橋梁の構造や部品を手に取って確認でき、「3Dモデルよりも理解しやすい」と顧客から高評価を受ける

株式会社杉山設計事務所

業種
設計事務所
事業内容
橋梁(PC上部工、鋼上部工)の計画・設計・照査・施工計画、橋梁の補修・補強設計、橋梁に関する技術相談、コンクリート構造物の温度応力解析、BIM/CIMに関する総合技術サービス、3Dモデリング・3Dプリンターによる模型製作
従業員数
15名(2023年1月現在)
サイト
https://www.s-pec.jp/

導入事例の概要

橋梁設計に特化した株式会社杉山設計事務所は、3Dプリンターで橋が建設されるようになる将来を見越して、大塚商会から最新鋭機種を導入。手始めに製作した小型の橋梁模型は、「3Dモデルよりもでき上がりがイメージしやすく、構造や部品の用途も分かりやすい」と顧客から高い評価を得て、受注の幅を広げている。

導入の狙い

  • 3Dプリンターによる橋梁建設の技術を先取りしたい。
  • 最新技術で顧客への提案力や設計における新たな可能性を試し、新たな事業として展開したい。

導入したメリット

  • 模型製作の内製化でニーズに迅速に対応。
  • 構造や部品のイメージ共有が容易新たなビジネスチャンス。

導入システム

橋梁設計に特化した、プロフェッショナル集団

名古屋市の株式会社杉山設計事務所(以下、杉山設計事務所)は、橋梁の設計を主業務とする設計事務所だ。橋梁は、橋台・橋脚などの基礎となる下部工と、クルマや人が渡る上部工(橋げた)の二つで構成されるが、同事務所はこのうち上部工の設計に特化。プレストレスト・コンクリート(PC)や鉄鋼で作られる上部工の設計に強みを持つ。

もう一つ、同事務所が得意としているのがコンクリート構造物の温度応力解析である。コンクリートが凝固する際に、内部では100℃近い高熱が出る。その熱によってひび割れなどが生じないような施工方法を提案するのも重要な仕事である。

主な顧客は、公共工事を受注するゼネコンや、その設計業務を請け負う建設コンサルタントなど。「構造やデザインを決める設計だけでなく、実際の施工のための設計までできるので、多くの顧客と取引させていただいています」(杉山氏)

近年では、新設のほか、高度経済成長時代に架けられて老朽化した橋梁の補修や補強などの受注が増えている。社会インフラの強靱(きょうじん)化を支える縁の下の力持ちだ。

代表取締役 技術士(建設部門)コンクリート診断士
CSRリーダー エキスパートバンク専門家
名城大学非常勤講師 杉山宜央氏

「2008年の設立以来、1,000件を超える橋梁などの整備に携わってきました。重要な社会インフラである橋は、長く使用できるように施工や維持管理のこともしっかりと考えなければなりません。それをきちんと理解して設計を行っていることが、継続した受注に結び付いているアドバンテージだと思います」

BIM/CIM化の流れをいち早く先取りする

杉山設計事務所は、橋梁設計の効率改善と将来の技術を見越したIT活用を通じて、早くから設計会社としてのDXを推し進めている。国土交通省は、2023年4月から原則として全ての直轄工事にBIM/CIMを適用することを義務化するが、それに先駆けて2015年からいち早くBIM/CIMの活用を開始した。大塚商会を通じて、建設業向け総合BIMソリューションAutodesk Architecture, Engineering & Construction Collection(AEC Collection)を導入するなど、積極的な投資も行ってきた。

3D CADをはじめとするBIM/CIMの使い手の採用・育成にも力を入れている。その一人が、名古屋市の工業高校の機械科を卒業した入社4年目のエンジニア、安達倭斗氏だ。

代表取締役の杉山氏は、「安達のように有望な人材を数多く採用して、BIM/CIMへの対応力をさらに高めていきたい。可能性のある若者を、常に求め続けています」と明かす。

CSRリーダー 3Dプリンター活用技術基礎資格取得
安達倭斗氏

「高校の課題研究でCADを徹底して学び、『もっとモデリングを極めたい』と杉山設計事務所に入社しました」

若手を抜てきして3Dプリンター導入を推進

有望な人材を積極的に採用する一方で、杉山設計事務所は「設計の3D化」をさらに推し進める取り組みも始めている。3Dプリンターの活用である。

「日本では、製造業が部品の一部を3Dプリンターで製作するという動きが広がっていますが、土木業ではほとんど活用例がありません。しかし、欧米では既に大型3Dプリンターで製作した部材で橋を丸ごと建設するという取り組みが始まっていますし、2050年ごろには、全ての橋が3Dプリンターで作られる時代がやって来るとも言われています。そうした変化に乗り遅れないために、いち早く取り入れることにしたのです」と杉山氏は説明する。

同事務所は、3Dプリンター導入プロジェクトのリーダーとして、当時まだ20歳になったばかりの安達氏を抜てきした。若手ながら3Dへの造詣が深いことを高く評価し、導入機種の選定から活用に至るまでの全てを託すことにしたのだ。

