施工BIMのカギはツール活用! 選定ポイントは「手軽さ」と「簡便さ」

施工BIM普及に向けて

設計フェーズでは着実に広がりつつある日本のBIM活用。一方、施工フェーズに目を向けると思ったほど普及が進んでいない。施工BIMの浸透を妨げるものとは何か。その状況を打開するためには何が必要か。

日本で施工BIMが広がらない理由――

そもそもなぜ日本では施工BIMが浸透しないのか。施工BIM支援ソフトの開発などを手掛ける建築総合アウトソーシング企業M&F tecnica代表取締役社長兼COO 守屋正規氏は、その理由は複数あるとした上で日本の建設業界の商習慣を指摘する。

本来、設計と施工をつなぐ役割を期待されるのは現場所長だ。しかし、ゼネコンなどの現場所長は竣工間際に次の現場が決まることがほとんどで、設計時点(S3~S4)で施工の問題点を検討する時間的余裕はない。大手ゼネコンでは設計、営業、積算、施工などの部署が細分化していて、仮に設計・施工で一括受注して設計段階での施工検討の前倒し“フロントローディング”を試みても、各部署の責任が曖昧で連携しにくい。結果、契約用の設計図面があっても、施工段階で新たに施工検討を行い施工図を描き起こす必要がある。

守屋氏は、「まずはこうした商習慣を改めた上で、BIMをベースにした設計から施工につなぐ効率的なワークフローを早急に構築する必要がある」と警鐘を鳴らす。

M&F tecnica代表取締役社長兼COO 守屋正規氏

M&F tecnica代表取締役社長兼COO 守屋正規氏

クレーン施工計画を支援するシミュレーションソフトを販売する大手建設機械メーカーのコベルコ建機 新事業推進部 新事業プロジェクトグループマネジャー 岡田哲氏は、施工BIMに使えるツールが少ないことも普及を妨げている要因ではないかと問題提起する。岡田氏は、多くのゼネコンが意匠、設備、構造の設計にRevitを用いているが、Revitで施工BIMをしようとしたとき、建機・仮設足場のファミリーなど、施工に必要な情報や機能がある製品はあまりにも少ない。誰でも使えるツールを増やすことも大切だ」と提案する。

守屋氏も同意を示し、「ようやくBIMが認知されるようになったが、2D図面で十分に施工できるのでBIMは不要という声があるのも事実だ。そうした声に真摯(しんし)に向き合い、彼らがBIMデータを使いたくなるようなツール(環境)を開発(用意)できるかどうかがカギ」との持論を展開した。

守屋氏が言う「BIMデータを使いたくなるようなツール」とはどのようなものか。M&F tecnicaの「MFTools(エムエフツールズ)」とコベルコ建機の「K-D2 PLANNER(ケイディーツー プランナー)」を例に解き明かしていきたい。

Revitのポテンシャルを引き出す「MFTools」

MFToolsは、BIMモデルを作ることよりも活用することに重点を置いて開発されたRevitアドオンツールだ。

コンクリート打設計画や型枠数量生成、外部仮設足場計画など、Revitの使い勝手を向上させる22の機能がある(2023年11月時点)。最新のバージョン3.0で、Revitモデル内のオブジェクトのパラメーター情報をテーブル形式(Excel形式でエクスポート可能)で表示する「モデルクエリ」機能が追加されるなど、アップデートは現在も継続している。守屋氏によれば、MFToolsの多様な機能の中で最もニーズが高いのはコンクリート数量拾いだという。

大規模建築物の基礎工事では、構造上問題がない位置で工区を区切りながら複数回にわたってコンクリートを打設しなければならない。打設範囲はその都度異なるので、ミキサー車を過不足なく適切に手配するためには工区ごとに必要なコンクリート量の算出が不可欠だ。

そのためにRevitのビジュアルプログラミングツール「Dynamo」や各社独自開発のプログラムを利用しているが、特定の人間しか扱えないことが多い。MFToolsのコンクリート数量拾い機能であれば、BIMモデルを任意の場所で区切るだけで必要なコンクリート量を計算できる。

「MFTools」イメージ

「MFTools」イメージ

守屋氏は、コンクリート量に限らず施工現場で現場管理者が数量を把握することは大きな武器になると考えている。施工現場で数量や歩掛りを常に把握できれば、無駄のない人員配置や資材搬入計画が可能になり、品質事故も起こりにくくなる。それを簡単に実現するのがMFToolsというわけだ。

