SOLIDWORKSで大規模アセンブリやるのにこんなに小さくていいの!?

Lenovo最新お薦めデスクトップ機の性能とは

これから3次元CADにチャレンジしたい企業には「あらかじめ」、既に3次元設計を実現している企業には「あらためて」知ってほしい現代の難問「大規模アセンブリ」問題。この解決においてワークステーション選びは最も重要なポイントの一つである。

この記事では、数多くの企業で設計部門の3次元設計立ち上げとそのためのワークステーションの選定を行ってきた筆者が、製造系3D CADの最大手の一角SOLIDWORKSによるベンチマークを実施した結果を報告する。

太田 明

デジプロ研 CAD / CAEコーディネーター

世界をリードする「NVIDIA」

NVIDIAを採用した製品は、プロフェッショナルのあらゆるワークフローを加速するように設計/開発されており、多くのクリエイターや技術者に選ばれています。

対象機種

対象機種はLenovoの最新デスクトップワークステーション2製品と、参考に設計部門によくありがちな旧世代の機種を比較した。3次元設計に必要なPCスペックの見方も解説するので、参考にしてもらいたい。

  • 古いエントリーモデルのPCが3次元設計の足を引っ張っている。
  • 設計者が毎日使う3D CAD用のPCを予算だけで選んでいる。
  • メンバーも増えて設計室も手狭になってきたのでデスクトップワークステーションの大きさがいまいましい。
  • やはりモバイルワークステーションではスペック不足。
  • 若い設計者には3次元設計と同時に広いデスクで図面を広げての検図や議論もしてほしい。

そんな方はぜひ今回のベンチマーク結果を参考にしていただきたい。

「大規模アセンブリ」とは

世にある多くの問題はそれが問題であることに気付くことが最も難しく、この問題として認識するという最大のハードルを越えた時点で8割は解決していると言われることもある。

その意味で、まずは「大規模アセンブリ」の定義について認識を共有したい。この定義は、時代や使用する3D CAD、設計対象の製品や業界によっても大きく変わってくるものである。従って、ここではSOLIDWORKSユーザーにとってこの2022年時点で定義するとすれば、一般的には次の数字が妥当である。

部品点数5,000点程度以上
ファイル数500ファイル程度以上の規模のアセンブリ

この数字を見てどう感じるだろうか。多いと感じる人もいれば、案外少ないと感じる人もいるだろう。感じる印象は自分たちが設計している製品や使っているCAD、現在の困り感によって大きく異なる。この定義や大規模アセンブリ問題の存在を知らずに、実はとっくに大規模アセンブリの領域に足を踏み入れていて苦労しているというケースも多い。

図1に設計製品の分野と部品点数、大規模アセンブリの領域についてのイメージ図を示す。

図1:製品分野と部品点数

アセンブリの規模が大きくなるとファイルオープンやCAD上のさまざまな処理時間が問題になり、対策を行わなければ設計効率を落とすばかりか、大幅な規模のミスマッチは事実上、設計業務が停止する事態にも陥ってしまう。2次元設計時代にはあまり問題になることもなかったため、これが3次元設計の立ち上げの大きなハードルになることも多い。

部品点数が多いと、ある規模から主にグラフィックのレスポンスと全体図の生成、部品選択が困難になっていく。ファイル数は、その種類が多ければ多いほどファイルオープン時間が長くなり、度を超えると類似設計を探す場面や設計そのものに支障が出る。

また、その全ファイルがエラーなく正しく保存されている必要があるので、アセンブリ規模が大きくなるほど高品質なソフトウェアと洗練されたモデリングルールが必要になる。

そして、これらに並んで重要な要素がハードウェア選びである。今回はそのハードウェア選びの参考にしてもらうため、3機種のベンチマークテストを行った。

検証1:SOLIDWORKS Rxによるベンチマーク

SOLIDWORKS付属の標準ツールであるSOLIDWORKS Rxのベンチマーク機能で各機種の性能を比較する。

ご存じのとおり、SOLIDWORKS Rxのベンチマーク機能はさまざまなモデルを実際にSOLIDWORKS上で動作させてそのタイムを計測するツールであり、SOLIDWORKSユーザーがハードウェアの評価をする際には最も一般的で最も信頼性の高いツールである。

評価結果は各処理のタイムとして出るので、タイムが短いほどマシンの性能が高いと言える。ただし、「タイム差」では性能向上の度合いが分かりにくい面があるため、今回はそれを基準となる機種(No.1の比較用旧機種)の性能を1とした場合の「性能向上比」にまとめた。各機種のスペックは次のとおりである。

 ThinkStation P330 SFFThinkStation P360 UltraThinkStation P360 Ultra
CPUIntel Core i5-8400
6C / 6T 4.0GHz
Intel Core i5-12400T
6C(6P+0E)/ 12T 4.2GHz
Intel Core i7-12700
12C(8P+4E)/ 20T 4.8GHz
メモリー16GB DDR4-266616GB DDR5-400016GB DDR5-4000
SSDSATA SSD 256GBM.2 SSD 512GBM.2 SSD 512GB
グラフィックスNVIDIA Quadro P620 2GBNVIDIA T400 4GBNVIDIA RTX A5000 16GB

No.1:比較用旧機種

比較用の旧機種は、製造業の設計室によくあるIntel第8世代のCPUを積んだデスクトップワークステーションである。このスペックでは2次元設計や小規模な3次元設計では特に問題になることはないだろう。

