群馬インターネット株式会社
導入事例の概要
群馬インターネット株式会社は、群馬県内の会員向けに接続サービスを行うインターネットプロバイダーだ。近年、モバイルデバイスの普及で業界全体のプロバイダー事業が縮小してきたことから、新事業の展開を模索。IT企業としての基盤を生かして将来の中核事業への成長を見込んだのが、3Dプリンターによるクラウド型の出力サービスである。利用者のメインターゲットは地域の製造業だが、今後の3Dプリンティング市場の飛躍的な拡大を見据え、サービスコンテンツと設備のさらなる充実を図ろうとしている。
経営環境の変化に対応するべく新規事業に意欲的にチャレンジ
群馬インターネット株式会社は、群馬テレビ株式会社や株式会社上毛新聞、株式会社群馬銀行をはじめとする地域の有力企業が出資し、本格的なネット社会が到来しようとしていた1995年に設立されたインターネットプロバイダーだ。群馬県の各所にアクセスポイントを設け、県内の多数の法人会員や一般会員に接続サービスを提供してきた。
設立から18年を経て、通信環境はアナログからデジタル回線へ、またモバイル通信の普及と大きく変化。同社はそれに伴い多様な接続サービスを拡充させてきた。しかしながら近年の業界傾向として、PC向けの旧来のプロバイダー事業は厳しい経営環境に置かれているという。
「スマートデバイスによるインターネットへのアクセスが飛躍的に増大したためです。どのプロバイダーも総じてユーザーが減少していますが、これは時代のすう勢ですから、既存事業の売り上げが縮小するのを食い止めることは容易ではありません。」と説明するのは、営業本部長の橋本 竜氏だ。一方で、クラウドサービスに対するニーズは増している。同社も早い時期から主に地元企業向けのデータセンターやレンタルサーバーの運営を行っているが、規模の拡大にはネットワーク環境の保守や災害対策などに多大なコストがかかることから大手に対抗するのは難しく、事業の柱とするのは困難だという。
「そこで当社は、IT企業としての特質を生かしつつ、時代に見合ったサービスを柔軟に提供することを方針に、2年ほど前からさまざまな新規事業を展開するようになりました。」と橋本氏。動画投稿などにも適する小型高性能カメラのインターネット販売や、スマホなどで設置先の様子をライブで見られる「あんしんカメラ」サービス、さらには太陽光発電による売電と、手がけた事業の種類は多彩だ。スポーツシーンなどの迫力ある動画が撮影できるウェアラブルカメラ「GoPro」は特に高い販売実績を上げ、今後の事業多角化に自信を深めたという。
そうした経緯を踏まえ、同社は2012年11月に「毎年1件の新規事業立ち上げ」を正式な経営ミッションに位置づけた。その最初の案件がインターネットを介して、顧客から提供された3次元CADデータを3Dプリンターで出力するサービスである。
営業本部長 橋本 竜氏
「最近、イタリアのメーカーが新しい3Dプリンターをリリースし現地へ視察に行くつもりでしたが、その製品に関する十分な情報を提供してもらえたので、わざわざ足を運ぶ必要がなくなりました。圧倒的な情報力を持つ大塚商会さんは、私たちにとって本当に頼もしい存在です。」
プロバイダーとしての技術を生かし、3Dプリンティング事業に着手
3次元CADデータをもとに、樹脂や金属粉などを何度も層を重ね立体物を造形する装置が3Dプリンターだ。活用すれば金型を製造する工程とコストを省けることから、製造現場では主として工業製品の試作に用いられてきた。近年は個々の患者の体の形状にフィットするインプラントの作製といった用途で医療現場にも普及しつつあり、個人向けの装置が比較的安価に販売されるようになったことから、趣味のものづくりに利用するユーザーも現れている。
この分野に将来性を見いだした同社は、3次元CADソフトと3Dスキャナー、2台の3Dプリンターを導入。地域の製造業をメインターゲットとする出力サービスを2013年8月に開始した。なぜインターネットプロバイダーが、一見関連性のないように思える3Dプリンティング事業に着手したのだろうか。
そもそものきっかけは、かつて設計や開発の仕事に携わった経験のある橋本氏がクリス・アンダーソンの著書「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる(NHK出版)」に共感し、3Dプリンターの普及がものづくりにもたらすだろうイノベーションが、大きなビジネスチャンスになると確信したことだった。
プロフェッショナル3Dプリンター「ProJet 3500 HD Max」。高性能でありながらオフィスでの利用が可能だ
「最近は自社工場を持たずに外部の協力企業に生産を委託する小規模なファブレスメーカーが急増していますが、そうした企業が最も苦しむのが試作品の開発費用です。高性能の3Dプリンターは非常に高価なので、弊社が設備を用意してそれをサポートします。データセンターなどの運営で培ったノウハウを持つ弊社にとって、インターネットを介して顧客から3次元CADデータを受け取り、出力した造形物を提供するクラウド型のサービスは新しいビジネスモデルとしてふさわしく、また地元企業への貢献にもつながるだろうと考えました。」と橋本氏は話す。
導入機種を検討するにあたり、ネット検索をすると、大塚商会のCAD関連ハードウェアのサイトが真っ先に目についたという。「私どもは『たのめーる』の利用者ですが、大塚商会さんが3Dプリンターまで扱っているとは知らなかったのです。早速製品紹介を依頼したところ、各メーカーの多彩な機器のメリット・デメリットをこと細かに説明してもらえ、さすがマルチベンダーだと感心させられました。また、営業担当の方がカタログには記載されていない有用な製品情報まで入手していることに感銘を受け、他社と比較をするまでもなく導入を決定しました。」と橋本氏は大塚商会を選定した理由を語る。
