南雄三氏インタビュー第2回 南雄三流 風の捉え方

今回は南雄三先生の仕事内容をお伺いし、「改正省エネ基準を満たすだけでなく、設計者自身のものさしを確立してほしい」というメッセージをいただきました。では、通風において先生はどのようなものさしをお持ちなのかに迫りました。

設計技術を伝える(講演活動)

― 先生の講演会に参加される方はとても多いようですが、どのような方が参加されていますか?

南氏:工務店・設計事務所が多い。その場で著書を買って講習に参加する人も多い。

― 改正省エネについては、IBECなどの講習は参加人数がとても多いと聞きました。

南氏:そちらの講習の参加者はメーカーが多い。安い金額で実施されているが、メーカーに席を埋められてしまう。工務店の中でも首都圏で年間新築300棟以上、地方で新築年間50棟以上建てている大手は勉強している。勉強の量は設計事務所の比ではない。

しかし、それはピラミッドの頂点であり、年間新築50棟以下の工務店がとても多い。その層はなかなか参加できないのが現状のため、講習会の情報についても落ちてこない。そのため、年間新築50棟以下の工務店などに向けて私の講習会がある。

設計基準を翻訳する(執筆活動)

― 先生は最近の著書で改正省エネ法を分かりやすく伝える本を執筆されていますね。

南氏:「住宅設計者に設計技術を翻訳して伝えていく」ということが私の仕事の一つだ。翻訳というのはすべて直訳するということではない。何を知りたいのかなど踏まえて、自分でフィルターをかけて翻訳している。

そう簡単にきれいに直訳はできない。エネルギーパス・PHPP・改正省エネ基準など、いまは住宅の省エネルギーを表示するための「ものさし」が用意されている。エネルギーパスはEUで普及し、PHPPは省エネ先進国のドイツで普及している。

改正省エネ基準はこれら二つに比べハードルが低いが、設計には優れている。何より多くの知見を積み上げて日本独自のものを作ったのがすばらしい。どれを用いてもものさしのない設計よりも省エネ住宅としての性能は上がるが、日本全体の住宅の性能が上がっていかないと基準自体を評価できないのが現状だ。そのような状況の中「どのものさしを翻訳していくのか」というのは難しいところ。

著書「はじめよう南雄三がやさしく解説する改正省エネルギー基準2013」

著書「はじめよう南雄三がやさしく解説する改正省エネルギー基準2013」

「基準で設計しない」ことを伝える

― 設計の目的ですが、基準を超えることに置く場合と高度なものを設計する場合では、出来上がってくる設計が変わると思いますが?

南氏:講演会では「基準を超えるくらいで満足しないように。基準のクリアだけで設計が出来上がるのかを見極めるように」と話している。設計は経験しないと分からない。断熱性能や省エネ性能などでは「日本はどんな家を作ればよいのか」という答えがない。

設計者に目標がないから基準をクリアすることが目標となってしまう。「基準をクリアできる家を設計できるか?」と不安に思う設計者が来場されるが、「基準で家を作るのではない」と話している。自分の基準がない設計者は、例えばドイツの基準を引き合いに「ドイツではこうだ」と言って作っているが、何が言いたいのか分からない。

それよりも、私の提唱している「晴れた日の昼に陽が入る部屋は20℃以上、陽が入らない部屋でも15℃以上。夜間暖房を切っても朝15℃以下にならない家を作る」といった自分の基準を持ってほしい。風についても同様だ。換気回数は5回/hか20回/hかということだけは改正省エネ基準をクリアすればよい。

しかし、それでは風に対して何も見えてこない。今回の「通風トレーニング」は風について科学的に計算できることを示した最初の本だが、風はもっと楽しいもの。今後は風をどう遊ぶかを書いた本も出てくると思う。

活動に対する業界の反応

― 著書や講演内容を設計に反映している工務店の方は大勢いると思いますが、お伝えした内容通りの設計になっているのでしょうか?

