第9回 3Dをイラスト作成に活かす

ラティス・テクノロジー株式会社 鳥谷浩志社長直筆コラム
新たなマニュアル製作の仕組みが製造業のグローバルな競争優位性の獲得につながる

今回は初めにクイズをやってみましょう。図1・左右のイラストには大きく二つ違いがありますが、見つけられるでしょうか?

左:軽量XVLから自動生成したイラスト。右:左(XVLから自動生成した)のイラストをプロのイラストレータが時間をかけて修正したもの

左(XVLから自動生成したイラスト)は簡単に作成できるため、コストを低く抑えられます。
右(プロが描いたイラスト)はより美しく理解しやすいイラストができますが、修正すればするほど大きなコストがかかるというデメリットもあります。

取り扱い説明書やサービスマニュアル、パーツカタログなど、製造業において製品に関するさまざまなマニュアルが登場します。今回は「マニュアルに掲載するイラスト作成に3Dをどう活かすのか」という話をしましょう。

XVLとプロが描いたイラストの違いを答え合わせ

では、二つのイラストの違いを解答・ご説明しましょう。

違いその1:エンジン形状の中央部、最上部分
左(XVLから自動生成したイラスト)CADの持つ稜線の情報を引き継ぐため、少しごちゃごちゃしている。
右(プロが描いたイラスト)少ない線ですっきりとしているが、特長を表現している。
違いその2:エンジンの下の方に多数ある丸穴
左(XVLから自動生成したイラスト)単純な円で描かれている。
右(プロが描いたイラスト)円の下部が閉じていない(下から光が当たって線の部分が見えにくい様子を忠実に再現しているため)。

コスト面を考えてみよう

プロのイラストレータは製品の特長を分かりやすく伝えるのに的確なイラスト作成に貢献しています。

さて、問題はこれに対するコスト面です。複雑な製品では、さまざまなマニュアル上に数1,000個ものイラストが登場します。いちいち修正していたのでは膨大なコストがかかります。お客様はもちろん、分かりやすいイラストを望むでしょう。しかし、もしそれが原因で価格が20%高くなるとしたらどうでしょうか?安い方を選ぶ人も出てくるでしょう。そもそもイラストはマニュアルを分かりやすくするための手段です。自動生成したイラストを見る人が理解できれば十分です。

実際は、XVLから自動生成されたイラストで十分だ

実際、サービスマニュアルやパーツカタログを参照する方はメーカーのサービスマンやメンテナンス会社の方です。つまり、製品のプロフェッショナルです。プロが見るマニュアルであれば、プロが理解できれば十分です。

一つ例をご紹介しましょう。パーツカタログは製品が故障した際、故障部品が何であるかを判別するためのマニュアルです。これは、図2のように製品の分解図と分解された部品の名称や部品番号などの対応表からなります。図のイラストはXVLを分解した後、自動で生成したものです。対応する表もXVLの持つ部品情報を一覧表にして作成したものです。

このパーツカタログから部品を識別するのはプロにとって簡単でしょう。つまり、パーツカタログやサービスマニュアルの中のイラストであれば、XVLから自動生成されたもので十分だといえるわけです。

図2:製品分解図と各部品の対応表

図2:製品分解図と各部品の対応表

XVLによる自動作成は96%工数削減が可能に

さて、工数削減の面ではどうでしょうか。
実際に図3のイラスト10点をXVLから作成した場合と、下部の3点だけプロのイラストレーターが描いた場合を比較しました。

図3:40分でXVLからイラスト10点を作成できた

図3:40分でXVLからイラスト10点を作成できた

作業時間の比較
方法イラスト点数作成時間
XVLからの自動生成図3・10点すべて40分
(XVL Studioのイラスト機能を利用して3D形状の部品を移動したり、視点の方向を決めてイラストを自動生成するまでの時間)
プロのイラストレーターが作成図3・下部の3点830分
(CAD画面をキャプチャしトレースしながら作成するまでの時間)

実に96%の工数削減です。

3Dモデルがあれば、あらゆる角度からのイラストを作成できるため、量産する場合の工数削減効果は莫大になります。厳しい競争環境にある製造業にとって、3Dデータを活用してイラストを作成するという手法は即効性のあるコスト削減策になるでしょう。

XVLで分解図をどのように作成するのか?

では、XVLで分解図を作成するには次のような手順になります。動画でも解説していますので、是非ご覧ください。

XVLを利用した高品質・効果的なイラスト作成 YouTube再生

  1. どの角度からイラストを作成するのかアングルを決める。
  2. XVLで表現された部品を3D上で適正な位置に分解し、配置する。
  3. 注記や番号を記入する。
  4. イラストファイルに出力する。

XVLでコスト削減を実現している日立建機株式会社

このような効果に着目して多くの製造業では、XVLによるイラスト作成ソリューションが導入されてきました。CADデータと比較して軽量なXVLはパーツカタログを作成する上で必須となる部品の分解操作も軽快です。また、大容量の3Dデータも扱えます。CADに比べて導入コストもかからず、廉価なパソコンでもイラスト作成ができます。

このような点が評価されて、XVLによるイラスト作成は日本の主要な製造業に採用され、業界の標準となろうとしています。

例えば、日立建機株式会社ではパーツカタログや取り扱い説明書、サービスマニュアル作成のすべてでXVLを活用しコスト削減を実現しています。アジアで建機の需要が大きく拡大する時期に大量のマニュアルが必要とされましたが、同社ではXVLによるイラスト作成により、乗り切れました。コスト削減効果も年間数千万円に及ぶといいます。ご興味ある方は次のサイトや書籍をご参照ください。

製造業の競争に勝つには新たなマニュアル製作の仕組みも必要

もう一つ、XVLによるイラスト作成のポイントは「3Dデータ活用だからできる納期短縮」という側面です。これまで、実機が完成した後に分解しデジタルカメラで撮影した写真をトレースしてイラストを描くといった手法がとられていました。イラスト作成は実機の完成後でないと着手できません。マニュアルを準備できずに、製品が出荷できないという可能性もあります。

XVLによるイラスト作成ソリューションの誕生により、3Dデータさえあれば設計完了直後からイラスト作成に着手できるようになりました。マニュアルが製品出荷のボトルネックになるということはなくなります。

製品が3D設計されていれば、イラスト作成に関してコスト・工数・納期短縮というメリットを享受できる時代になったことをご理解いただけたでしょうか。新たなマニュアル製作の仕組みが製造業のグローバルな競争優位性の獲得に有効な手段になりつつあるのです。