ラティス・テクノロジー株式会社 鳥谷浩志社長直筆コラム
ますます高まる3Dを利用したドキュメントの価値
2014年3月に「国土交通省国土地理院が日本全国の地形を3Dモデルとしてダウンロードするサービスを始めた」という発表がありました。新聞によれば、3Dプリンターのデータ形式・STLで全国の地形データをダウンロードし、実物模型を作成できるため大変な人気を博しているということでした。今回はこの地図データを軽量3D XVLに変換し、3D地図を作成してみました。
3D帳票の魅力とは?
Excelのプラグイン「Lattice3D Reporter」で3D地図を作成しました。実際はイメージをクリックすれば、3Dビューエリアに3D地図が表示され、自在に見回すことができます。
3Dデータがあれば断面表示もできるので、1,438mの神山の断面を切り山の断面図を見ることもできます。芦ノ湖の湖面と同じ等高断面も簡単に表示できるので、もし水位が増した場合どこまで浸水するのかも一目瞭然です。XVLの背景色を変えれば、昼間や夕刻の雰囲気を出すこともできます。これが3Dを利用した帳票の魅力でしょう。
3D帳票のコンセプトはまさに「3D設計の恩恵を全社で享受する」
それでは、3Dで情報を伝えることの魅力を製造業の事例で考えてみましょう。日本自動車工業会(JAMA)や電子情報技術産業協会(JEITA)では、ずいぶん前から2D図面を3D情報で置き換えてしまおうという取り組みを行ってきました。これは「3D単独図」とよばれています。CADで定義した3Dモデルに寸法や注記を加え、後工程では3Dビューアーで見ることで、図面の代わりに参照しようという考え方です。
多くの企業では3D設計後、2D図面を作成しています。その無駄を省くという意味でも、3D単独図導入の効果は大きいでしょう。米国ではこれと同じコンセプトをMBD(Model Based Definition)とよんでいます。
以前にご紹介したMBE(Model Based Enterprise)というコンセプトはMBDをさらに発展した考え方です。3Dモデルに後工程が必要とする組み立て工程やサービス部品表といった情報を付加し、CADを持たない人でも簡単に再現できるようにすることで、後工程の人が有効に活用しようという考え方です。JAMAやJEITAでも3D単独図の発展系としてMBEに対応する考え方を提唱しています。
これらは「3D設計の恩恵を全社で享受する」つまり、3DCADモデルを軽量化して後工程で徹底的に活用するというXVLの開発コンセプトと全く同じです。3D地図作成で利用したLattice3D Reporterでは、CADやデータベースにある属性情報をXVLに詰め込んで、それをExcelのセルに展開することで3D情報と連動させることができます。実際のところ製造現場にはExcelユーザーが大変多く、Excelを利用した3D帳票が広く浸透しつつあります。
3D情報を誰でも手軽に利用できるPDFで展開
MBEの思想を広げていくと取引先や製品のエンドユーザーを含め、3Dで情報を展開したいというニーズが出てくるでしょう。重要なのはプラグインのような特別なソフトウェア必要とせず、不特定多数の人がどのような環境でも手軽に表示できることです。
このような条件を満たしているファイル形式としてPDFがあるでしょう。今や家電製品や自動車などの取扱説明書やオーナーズマニュアルはPDFでメーカーサイトからダウンロードできます。ほとんどのPCにはPDFを表示させるためのAcrobat Readerがインストールされています。そして最新のAcrobat Readerがあれば、PDFで3Dと関連情報を連携させたドキュメントを表示させることができます。
3D PDFを体験しよう
それでは、3D PDFをサンプルで体験してみましょう。
3D PDFデザインレビュー議事録サンプル(PDF)[4,014KB]
注意事項
- 一部のブラウザーでは動作しない場合があります。その場合、PDFをダウンロードしAdobe Readerで閲覧ください。
- 3D機能を十分に利用するのであれば、Acrobat Reader XI 11.0以降が必要です。
- 3D機能を有効にするには、3Dビューの中で1回マウスをクリックします。これで形状を回転、拡大できるようになります。
デザインレビュー時に見つかった課題がイメージ付きで記載されています。この画像をクリックすると3Dビューの中の3D情報が連動して再現されるのが分かるでしょう。レビュー中にどのような課題が発見されたのかを確認できます。
これは、協力会社を集めて新製品のデザインレビューをした際に議事録を展開するのに有効な手段です。参加者は添付されてきたPDFを表示すれば、3D情報と連動した議事録を再現し問題点を確認できます。協力会社の人に負担を強いることなく、分かりやすい情報伝達を実現できるのです。
3D PDFの普及を加速させたLattice3D Reporter
しかし、なぜこのように便利な3D PDFは普及してこなかったのでしょうか?