正確な数量拾い以外にも、「パラメーター管理が容易なのでBIMデータを次のステップでも有効に活用しやすく、手戻りを減らせるという点でもMFToolsは施工BIMに貢献できる」と守屋氏は自信を示す。

直感的な操作で施工シミュレーションできる「K-D2 PLANNER」

コベルコ建機でK-D2 PLANNERの開発がスタートしたのは2020年。岡田氏は、「施工計画のためのクレーンのクラス選定などは二次元図面で別途吊り能力や接地圧を計算しながら進めていたため、検討に時間を要していた。接地圧を計算できるシステムを当社のWebサイトで公開しているが、複数の施工シーンでのクレーン姿勢入力に課題があった」と当時を振り返る。

課題解決のために、「BIMモデルで手軽にクレーン施工計画を立案」できることを目指して生まれたのがK-D2 PLANNERだ。

K-D2 PLANNERの特徴は、シンプルかつ直感的な操作にある。BIMモデルをクリックするだけで資材組み付け時のクレーン姿勢を3Dで検討できる。資材の重さなどの情報とも連携し、施工計画に必要なクレーンの負荷率や接地圧などもワンタッチで表示される。施工ステップを見える化して関係者と共有する機能もある。施工計画に合わせて3Dモデルをパラパラ漫画のような動画にして、無償で利用できる3Dモデルビュワー「Navisworks」に出力することで、Revitを所有していない協力会社との施工計画の共有も実現する。

コベルコ建機 新事業推進部 新事業プロジェクトグループマネジャー 岡田哲氏

コベルコ建機 新事業推進部 新事業プロジェクトグループマネジャー 岡田哲氏

K-D2 PLANNERは2023年4月に一般販売を開始し、同年11月時点で既にスーパーゼネコンをはじめ、多くの企業に導入いただいている。検討時間の短縮だけでなく精緻な検討が可能なので、ケースによってはK-D2 PLANNERを利用せずに検討したサイズよりも、利用することで小さいサイズのクレーンに変更でき、施工コストを削減するといった効果を挙げているという。クレーンの3Dモデルを自社作成していた企業からは、複数メーカーのモデルがあらかじめ用意されているので、製作やメンテナンスの手間がなくなったとの声が寄せられている。

「K-D2 PLANNER」イメージ

「K-D2 PLANNER」イメージ

施工BIMの普及と、その先へ

MFToolsとK-D2 PLANNERに共通するのは、建築総合アウトソーシング企業としての知見や建機メーカーのノウハウを盛り込んだ高機能ツールでありながら、施工BIMへのハードルを下げる「手軽さ」と「簡便さ」を兼ね備えていることだ。

守屋氏によれば、MFToolsの開発に当たって現場監督が面倒くさいと感じることを解消することを念頭に置いたそうだ。「MFToolsでBIMモデルを使って現場の困り事を簡単かつ手軽に解決する。その経験を積み重ねた先に、BIMモデルがないと施工が大変だという認識が広がり、施工BIMが必須になる状況が生まれる」(守屋氏)

岡田氏は、「K-D2 PLANNERで揚重計画は詳細に検討できるが、施工に必要な外部仮設足場の計画や根切りの掘削量、プレキャスト部材の重さなどを測ることはできない。だがMFToolsと組み合わせればそれが可能になる。複数のツールを使いこなすことで施工BIMは簡単だと感じられるようになるはず」と、MFToolsやK-D2 PLANNERといった施工BIM支援ツールで施工BIMはさらに身近なものになると力説する。

今後どのように自社のツールを発展させていくのだろうか。

守屋氏は、MFToolsを使って設計データを製造現場までつなげたいと語る。「BIMモデルのソリッドなデータを利活用すれば、施工のさらに先にある製造までつなげられる。その際に重要なのは、作り手側が『これがあったら楽になる』というデータを渡せるようにすること。BIMモデルでのやりとりにこだわらず、中間フォーマットなど、相手が希望するデータ形式で渡せるようにしたい」と構想を明かす。

岡田氏は、「これまでは“作るBIM”“使うBIM”を目標としてきた。次は、“成長するBIM”の開発に取り組みたい。施工計画データと重機からの施工実績データを連携させた予実管理の機能を持たせることができれば、結果を次の施工計画に生かす良い循環が生まれる。そうなれば、“作るBIM”“使うBIM”は“成長するBIM”へと変わる」と展望を思い描く。

繰り返しになるが、建設生産プロセス全体を通したデータ連携こそがBIMの本質だ。守屋氏や岡田氏が見据える「設計~施工だけにとどまらないBIM連携」で、建設生産プロセスの変革に至る可能性が広がるだろう。

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