注目の成長産業“医療分野”におけるものづくりの現状とは?

医療機器業界を取り巻く環境について

人が健康に暮らしていくためには欠かせない「医療」の分野が今あらためて注目されています。人々のライフスタイルの変化は「医療・健康分野」の多様化をもたらし、それを支える医療機器やシステムの市場が拡大しつつあります。

そして昨今の不況や円高に多くの製造業が苦戦している中、安定した売り上げや今後の成長が見込まれる分野として、この「医療機器」の開発に自社の技術を活かし新規参入しようとしている企業が少なくありません。しかし人の生命にもかかわるこの分野においては、厳しい法規制や過剰ともいえるほどの安全性の確保など、一般的なものづくりとは異なる点が多数存在します。

株式会社UL Japan医療機器部 部長 肘井一也様(右)と株式会社UL ASG Japan営業部 チャネル・マネージャー 森本知広様(左)

今回は医療機器開発のコンサルティングに携わる、株式会社UL Japan医療機器部 部長 肘井一也様(右)と株式会社UL ASG Japan営業部 チャネル・マネージャー 森本知広様(左)に、今後の医療業界のマーケットや海外進出する際の留意点などを伺いました。

拡大する医療機器ビジネス

今後医療機器業界のビジネス規模は拡大傾向にあるということですが、具体的にどのようなことが考えられるのでしょうか?

外的要因としてまず挙げられるのが、経済産業省が新成長戦略分野として医療、介護、健康関連産業(ライフ・イノベーション)を指定していることです。ここでは医療・介護など関連サービスにおける制度の見直し・産業創出がうたわれ、医療の情報化・国際化、バイオ新規産業の創出支援、革新的医療機器・生活支援ロボットの開発などの促進が項目として挙げられています。

次に挙げられるのが高齢化社会です。これまで、医療行為は医療機関内で行われるものでしたが、高齢化により、家庭で医療を受ける、つまり在宅医療の人口が増えるため、病院ではなく家庭で用いられる機器、「家庭用医療機器」の需要が増えると考えられます。また、医療費の削減を目的に、高齢者の疾病予防を含めた監視機器などの分野も伸びるでしょう。

例えば、体温、脈拍、血圧などの「バイタルデータ」を家庭で測定する機器や、これらの情報を無線で専門医に送信し、診断を仰ぐ機器など(e-health)が開発され、市場導入されていくのではないでしょうか。さらには、同じく医療費削減の目的から、介護をサポートするさまざまな「ロボット」が開発され、利用されていくと考えられます。「ロボット」の技術は、高度な手術(遠隔手術など)の分野でも活用されていくでしょう。

高齢化は日本だけでなく、先進国の多くが抱える問題です。そのため、日本で開発された技術・製品は、世界市場に出て行くチャンスを大いに持っています。新興国においても富裕層、中間層が増加しており、こうした人々のQOL(Quality of Life)の向上、すなわち健康管理を行う機器の需要が増えています。医療機器市場は、全世界的に拡大しているのです。

また医療機器業界は、最近の産業界の変化ともあいまって様相を変えてきています。これまで日本の産業は電子機器や自動車などを得意分野としてきましたが、近年ではアジアの第三勢力の台頭に市場の力を奪われつつあります。こうしたことから、今後市場が伸びるとともに、景気に左右されることも少ない医療機器業界に、日本企業も他分野からこぞって参入しようとしています。

日本企業の海外進出の現状

医療機器における日本企業の海外進出は、現在どのような状況でしょうか?

医療機器は完全な規制産業ですから、民生品のように製品ができたからすぐ売れるというわけではありません。まず導入する国のビジネスライセンス(業許可)、製品ライセンス(製造販売認証)を取得することが必要です。電子、自動車など異業種企業が、医療機器業界に参入しようとしていますが、なかなかこういった概念が分かりづらいようで、日本を代表するような企業でも参入に苦慮しています。

これまでアジアの国々では参入の壁はそれほど高くなかったのですが、近年規制はかなり厳しくなってきており、日欧米化が顕著になっています。海外進出をねらうには医療機器規制のデファクトスタンダードに精通しておくことが、何よりの強みとなるでしょう。

株式会社UL ASG Japan営業部 チャネル・マネージャー 森本 知広 様

株式会社UL ASG Japan営業部
チャネル・マネージャー 森本 知広 様

医療機器規制状況 図

医療機器規制状況(提供:株式会社UL Japan)

医療機器の規制・規格・法規とは?