No.2:お薦め

No.2は本テーマのお薦め機種として筐体(きょうたい)サイズが劇的に小さく、Intel第12世代CPUを積んだThinkStation P360 Ultraである。この世代からCPUは処理性能を重視したPコアと省エネ設計のEコアの2種類を使い分ける方式になっていることもチェックしておきたい。GPUはコストパフォーマンスの高いNVIDIA T400である。

Lenovo ThinkStation P360 Ultra

No.3:ハイスペック

No.3は同じくThinkStation P360 Ultraであるが、CPUとGPUをより強化したハイスペック構成である。より大規模なモデルや解析など、さらに高いパフォーマンスを求めるユーザーに参考にしてもらいたい。

Lenovo ThinkStation P360 Ultra

さて、旧機種のCPUが第8世代で新機種が第12世代であれば、たった4年ほどの差かと思いきや時代の変化は速く、SSDはいつのまにかSATAからM.2が主流になっている。一方で、なかにはSSDどころかまだHDDを使っている企業もあるが、SSDも次世代に進んでいるなか、「3次元設計でHDD」はもはや時代遅れと言っても言い過ぎではないだろう。

現にストレージのスピードは8倍も違うため、待ち時間やストレスの度合いは明らかに違い、これによる機会損失や生産性、働き方を考慮すれば、HDD組は即買い替えを検討するべきだというのが私の率直な意見だ。本検証でHDDが比較対象外となっていることからも、HDD組は危機感をもってそれを行動に移してもらいたい。

検証1の結果:全項目で大きな性能向上

ここで、ベンチマーク結果として計測される各値の意味と、その項目に影響が大きいPCスペックについて整理して次の表に示す。

グラフィックスCAD操作時の表示レスポンス:CPUシングルコア性能×GPU性能
プロセッサーCADの処理速度:CPUシングルコア性能×メモリー転送速度
I/Oファイルオープン時間/保存時間:ストレージ規格×(ネットワーク通信速度)
レンダリングPhotoView 360によるレンダリング性能:CPUマルチコア性能
RealViewパフォーマンスCAD内リアル表現性能:GPU性能
Simulation構造解析時の計算性能:CPUマルチコア性能×ストレージ規格

これらの値を見れば、SOLIDWORKSに必要な性能を総合的に評価できることがお分かりだろう。また、性能向上比の結果を見ると、その差は一目瞭然である。

比較用の旧機種と比べてThinkStation P360 Ultra のお薦め構成であるNo.2は1.2~1.6倍性能が良くなっている。ハイスペック構成のNo.3においてはもちろんさらに高く、2倍を超える性能を出している。

これまで多くのベンチマークを行ってきたが、ベンチマークというのは計測のバラツキもあるため、ここまできれいに性能差が出ることはまれである。これはもちろん今回の各機種に明らかな性能差があるからであるが、ユーザーからすればハードウェア選びの根拠にしやすい良いサンプルであり、また、ThinkStation P360 Ultraにおける構成選択の自由度の広さを示しているとも言えるだろう。

検証2:大規模アセンブリを実際に動かしてみる

では、実際の大規模アセンブリを動かしてみたときの挙動はどうだろう。実際に部品点数7,500以上、ファイル数1,500以上のアセンブリを開き、No.2の構成で動作を確認した。

この規模のアセンブリの回転・平行移動・ズームがここまでスムーズに動いている姿を筆者は初めて見た。そのくらい大規模アセンブリを感じさせない滑らかな動作に驚いたし、これなら設計業務を妨げず、また最小限のストレスで「良い設計」に集中できるのではないだろうか。実際の動作の様子がここでは伝えられないのが残念だが、ぜひ実機を借りて確認していただきたい。

さらに忘れてはいけないのが、この性能をわずか3.9Lの筐体で実現している点である。ThinkStation P360 Ultraは電源がケース外にあり、いわば電源ケーブルの途中にある。これによってデスク周りのレイアウトの自由度が増し、筐体も驚くほどの小型である。また、電源の熱が本体シャーシ内に放出されて排出する必要がないため、本体のファンも静かで机上に置いても気にならない。

さらに背面のケーブル類の飛び出しも抑えられており、ケーブル保護と配置の面でよく考えられている印象だ。見た目にも明らかにデスクのスペースが確保できるため、資料や図面や試作品を広げる設計者にとってはその面でもより効率的に設計が進められるのではないだろうか。

または、より大きなディスプレイやデュアルディスプレイ化してチーム内のディスカッションを活発にするのもいいだろう。高速なM.2 SSDはそんなディスカッションやレビューのときにもすぐにアセンブリを開けて思考を妨げない。

小型高性能のデスクトップワークステーションThinkStation P360 Ultraが大規模アセンブリ問題を解決し、設計環境をより快適にしてくれて、さらに設計部門の風通しまで良くしてくれるとしたら、後はその環境でより良い設計を生み出すのみである。これはまさに設計部門の救世主かもしれない。

太田 明

3次元設計/CAE導入立ち上げコンサルタント、元半導体製造装置エンジニア

SBD利用技術研究会(SOLIDWORKS系CAEユーザー会)、Inventor & Fusion 360勉強会幹事のほか、さまざまな勉強会・ユーザー会に積極的に参加。ユーザー同士の学び合いを通して本当に使える3次元設計のノウハウを日々探求しています。

CADの使い方や組み合わせ方は千差万別、ベンチマークには表れない値も多いため、決してこのベンチマークの結果だけでは完全な情報ではありません。最後は皆さんのデータで皆さんのワークフローで、そして、皆さんの目で性能を確認することが大切です。そんなときにこのベンチマークを思い出して、参考にしていただけたら幸いです。ハードウェアとCADに関する疑問や悩みがあれば、ぜひユーザー会でディスカッションしましょう!