第10回 XVLイラスト機能の進化
ラティス・テクノロジー株式会社 鳥谷浩志社長直筆コラム
XVL イラスト機能が実用にいたるまでの開発秘話
まず、図1をご覧ください。これはカシオ計算機の最新デジタルカメラ・EX-ZR1100の取扱説明書で利用されているイラストです。このイラストは軽量3D・XVLデータから作成されました。
現在は多数のお客様にご利用いただいていますが、実はラティス社が3Dからイラストを作成するソフトウェアを提供してから本格的にユーザーにご利用いただけるまで十数年の歳月が流れています。
この間当社は何をやっていたのか、機能がどう進化してきたのか。そして、ユーザーはどのように活用すればよいのかをご紹介しましょう。
あいまいな線の定義を明確にすることからスタート
第9回では、3Dデータから作成したイラストとプロのイラストレータが修正したテクニカルイラストを比較しました。
私が初めてテクニカルイラストを見たときは、線のどこを消したり残すのか全く見当がつきませんでした。ルールを明確にしないとソフトウェアの開発はできません。イラストは芸術の領域にあるのではないか、そうであれば技術でどこまで芸術に近づけるだろうかと悩んだものでした。イラストレータによって描く絵も異なっていたので、あいまいな部分も多々ありました。
実用にいたるまでの秘話
まず、解決しなければならないことは「イラストを作成するワークフローを踏襲したソフトウェアを提供する」ことです。そこでテクニカルイラストレータのためのサイトを見つけ、運営者の田山達也氏を訪問しお話を伺いました。
そこで、イラストを描く手順は次の3点だと学びました。
- 3Dを読み込んだら描画の角度を決める。これは等角投影した図になる。
- 3Dで部品を分解する。できるだけ直観的に分解できるようにする。
- 3Dから2Dの投影図を作成する。テクニカルイラストレータは絵を描いているのではない。
例えば「球を構成する円は斜めから見るので楕円として描く」といった数学的な変換を頭の中で行っている。
この手順を実装したソフトウェアが完成し、生成したイラストをご覧になった田山氏の評価は極めて厳しいものでした。それから、およそ7年の改善に次ぐ改善の結果、現在のXVL Studio シリーズ イラスト機能でようやく実用レベルに達したのです。
現在では、メーカーからXVLによるデータ提供を受け、マニュアル制作会社で3Dからイラストを作成するというスタイルも随所で見ることができるようになりました。
「イラストに高品質を求めない」という考え方でブレイクスルー
7年前のイラストはXVLから自動生成されたイラストは必要な線が抜ける、不要な線が多く「帯に短し襷に長し」という状態でした。どうしても人の手による修正が必要でした。しかも修正工数が大きいため、始めから描いた方が早いのではという状態でした。そんな時、出会ったのが株式会社やまびこの田中剛氏でした。
田中氏とのディスカッションで興味深かったのは、イラストに高品質を求めるのは「イラスト作成者の思い込み」であるという点でした。消費者はイラストから正しい情報を得ることが重要なのであって、高い品質を求めているわけではないというのです。
田中氏は「XVLから生成したイラストをそのまま使える領域を探そう」という発想をしていました。その後、3Dから作成するイラストの価値についてディスカッションを重ね、次の三つの開発方針が挙がりました。
- XVLから生成したイラストの修正工数をできるだけ減らす。
- そのまま利用できるイラストを生成する。
- 手描きでは実現できない機能を提供する。
イラスト修正工数を極力削減できるように
図2をご覧ください。イラスト修正工数をできるだけ減らすという開発成果を示した図です。
最適処理を施した場合、線が重複したり混雑している部分を自動的に間引きし、パラメーターを指定することで特徴線は残すという設定しました。ユーザーからも最適処理を施したレベルならそのまま使えるという評価をいただきました。部品形状によってはまだ修正が必要な場合もありますが、以前と比較すると工数はずいぶんと減りました。
もう一つのメリットとして、生成されたイラストファイルのデータサイズが半減しました。インターネット環境でイラストデータを表示するケースも増えてきたので、データサイズの軽量化も大きなメリットになります。
改良結果1:内部構造の断面図
図3をご覧ください。これはカットモデルと呼ばれる内部構造を分かりやすく表示するための断面図です。
左 (隠線とシェーディングで表現) |
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右 (線画付きのグレースケール表現) |
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複数の断面でカットすることで、見たい部分を製品全体と対比しながら確認できます。これを実機で実現する会社もありますが、イラストで表示した方が手軽でしょう。カットモデルを手描きでやろうとすると、専門の方が相当の工数をかけて考えながら進めていくので、膨大なコストと時間がかかります。これが理由でカットモデルはあまり使われてきませんでした。
3Dモデルさえあれば、誰でも手軽にカットモデルを作成できるように
そもそも製品を分かりやすく説明することがマニュアルの本質です。カットモデルの3Dモデルさえあれば、誰でも手軽に描けるようになりました。
左 (二断面でのカットモデル) | トランスミッションを二つの断面で切断し、内部構造を見せている。 |
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右 (グレースケールでのカットモデル) | エンジンのグレイスケールモデルの一部形状を残しながら、複数断面で切断。断面線を強調する便宜上、断面を赤で表示。 |
このような改善の結果、XVLのイラストソリューションは業界で幅広く利用されるようになったのです。
テクニカルコミュニケータ協会との関わり
最後に製品やサービスをいかに使用するかを分かりやすく説明する専門家の団体「テクニカルコミュニケータ協会(以下、TC協会)」との関わりをご紹介しましょう。TC協会では、毎年国際的なシンポジウムを開催しています。
2012年からパネルディスカッションで3Dが大きく取り上げられるようになり、私も参加しています。2012年は「3DとTCのおいしい関係」、2013年は「取説イラストに3Dができること」というテーマで行いました。
一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会 TCシンポジウム
タブレットを利用した3Dマニュアル活用へ
ディスカッションでは、マニュアルを発注するメーカーの方や制作するマニュアル会社の方、そして双方にイラスト作成ツールを提供するベンダーといったメンバーが参加しています。
そこで感じることは、年々3Dが市民権を得てきているということです。最近では「イラストへの3D活用だけでなく、タブレットを利用した3Dマニュアルの方が、分かりやすい説明には適しているのでは」といった提案もなされています。いよいよ業界内で軽量3D・XVLを活用し、マニュアルを作成するという潮流ができつつあるということを紹介して、今回の結びとします。
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