日本アイリッヒが、セキュアなデータ管理と事業継続性の強化を目指し統合ストレージ基盤を構築

日本アイリッヒ

日本アイリッヒは、産業用ミキサーの先駆者である独アイリッヒ社の日本法人として1974年に設立された。原料の混合・混練・造粒・分散、反応といった複数のプロセスに対応する「アイリッヒ インテンシブ ミキサー」をはじめ、高度な粉体処理技術を応用した製品群が幅広い産業分野で活躍している。

日本アイリッヒ

導入事例の概要

導入の狙い

  • CADをはじめとするさまざまな業務データは部門単位、クライアント単位で管理されてきたが、これを解消し全社の業務データを統合的・一元的に管理すること。さらに、災害を含むあらゆるケースを想定し、データをセキュアに管理して事業継続性を強化すること。
  • 「全てのデータをセキュアに保護する」という方針の下、サーバーおよびクライアントの全社データを統合ストレージ基盤に集約し、実データのまま九州事業所にリモートバックアップを行う。

導入システム

『HP P4000 G2 SAN』『HP D2D Backup System』『HP BladeSystem c7000』『HP ProLiant BL685c』『HP ProLiant BL460c』

導入効果

  • 全社業務データ・技術データの安全かつ一元的な管理を実現
  • データの統合管理とリモートバックアップにより事業継続性を強化
  • ファイル単位でのデータ復旧を迅速に実行可能に
  • PDMシステム導入を視野に入れたITインフラの整備

150年の歴史を持つ産業用ミキサーの先駆者

「ミキサーという製品はノウハウの固まりです。似たような製品は数多く存在しますが、アイリッヒが磨き上げてきた独創的な技術はほかの製品とは大きく差別化できるものです。独アイリッヒは創業150年という長い歴史を持つ会社で、100年以上前の設計図面まで大切に管理しています。自社の技術やノウハウを非常に重要視している表れといえるでしょう」と日本アイリッヒの専務取締役 内藤雅元氏は語る。

技術データ・図面データは世界中のアイリッヒグループの拠点で共有されるが、その管理は極めて厳格に行われている。「技術データを電子メールで送付することは厳に禁止されています。現在、独本社-日本アイリッヒ間でのデータのやりとりは、技術データ管理専用のストレージへ必要な人が自分で取りに行く方法を採っています。独-日間はセキュアな専用回線で接続し、ストレージへのアクセスは厳格に管理・コントロールされています」(内藤氏)

アイリッヒ インテンシブ ミキサー

これらのインフラはまず独のアイリッヒ本社側で設計・構築がなされ、続いて本社に接続する各国拠点でも整備が進められた。日本でプロジェクトが立ち上がったのは2011年の初頭である。

「私たちが重視したのはセキュアであること、そして信頼できること。すなわち、技術的な裏づけの下正しくマネジメントされたITインフラです」と内藤氏は強調する。

独アイリッヒ社が示した方針は、「セキュアなデータ管理・共有環境の構築」、「仮想デスクトップによるセキュアなクライアント環境の構築」、そして集大成ともいえる「C ADデータのグローバル共通PDM(Product Data Management)への移行」であった。プロジェクトはどのように進められたのか。IT Group Managerの清水裕氏は次のように説明する。「日本アイリッヒとしては、まずバラバラに構築されてきたシステムを仮想サーバー環境に集約し、データ管理も統合ストレージに一本化するグランドデザインを描きました。全社の業務データ管理を統合化しつつ、これに対するデータバックアップを効率良く行うための仕組みも考慮しました」

日本アイリッヒが、新しいITインフラを構成する主要機器として選んだのは、業界標準のブレードサーバー「HP BladeSystem」とクラスター型iSCSI-SANストレージ「HP P4000 G2 SAN」、ディスクバックアップシステム「HP D2D BackupSystem」だ。そして、清水氏が描いたシステムデザインを深く理解し、導入効果を最大化するこのハードウェア構成を提案したのは大塚商会である。

