【CAE】マスクの着用効果をCFDで解析

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴い、MSC Softwareグループ傘下のソフトウェアクレイドルは、同社のCFD(数値流体力学)ソフトウェア「scFLOW」を用いて、くしゃみによる微粒子の飛距離が、防護なし、肘の内側による防護、マスクの着用でどのように変化するのかを解析しました。その結果をご紹介します。

計算条件

  • 閉じられた空間(部屋)に二人が2m離れて向かい合って立っている
  • 一方の人物がくしゃみ(口から流速10m / s、計算開始から0.1秒間持続)をする
  • くしゃみの飛沫として水の密度設定をした1μmの粒子を口から10万個を10回に分けて発生
  • 粒子へは空気抵抗、重力も考慮
  • 計算のタイムステップは1ms
  • 計算時間は5秒間(5,000ステップ)
  • 乱流の取り扱いはLES(Large Eddy Simulation)(墳流状の流れ特性を考慮)
  • メッシュ数:130万~250万要素
  • * 本来、正確に現実のくしゃみを模擬するには、液滴の粒子径分析や噴出角度などをより詳細にモデル化する必要があります。
  • * 今回は液滴の飛散を防ぐ方法による影響に着目した検証としたため、前述の条件下で計算を実施しています。

計算結果

1.防護なしの場合

全く口をふさがないままでくしゃみをした場合、噴出された液滴は約2.5秒で対面する人物に到達しています。液滴を輸送する渦の動きを可視化するため、速度勾配テンソルの第2不変量の等値面を重ねて描画しました。その結果、口からの噴流により形成された渦輪が液滴を巻き込みながら、遠方へ運んでいく様子が確認できました。

2.肘の内側で口元をふさいだ場合

実際には衣類の袖による摩擦や吸収効果などが考えられますが、今回は衣類の影響は考慮せず、腕の表面は滑らかな壁として計算しています。

顔と腕の間には上下に隙間があり、口から噴出した流れはこの隙間を通って前方へ向かっています。先程の防護なしと比較すると、前方へ向かう流れは減衰して周囲に拡散され、液滴は対面する人物には到達しないことが確認できました。このときの液滴の到達距離は約1mで、防護なしの場合よりも大幅に短くなるとしており、マスクがない場合の対処として一定の効果が見込まれます。

3.マスクをした場合

使用するマスクは厚さ1mmの不織布製の市販マスクを想定し、流速に依存して圧力損失(抵抗)が発生する条件を設定しました。マスク自体が液滴を捕捉する作用についても考慮していません。マスクの周囲に関しては顔との間に1cm以下の隙間があるとしています。

くしゃみによる液滴は鼻とあごの周りの隙間から上下方向に吹き出すが、前方に向かって運ばれる液滴は少なく、液滴のほとんどがくしゃみをした本人の周囲に漂うことが確認できました。

まとめ

実際は、外部気流の影響や体温による上昇流の影響もあるため、このような単純な条件とはなりません。今回のシミュレーションでは少なくともマスクを着用することで、くしゃみに伴う液滴の飛散距離が大きく抑えられることが確認できました。(計算時間約1~2時間、144コア並列計算)