の重量の2倍(2×W2)とみなして計算します。なお、1階部分の地震力は、上記の計算による地震力に、1階部分の残りの重量(W’’1=W1-2×W2)単独の地震力を加えたものとします。
ルートII相当の計算
柱・壁量が式(1.1)に適合しない場合は、許容応力度計算の他に鉄筋コンクリート造部分および木造部分について、次の1から3、および4または5、または6の計算・確認を行わなければなりません(ルートII相当の計算)。
1.各階の層間変形角が1 / 200(地震力による構造耐力上主要な部分の変形によって著しい損傷が生ずる恐れのない場合は1 / 120)以下であること。
2.各階の偏心率Reが0.15以下であること。
3.1階はないものとし、木造部分について算出した各階の剛性率Rsが0.6以上であること。
4.鉄筋コンクリート造の耐力壁、柱および耐力壁以外の壁(前記)の水平断面積が、次式(1.2)を満足すること。
ここに、Aw、Ac、Z、W、Ai、βは前出の(1.1)と同じ。
5.鉄筋コンクリート造の耐力壁および柱の水平断面積が、次式(1.3)を満足すること。
ここに、Aw、Ac、Z、W、Ai、βは前出の(1.1)と同じ。
6.構造耐力上主要な部分である鉄筋コンクリート造の柱および梁が、両材端の曲げ降伏以前にせん断破壊しないこと。
床面の面内せん断剛性の確保(壁式鉄筋コンクリート造の場合)
なお、壁式鉄筋コンクリート造かつルートI相当の場合には、耐力壁は壁厚18cm、水平高さ45cm以上かつ同一の実長を有する部分の高さの30%以上とし、耐力壁の間隔・配置は、下記1のように、また、梁成およびがりょう(厚さは18cm以上とする)の幅は下記2のように決定します(図6)。
1.柱間隔は8m以下とし、大梁によって囲まれる面積は45m2以下とする。
2.梁のせいは45cm以上とし、梁の幅は柱間隔の1 / 20以上とする。
3.構造的に一体となっている部分ごとに、次式の確認を行う。
ここに、Aw、Ac、Z、W、Ai、βは前出の(1.1)と同じ
- * Lx、Ly≦8m
- * Gx11の臥梁の幅はLx1、Lx2の大きい方の値で決まり、Gy11の臥梁の幅はLy1、Ly2の大きい方の値で決まる。
また、上記3の「構造的に一体となっている部分ごと」の確認は、次の条件によって行うこととします。
- イ. 1階架構の壁線・柱通り線によって区分し、区分ごとに行う(図7)。
- ロ. 2階床スラブを設ける部分と設けない部分とが混在する場合は、それぞれの区分ごとに確認する(図8)。
- ハ. 各種の荷重は、特殊な荷重のない場合、等分布荷重とみなすことができる。
異種構造との接合部
上部木構造との接合方法は、1階部分が鉄骨造の場合と鉄筋コンクリート造の場合で異なっています。しかし、いずれの場合でも木造部分と一体となるように設計しなければなりません。
木造部分の鉛直荷重、および水平力をスムーズに1階の構造に伝えるために、2階の耐力壁の直下に配置するアンカーボルト、および引き寄せ金物(ホールダウン金物)の強度を構造計算によって確かめます。
HOUSE-ST1 +HOUSE-WLで、3階建混構造住宅の構造計算が可能です
木造構造計算ソフト「HOUSE-ST1」は、建物形状をそのまま入力できる壁式鉄筋コンクリート造構造計算ソフトウェア「HOUSE-WL」と組み合わせることで、2階・3階の木造部分はHOUSE-ST1で、1階の壁式鉄筋コンクリート部分はHOUSE-WLで構造計算し、混構造住宅全体の構造計算が可能となります。
お得なセット製品も販売しているので、詳しくはお問い合わせください。