GPUが導く産業界の進化とプラットフォームとしてのワークステーションの可能性をNVIDIA×HP×大塚商会が探る!

近年、ますます注目されている「GPU」。その進化は著しく、AI・ディープラーニングでは特に必須であり、CADにとっても3Dからリアルタイムレンダリングなどが当たり前に採用されるようになって以来、不可欠なものとなっている。今回はGPUメーカーのNVIDIAと、ワークステーションベンダーのHPに話を伺ってみたいと思う。

NVIDIAが語るGPUの現在

藤田:GPUがあらゆる業界にとって不可欠なものになっているように思います。いわゆるGPUコンピューティングに使われるグラフィックス製品にはどのようなものがあるのでしょう?

田中:現行製品のラインアップですが、大きくデスクトップ向け、ラップトップ向け、データセンター向けがありますが、皆様と直接関わってくるのが、いわゆるAmpere世代のRTXシリーズですね。レイトレーシング用のRTコアとAI用のTensorコアを搭載しているのが特長です。

デスクトップ向けはRTX A6000がハイエンドで、A5500、A4500、A2000と続きます。その下にT1000、T400というモデルもありますが、こちらはRTコア非搭載モデルとなっており、エントリークラスがよく利用されるCADでは、RTコアを使用しないのでこのようなラインアップになっています。ラップトップ向けに関しては新しいラインアップになっていて、RTX A5500がハイエンドで、以下、A500まで全てRTコアを搭載したモデルになります。

基本的にデスクトップ向け、ラップトップ向けアーキテクチャですが、グラフィックスメモリーの量に差があります。同じA5500で比べてみてもデスクトップ向けは24GBメモリー、ラップトップ向けでは16GBとなっています。この差はラップトップ向けでは消費できる電力に制限があり大容量メモリーが搭載できないところから来ています。ですので、ビデオメモリーをより使う業種の方にはデスクトップモデルが人気です。

NVIDIA Japan エンタープライズマーケティング シニアマネージャー 田中秀明氏

石川:私から少し補足ですが、NVIDIAさんの最新ラインアップではRTX A5500が採用されていますが、HPでは取り扱いしておらず、前モデルのRTX A5000を引き続き使っています。世界的な半導体不足でGPUの出荷が止まった際に供給のよいものを調達していた関係でそのような取り扱いになっています。

株式会社 日本HP パーソナルシステムズ事業本部ワークステーションビジネス本部 ワークステーション営業部 石川秀典氏

直近の売れ筋ではRTX A6000かRTX A4500の二つのモデルに人気が集中しています。CADでいえばT1000、A2000が人気で、こちらは扱うソフトウェアの負荷によって使い分けられるケースが多いです。3D CADになると先ほど申し上げたとおり、A6000を選ばれる方が圧倒的に増えます。リアルタイムレンダリングやアニメーションを取り入れるケースも広がっていますから、そういう意味でも余裕のあるスペックを選ばれている方が多いようです。

デスクトップ向けのRTXと比較してラップトップ向け製品は全てがAmpereシリーズになるのが違い

藤田:これらのGPU製品群は現在どのような業界で強みを持っていますか?

田中:現在では、ほぼ全ての産業で使われています。例えば、メディア&エンターテインメントでは主に4K、8Kの動画関連業務用ですね。製造業&プロダクトデザインに関しては特に3Dデザインをやるにあたっては、GPUが必須という状況になって久しいのでほぼその分野では活用いただいています。また、フォトリアルなデザインができるようにアプリケーション側が対応しているので、そこにはミッドレンジ以上の製品がよく使われています。

また、解析にもよく使われていて以前からGPGPUという形で活用いただいていたものになります。現在では数千単位で搭載されるCUDAコアでの並列処理を行うため、非常に性能が上がっているジャンルになっています。最近ではリアルタイムでの解析処理も可能になっているので、設計でパーツを組み替えるとその場で解析結果が見られるようになっています。

建築・エンジニアリング・土木でも幅広く使われています。CAD、3D CADではもちろんですが、ビジュアライゼーションということでBIMのデータを持ち込んでそこにそのまま植生を入れたり、道路を敷いたりする都市計画のデザインにも活用されています。それらの処理をリアルタイムレンダリングできるところまで技術は進んでいますから、通常の設計だけでなく、それを外の人に見せるという部分にまでRTXが使われています。

科学技術計算の分野ではHPCによる超パラレル処理などでGPUが活躍しています。医療でもCT / MRIのデータをリアルタイム処理するなどにも使われています。ちなみに、CT / MRIの医療機器のほとんどにGPUが組み込まれていますし、最近ではコロナウイルスの解析にも使われていました。

ほかにもご存じの通り、あらゆる業界で利活用が始まっているAI・ディープラーニングの分野でもGPUは必須となっていますから、実情としてもほとんどの産業、分野でRTXが活躍していることになるかと思います。

革新を続けるGPUの世界

藤田:CPUの世界ではムーアの法則が頭打ちになっていると言われていますが、GPUはいまだにリニアに変化しているように感じます。GPUはどのように進化してきたのでしょう?

