熱設計の最前線 -製造業の現場から見える課題と対策

なぜ今、熱設計が注目されているのか?

電子機器の高性能化・小型化が進む現代において、「熱設計」は製品の信頼性・寿命・安全性を左右する極めて重要な設計プロセスとなっています。かつての流体設計(空調や配管など)に加えて、筐体内部の熱分布・放熱効率などの熱設計が、製品の信頼性・寿命・安全性に直結する要素となっています。

特に設計・開発部門にとって、設計の初期段階で熱の問題をいかに正確に予測し、対策を講じるかが、後工程の手戻りや品質トラブルを防ぐ鍵となります。

熱設計の基本

まず、熱設計に関する基本的な疑問にお答えします。

そもそも熱設計とは何ですか?

電子機器や部品が動作時に発生する熱を効率的に放熱・冷却し、部品が許容温度を超えないように制御・予測する設計手法のことです。製品の安定動作と安全性を確保するために不可欠です。

熱設計を怠るとどうなりますか?

部品の温度上昇による故障、性能低下、製品寿命の大幅な短縮、最悪の場合は発火などの安全上のリスクに直結します。

熱設計の課題を解決する方法は?

設計初期段階での「熱流体解析(シミュレーション)」の活用が効果的です。試作前にPC上で熱の問題を可視化・予測できます。

現場で起こり得る熱設計の課題

多くの製造現場では、熱設計に関して共通の課題を抱えています。

局所的な発熱(ホットスポット)の発生

高密度実装により、特定の部品周辺だけが異常に高温になる問題。全体の温度は低くても、このホットスポットが故障の原因となります。

冷却部品(ファン・ヒートシンク)の最適配置が困難

スペースの制約の中で、最も効率的な冷却部品の選定や配置を決めることが難しい。

熱対策の属人化と経験依存

熱設計のノウハウが特定の熟練設計者の「勘と経験」に依存しており、若手への技術継承が困難。

熱解析専任者への業務集中

解析スキルが特定の担当者に集中し、設計者が気軽に熱の問題を検討できず、解析待ちのボトルネックが発生する。

熱設計の社内基準が未整備

設計変更のたびに試作品を作成し、温度測定をやり直す必要があり、開発工数とコストが膨らむ。

設計者の声

  • 熱設計・検証は後回しにされがちだが、トラブルの原因は熱によるケースが少なくない。
  • 設計変更のたびに試作品を作って温度試験をやり直すのは大きな負担どにより、コストが膨れ上がる。

課題の先延ばしが招くデメリット

これらの熱設計の課題を設計初期段階で解決せず、後工程や試作段階に先送りすると、企業にとって深刻なデメリットが生じます。

  • 開発コストの増大:試作回数の増加、金型修正、部品の再選定などにより、コストが膨れ上がる。
  • 開発期間の長期化(納期遅延):手戻りが多発することで、製品の市場投入が遅れ、ビジネスチャンスを逸失することに……。
  • 製品信頼性の低下:市場投入後に熱による不具合が発生すると、リコールやブランドイメージの失墜につながる。

課題解決の鍵「熱流体解析」とは?

これらの課題の解決方法が「熱流体解析(熱シミュレーション)」です。

熱流体解析とは、製品内部や周辺の空気の流れ、熱の伝わり方(伝導・対流・放射)、温度変化をコンピューター上で数値的にシミュレーションする技術です。熱解析ソフトウェアを活用することで、設計段階で次のような「目に見えない熱の振る舞い」を評価できます。

  • 発熱部品の温度上昇と冷却効果
  • 放熱経路の最適化
  • 材料の熱伝導特性による温度分布
  • 自然対流・強制対流による冷却性能の違い
  • 温度分布(モデル内の断面や表面)

  • 時刻歴プロット(温度の時間変化)

  • 熱の経路(移動経路やエネルギー量)

従来は熟練設計者の経験に頼っていた熱対策も、熱流体解析を活用することで、定量的な根拠(数値)に基づいた合理的な設計判断が可能になります。

熱流体解析のメリット・効果

熱流体解析を設計初期段階から活用することで、次のようなメリットや効果を得られます。

1.設計品質の向上と熱的信頼性の確保

高温による故障リスクを設計段階で特定し、確実に対策を打つことができます。これにより、製品の信頼性が格段に向上します。

2.設計初期段階での熱課題の抽出(手戻り削減)

実機や目では見えにくい熱の問題点(ホットスポットなど)を試作前に発見できます。これにより、後工程での大幅な設計変更や手戻りのリスクを劇的に低減します。

3.設計の最適化(性能・コストのバランス)

複数の設計案(ファンの有無、ヒートシンクの形状、通風口の位置など)をPC上で迅速に比較検討できます。これにより、性能、コスト、品質のバランスが取れた最適な設計を追求できます。

4.開発期間の短縮とコスト削減

物理的な試作回数や温度測定試験の回数を大幅に削減できます。結果として、開発スピードが加速し、試作コストの削減に直結します。

熱流体解析の活用事例と「設計者CAE」の浸透

熱流体解析は、電子機器、産業機械、自動車部品、家電製品など、発熱する部品を搭載するあらゆる業界で活用されています。特に、基板を搭載した電子筐体内部の温度分布評価や、効率的な冷却ファンの配置検討など、製品性能に直結する課題解決に不可欠です。

近年では、解析専任者でなくても、設計者自身が扱える「設計者CAE」ツールが注目されています。その代表例が、SOLIDWORKSに完全統合された「SOLIDWORKS Flow Simulation」です。設計者が使い慣れたCADの操作画面上で、直感的に熱流体解析を実行できるため、解析初心者でも導入のハードルが低いのが特長です。

まとめ:勘と経験の熱設計から、数値に基づく合理的設計へ

熱流体解析は、設計段階で「見えない熱の流れ」を可視化することで、設計品質の向上と業務プロセスの改善を実現する強力な手段です。勘や経験に頼る従来の設計から、シミュレーションによる数値に基づく合理的な設計へとシフトすることで、製品開発の精度とスピードを両立できます。

「設計の手戻りを根本から減らしたい」
「熱設計のノウハウを標準化し、若手にも判断できる環境を整えたい」
「厳しい納期と高い品質要求を両立したい」

このようにお考えの設計部門・開発部門の方は、ぜひ熱流体解析の導入をご検討ください。「自社の製品でも使えるか?」といったご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。お客様の設計課題に寄り添った最適なご提案させていただきます。