専務取締役 内藤雅元氏

専務取締役
内藤 雅元氏

「独-日間はセキュアな専用回線で接続し、ストレージへのアクセスは厳格に管理・コントロールされています」

Administration UnitIT GroupManager 清水裕氏

Administration UnitIT GroupManager
清水 裕氏

「本システムで“セキュアなデータ管理”を実現するためには、万全のバックアップ環境を構築する必要がありました」

セキュアな業務データの管理を実現する統合環境

プロジェクトの根底にある方針は「業務データ・技術データのセキュアな管理」である。この背景には、自社の技術やノウハウを重要視するアイリッヒの企業文化がある。「セキュアなデータ管理を実現するには、サーバーの統合、ストレージの統合、バックアップの統合、そしてクライアント環境の統合が不可欠と考えました。統合されたITインフラのデザインに基づいてハードウェアの選定を進め、独本社の承認を経てHP BladeSystem、HP P4000 G2 SAN、HPD2D Backup Systemの採用を決めました」

2011年6月、日本アイリッヒは、ITパートナーである大塚商会とともに新しいITインフラを構築・稼働させた。メッセージング、グループウェア、ファイル共有など複数のシステムをHP BladeSystemとXenServerによる仮想サーバー環境に移行し、新たにXenDesktopによる仮想デスクトップ環境を構築。これらのデータを統合的に管理するストレージとして採用されたのが「HP P4000 G2SAN」である。

「仮想デスクトップにより業務系PCをシンクライアントに刷新し、データ管理をサーバー配下のストレージへ切り替えました。CADなどのワークステーション環境に関しては、ユーザーが作業データを保存すると、それが共有フォルダ/マイドキュメント/デスクトップいずれの場所であってもHP P4000 G2 SANに書き込まれる仕組みを用意しました」(清水氏)

「HP P4000 G2 SAN」は、仮想サーバー環境・仮想デスクトップ環境向けの共有ストレージとして実績豊富な製品だ。iSCSI -SANストレージとして、管理ツールを含めた扱いやすさに定評がある。クラスターストレージと呼ばれるアーキテクチャを採用し、HDD、コントローラ、iSCSI I/Oモジュールから構成されるストレージノードをスケールアウトすることで、容量・パフォーマンスとともに可用性までも高めることができる。「HP P4000 G2 SANは、データを複数のストレージノードに分散して書き込む『ネットワークRAID』と呼ばれる機能を備え、高い可用性・耐障害性を確保できることを評価しました。このネットワークRAIDが採用の決め手といえるでしょう」と清水氏は語る。

本システムを提案した大塚商会の乙部 建史は、「複数のノードを接続するクラスターストレージはノード障害が最大の弱点と言われています。HP P4000 G2 SANはこれを完全に克服しているところが、ほかのクラスター型のiSCSI -SANストレージ製品と決定的に違うところです」と語る。

新システムが稼働して早々に、予期せぬ出来事でネットワークRAIDの威力を実感した機会があったという。「休日、無人のサーバールームで空調機故障が発生しました。これによりサーバールーム内の温度が上昇し、サーバーが次々と自動停止(ASR=AutomaticServer Recovery)していったのです。私が到着したときには、4ノードで稼働させていたHP P4000G2 SANのうち1台がエラーとなっておりクラスターから除外されてしまっていました。室温を正常に戻してからシステム復旧に着手しましたが、ノード除外された HP P4000 G2 SAN は、再度クラスターに参加させるだけの手順で、その日のうちに無事に復旧できました。もちろんデータの損失はありません。データ保護の基本はストレージにある、ということをまさに実感させられた体験です」(清水氏)

ストレージ環境

株式会社大塚商会PLMソリューション営業部 首都圏製造PLM 1課 乙部 建史

株式会社大塚商会PLMソリューション営業部 首都圏製造PLM 1課
乙部 建史

「HP P4000 G2 SANはノード障害を完全に克服しているところが、ほかのクラスター型のiSCSI -SANストレージ製品と決定的に違うところです」

重複排除が可能なD2Dデータバックアップ環境

空調機停止に端を発するトラブルは、業務に影響を及ぼすことなく収束させることができた。HP P4000 G2 SANのネットワークRAIDが奏功した形ではあるが、清水氏は「セキュアなデータ管理」という方針に沿って既にその先の手も打っていた。「2011年6月の時点で、災害を含む予期しない障害への対策がとられていたのですが、この件では幸いにも出番はありませんでした。ディスクベースの『HP D2D Backup System』を使い、統合ストレージHP P4000 G2 SANからのデータバックアップを日次で行っているのです」