では、医療機器の規制・規格・法規としてあるISO 13485やQMS省令について教えてください。

ISO 13485は1996年に制定された医療機器の品質保証のための国際標準規格です。その目的は、規制要求事項を満たす医療機器を確実に市場に提供できるよう、組織に対する品質マネジメントを規定することにあります。

ISO 13485のベースとなっているのは品質マネジメントシステムとしてよく知られるISO 9001ですが、ISO 9001が2000年に改訂されたことを受けて2003年7月にISO 13485:2003へと改訂されています(なおISO 9001は現在、2008年版が最新ですが、それによるISO 13485の改訂は行われておりません)。ISO 13485の特徴として挙げられるのは、医療機器の開発、製造、販売において制限的・規制的な内容を設けていることです。なぜISO 13485がこういった内容になっているのかといえば、それはISO 13485が「法律で使う規格」だからです。

株式会社UL Japan医療機器部 部長 肘井 一也 様

株式会社UL Japan医療機器部
部長 肘井 一也 様

ISO 13485は各国の医療機器の製造業者を規制する法律に組み込まれることが目的となっています。実際に、ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアなど、ほとんどの国で、このISO 13485の要求に基づいて医療機器を規制する法律が作られています。日本で医療機器を規制しているのは薬事法ですが、世界の基準と整合させようとの認識から2005年4月改正が行われ(改正薬事法)、それにあわせてQMS(Quality Management System)省令が制定されました。QMS省令は、正式には「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」といい、日本国における医療機器規制の中心となるものです。

前述のように世界の基準と整合させる目的から、多くの部分でISO 13485に準拠しています。しかし異なる部分もあります。例えばISO 13485はユーザのインプットから設計、開発、製造、市販後の監視までプロダクトライフサイクルの全般に及んでいるのに対し、QMS省令は製造だけを対象にしています。そのためQMS省令は「工場管理のツール」、ISO 13485は「経営管理のツール」といわれています。

医療機器認証の仕組み 図

医療機器認証の仕組み(提供:株式会社UL Japan)

ISO 13485とISO 9001の違い

ISO 13485はISO 9001をベースにしているとのことでしたが、どのようなところが違うのでしょうか?

ISO 13485にはISO 9001に含まれていない、医療機器に特有の要求事項が多く盛り込まれています。一方、ISO 9001で要求されている「顧客満足」「継続的改善」に関する要求は含まれていません。ただ実際には「継続的改善」は「有効性の維持」、「顧客満足」は「フィードバック」という表現に置き換えられています。しかし実際のところ言葉が変わっただけで内容的には大きな違いはありません。

またISO 13485には法令に従うことを求める項目があったり、リスクマネジメントへの対応、さらに多くの文書化要求があります。しかしISO 9001と基本的に章立ては同じですし、認証の工程フロー要求項目も同じです。

ISO 13485とQMS省令の違い

 ISO 13485:2003QMS省令
対象行程 プロダクトライフサイクル全体
(設計、開発、製造、裾付け、付帯サービス)
製造工程のみ
対象製品医療機器全般薬事法が規定する医療機器のみ
認証企業単位製品単位
顧客顧客:使用者/エンドユーザー顧客:製造販売業
製造時期認証取得には製造実績が必要取得するまでは製造できない
  • * 提供:株式会社UL Japan

新規参入における注意点

日本企業が新規参入する際の注意点を教えてください。

例えば、このようなケースがあります。まず日本の市場向けに製品を製造し、それが国内である程度成功を収めたので次に海外進出を考えたとします。しかし医療機器に関する規制は各国にあり、それぞれ要求事項は異なります。アメリカにはアメリカの枠組みが、ヨーロッパにはヨーロッパの枠組みがあるのです。そのため再度安全試験を行い、独自の要求を満たさなければならないなど、認証取得作業の二度手間が発生してしまいます。例えば電圧仕様が100ボルト系か200ボルト系かという違いだけでもう一度試験をしなければならないこともあります。

つまり海外進出を考えている場合、製品を開発する最初の段階でどの国に進出しようとしているのかしっかり計画を立て、その国々の要求を押さえたうえで、設計、製造の段階に進むことが大切なのです。また技術文書を要求と照会させられるよう整理しておくこと、いわゆるトレーサビリティが整備された体制を築いておくことも大切です。製品開発の場合、何らかのユーザのインプットから入り、製品仕様、要求仕様、設計仕様、詳細設計仕様とステップを踏みますが、ここまでの段階で技術文書も相当な量になると思います。