田中:おっしゃるとおり、いまだにアーキテクチャが変わる度に性能は伸び続けています。集積数が上がり、CUDAコアの数も増えていますし、体感できるレベルで進化しているといえると思います。

現在の主力は「NVIDIA Ampereアーキテクチャ」で2020年に発表されたものになります。それ以前では2018年に発表された「NVIDIA Turingアーキテクチャ」がありこの世代からRTXが採用されています。ですので、現行のAmpereアーキテクチャのモデルは第2世代RTXとなるわけです。

藤田:ワークステーションに採用されるGPUを選ぶとき、どのような点に注意すればよいですか?

株式会社大塚商会 マーケティング本部 CADプロモーション部 CAD戦略推進課 藤田昌弘

田中:扱うデータ量にもよりますが、例えば2D CADが主体で通常の機械部品をデザインする場合ならT400でも十分です。しかし、車のエンジンを全て設計するといった場合、A2000以上は必須です。その場合はGPUメモリーが多くないと動きませんから、8GB、あるいは12GB以上と余裕を見ておく必要があります。車1台を3D CADで開発するとなれば20GB以上は欲しいところです。そうなるとA4500でも少し不足するケースも考えられるようになるので、おのずとA6000をチョイスするということになります。

GPUを選ぶにはどのような手法を使うのか、それに一度にどの程度のデータ量を使うのかによって絞り込んでいくことが大切だと思います。

藤田:より高性能なGPUを使うことで具体的にどんなメリットがありますか?

田中:簡単にいえばGPUの性能が上がるほど、業務効率化も生産性も向上すると考えてよいと思います。例えばAmpereシリーズでもマイナーアップデートのような形でグラフィックスメモリーの搭載量が増えているモデルがありますが、これによる性能の向上や生産性、機能の向上は大きなメリットになると考えます。

単純にベンチマークでも分かるケースもありますが、ほかにも扱える解像度が高くなるので一度に得られる情報量が増加します。シミュレーションやレンダリングも高速になるので作業時間が短縮でき、その分、ほかの生産的な作業に当てることができます。グラフィックメモリーだけでもこれだけのメリットがあるので、可能な限り高性能な製品を選んでいただくとよいと思います。

仮想空間上で協同作業が可能に!

藤田:少し話題は変わりますが、「NVIDIA Omniverse」が発表され注目されていますが、どのようなプラットフォームなのですか?

田中:「NVIDIA Omniverse」が発表されたのはRTXが登場した2018年の翌年の2019年のことです。RTXの世界を広げていこうという構想のもと2020年にはオープンベータが開始され、2021年には正式版がリリースされています。既に導入されている企業も多数おられますし、メタバースやデジタルツインの構築プラットフォームというかたちで活用いただくケースも増えています。

概念的にはOmniverseの考え方もメタバースと同じで、仮想空間の中に設計中のデザインを置き、その空間内でデザイナーやエンジニア、クリエイターがコラボレーションしながら開発を進めていきます。

その空間はVRでもディスプレイでもさまざまな方法で見ることができます。NVIDIAではAIやディープラーニングも開発しているので、例えば自動運転なども扱っています。この場合、実際の都市でテストをするのは難しいので仮想空間上の都市で実験すれば安全ですし、効率的です。

Omniverseの概念図

大規模な開発や設計にはさまざまなスタッフやクリエイター、エンジニアが関わります。彼らはみな違うアプリケーションを使いますが、これまではそれぞれの仕事がお互いに順番を待って進めていたような状況です。しかしOmniverse上では、それを一つのプロジェクトとして、全ての関係者が一緒に作業を進めていきます。

さまざまなアプリケーションを使う場合、一つのデータを利活用するために次の相手が使いやすいフォーマットにするためのインポートあるいはエクスポートする作業が頻発する状況でしたし、データ損傷や損失、あるいは時間的なロスなどもあったと思います。

Omniverseを使えば、複数の関係者が同時に作業していてもシングルソースであるかのようにプロジェクトを進めることができます。違うアプリケーション上で作業していてもOmniverseの中ではリアルタイムに変更箇所が反映されていくのです。もちろん、アプリケーションが対応していることが前提ですが、各ベンダーとも協調してOmniverseへの対応を進めているので、現在もプラグイン可能なアプリケーションは増え続けています。