「HP D2D Backup System」は、バックアップ環境が直面する問題を解消する製品として急速に支持を高めている。特に、複数システムのデータを統合管理するストレージ環境で威力を発揮する。並列処理による大量データの高速バックアップ、バックアップソフトウェアによるスケジューリングへの対応、メディア交換が不要でメンテナンスが容易、ファイル単位での高速リストアが可能など、多くのメリットをもたらす。「HP D2D Backup Systemの機能で最も注目したのは“重複排除”です。バックアップ対象となるデータは右肩上がりで増えていきますから、バックアップ装置の容量消費をいかに抑えていくかが重要と考えました」(清水氏)

HPが独自開発した「HP StoreOnce重複排除ソフトウェア」では、バックアップデータ量を1/20~1/50に縮小可能だ※。平均4K(一般的な重複排除製品で8~16K)という微細なチャンクサイズで重複排除を実行し、重複排除率を大きく高めることに成功している。「以前、システムのデータが急増してテープによるバックアップ運用が破綻した経験があります。本システムで“セキュアなデータ管理”を実現するためには、万全のバックアップ環境を構築する必要がありました」と清水氏は強調する。

内藤氏が次のように続ける。「まず、ストレージシステム自身が高い可用性を備えていることを重視して製品選定を行いました。次に、これにD2Dシステムを組み合わせて、バックアップを含むトータルな運用を正しく確立しました。そして、災害対策を視野に入れたマルチサイトでの可用性、すなわち事業継続性の強化までを今回のプロジェクトで達成したのです」

日本アイリッヒの事業継続を支えるディザスタリカバリシステムの実現に貢献したのも、「HP D2DBackup System」である。

  • * HP調べ(6カ月程度のバックアップ運用の結果。重複排除率は取得するデータの種類、データ量、データ取得期間により異なる)。

成田-九州を結ぶディザスタリカバリシステム

HP D2D Backup Systemでは、遠隔地とのデータコピーを低帯域で実現する「リモートレプリケーション機能」をオプションで利用できる。日本アイリッヒは、これを採用することで成田本社と九州事業所を結ぶディザスタリカバリシステムを容易に構築することができた。内藤氏は「プロジェクト立ち上げ直後に発生した東日本大震災の影響は大きかった」と振り返る。

「震災直後、独アイリッヒからの指示で重要データの保全を図るために本社のシステムを一時名古屋へ退避させました。東日本での最悪の事態を想定し、データは地理的にセキュアな拠点に置いておくべきであるという判断によるものです。現在は、クライアントを含むデータ管理を全て本社に統合しています。統合的にデータを管理するストレージからローカルでバックアップを取得し、それを九州の拠点にリモートコピーするという理想的な体制を整えたのです」(内藤氏)

テラバイトクラスのデータを効率良く転送するために、HP D2D Backup Systemの重複排除が威力を発揮しているという。「測定したところ、実際の重複排除率は90%を超えています。満足できるレベルです。非同期で重複排除されたデータを転送していますので、VPN回線のコストも抑えることができました」(清水氏)

一方、当初4ノードで導入したHP P4000 G2 SANは10ノードに拡張されている。スケールアウトによって容量を拡張できるクラスターストレージのメリットが早くも生かされた形だ。

大塚商会の佐藤は、「HP P4000 G2 SANはシステムを停止することなくストレージノードを増設できます。増設されたディスクは自動的に仮想ストレージプールに組み込まれ、データも自動的に再配置されます。データ配置も自動的に最適化されるのですが、帯域幅の優先順位の設定でデータ再構築の優先度を最大にすることで、一晩のうちに完了することができました」とエピソードを紹介する。

また、清水氏は「大塚商会さんから提案を受けた『HP 通報サービス』を採用しました。ハードウェア障害を検知した時点で日本HPに自動通報され、復旧に必要な手順が速やかに実行できるので安心です。限られた管理者でシステムを運用するには非常にメリットが大きいと思います」と語る。

最後に内藤氏が次のように語って締めくくった。「全社の業務データ・技術データをセキュアに管理するという目標は、ほぼ達成されました。グローバルPDMへの対応の準備も整ったといえるでしょう。これからは、データ化された技術やノウハウをアイリッヒグループ全社で上手に共有し、ビジネスの成果に結びつけるチャレンジを続けていくことになります」

株式会社大塚商会京葉営業部 技術グループ テクニカルソリューション課 佐藤 良孝

株式会社大塚商会京葉営業部 技術グループ テクニカルソリューション課
佐藤 良孝

「帯域幅の優先順位の設定でデータ再構築の優先度を最大にすることで、一晩のうちに完了することができました」

日本アイリッヒ

業界製造
事業内容粉体処理
サイトhttp://www.nippon-eirich.co.jp/