大きなボトルネックは3D PDFを手軽に編集するためのソフトウェアがほとんど存在しないことでしょう。3DCAD情報をそのまま3D PDFを介して伝達することは比較的簡単でした。しかし、ドキュメントとして重要なのはテキストやイメージ情報です。これらの情報と3D形状を関連づけてPDF化するには、面倒なプログラミングが必要だったのです。
3D PDFを簡単に実現してくれたのがLattice3D Reporterです。これはExcel内で3Dと関連する情報を紐づけて編集するソフトウェアです。Excel上の簡易な編集操作だけで、3Dと関連情報を紐づけた3D PDFを作成できるようになりました(注1)。
- (注1)3D PDF出力には別途、Adobe Acrobat XI StandardまたはProが必要です。
ものづくりのニーズに応える3D PDF
3D PDF作成までの手順
3DCADデータから3D PDFを作成するまでの流れをまとめておきましょう。
- 3DCADから軽量XVLを生成。
- XVLをLattice3D Reporterに読み込み、XVLの持つ3D情報と属性データを利用して、部品表や議事録を作成(この時点で自動的に3Dと関連する情報が紐づけられる)。
- Excelシートを3D PDFに変換。
以上の3ステップで誰もが手軽に参照できる3D情報付きのデジタルドキュメントが完成します。「軽量なXVLで軽快に3D情報付きの文書を編集して、誰もが持っているAcrobat Readerで参照する」これこそ、XVLで実現しようとしたコンセプトです。
見積書にも3D PDFを利用。今後も活用の幅が広がる
最後に3D PDFの例をもう一つご紹介しましょう。
3D PDF XVL見積書サンプル(PDF)[2,941KB]
注意事項
- 一部のブラウザーでは動作しない場合があります。その場合、PDFをダウンロードしAdobe Readerで閲覧ください。
- 3D機能を十分に利用するのであれば、Acrobat Reader XI 11.0以降が必要です。
- 3D機能を有効にするには、3Dビューの中で1回マウスをクリックします。これで形状を回転、拡大できるようになります。
これは3D情報のついた見積書のサンプルです。イメージをクリックすると、完成図と部品をバラバラにした組図を3Dで確認できます。組図を表示した状態で、右側の部品リストの一つをクリックすれば、3Dで部品形状を確認できます。
部品リストには、部品の個数や価格が入っているので部品価格を簡単にかつ間違いなく閲覧できます。営業や調達部門のように3Dに縁遠い部門でも、PDFがあれば自然に受け入れられるでしょう。3Dがものづくり現場から営業の現場まで利用できるようになるのです。
3D PDFを体験してみると3Dデータの利用範囲がますます拡大していくことが予感できるしょう。かつて、マネージメントの大家ドラッガーは「マーケティングが目指すものは顧客を理解し製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。」と述べました。
ソーシャルメディアの発展した現在では、創発的マーケティングという言葉も提唱されています。顧客とともに製品やビジネスを創り上げていくという考え方です。このような場面では、3Dを利用した顧客とのコミュニケーションが重要になってきます。3Dを利用したドキュメントの価値は今後、ますます高まっていくでしょう。
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