簡単にまとめると、仮想空間を作り、そこでコラボレーションができ、フォトリアルな場でそれを見ることができる。そのための場所がOmniverseということになります。現在のラインアップでいうA4500以上のGPUと高性能で信頼性の高いワークステーションは必須ですが、利用環境を作ることができれば無限の可能性が手に入るはずです。

さまざまなスタッフがそれぞれに必要なアプリケーションでOmniverseへ接続して、データのインポート・エクスポートを意識せずに作業できる。Omniverseは将来のメタバースに向けた標準データフォーマットと期待される「USD(Universal Scene Description)」を利用している

GPUプラットフォームとしてのワークステーション

藤田:NVIDIAさんにGPUの現在とOmniverseの可能性を語っていただきましたが、それにはGPU単体だけでなく、そのプラットフォームとなるワークステーションが欠かせません。HPワークステーションのラインアップとGPUの対応についてお教えいただけますか?

石川:現在、HPで扱っているデスクトップ向けGPUはT400からA6000となりますが、冒頭でも補足させていただいた通り、A5500ではなくA5000、それにT600がいままでラインアップしていましたが、今後はこれが廃止され、T1000にシフトしていく予定となっています。

また、デスクトップ型のワークステーションの場合、拡張性も大事になりますが、現在のラインアップで搭載できるGPUの枚数も表にしています。人気のA6000が2枚搭載できるのはHP Z8 G4のみとなり、HP Z6 G4はA5000のデュアル構成、HP Z4 G4ではA2000のデュアル構成が可能になっています。

また、ジェネレーションでは最新モデルとなるZ2 G9シリーズですが、TowerモデルのみA5000まで対応で、SFFおよびMiniはA2000までの対応となります。これまでZ2 SFF、MiniはA2000クラスが搭載できなかったのですが、今回はA2000がロープロファイルで提供されていることもあって、省スペース筐体にも採用できるようになりました。設置場所の問題などで省スペース性を大切にされていたお客様にとっては活用範囲がかなり広がっていると思います。

最近、日本でも売れ行きが好調なモバイルワークステーション用のGPUでは、T550からA5500までのラインアップになっています。

14インチ、15.6インチのHP ZBook Firefly G9はT550が採用されており、ミッドレンジのHP ZBook Power G9ではA1000、A2000が選択できます。こちらはほとんどのCAD用途に対応できるので、パフォーマンスを重視したモデルとしておすすめしたい製品です。

ハイエンドのHP ZBook Studio G9、HP ZBook Fury G9はA5500まで搭載可能となっていますので、3D CADからAI、VRまで対応できます。モバイルワークステーション1台で全てをこなしたいと考えている方に向いた製品になります。

藤田:HPではワークステーションのGPUを選ぶことができますが、ベンダーとしてどのような選択方法がおすすめなのでしょうか?

石川:どんな使い分けをするかという点ではNVIDIAさんもおっしゃっていましたが、扱うデータサイズによって決めていけばよいと思います。一番はハイエンドモデルをご利用いただければよいのですが、やはりコストが高くなってしますので、何をするか、どのぐらいのデータ量になるのかでサイジングしていけばよいと思いますし、ベンチマークを参考にするのも良いと思います。

しかし、そうはいっても実際に体験してみないことには分からないというご意見がほとんどだと私も思っています。HPではデモ機をご用意していますので、例えば「A4500で試してみたい」などのご希望をリクエストしていただければ、対応製品をお貸し出しすることが可能です。事前に業務内容や扱っているデータについてお聞かせいただければ、アドバイスと共に最適なモデルをご提案させていただくこともできます。ぜひお気軽にご相談いただき、最新のGPUによる業務効率化と生産性向上を体験してください。

藤田:それは心強いですね。お客様からもご要望の多い部分となるので、ご興味のある方はぜひ大塚商会に声をかけていただければと思います。GPUの分野で直近のニュースなどはありますか?

田中:来春にはNVIDIA Ada Lovelace GPU アーキテクチャの登場が予定されています。従来の2倍近い性能アップが期待できる製品なので、これまで以上の業務効率化・生産性向上に貢献できると確信しています。

そのほか、Omniverseを使った開発やデザインの事例も増え続けています。ヨーロッパの幾つかのカーメーカーでは既にリアルタイムコラボレーションによる車体デザインや大手流通業界では巨大な物流センターの最適化による生産性向上を実現している例もあります。ほかにもVRの中で3Dオブジェクトを操作したり、サイズ感を理解したりする新たな機能の追加も予定されています。

今後もこうした事例は増え続けていきますし、機能も拡張されていきます。これをお読みになった皆様はHPワークステーションを使って、GPUコンピューティングとOmniverseの可能性をぜひ体験していただければと思います。

藤田:よいサービスのお話や夢のあるお話が聞けて嬉しかったです。田中さん、石川さん、本日はどうもありがとうございました。

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