認証の審査では製品がユーザインプットに沿って作られているかを確認します。そうしたときにエビデンス(証拠)となる技術文書がすぐに取り出せる体制ができているかが課題になります。多くの日本企業は必要となるデータを十分取っているのですが、それがエビデンスとしてうまく要求事項とリンクされていないケースが見受けられます。要求に対する回答となる技術文書をすぐに取り出せるよう、うまく要求事項とリンクさせておくことが大切です。

医療機器の開発体制 図

医療機器の開発体制(提供:株式会社UL Japan)

新規参入における失敗パターン

新規参入で陥りがちな失敗パターンには、どのようなものがありますか?

日本での薬事承認/認証の取得手順で海外でも認証を取ろうとしている企業は、軒並み苦戦しています。全社的な枠組みを国際標準に切り替える必要があります。 また日本と海外では医療機器の定義が異なり、日本では医療機器とみなされていないものが海外では医療機器とみなされていることがあります。

例えば日本ではソフトウェア単体※は医療機器の範ちゅうに入っていませんが、海外ではソフトウェア単体※も医療機器に指定している国がほとんどです。そのため事前に規制がかかっているかどうかを調べておく必要があります。

  • * 組み込みソフトウェア

3DCADによる医療機器の開発 ~製造までのスピード化をサポート

海外進出を考える企業がUL Japan/UL ASG Japan様とともにビジネスを進めると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

株式会社UL Japanは、製品安全試験・認証を行う第三者機関です。1894年に米国で設立、100年を超える歴史を持っています。その中で医療機器部は、医療機器の製品安全試験や、海外で販売を行う際の登録のサポートを行っています。また、株式会社UL ASG Japanは、品質・環境、情報セキュリティ等の国際標準に係るコンサルティングを行っています。認証取得支援サービスや内部監査サービス、調査サービスなどを提供し、ファシリテーション、コーチング、ストレスマネジメントなど人材育成サービスも行っています。

医療製品開発の出来るだけ早い段階から私たちとアライアンスを組ませていただければ、初期段階でまず全体の導入マップを作成、その上で海外進出の際、国別、製品別でどのような準備をしなければならないのか青写真を作らせていただきます。そして製品をつくる体制作りからご一緒させていただきます。

医療製品の開発プロセスでULがお手伝いできること

医療製品の開発プロセスで株式会社UL Japanがお手伝いできることとして、以下が挙げられます。

1.認証/市場進出戦略策定、2.コンセプト決定/設計開発、3.製品実現

医療製品の開発プロセス(提供:株式会社UL Japan)

ULの医療機器2段階評価プログラム

ステージ1

段階設計段階
目的部品の選定を含む設計評価
メリット設計段階の初期からULのエンジニアが関与。認証試験前に不適合項目を発見
結果市場参入のための包括的試験計画

ステージ2

目的各国の認証申請に必要な第三者試験レポートの提供
メリット確実な認証取得、不合格による手直しコストの削減、製品出荷予定の明確化
結果米国ULマークをはじめとする各国/地域認証取得
  • * 提供:株式会社UL Japan

短期間で製品を市場に投入するために

先ほども触れましたが、試験・認証にまつわる規格は国・地域などによって非常に多様です。そのための試験と認証作業は膨大であり、それが迅速な市場参入を阻んでいます。市場参入する際には、いかにスピーディーに法規制をクリアしていくかが差別化ポイントといえます。私たちは新市場参入に最も効率的なルートを熟知していますので、利用していただくことにより短期間で製品を市場に投入することができます。

短期間で製品を市場に投入する仕組み

短期間で製品を市場に投入する仕組み(提供:株式会社UL Japan)

3DCADによる医療機器の開発 ~製造までのスピード化をサポート~

医療機器の審査は長い場合には、国内で1年ほど、海外では2年、3年と長期間に及ぶことがあります。市場機会を失わないためにも、製品化までのフローを出来る限り短期間にすることが必要です。3DCADを導入すれば、製品試験の前に多くの検証項目をバーチャル環境でテストでき、事前に問題点を洗い出せるため、開発工程の短縮が可能です。

またPDM(Product Data Management)は設計データと付随する技術文書などをひも付け、調達、設計、製造にわたる一連のプロセスにおけるトレーサビリティを高めます。3DCADやPDMは法規制への対応が求められる医療機器業界に適した製品開発の環境づくりを推進します。

次回は、医療機器開発をサポートする3DCADをご紹介します。