南氏:きちんとは反映しない。しかし、ありがたいことに本を読んでいる方は多いようで、何らかの形で影響を与えていると思う。断熱自体が簡単ではなくなってきているので、「どうしなさい」とは言わず「私はこうする」と答えている。

断熱はそれだけ総合的な技術が必要で面白くなってきている。単純な答えがないため、伝えた通りやれる・やれないでは解決しない問題になっている。だが、設計者には哲学を持って自分で考えて設計するように言っている。そのためのたたき台は提供している。

通風トレーニングはあくまで持論であり、定番であるとは思えない。確かに昔は私の考えた間取りをまねる人は大勢いた。家全体が暖かいという設計をできる人は少なかった。そのため、私が一つ例を書くと、それで作っている人はいた。まねから始まるところもあるとは思うが、恐ろしいと思ったことはある。

南雄三流 通風計画の策定~南氏は通風をどう捉えたのか?~

― 先生は著書の中で通風計画をどのように作られたのですか?

南氏:これまで、通風に関する本がなかったことからも分かるように通風には科学がなかった。それでも住宅ではよかった。「定説がないので通風計画を考えてみよう」と勉強したところ、低層の2階建て程度の建物では窓から風を入れることは難しいと分かった。体を快適にするほどの風を感じることが難しい。

しかし、窓や道路には吹いており、屋根には卓越風が吹いている。この場合、風向きは関係ない。屋根に窓を付けない限り卓越風を取り入れるのは難しい。では、通風計画はどうしたらよいのか?

僕が出した答えは「風が吹かなくてもよいから温度差換気でも風を感じ、夜間寝られればよいのではないか」と思い、夜間冷房なしで寝ることを通風の目標にした。

  • 温度差で風が動くので、夏の夜から朝どれくらい窓を開けて、どれくらい高低差を付けるとよいか?
  • 「風が吹けば儲けもの」だとすると、最低求める基準としては寝室の窓をどうするのか?
  • 通風計画の最大の目的ではない日中は風がなければ冷房すればよい。

通風の窓の大きさの判断する基準を作らなければならない。その時に改正省エネ基準で換気回数5回/hと20回/hという二つの基準を出している。

換気回数対象
5回/h※戸建て
20回/h共同住宅の4階以上を対象。普通の2階建てではほとんど得られない。
  • * 5回/hは何で決まっているかというと、温度だけの規定で風の涼しさではない。省エネ基準2013では、通風による省エネルギー効果は通風により室内温度が冷房を必要としない温度(27℃、寝室は28℃)以下になったら冷房を止めるという温度の計算だけをしている。
    風量でいうと、窓面では0.1m/sほどしか入ってこない。窓の中央はもっと風が遅い。それでも東京の8月でも25.7℃の風が入れば冷房が止められる。それが5回/hの根拠となっている。

改正省エネ基準で5回/hの出し方を教えているので、どのみち計算するのであれば通風計画をここで行うのがよいのでは?というのが南雄三流の提案となっている。

風が吹くのを待っていても期待はできない。もう一つは上方一面、町屋の知恵を用いる。こちらは体験がないのでやってみたいという気持ちで本に掲載している。温度差換気だけでも寝られる寝室を作る。これが僕の通風計画だ。

― 確かに寝室でエアコンをつけっぱなしにすると体がだるくなりますね。例えば、ビジネスホテルなど窓が開けられない状況だとエアコンをつけますが、心地よくはないですね。

南氏:熱中症だとエアコンをつけざるを得ないが、せっかく外気温25℃なら何とかしたいと思った。通風について勉強したが、そのくらいでよいと思う。

道路を走る風をウインドキャッチャーでつかむなどもあるが、それはシミュレーションしないと分からない。横から来たものをつかむということについて改正省エネ基準にはない。風圧係数差を決めてしまっているので、そもそも求められない。

南雄三プロフィール

省エネ・エコハウスの学術的な研究成果を独自のフィルターにかけながら住宅業界、消費者に伝達していく住宅技術評論が本業。そして、住宅産業を知り尽くした目で住宅産業全般のジャーナリストとしても活躍し、工務店業界では「お目付役」的存在である。

新宿にある自宅は大正時代の古住宅を環境共生住宅に再生して、資産価値を高めた実例として知られる。また、若い頃世界50カ国を放浪した破天荒な経験を持ち、今でも海外に出かけスケッチをしたり、自主ゼミを開くなど遊びと仕事の区別がない自由人としても知られる。

著書

「通風トレーニング 南雄三のパッシブ講座」
出版社:株式会社建築技術
定価:1,800円(税別)

南雄三氏

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