年齢や経験の有無にかかわらず、可能性のある人材に活躍の場を与える同事務所ならではの登用である。

コンパクトさなどを決め手にUltiMakerを導入

安達氏は3Dプリンターの導入に当たって、2機種を比較検討した。その中から最終的に選んだのは、大塚商会が提案した最新鋭3DプリンターUltiMaker S5 Pro Bundleであった。

選定の理由について、安達氏は「オフィスに置けるコンパクトなサイズであることや、さまざまな樹脂素材でプリントできることなどが決め手となりました」と振り返る。

素材は造形するものに合わせて使い分けるが、本体の下部に全ての素材をまとめて管理できるマテリアルステーション(温度制御保管庫)が用意されていることも評価した。「素材の種類によって、適切な保管温度や湿度は異なります。それをきちんと制御しながら、必要な素材がすぐに使用できるようになっている点に、使い勝手の良さを感じました」(安達氏)

UltiMaker S5 Pro Bundle本体の下部にある保管庫に樹脂素材を格納できる。保湿・温度管理も自動で行われるため手間を減らせる

またUltiMaker S5 Pro Bundleの内部には、プリント作業を撮影するカメラが搭載されており、クラウドを通じて離れた場所にいてもパソコンやタブレット端末などで作業が問題なく行われているかどうかを確認できる。

「コンパクトであるとはいえ、執務室だと場所を占有するので、今は会議室に設置しています。結果、ご来社いただいたお客様へのアピールにもつながっています。また、本体内部にカメラがあるおかげで、執務室で別の作業をしながらでも監視ができます」と、安達氏は利便性について語る。

会議室に設置したUltiMaker S5 Pro Bundle。静音で廃熱も気にならないため、昼夜を通じてフル稼働している

橋梁の小型模型の製作に着手

安達氏はUltiMaker S5 Pro Bundleを導入後、さまざまな活用方法を模索したどり着いたのは、橋梁のミニチュア模型の製作である。それも一塊の造形ではなく、主要な構造や部品ごとにバラバラにできる精密なミニチュア模型であった。

「橋がどのような構造になっているのか、一つ一つの部品はどのように構造を支えているのかといったことは、画面上の3Dモデルを画面で見ただけでは実感が湧きません。しかし、ミニチュア模型にして実際に手に取ってみると、構造や部品同士の関係がよく分かります。お客様に設計の意図を正確に伝え、完成のイメージをより正確につかんでもらうためにはもってこいだと思いました」と安達氏は説明する。

橋全体をパーツに分けて組み立てられる小型模型や、接合部分のみの模型など、さまざまな模型ニーズに対応している

試行錯誤を重ねて、造形のノウハウを積み上げる

安達氏は3Dプリンター活用技術検定に合格して、基本的な操作方法や活用法を習得。その知識と経験を生かし、「どうすればもっと効率良く、精度の高い造形ができるのか?」と試行錯誤を重ねていった。

基本的な使い方としては、3D CADソフトで設計した橋梁のデータをUltiMaker用のデータ変換ソフトであるUltiMaker Curaに取り込み、変換されたデータをUltiMaker S5 Pro Bundleに送りプリントさせるという手順である。

大きな橋梁を小型模型にスケールダウンするには、元の3Dデータを大幅に簡略化しなければならない。

「模型の用途に応じたサイズや積層ピッチは、UltiMaker Cura上で調整できるので、その加減や造形の工夫などについても、試行錯誤の中でノウハウを積み上げました」(安達氏)

データ変換ソフトであるUltiMaker Curaの画面。3Dプリンター内の空間をイメージしながら、模型のサイズや積層ピッチを調整できる

新たな事業の柱として3D化サービスに注力

そうした努力のかいあって、小型模型に対する顧客からの評価は非常に高い。全体のデザインや構造が360度あらゆる角度から手に取って確認できるだけでなく、建設する場所の航空写真やジオラマの上に模型を置けば、実際の橋梁のサイズ感もよく分かる。

「『これはすごい!』とお客様に驚いていただけることが、何よりの効果です。一般の方にも完成イメージや、安全のためにどのような構造設計になっているのかということが説明しやすいので、地域住民への説明会や見学会などに模型を利用したいというお客様もいらっしゃいます」と杉山氏は語る。

現在、模型に対するオーダーは急増し、当初1台だったUltiMaker S5 Pro Bundleを、現在は4台まで増やして対応しているが、同機種は連続使用が可能なため24時間フル稼働しているという。ほかにも3Dデータを使ったAR(拡張現実)・MR(複合現実)やVR(仮想現実)のサービスを提供するなど、杉山設計事務所による「サービスの3D化」の展開は多方面にわたっている。

杉山氏は、「3D CADのデータさえあれば、橋梁に限らずさまざまな3D化サービスが展開できるので、事業としてさらに発展させていきます。また、3D化の推進を検討している企業も多いと思いますが、当社が蓄えた知見を基に相談に乗りますので、ぜひお気軽にお問い合わせください」と語った。

3Dデータと現実世界を組み合わせたMR(複合現実)を、実際の施工現場でサービスとして提供