新事業を支えるクラウド技術と高性能3Dプリンター
3Dプリンティングは将来の中核事業に発展し得るとの期待のもと同社が選んだメイン機種は、世界トップレベルのスペックを誇るプロフェッショナル3Dプリンター「ProJet 3500 HDMax」だ。出力した造形が高精細・高精度であることに加え、強化プラスチックやABS樹脂など造形物の素材となる複数のマテリアルを使うことができる。そのため試作や機能テストといった多様なニーズに対して、高品質な出力サービスを提供可能だ。同機種専用のマテリアルは60℃程度の熱を与えれば溶融させられるため、プリンティング後のヤスリがけなどが不要で、同一の造形物を複数作製した際の仕上がりにバラつきが出ないのも魅力だった。
オリジナルの生活雑貨をつくりたいといった個人客の要望に応える3Dプリンター「CubeX」
同時に「SolidWorks Premium」を導入。3次元データを活用した製品設計業務を包括的にサポートするCADソフトで、顧客が試作品の作製前に設計を検証したりするのに用いる。世界的に定評のあるパッケージの一つであることと、プリンターとの相性の良さが選定の決め手となった。またパーソナルユース向けの3Dプリンター「CubeX」、3Dスキャナー「Artec Eva 3Dスキャナ」も導入している。「この事業を発案した当初は3Dプリンティングに関する専門知識はありませんでしたが、大塚商会さんの丁寧なアドバイスのおかげで、私たちの事業計画に適した設備投資ができました。」と橋本氏は満足そうに語る。
8月に始まったこのサービスは緒についたばかりだが、実際に収益が出ることを確認でき、今後の事業展開に対する大きな手応えを感じている、と橋本氏。利用に先立って設備見学に訪れる企業も非常に多く、まだ開拓途上にある3Dプリンティングサービス市場の大きさを実感しているそうだ。「弊社の想定するビジネスモデルは、新製品の開発をする中小企業などに、時間、日、週、月、年単位で設備を占有していただくサービスです。3Dプリンターによる試作品製造は、期間もコストも金型を用いる場合の10分の1程度。このメリットを生かして、多くの企業に高効率の開発をしていただきたいですね。」と橋本氏は展望を語る。
クラウドで機密データをやり取りすることに不安を抱く利用者もいるだろう。特に開発段階の3次元CADデータならなおさらだ。しかし、インターネットプロバイダーである同社には、高度なデータ管理技術がある。3Dプリンティングサービス分野には競合企業が増える可能性が高いが、セキュリティ面での信頼性は同社の大きな強みになるだろうと橋本氏は見ている。また、同社のある高崎市は新幹線や高速道路による都心部や新潟などとのアクセスもよく、顧客がプリンティングの現場に立ち会う必要が生じた際の地の利に恵まれている。マーケットは群馬県にとどまらず、周辺部の広域に広げられそうだ。
大きな潜在性を秘める3Dデータ活用の可能性
将来にわたって製造業の利用が中心になると思われるが、3次元CADデータに関連するサービスはさまざまな分野での活用が予測される。その一つが、機器や部品の内部構造をスキャニングする「リバースエンジニアリング」だ。製造が終了した工業製品に補修が必要になったとき、部品も設計図も金型も廃棄されているケースが少なくないが、3Dスキャナーで造形データを取得すれば、容易に代替部品を作製できる。対象物にダメージを与えることなく立体データを得られる3Dスキャナーは、美術的価値の高い造形物のデジタルデータ保存といった用途への応用も期待されている。
同社が導入した「Artec Eva 3Dスキャナー」は、ほかの製品のように対象物をマーキングする必要がなく、高速で3次元CADデータが取得できる。また、一般のスキャナーは強い光を当てて読み取るが、同機の照明はLEDなので、光にデリケートな美術品などに悪影響を与える恐れも少ない。そこで同社は、地域の埋蔵文化財を保護する団体と協力して県内の遺跡をスキャニングし、データを学校に配布して教育に役立ててもらう計画を温めている。先ごろ地域の新聞社とタイアップし、スキャニングした子供の顔の画像をメダルにしてプレゼントしたところ大変好評だったことから、そうしたイベントにも力を入れていきたいという。同社の根底には、自社をはぐくんだ地域への貢献という大きなコンセプトがあるのだ。
3Dスキャナー「Artec Eva 3Dスキャナー」はハンディタイプで、使う場所を選ばない
「あらゆる生活用品の『パーソナライズ』や『カスタマイズ』を促進する3Dプリンターは、今後個人の利用も爆発的に増大させるでしょう。企業・個人の双方のお客様の増加を想定して、当社では今後3年以内に3Dプリンターを100台に増設する予定です。」と橋本氏は壮大な事業計画を明かす。1980年代に開発された3Dプリンティングは製造業にとっては必ずしも新しい技術ではないが、関連機器の大幅な性能向上により多様な分野での利用が急速に広がりつつある現在は、3Dプリンティングのニーズの本格的な掘り起こしが始まったところだと言える。「私たちにはマーケットの黎明期にいち早くこの事業をスタートさせたアドバンテージがあると考え、これからも柔軟な視点でさらに豊富なサービスコンテンツを開発していくつもりです。」と橋本氏は力強く語る。